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補助金廃止提言と自治体の自立

         三位一体改革の衝撃を分権改革と安心できる社会の力に


                               澤井 勝 (初出:『月刊自治研』04年1月号)


目次

補助金1兆円削減と一部税源移譲    6月の「骨太方針」で4兆円削減案  交付税の総額の抑制と税源移譲を改革工程に  足並みが一応そろった地方団体  全国市長会と全国知事会  総論賛成、各論賛成で建て前を本音に  補助金に依存しないために(1)  市民ニーズと市民評価に根拠を持った政策順位づけ  マイノリティーとともに地域社会をかえる


 

補助金1兆円削減と一部税源移譲

 2004年度予算においては、それほど進まないのではと見られていた三位一体改革は、1118日の経済財政諮問会議において一挙に緊迫したものとなった。民間議員の提案に平行して小泉純一郎首相が来年度予算で国庫補助金を1兆円削減し、合わせて税源移譲についても具体案を示すように財務省、総務省など各省に指示したからである。

 この会議以前の状況は、谷垣貞一財務相が14日の記者会見で、「税源移譲は来年度見送り」と表明していたように、財務省と各省庁との折衝の中では国庫補助金の削減額は、せいぜい23千億円程度と見られていた。財務省の思惑の中心は、交付税の総額抑制にあり、国庫補助金削減とそれに連動した税源移譲にはそれほど力を入れていたわけではないようだ。むしろ、冷淡であったといってよい。

 だから1兆円という規模の補助金削減が首相の指示として示されたことを、「未踏の領域」(谷垣財務省)と受け止めたのはよく了解できる。

 引き続いて1122日には、二橋正弘官房副長官が厚生労働省、文部科学賞など4省庁の事務次官を呼んで、各省庁の削減目標額を示した。厚生労働省は2500億円、国土交通省は3200億円、文部科学省2500億円、農水省500億円。

 また、政府税制調査会(石弘光会長)は、21日の総会で28日に予定していた答申を延期し、27日に公的年金の老年者控除の縮小や、住民税の個人均等割の税率の一本化と引き上げなどにしぼった中間答申を行い、税源移譲に向けた最終答申は12月中旬に行うとするスケジュール変更を決めた。

 

6月の「骨太方針」で4兆円削減案

 今回のこの三位一体改革において、その中心的な課題は、周知のとおり三つある。第一に、国庫補助負担金の削減と廃止であり、第二にそれに対応する財源を国税から地方税に移譲すること、第三には地方交付税の総額の抑制、すなわちその財源保障機能の廃止又は縮小である。なお、神野直彦東大教授は、国と地方の基本的な関係を正すためには、まず税源移譲から議論すべきであり、補助金削減から議論するのは基本を崩すと主張している(日経031112日)。

 このような三位一体改革は、次のような三つのアクターの同床異夢の上に成立している。すなわちまず、建て前的には地方分権改革第二段階としての、分権改革の財政的基盤の確立を、税源移譲と国庫補助金の削減で進めようする総務省。そして地方交付税総額の抑制を主たる関心とする財務省。それに補助金を廃止しさらに交付税を圧縮してその財源保障機能を基本的に廃止することで、「受益と負担の関係が明確な自治=自己責任と自己決定」という関係を一律に確立することで財政的効率を実現し、とくに地方的地方の自治体に強制しようとする民間議員。

 03621日の経済財政諮問会議で、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」が議決され、同26日に閣議決定された。これを「骨太方針第3弾」とも呼んでいるが、ここで国庫補助金の4兆円削減が示された。

 まず、この「基本方針」の「6、国と地方の改革」では、改革のポイントとして、「官から民へ」、「国から地方へ」の考え方の下、地方の権限と責任を大幅に拡大し、国と地方の明確な役割分担に基づいた自主・独立の地域社会からなる地方分権型の新しい行政システムを構築していく必要がある、としている。

 そのうえで、三位一体改革によって達成されるべき「望ましい姿」として、@ 地方の一般財源の割合の引き上げ、A 地方税の充実、交付税への依存の引き下げ、B 効率的で小さな政府の実現、を掲げている。

 そしてこの三位一体改革の具体的な改革工程が示されているが、その@として、国庫補助負担金の改革が掲げられ、「改革と展望」の期間、具体的には平成18年度までの期間において、「事務事業の徹底した見直しを行いつつ、国庫補助負担金については、広範な検討を更に進め、概ね4兆円を目処に廃止、縮減等の改革を行う」と述べられている。

 これが、「国庫補助金4兆円を来年度以降3年度で削減する」という政策目標として政府を拘束することとなる。

 

交付税の総額の抑制と税源移譲を改革工程に

 またこの改革工程には、Aとして地方交付税の改革について、「地方交付税の財源保障機能については、ぞの全般を見直し、『改革と展望』の期間中に縮小していく。他方、必要な行政水準について国民的合意を図りつつ地域間の財政力格差を調整することはなお必要である」と述べられている。ただここには、どの程度まで財源保障機能を縮小していくか、数値目標がなく、毎年度の予算編成時の課題となるとも読むことができる。

 とはいえ、「地方交付税総額を抑制し、財源保諸機能を縮小していく」と明言されていること、および、地方財政計画上の人員を向こう3年度間で4万人以上純減すること、投資的経費(単独)を平成23年度の水準を目安に抑制すること、などが明記されている。

 さらに、Bとして、税源移譲も掲げられた。すなわち、「『改革と展望』の期間中に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要があるものについては、税源移譲する。その際、税源移譲は基幹税の充実を基本に行う。税源移譲にあたっては、個別事業の見直し・精査を行い、補助金の性格等を勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。あわせて、『18年度までに必要な税制上の措置を判断』して、その一環として地方税の充実を図る。なお、必要な場合、地方の財政運営に支障を生じることのないよう暫定的に財政措置を講ずるものとする。」

 ここでは、「基幹税」における充実、補助金の削減等に対応して行う税源移譲はその8割程度を目安とすること、義務的なものについては経費をスリム化した上でその全額を移譲すること、などが政策目標となったといえる。

 

足並みが一応そろった地方団体

 この国と地方の財政関係を整理する「骨太方針」と「改革工程」が閣議決定されたことを受けて、地方団体の動きも活発になった。従来は補助金の廃止の問題は、関係する団体からすれば死活問題と捉えられ、その結果「総論賛成、各論反対」となることが繰り返されてきた。一方で総務省の主張する地方自治確立、集権的な各省庁支配の転換という建前論を無視することがでない。つまり、地方団体の中で意見がわかれるために、なかなか地方全体をたばねる団体として、統一見解や統一した意見表明が出来にくかったのである。しかし今回は、総務省からの強い働きかけもあったと思われるが、全国知事会、全国市長会などが補助金廃止、削減を具体的な補助金を挙げて提言しているのが一大特徴である。むしろ「革命的」と言ってもよい。

 もっとも早くこの補助金削減について、具体的に提言したのは政令指定都市の市長会であった。0310月9日付けの、「国庫補助負担金の廃止・縮減に関する指定都市の提言」である。さいたま市を含む13市の市長の連名による。

 平成15年度予算ベースでの指定都市に係る国庫補助負担金204兆円のうち128項目、181兆円について検討を行っている。その結果、7割以上の96項目、80兆円の補助金を廃止すべきものとして整理し、提言している。

 まず、地方の自主判断に委ねるべき事業に係る補助金については、税源移譲を前提として廃止すべきだとする。例として、経常的なものは、在宅事業費補助金、児童保護費等負担金、児童育成事業費補助金、身体障害者福祉費補助金、医療施設運営費等補助金、公営住宅家賃対策費補助金、義務教育費国庫負担金などがあげられている。

 投資的経費では、地方道改修費補助金、地方道路整備臨時交付金、都市公園事業費補助金、公営住宅建設費補助金、下水道事業費補助金などが事例として挙げられている。

 この特色は、いわゆる奨励的補助金などのほかに、義務教育など国庫負担金についても原則として廃止するという提言になっている点である。例えば林宏昭、橋本恭之両関西大教授は、「奨励的補助金廃止が筋」だと主張している(日経、1113日)。

 なお、廃止すべきではない国庫補助負担金としては、生活保護費負担金、河川等災害復旧事業費負担金などが挙げられている。

 

全国市長会と全国知事会

 この指定都市の提言を追いかけて、1023日、全国市長会は「税源移譲と国庫補助負担金の廃止・縮減に関する緊急提言」を公表した。副題は、「地方分権推進のための三位一体改革の早期具体化について」となっている。

 全国の都市に係る国庫補助金のうち、平成15年度予算ベースで123件、152724億円を検討している。その結果、「廃止して移譲すべき補助金」としては、101件(件数の886%)、総額58552億円にのぼるとしている。政令指定都市の提言とほぼ重なっているが、経常経費では保健事業費等負担金、地籍調査費負担金、幼稚園就園奨励費補助金、介護保険事務費交付金、農業委員会補助金等が挙げられている。投資的経費では、政令指定都市で挙げられたもののほか、廃棄物処理施設整備費補助金、農業集落排水事業費補助、公立学校施設整備費補助金、まちづくり総合支援事業費補助金、などが挙げられている。なお、当面存続すべき補助負担金は政令市とほぼ同じである。

 全国知事会は、会長(梶原拓岐阜県知事)の私案として、都道府県に係る国庫補助負担金のうち件数で88%、総額で81%を廃止して、89兆円を税源移譲する案を、107日に示していたが、1118日になって、知事会としての提言を公表した。

 それによると、都道府県および都道府県を経由する国庫補助負担金112082億円を検討対象とし、そのうち、当該事業に係る国庫補助負担金を廃止し、なお都道府県が実施すべきものとして、89357億円となると提案している。この中で最大の費目は、義務教育費国庫負担金の廃止である。なお、その他の補助金につては、市長会などとほぼ同じである。

 なお、全国知事会の場合は、税源移譲についても提言していることが特色で、先の89357億円の廃止に伴い、79234億円を税源移譲すべき額として提案している。その内容は、所得税を住民税に移譲することで3兆円程度(住民税を10%の比例税率化)。地方消費税の1.5%移譲することで3.6兆円程度。その他に揮発油税の一部を地方譲与税化することで1.4兆円程度、などである。

 

総論賛成、各論賛成で建て前を本音に

 今までの地方自治体側の補助金の改革提案については、零細補助金の整理合理化や、メニュー化、申請事務や監査業務の簡素化・合理化の提案に終始してきたと言ってもそうまちがってはいない。知事や市町村長の場合も、補助金を批判しながら、実際にはそれに依存してきたとも言える。制度として補助金がある以上、それを活用して事業をより効果的に実施することがその手腕を示すことでもあったからである。

また、財政課なども補助金を確保することを担当課の使命の一つとして扱い、予算査定の有力な材料として扱ってきたのも事実である。したがって、今回の知事会や市長会の総体としての補助金廃止、削減の意思表示が、税源移譲を求めるための建前ととらえる向きがあるのもうなずけるところがある。

しかし、補助金という中央集権的なシステムを縮小していくことは、自治の確立という理念からは当然のことなのであるから、建前論を転じて本物の要求にしていく、またとないチャンスとしてとらえる必要があることは明白なのである。

 しかし、各論賛成を強固にするためには、いくつかの課題を整理しておかなければならないのも事実である。

 

補助金に依存しないために(1)

 1、従来補助金に依存してきた政策や事業の優先順位を、政策の効果やニーズへの応答性によって明確にする。

 今までは、補助金があるから、モデル事業でもそれに飛びついたというところがある。これからは、「補助金がついたから」ではなく、その事業そのもの、まちづくりにおける重要性や、事業の効率性、住民ニーズへの応答性、その事業が未来志向であり行政のイノベーションに寄与することなどが、一般財源要求の直接の説明原理となるようにしなければならない。

よくあるのは、3年間のモデル事業が終了すると、事業そのものも終了してしまう事例である。それではモデル事業をした意味は薄い。先端的試みの成果は、モデル事業を設計した中央省庁にのみ帰属することになる場合が多々見られた。

 2、そのためには、事業評価と政策評価システムを、あらためて構築することが求められる。その中で、従来からある事業と、これから力を注入すべき事業とを分別すること、住民が自ら担うことが望ましい事業は、それにまかせること。新興の事業ではあるが、より緊急度の高い事業に財源をシフトするために、庁内的な、また社会的な合意を形成すること、が求められる。

 3、さらに、政策や事業を、市民と当事者参加のもとで、真の行政計画として確立することである。あるいは、力のあるステークホルダー(当事者)を育成し、信頼関係をつくり、その事業や政策をプロモートするNPOなど、市民組織が形成されることを支援することが求められる。

 4、住民や当事者のニーズを把握する調査が、政策形成のために継続的行われることが求められる。つまり、補助金ではなく市民ニーズの所在を明確に示すことが、その政策への財源確保のための第一の要因なのである。

 

市民ニーズと市民評価に根拠を持った政策順位づけ

北九州市は高齢者福祉では、保健所と社会福祉事務所の統合や、小学校区ごとに「市民福祉センター」を設置するなどいくつかの先進的な実践例をもっている。また資源化のためのリサイクル工場やエコタウン事業なども環境政策でも全国的なモデル事業を構築してきている。これには、国庫補助金を上手に使い、各省庁の実験的事業の受け皿をつくるという側面も強い。ただ、このような福祉や環境事業での取り組みが可能であったのは、ひとつは、15年以上前から毎年度「市政に関する市民意識調査」を行ってきたからではないか。少なくもこの市政に関する市民意識調査が高齢者福祉政策を重視するという、あるいは環境政策をすすめると言う市民的コンセンサスをつくるのにひとつの材料を提供してきたのだと考えられる。

 それは、まずこれまで実施されてきた事業のうちで「評価する政策のランキング」である。『平成14年度市民意識調査・市政評価と市政要望』を簡単に見てみよう。市内に在住する20歳以上の3000人(住民基本台帳と外国人登録台帳から等間隔に抽出)を対象に6分野36項目について、「よくなっているもの」(評価)と「もっと力を入れてほしいもの」(要望)それぞれ上位3項目を選択したもらい、それを得点化して順位をつけている。なお、調査項目と質問は、原則として毎年同じ項目であるが、変更をするときには連続して比較出来るように配慮されているようだ。

例えば、平成14年度の「評価する政策」としては、「ごみの適正処理とリサイクル」が前年度に引き続いてトップである。第二位は「公園の整備など、みどりのまちづくりの推進」、第三位が「学術の振興」、などとなっている。

同じく平成14年度の「市政要望」では、「高齢者社会対策の推進」が8年続けて第一位である。なお、「市政評価」では、「高齢社会対策の推進」は、前年より2ランクアップして第6位となり高く評価されている。つまり、政策の成果について市民から高く評価されているのだが、さらに施策の充実を求められている、と読むことになる。

このほか「市政要望」では、第2位が「保健・医療の充実」(前年までは「市立病院の充実」だったが、最近、市立病院の一部を民営化したこともあって変更されているようだ。)、3位が「防犯、暴力追放運動」、4位が「産業の振興」、5位が「少子化対策の推進」となっている。このうち、「防犯、暴力追放運動」は「市政評価」では28位と低い。「産業の振興」も評価は低く32位にとどまっている。同じく「少子化対策」も評価は33位。このような施策群は、いわば要望と施策実施とのギャップが大きい分野ということになり、最も重点的に政策的資源(職員配置、予算配分、市民と事業者のエンパワーメント、県や国とのネットワーク形成など)を投入することが求められる分野だ、と解読するべきなのであろう。

 このような定期的なモニタリングによって、事業や政策の優先順位が市民的に示されていることが、高齢者福祉政策を優先的に取り上げることを容認するような市としてのコンセンサスを形成する、ひとつの重要な契機になったと考えられる。議会対策としても議論がしやすくなったのではなかろうか。

 

マイノリティーとともに地域社会をかえる

 補助金の一般財源化でもっとも大きな影響を受けるのは、保育施策の場合、延長保育や病児保育、障害児との統合保育、駅前保育ステーションなどのような、利用者からは要望が強いにもかかわらず、行政内部ではコストの面や人事配置の面で優先度が低くなりがちな施策である。弱者切り捨てになりかねない。この4月からの支援費支給制度に移行した障害者福祉施策においても、国の予算が既に底をつくような障害者からのニーズの高まりに積極的に応えることが出来るか危惧がもたれる。

 今見たような、「市政意識調査」では、市民の多数派の意見を聞くわけであるから、それだけで見れば、マイノリティーの声はかき消されてしまうおそれが強い。このような事情に対応して、マイノリティーの生活の安定と暮らしやすさを実現するためには、マジョリティーの意識改革をすすめることが必要である。場合によっては、マジョリティーの偏見や差別意識に厳しくチャレンジすることも求められる。このようにして、マイノリティーが暮らしやすい地域社会を形成することが出来れば、その地域社会はマジョリティーにとっても安心と安全が保障されたコミュニティーとして再生することになる。

 マイノリティー自身が、自のニーズに合わせて、自らが利用するサービスを選択できるようにするためには(支援費制度の趣旨だが)、市町村の施策の進行を管理し、改善点と政策のイノベーションを議論し、自ら注文をつけ、提言を行える当事者が参加する市民委員会が置かれるべきである。既に多くの市町村で、介護保険事業や高齢者保健福祉計画については、これらのモニタリング委員会が置かれている。

 実際には役場内を闊歩する、声の大きな地元有力者(しばしば地方議員の場合もある)の口利きや贈賄が、なお後を絶たないのが多くの地域の実情であろう。このようなステークホルダー(利害関係者)の影響力を排除するためには、口利きの一件、一件をファイルに記録し、公開する鳥取県方式がかなり有効である。

 

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