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以下の文章は、福岡県地方自治センター主催の「公的医療のあり方検討委員会」において、「福岡県立病院の再建計画の考え方」に向けた作業の一環として、公的病院の財務を中心として提案したものです。 2003年8月 澤井 勝福岡県立病院 財務の視点から見た経営の現状と課題 1,公立病院の財政を見る視点 自治体が設置する公立病院の財務は、地方公営企業として運営されるために、民間の病院と異なった経理がされ、財務指標もそれに適合するように構成されています。こういった公立病院の財政を見るときに気をつけるべき視点は以下のような点です。 第一には、公立病院会計の経理の透明性である。 民間の私立病院の場合は、その財務内容は一般に企業秘密に属するために、個々の病院の財務内容が公表されることはありません。民間病院の財務内容を全体的に示す統計資料も、公表されていないのです。病院連盟による任意の調査報告が行われ、それに任意に参加している病院の財務資料が示されているにすぎません。 それに対して、公立病院の場合は、例えば福岡県の県立5病院について、総務省編の毎年度の『公営企業年鑑 病院編』を見れば、必要とされる財務内容、すなわち損益計算書から貸借対照表、それに主要な財政指標をみることができます。これは、公的財政の中に置かれていることの大きなメリットであります。もし、病院の経営の民間委託が行われる場合にも、この透明性と説明責任の遂行のための経営情報公開というメリットは継承されなければならないと思われます。 第二には、僻地医療など不採算医療や高度医療等、コスト高の医療サービス供給が、公的病院に期待されていることから、地方自治体の一般会計からの繰り入れ措置が認められていることです。この繰り入れは、総務省「繰り入れ基準」によって定められているものです。 なお、この不採算医療という場合、この10年ほどの傾向を見ると、少子化の影響など社会状況の変化によって、民間に任せておけば、その供給が縮小し、住民にとって重大な医療過疎状態になる分野に対する公的な対応としてのそれがあると考えるべきです。すなわちそのような医療過疎状態のこれ以上の発生を防ぐことから生じる、不採算医療の分野が拡大していることにも注意が必要なのです。その分野とは、小児科、小児救急、産婦人科、それとホスピスなどがあります。それとSARSや西ナイル熱、エボラ出血熱など次々に現れる新型感染症対策の地域中核病院となることも求められれています。 これらの領域における医療サービスの供給を、地方自治体の一般会計の支援によって、地域として保障することが住民の生活の安全と安心を確保するべき行政としての責任ということもできます。 第三には、このように、経営や財政状況の透明性を確保しながら、不採算だが地域住民の生活と生命に不可欠の医療サービスを供給する、そういう公的病院は、もう一つ、重要な機能を持っています。それは、医療、保健、福祉という三者を総合化する中心となる可能性をもっているという点です。高齢者の一人当たり医療費を削減し、全体としての財政負担を軽減していくためには、この医療・保健・福祉の統合する政策こそ求められています。医療自体が高齢社会を迎えて、「ケアからキュアへ」という、「健康転換の時代」に入っています。そのようなケア(治療から介護へ、レスパイトケアや心のケア、リハビリテーション、ターミナルケアの領域の拡大など)の時代にあって、将来の財政負担を軽減するための主要な努力は、公立病院を核としながら県や都市の総合的な医療・保健・福祉政策の確立こそ求められていると思われます。 今回の福岡県の病院改革は、この方向に逆行することになるのではないでしょうか。将来的には、福祉や保健との総合性のない、高齢者医療を中心とするさらなる高コスト医療への依存度を高めることになるにちがいありません。それは今以上に県財政を圧迫する可能性が高いと言わざるをえないというのがわれわれの考えです。あるいは、国全体の医療保険財政の悪化を加速する可能性もあります。この状況を民間医療機関の乱立とその競争によって、医療費を引き下げることによって乗り切ることができたとしても、そこには、医療サービスの切り捨てや、患者の権利の侵害、働く者の条件の悪化など、市場経済化のデメリットが大きくなることが予想されますので、決して歓迎すべきものではないと思います。 2,県立病院の財政の現状 福岡県立5病院の現状については、以下のようにきわめて厳しいと言わざるを得ません。この点は、福岡県行政改革審議会第二次答申の認識と大きな相違はないといっていいでしょう。違いは、その財政状況を克服する方向にあります。 (1)経常収支比率は、一貫して100以下です。都道府県率病院とは5病院合計で下回りますが、これは特に精神病院である太宰府病院の数値の影響もあります。公立病院の場合は、経常収支比率が100を下回る状態を、赤字としていますので、大赤字といっていいでしょう。 2002年度の経常収支比率は74.5で、全国の都道府県立病院の平均83.9。柳川病院はこの全国平均よりはよい88.7となっています。 経常収支比率とは、経常収益(医業収益と医業外収益)との経常費用(医業費用と医業外費用)との比率とされています。経常費用/経常収益×100。 (2)医業収支比率は都道府県立病院の平均より低い状況です。2002年度決算で74.5,都道府県立病院平均は83.9である。2003年度決算見込みでは75.3となっています。 医業収支比率とは、医業収益/医業費用×100。大体、医業で75の収益を上げるのに、100の費用がかかっていることになります。 (3)100床当たりの医業収益が低いといえます。200年度でもっとも高い柳川病院でも13億3357万円で、全国平均の14億1601万円とやや開きがあります。県立病院では8億7587万円とかなり低い水準です。 患者一人当たりの収益も全国的数値からするとかなり低くなっています。朝倉病院(2万9370円)と柳川病院が比較的いいほうですが、それでも全国県立病院3万1446円を下回っています。 (4)人件費比率が高いのは明らかです。医業収益に対する職員給与費は2000年度84.4。医業収益に100をあげるのに85ぐらいの給与費がかかっている計算となります。全国県立病院では、63.9,福岡市立病院では49.5という計数となっています。 (5)累積欠損金は2001年度末で134億2921万円。これは、前年度130億667万円からさらに3億6000万円ほど増加していることになります。 (6)不良債務(回転資金で多くが一時借り入れ金)が大きく、一時借入金への過度の依存があるといえます。 (7)企業債が起こせないために、設備投資のための長期借入金(一般会計からの)が大きい割合を占めています。2001年度で5億3299万円。毎年度3億円以上の長期借り入れがある状況です。 (8)退職手当基金がなく、毎年度補助金の繰り入れでまかなっているという状態です。 (9)病床利用率も低い状況です。福岡県立病院2001年度75.9。全国83.3。 一日当たり入院者数、外来者数とも平均をかなり下回っています。 3,県立病院の財政の課題 これらの財政指標に示される財政状況は、民間に移行しないでも解決するような性格のものでしょうか。結論から言えば、民間に経営を移行することなく、公立病院のメリットを発揮させることは可能だと考えられます。ただし、職員の側の意識改革と、それ以上の当局の責任を明確にした行政改革を、短期集中的かつ中長期的に実施していくことが求められます。 第一に、このように繰入金(負担金、補助金)や一時借り入れ金に大きく依存している財政状態は、公立病院であるがための、モラルハザードから生じているからだとも言われています。赤字を放置することが可能であるために、財政規律を確立し、税を不適切なかたちで投入せずに黒字に転換する動機がない仕組みだからだとも述べられています。 本当にそうでしょうか。確かに、そのようなモラルハザードが生じやすいとはいえます。だからこそ、種々の財政指標が開発され、説明責任を果たすように促されてもいるわけです。また、人事上の工夫もあって、この間に黒字に転換した埼玉県立病院のような事例もあります。なによりも、市町村立病院、組合立病院、個々の県立病院で経常収支比率100を超え、財政的に健全で、しかも高い医療サービスを安定的に提供し、黒字経営を維持している公立病院も少なくありません。 問題は、県病院改革において、黒字を維持している公立病院を子細に検討したのかどうかです。そのような先進事例に学ぶことが必要であったはずですが、残念ながらそのような検討はあまり行われていないようであす。結論が先にあったような印象を強く受けるところです。 第二に、第二次答申にも触れていますが、県立病院課の人事に問題があったことが指摘されています。この点こそ、県立病院改革の中心的な課題といっていいでしょう。 2,3年で交代する、しかも病院事業を知らない担当者が、結局、大胆な改革を実行することを妨げてきたとも言えるでしょう。また同じように、各病院の事務局長人事も、病院改革のための人事とはとうてい言えないのが現状ではないでしょうか。このような人事政策の問題性を感じながら、それを積極的に変えることなく、事態の流れるに任せてきた県当局の責任は重いと言わなければなりません。無責任行政と指摘を受けてもしかたがないところです。 病院改革の中心は、現場の専門職種団を統制し、指導する見識と判断力をもった人材の配置を行うことから始められなければなりません。それも7年とか10年とかの任期である必要があります。 第三には、病院改革の理念と基本政策を明確にすることが求められます。 (1)財政指標からする目標を明確にしましょう。 1,人件費の削減計画の策定とその実行。例えば7カ年計画による、高年齢層の若年齢層への職員年齢層の漸次的以降を実施します。退職者の補充を20台の若年層で行うことが必要です。しかし、職員定数は適切な水準で維持することとします。なぜなら医療サービス水準を引き上げ、民間の支援をしながら専門的な医療を展開するためには、必要な人材を、養成・確保しなければならないからです。なお、給与水準の適正化等も検討しなければなりません。 2,公立病院において、入院患者数や外来患者者数を確保して病床利用率など引き上げるためには、第一に、看護職員がベットサイトや外来患者のそばに常にいられるような職場改革が不可欠となります。つまり医療サービスの水準を上げることで、顧客や家族の満足度と信頼度を引き上げることによって、入院患者数と、外来患者数の拡大に結びつける。いわゆる総務的な事務を専門の事務職に任せる仕組みが必要です。医療事務を専門職にまかせ、医療スタッフはケアに専念できるような職場改善が必要なのです。 3,専門医療の充実。地域性および、沿革的にそれぞれの病院の個性がはっきりするような専門医療機関としての性格を明確にしていかなければなりません。 4,適切な医療施設、機械の導入。それを十分に使いこなす技術的な研修と研究会などの組織化。職員の医療技術と医療マインドの向上を可能にする勤務条件の確保、などが求められます。 5,退職給与基金の適切な積み立て(一般会計繰り入れ)を実行しなければなりません。 6,一時借入金の計画的縮減。(5年間程度の償還期間での公募資金10億円、これを3年度つづけ、その後借り換え、など) 7,ミニ公募債の活用による改良投資の原資の確保。県民が直接に県立病院経営に参加する途をひらきます。常に県民と利用者に開かれた中で病院経営を行うという状況をつくることが次の展望を開きます。 8,長期借入金の計画的な短期償還措置。 これらの財政措置は、次のような発想の転換で可能となります。例えば、義務教育にかかる費用は、企業会計で言えば、コストだけかかっている、赤字財政の事業です。警察行政も収益がありません。県道の築造や改築も収益を直接には生まない「赤字事業」であす。漁港建設や河川改修事業も同様であります。 公的医療も、市場経済では賄えない社会的な安心と安全の基盤を作るという意味では、かなりの程度、社会的共通資本を形成する事業として税の投入を積極的に考えるべき事業と考えるべきではないでしょうか。もちろん、公営事業として、顧客の必要に応え、その満足をうるための営業努力は最大限求められるのは言うまでもありません。 ちなみに、県立病院の財政規模は、5病院で毎年度の総費用が2001年度で144億2027万円程度、累積欠損金134億2921万円、一時借入金46億5490万円といった規模です。ちなみに福岡県財政の中で見れば、普通建設事業費が1999年度で3197億円、うち単独事業費が1094億円という財政規模となっています。 (2)公立病院としての理念の明確化。 1,一人当たり高齢者医療費を、例えば、7年間で全国平均以下に引き下げることを政策目 標とします。 2,そのための総合医療・保健・福祉計画の策定と実施。 不採算専門医療と地域における医療福祉保健の総合化の拠点として。 1,小児医療の充実。ベット数の確保と、専門医の確保策。 育児・保育支援事業との連携。 院内学校、院内学級。 2,ホスピス病棟、緩和ケア病棟の設置と拡大。 ホスピス担当スタッフの研修、育成。 3,医療相談事業のセンターとしての県立病院。 住民のたまり場としての県立病院。医療ソーシャルワーカーとソーシャルワーカー 保健師などの複数配置と相談台帳の整備。医療事故法律相談も。 4,産婦人科ベットと専門医、専門医療スタッフの確保と妊産婦相談、ケア事業。 5,医療ソーシャルワーカーの複数配置。地域医療と地域福祉を担う県立病院へ。 地域医師会、社会福祉協議会、市町村との連携。地域ケア会議。 6,訪問看護ステーションの設置。 訪問診療看護婦の養成。介護保険サービスも担えるソーシャルワーカーへ。 7,地域リハビリテーションの展開。 リハビリ担当の理学療法士、作業療法士、看護師の配置。 社旗福祉協議会との連携。地域医師会との連携。 住宅改造施策の援助。 8,デイケアセンターの設置と充実。 9,精神障害者地域生活支援センター機能の設置と充実。 10,医療情報公開のモデル病院としての県立病院。 11,新感染症対策指定病院として。エイズ対策、エイズ指導病院として。 (奈良女子大学 澤井 勝) |
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