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大都市財政の構造改革―歳入の長期収縮傾向への適応は可能か―

(初出:大阪市政調査会『市政研究』03年春号)

はじめに
 大都市に限らず、地方財政全体が大きな転換の時代に入っている。それはバブル経済とその崩壊以後、引き続く地域経済と都市経済の低成長あるいはマイナス成長への、各自治体の調整過程だともいえる。この転換は、基本的には高度経済成長あるいはインフレーション経済から、構造的・長中期的なデフレ―ション経済あるいはディスインフレ経済への世界的な移行に伴うものである。

 この転換はいくつかの側面を持っている。ひとつは、地方分権というトレンドである。この地方分権を大蔵省という財政当局が容認したのは、重なる政府債務の重圧から中央政府の財政的な負担の軽減、あるいは財政および行政責任の地方転嫁という対応として、後になって評価されることになるかもしれない。

 第二には、地方交付税制度の見直し(財源保障機能の制限ないし廃絶)が、地方分権に沿って、自己責任・自己決定の仕組みの一環として、受益と負担の関係の明確化という論理の延長上に,進行している。

 第三には、最も基礎的な経済過程としては、グローバルで構造的なデフレーションの世紀に入ったということが明確になりつつある。従って、税制度の抜本的な改革がない限り、国税も地方税も税収は緩慢な、あるいは急激な下降を続けるだろうということである。

 そして第四には、戦後の地域経済を支えてきた公共事業が、財政制約から抑制され、同時に環境問題から制約されて、半減する可能性が強い。同時にこれは、「地域のことは地域の住民が直接決める」という地域主義の流れによって促進されている。

 第五には、したがって小さくなる一般財源のもとで、借金によって歳出規模を維持することは早晩不可能になる。歳出の根本的な構造転換が求められる。市民とのパートナーシップによって、新しい公共空間を作り出さない限り、地域住民の公共サービスへのニーズを賄うことはできなくなる。この転換に失敗すると、その都市は荒廃することは避けられないだろう。

 第六に、したがって現在の行政サービスを洗いなおす事務業評価と、政策のシビアな選択をするための政策評価システムが組織に確実の組み込まれる必要がある。そのことによって、デフレ経済に対応し、その行政需要あるいは公共サービスのニーズに応答できる地方政府が求められている。

 (グローバルで構造的なデフレについては、橋本寿朗『デフレの進行をどう読むか』岩波書店、2002年3月、榊原英資『構造デフレの世紀』中央公論新社2003年4月、そして組織構造改革については、P・F・ドラッカー『ネクスト・ソサエティ』ダイヤモンド社、2002年5月、を参照されたい。)


収入の落ち込み  基準財政収入額から見ると
 大都市の財政状況は、01年度決算と03年度予算の編成課程で、今までにない厳しさに直面している。このことをいくつかの財政指標で見ておきたい。

 ひとつは、市税収入の落ち込みが急だということである。例えば、直近の大都市の税収の動向を見るために、普通地方交付税を計算するときに使われている「基準財政収入額」の推移を見ておこう。第1表がそれである。この表は、各年度の『市町村別決算状況調』(地方財務協会)および、01年度と02年度は、『普通地方交付税算定資料』(総務省自治財政局)から作成したものである。

 基準財政収入額とは、理論的に標準的と考えられる税収入の75%を把握したものであるから、あくまでも年度当初の税収見込みであり、後に、特に法人関係税については清算措置等がある。そういった意味では、現実の決算額とはかなり乖離があるが、一方では、地方交付税制度に位置付けられたその自治体の収入状況を捉えることができる。

 なぜこのような性質を持った基準財政収入額を検討するかというと、政府の経済財政諮問会議(議長小泉首相)を舞台に現在進行中のいわゆる「三位一体改革」が、地方交付税の総額抑制の方向で意見の一致を見ているからである。どのようにこの交付税の総額抑制が行われ、どこまで交付税が縮減されるかはまだ不透明である。それは第一に権限移譲と国庫補助負担金をどのように組み合わせるか、第二に、税源移譲がどこまで、そしてどのように行われるかによって、様相が異なる。このことについては後述したい。

 なお基準財政収入額に算入される税収等は、基本的には法定普通税の標準税率等で収入される税収の75%(基準税率)、地方譲与税(特別とん、地方道路、石油ガス、自動車重量、航空機燃料)の100%、地方特例交付金およびその他交付金(利子割交付金、地方消費税交付金、国有資産等所在市町村交付金、ゴルフ場利用税交付金、自動車取得税交付金)と交通安全対策特別交付金、軽油引取税交付金の75%などである。


最大の落ち込みは大阪市
 さて基準財政収入額は政令指定都市(03年4月からさいたま市が加わり13市になるが、ここでは12都市)12市の合計では、98年度の3兆3,675億円から、02年度の3兆793億円に、金額で2,882億円減少している。02年度の基準財政収入額の水準は、98年度の91.5%の水準にまで落ち込んでいる。

 その中でも大阪市の落ち込みが最も大きい。02年度は5年前の84.0%の水準で、金額では956億円、すなわち約1000億円のマイナスである。次いで落ち込みが大きいのは神戸市の89.7%水準への低下、京都市の90.1%水準への落ち込みとなっている。関西の3都市がワースト3となっている。このことは、改めて関西の経済活動の低迷の度合いが首都圏やその他の地域と比較しても深刻だということを示唆している。

 なお、この間(98〜02年まで)の市税収入の落ち込みは、次のようだ。大阪市財政局の『大阪市財政の現状』(大阪市ホームページ)の(1)歳入の問題点、を見ると、市税収入と市債発行額の表とグラフが掲載されている。その表では、市税は98年度に7,387億円あったが、02年度予算では6,347億円となり、差し引き1,044億円の減少となっている。

 また、人口一人当りの基準財政収入額は、02年度でもなお大阪市がトップで、20万2,084円となっている。ついで名古屋市の18万3,690円、川崎市の17万0,722円。最も低いのが札幌市、ついで北九州市である。なおこの人口は、概況の表にあるように、01年3月31日現在の人口で、02年度当初の人口に近似している数値として資料的制約から利用していることをお断りしておきたい。


昼夜間人口の差が大きい
 しかし、この「人口」が意味するところは都市によって異なっている。参考表にもあるように、大阪市の財政を議論する場合、周知のとおりだが、大阪市の昼間人口は群をぬいて大きいことが常に念頭になければならない。昼夜間人口比は1995年の国勢調査時点で1.465となっている。大阪の都市行政は、この昼間人口に対応する部分と、比較的課税所得が低い夜間人口に対応する部分とで構成されていると見たほうがよい。これには市域の狭さも影響している。

 したがって、大阪市の人口一人当り(住民基本台帳人口であり、夜間人口である)の数値は、常に他の都市と比較して過大になる傾向がある。特に昼夜間人口比が1.0を大きく下回る横浜市や川崎市とは簡単に比較は出来ない。横浜市や川崎市は、一人当り数値は過小に出るからである。すなわち人口一人当り基準財政収入額が最も大きいということは、相当に割り引いてみなければならない数値である。


横浜に抜かれた基準財政収入額
 ところで、基準財政収入額を絶対額で見ると、夜間人口が大きい横浜市と昼間人口の大きい大阪市との比較になるが、98年度は大阪市のほうが基準財政収入額が大きかった。すなわち大阪市の5、957億円に対して、横浜市は5、864億円である。ところが、翌年の99年度から、基準財政収入額は横浜市のほうが大きくなる。

 両市とも収入額が減少するが、大阪市のほうが減少の速度と程度が大きいのである。02年度には、横浜市5、480億円、大阪市5,001億円と500億円近くの差が開いている。この間に、横浜市は380億円の減少であるが、大阪市は先ほども見たように956億円の減少となったためである。

 この間の国全体としての基準財政収入額の大幅な縮小という現象は、特に大阪市に大きな影響を与えている。


税収減の原因
 このような基準財政収入額の減少は、国税と地方税の縮小と同じ意味をもっている。では、なぜ税収が縮小するか。言うまでもなく、経済的な要因が主たる原因である。これに政策的な減税という要因が加わる。

 第一には、景気の後退による法人所得の減少と赤字法人の増加である。法人所得は特に景気の変動の影響を受けやすく、法人所得課税のウェイトが大きいほど税の増減が増幅して現れる。

 第二は、この平成第二次不況の特色は、これまでの景気変動では比較的短期に立ち直っていた個人の勤労所得が全般的に、継続的に縮小しつつあるところにある。これは、デフレーションがグローバルで,構造的なものであることの重要な結果である。現在のデフレは消費者物価のようにゆるやかなデフレと、地価や株価のように大きく下げつづけている資産デフレとが複合して進行しているといってよい。この結果が賃金のゆるやかな下降というかたちでの長期的な調整が進んでいると見る必要がある。

 第三には、地価の大幅な下落である。このために、これまでは景気後退でも落ち込むことがなかった固定資産税が下落しつつあり,この傾向はなお続くと考えられる。

 以上のように、第一に法人所得の低下、第二に個人所得の圧縮、第三に地価の下落、という主な要因が、それぞれの税目を圧縮しつつある。これに、株価の低迷、および超低金利という条件が加わる。

 基礎的に横たわっているのはグローバルで構造的なデフレである。したがって、2,3年というような短期間で税収が上昇過程に戻るということは、考え難い状況である。このことは特に強調して起きたい。


大阪市はその税収構造から現在のデフレの影響を最も受けやすい都市
 このような長期のデフレの影響が日本経済と財政に現れているのだが、既に述べているように、大阪市は他の政令市に比較しても最も大きな影響、税収減という影響を受ける。『名古屋市の財政 平成14年版』(名古屋市)に掲載された、政令指定都市の01年度決算における税収の税目別構成比ら読み取れる点は、さし当って次の点である。

 第一に、大阪市は固定資産税と都市計画税の比重が、北九州市についで大きく、税収の56.1%を占める。北九州市は58.9%。横浜市は50.5%。

 第二に、法人市民税のウェイトは、低下してはいるが、18.6%と第一位である。二番目が福岡市の15.2%、そして名古屋市の14.6%。

 第三に、個人市民税の比重は、16.7%と12都市の最下位である。個人市民税のウェイトは横浜市が36.2%と際立って重く、次いで川崎市の33.1%、千葉市の31.7%、札幌市の29.7%、神戸市の29.6%と続く。

 したがって、大阪市は、地価下落という資産デフレと、景気低迷による法人所得の減少の影響を最も受けやすい。そして、市民の所得水準が低いために、賃金や個人所得の下落を最も深刻に受けることとなる。低所得層ほど不安定雇用に移行しやすく、そのための行政需要が生活保護費など扶助費や各種支援制度の経費として<膨らみやすいのである。

 ただし、法人市民税のウェイトが大きいということは、景気の上昇ではなくても、企業の収益の改善によって、税収のV字型の改善も見込まれるということでもある。それはそれで歓迎すべきことだが、このこと(景気上昇なき企業収益改善)は、結局は企業外にリストラされた失業者や下請けが排出されることを意味する。そのように企業収益の改善の犠牲になった失業者などを地域で支えるセイフティーネットの構築が、大阪市や大阪府の仕事となる。


大阪市の地方交付税は唯一伸びている
 しかし、税収の落ち込みのカバー率は7割

 このような、基準財政収入額の減少は、現在の制度からすれば、地方交付税、特に普通地方交付税の増額というかたちで、一般財源総額の保障が行われる。第2表は、政令指定都市の普通地方交付税の推移を見たものである。

 この表から次の点を指摘できる。第一に、大阪市の普通地方交付税は、98年度108億円から、99年度に568億円に急増、00年度に746億円、01年度に780億円、そして02年度には826億円となった。この間に718億円増加した。これは7.67倍ということになる。先ほど見たような基準財政収入額の落ち込み約1000億円、税収の落ち込み1,044億円のほぼ7割程度をカバーしていることになる。

 なお、01年度から臨時財政対策債の発行が認められ、地方交付税特会の借り入れを廃止して、その分を直接に地方自治体が借り入れることとなった。この臨時財政対策債に見合う基準財政需要額が引き下げられ(起債に振替えられ)たために、他の政令市など通常は地方交付税も減少に転じている。なお、これも他の都市と同様、大阪市の場合も、01年度に157億円、02年度に350億円の臨時財政対策債を発行している。この臨時財政対策の元利償還金は、その償還時にその全額が基準財政需要額に算入される。

 この臨時財政対策債を地方交付税とみなして加算すると、01年度の大阪市のまない普通地方交付税は936億円、02年度は1,176億円という額になる。すなわち、税収のマイナスは、地方交付税と臨時財政対策債によって補填されるという構造になっている。100億円ほどオーバーして補填されていることになる。


地方交付税は縮小しつつある
 先行する基準財政需要額の削減

 しかし、地方交付税の全体の傾向は、先ほどの臨時財政対策債(赤字地方債)を除くと総額も、各自治体(大都市)の受け取る額も01年度から減少に転じている。これは、やはり臨時財政対策債への振替えの効果がでていると考えられる。しかし全体の流れからすると、臨時財政対策債への需要額の振替えは、交付税制度としては、基準財政需要額の縮小、抑制とそれを通じた地方交付税総額の抑制、縮小のためのひとつの手法であることには変わりがない。

 第3表に見るように、政令指定都市の基準財政需要額は、98年度から00年度にかけて増加したのち、01年度、02年度と減少している。地方交付税がこの間に増加している大阪市においても、例外ではない。特に02年度は、名古屋市が対前年度比5.2%減、札幌市が4.5%の減となり、減少幅が最も小さかった神戸市でも2.6%のマイナスとなった。大阪市は01年度に約2.4%減、02年度にさらに3.2%減となっている。

 全体の需要額の動向は、『普通地方交付税算定資料』によれば、02年度の場合、都道府県分で経常経費が2.0%の減、投資的経費が12.5%の減、公債費等は10.4%の増、合計で3.1%のマイナスである。市町村分は、経常経費が3.1%減、投資的経費が8.8%の減、公債費等は7.2%の増であり、市町村分トータルでは3.8%のマイナスとなっている。


本格化した地方交付税総額の縮減
 03年度において7.5%のマイナス

 ところで、03年度はどうであろうか。1月20日の総務省自治財政局の『財政課長内かん』によれば、02年度に対して、都道府県分の経常経費は2.0%程度の減から0.5%程度の減の間、投資的経費は15.0%から25%程度の大幅減、市町村にあっては、経常経費が0.0%程度の増加、投資的経費は9.0%程度の増加である。

 そして、地方交付税の総額は、地方交付税・譲与税特別会計(いわゆる交付税特会)の出口ベース、すなわち地方自治体に交付される総額は、18兆693億円と、前年度に比較して1兆4,756億円、7.5%の大幅なマイナスとなっている。本格的な交付税総額の縮減が、03年度から始まったといえる。その削減は、まず投資的経費を中心に行われているといってよい。

 このことが、大阪市と政令指定都市にどの程度影響するか。重大な関心をもって見なければならない。いずれにしても、臨時財政対策債や財政健全化債の活用に大きく依存せざるを得ないことになろう。


そしてさらに進む国庫補助負担金削減・廃止と交付税の圧縮
 先に触れた国の三位一体改革についての議論は、03年の6月にも改革工程表が作成されようとしている。この三位一体改革は、2000年4月から施行されている地方分権改革に伴い、そのような分権改革に応じた財源保障を行うことが、もともとの趣旨のはずである。「補助金の削減・廃止、その国庫補助財源の地方税への移転、そして交付税改革」が「三位一体改革」の主な柱である。03年度予算においては、約2344億円の国庫補助負担金が廃止され、その国庫補助負担金が対象としていた事務事業の財源は交付税措置と第二種特例交付金によってカバーされることとなった。

 最近の動きは、財務省と総務省とのせめぎあいのかたちが一層明確になってきている。総務省は、4月1日の経済財政諮問会議に、「三位一体改革の進め方について」という文書を提出した。財務省も、「地方の自立のための改革について」という文書を提出している。

 このせめぎあいを通じてさらなる国庫補助負担金の削減・廃止と、それに対応した(額ではなく位置付けとして)税源移譲が、なんらかの形で行われる公算が高い。地方分権と地域の自立と自律を推進するような三位一体改革が実現するよう、大都市としても強力に主張することが望まれている。

 ただ、リアルな財政運営の展望としては、地方交付税が確実に縮小するとともに、地方税もさらに縮小する時代が相当長期に続くことを前提に、財政構造の抜本的な転換に、引き続き努力を傾注する必要がある。この「相当長期」という期間とその程度は、誰にも分からない。しかし、10年あるいは15年というタイム・スパンで考えることも必要である。そして、国(国と地方を合わせた)の投資的事業が、同じ期間に半減する可能性が強いことも、十分に考慮に入れる必要があろう。この点は、『自治総研』02年11月号巻頭コラムの拙稿、「建設事業を半減する」を参照していただきたい。

(奈良女子大学 澤井 勝)

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