TOPPAGE自治体財政をめぐるコラム>税と社会保障の一体改革について

「税と社会保障の一体改革」について

2012年8月1日 於:福井県国際交流会館

福井県地方自治センター等「ちょっといって講座」

                                報告:澤井 勝

T、素案(2012年16日)の概要(『世界』20123月号、131頁)

1)年金

 ・低所得者の支給額加算(削除するが1510月から福祉的給付措置)

 ・受給資格期間の短縮(25年を10年に。8月10日成立)

 ・非正社員に厚生年金適用の拡大(拡大対象の月額賃金範囲を7.8万円から8.8万円に、拡大対象人数は45万人から20万人程度に後退)

 ・物価下落時に据え置かれた支給額の本来水準への減額

 ・高額所得者への基礎年金減額(削除、引き続き検討)

 ・会社員(厚生年金)と公務員(共済年金)の統合

2)医療

 ・高額医療費の負担上限引き上げ

 ・非正社員の健保加入拡大

3)介護

 ・介護報酬改定で職員処遇改善(来年度実施)

 ・会社員の保険料負担収入に応じた負担に(来年度実施)

4)子育て

 ・幼保一元化など新しい子育て支援制度(総合こども園は削除)

5)検討したが見送りに

 ・年金支給開始年齢の引き上げ

 ・人口変動に伴う年金調整減額のデフレ下での実施

 ・厚生年金保険料の上限引き上げ(標準報酬月額上限を62万円から121万円まで健保並みに)

 ・外来患者の窓口負担に100円上乗せ

6)三党合意では、「社会保障制度改革国民会議」を法律施行1年以内に設置。

U、論点(主として『世界』12年3月号の宮本太郎、広井良展両氏の論文から)

1)消費税引き上げは2014年4月に3%、201510月に5%引き上げる(成立)。

2)増税分は従来の「高齢者3経費」(年金、医療、介護)から「社会保障4経費」(子育て支援を加える)に。子供子育て支援に0.7兆円。(内訳は2014年までに三歳未満児への保育サービス利用27万人、放課後児童クラブ利用者を30万人、地域の子育て支援拠点2900ヶ所増など)、医療・介護に1.6兆円、年金制度改善に0.6兆円、貧困・格差対策で1.4兆円。

3)「人生前半の社会保障」の議論が始まり、一部制度化されたが、もっと議論が必要。

日本の家族政策支出は、この0.7兆円を加えても増税分13.5兆円の5%にとどまる。GDP比で1.2%程度で、せめてOECD平均の1.9%程度の水準は目指すべきだ(宮本)。

また全世代対応型のもう一つの柱は、若年層を中心とした就労支援、積極的労働市場政策(失業に失業手当の給付などを通し受動的に対応する「消極的労働市場政策」に対し、職業訓練や職業紹介などを通じて失業者の雇用可能性を拡大し、労働の需要供給ギャップを埋めていこうとする施策)である。高齢者3経費に子育て支援だけではなく、就労支援をも加えた「社会保障5経費」へと転換すべきだが、それができていない。財務省のガードは固い。職業訓練を条件に雇用保険の受給資格がない失業者に月額10万円を支給する求職者支援制度が201111月からスタートしたが、これは労働保険特別会計を財源としているものだ。労働市場にはいれない若者支援に労使折半の労働保険で応じるには限界がある。(宮本)

4)一体改革は、税制改革の柱に逆進性がある消費税を据え、軽減税率なども導入しない。(3党合意では公明党が複数税率導入を主張)したがって、社会保障が再分配機能を回復していくことは尚のこと重要になる。(宮本)給付付き税額控除の可能性も議論されている。

5)年金については豊かな年金受給者への給付を削減しつつ、低所得者への加算を実現する。具体的には、年収1000万円以上の年金受給者の基礎年金については国庫負担分を削減。年金月額が54千円程度の低所得者には16千円程度の加算を行うことを目指す。標準報酬月額の最高額は112万円まであげる。(3党合意では検討課題に)

6)介護保険では、低所得者の保険料を軽減する。総報酬制(ボーナスを含む)として所得比例による拠出を求める。(健康保険、厚生年金、介護保険で2003年から既に導入)

7)国保についても、所得水準の高い国保組合への補助を削減。低所得者の保険料負担の引き下げを行う。

8)制度横断的には、医療・介護・保育などの公共サービス負担について合算した上で「負担上限を儲ける総合合算制度」を導入する。(高額介護療養費合算制度は2008年度から)この検討を行う研究会が528日に立ち上がっている(座長は駒村康平慶大教授)。ただしマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)の整備と稼働が前提となる。マイナンバー法案については7月26日夜に民主、自民、公明の三党政調会長が会談、修正合意の上、8月中旬までに衆院通過方針を確認している。

9)税制について、個人所得税については課税所得5千万円以上に45%の新税率を適用。給与所得控除に上限を設ける(現在は15万円以上は245万円、これを下げるということ)。相続税についても定額控除を引き下げ、高額相続者に対する税率を引き上げる。(これらは三党合意では削除)。

10)低所得者への現金給付を伴う「給付付き税額控除」の導入に向けて検討を開始する。

11)「素案」では、高齢者の雇用の拡充を前提に年金の支給開始年齢の引き上げや在職老齢年金の見直しなどが打ち出されているが、高齢者にどのような雇用の道が開かれるか見通しがなければ、こうした施策はあてのない就労の強制にも映る。求職者支援制度や生活保護の自立支援サービスも、雇用創出と連動しなければ空回りする。(宮本)

12)参加保証実現の主体となる地方自治体の役割について、昨年末に行違いが露呈された。「国と地方の協議の場」での激しい議論の結果、消費税増税分の1.54%(地方消費税1.2%、地方交付税0.34%)は地方分として確認されたが。最初の財務省案では地方分はゼロだった。一応、地方単独分についても交付税などで一部カバーすることとなったようだ。

13)現在の学生ないし若い世代の中には、「望ましい社会」の構想や、そうした価値判断を行うにあたっての哲学、あるいは人間についての探求といったテーマ、ひいてはそれを具現化するための、例えば社会起業家やソーシャルビジネス、あるいは地域再生やコミュニティ活性化等々の話題に対して、一定以上の強い関心を示す者が非常に多い。(広井)

14)パイの拡大がない時代に、「何が公平か、平等か、公正といえるか」といった原理・原則を論じることなく社会保障や税の議論を続けていれば、それは「限られたパイの奪い合い」となって紛糾を続けるか、あるいは結論を先送りして将来世代にツケをまわし続けるかのいずれかである。既にそうなっているとも言える。(広井)

15)しかし、希望的観測を含めて述べれば、少なくも一定の世代以下においては、成長が分配の問題を解決してくれるという幻想はなくなっているし、また、たとえば一昨年にマイケル・サンデルの「これから正義の話をしよう」がベストセラーになったように、分配の公平や公正といったテーマに関する人々の関心は高まっていると思われる。(広井)

16)なお、社会保障制度の確立に向けた国民負担増は必要ではなく、成長政策こそ必要だとする「上げ潮派」(新自由主義派とも言える)が自民党などにいるが、これが小沢派など「増税反対派」と区別がつかなくなるという懸念も別のところで指摘されている。

17)2012年の年明けの政局に立つと、一方では「社会の持続可能性」の危機を軽視し、経済成長が全てを解決するといった議論が根強い。だが私たちは「いざなぎ超え」の好景気(2002年春から20086月までの「好景気」、いざなぎ景気は196511月から19707月までの49ヶ月)のなかで貧困が拡大した経験からも、経済成長はもはやそれ自体として社会の持続困難を解決しないことを知っている。底上げ型の成長のためにも、社会保障改革を急がなければならない。他方では「財政の持続可能性」を無視した社会保障改革論っも相変わらず多い。異なっているはずの立場が共鳴して、反税ポピュリズムが強化されていく可能性もある。(宮本)

18)「素案」に集約された「一体改革」には、このように多くの問題もある。しかし、私たちはだからといって「一体改革」を頓挫させるべきではない。「社会の持続可能性」確保のための施策の比重を高め、人々が納得できる再分配のルールを実現し、地方自治体が能動的に参加保障のサービスに取り組むことができる条件を広げていく必要がある。そして「一体改革」を真の構造改革に高めていくべきである。(宮本)

19)負担増」論議から抜け落ちる企業の負担(西井泰之朝日新聞論説委員、「世界」同)。

20)資産課税の強化の問題もある。金融資産が分離課税であり、しかも公開株の配当やキャピタルゲインは10%という軽減税率が適用されているため、すべての所得を合算した実効税率では1億円以上所得層の約28%を境にして、それ以上の高所得層では実効税率が低下するという、まことに不公平な税制が存在している(峰崎)。その軽減税率をまず本則の20%に引き上げ、さらに30%にまで是正すべきだ。(三党合意では削除)

21)中小企業の消費税負担を適切に川下に転嫁する「転嫁対策」や農家などの「損税対策」の検討という課題もある。

22)三党合意での追加の一つ。「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引き上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災及び減災に資する分野に資金を重点的に配分することなど、わが国経済の成長等に向けた施策を検討する旨の規定を第2項として設ける。」

これは「コンクリートから人へ」を逆転し、公共事業の拡大路線に切り替える主張ととられている。

23)地方自治体は何ができるか。底上げ型の成長と持続可能な再分配システムをつくるためには、「社会保障5経費」のうち、「介護」、「子育て支援」(もっと広く若年層への所得移転)と「就労・参加支援」施策を自治体が担う(最初は単独事業で)ことから始まる。また高齢者医療費削減の努力も(長野県や稲城市、和光市の取り組みなど)。

 

 

Copyright© 2001-2012 Masaru Sawai All Rights Reserved..