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分権時代の地方財政と市町村合併

(初出:『地方自治職員研修』2000年1月号)


未完の財政改革と市町村合併
合併推進の理由
合併によって規模の利益が働く
財政的なメリット
21世紀での国と地方での財政危機の進行
財政制約は資金をより有効に働かせることを求める
高齢社会への人的・物的資本投下
環境資本としての森林、河川、里山、湿地
専門的職員集団の形成

未完の財政改革と市町村合併
 地方分権推進員会の五次にわたる勧告と、政府の地方分権推進計画をうけて、1999年7月に地方分権一括法が成立した。この分権改革は、地方財政の面では未完の改革である。分権と自治を進める観点から重要である国庫補助金制度の改革では、統合補助金制度の創設や、補助条件の簡素化、補助事業の休止や廃止による国庫補助金の返還義務の緩和などがあり、また起債許可制度の廃止と協議制への移行など、みるべき改革もある。しかし補助金制度の根本的な改革は今後の課題とされ、また権限の移譲に見合う財源の移譲という点でも、極めて不十分であったということは、おおかたの指摘のとおりである。そういった意味で、今次の改革は第二次分権改革に向けての第一歩と考えるべきである。

合併推進の理由
 一方で、分権推進委員会の市町村村合併に対する見解は明確である。それは財政制約の下における分権改革の受け皿としての市町村の強化という観点からの合併のすすめに他ならない。第二次勧告の第6章、「地方公共団体の行政体制の整備・確立」の一部を再度引証しておこう。

 「国・地方を通じた厳しい財政状況の下、今後ともますます増大する市町村に対する行政需要や住民の日常生活、経済活動の一層の広域化に的確に対応するためには、基礎的自治体である市町村の行財政能力の向上、効率的な地方行政体制の整備・確立が重要な課題となっている。このため、前述の「財政構造改革の推進について」における市町村合併に関する指摘も踏まえつつ、今まで以上に積極的に自主的な市町村合併を推進するものとする。」

 このように、財政分権は不十分でありながら、高齢者の社会的な介護システムの確立とその運用や、地球環境政策の展開などのように行政需要は拡大し、あるいは多様化する。さらに法律の解釈権を付与された市町村は、国の各省庁に対応するだけの新しい専門性を確立することが求められてもいる。同時に住民、市民への説明責任を積極的には果たすための情報公開を進めながら、それに対応できる人事政策を含む行政体制を確立しなければならない。このことは分権推進委員会の指摘の通りである。

 では市町村合併によってこれらの課題に対応できる市町村の行財政基盤の確立はできるのだろうか。できるとしたら、どのようなかたちでであろうか。

合併によって規模の経済が働き長期的には財政規模は縮小。
 まず、歳入面ではどうなるか。ご存じのように、市町村合併によって構成された新市町村は、人口規模が拡大するために、普通地方交付税の計算に用いる基準財政需要額は段階補正や普通態様補正の効果によって、合併前の市町村が得ていた基準財政需要額の合算額を下回ることになる。つまり、規模の経済が働いて、一人当たり行政経費は、当然のことだが人口規模が大きくなるにつれて割安になるからである。

 このため、合併算定替えの特例措置がとられている。この特例は、合併後の一定期間については、激変緩和措置と新市町村建設のための財源保証の意味合いもあってか、合併前の市町村についてそれぞれ合併しなかったものとして計算した額を、合算して新市町村の需要額とすることが認めるものだ。この特例期間は、分権一括法によって従来5年間であったものが10年間に大幅な延長が行われている。またその後5年間は激変緩和措置がとられることとなった。

 また合併特例債の創設が行われている。これは(1)新市町村の一体性を速やかに確立するため等の公共的施設の整備事業、(2)同じく公共的施設の統合整備事業、(3)地域住民の連帯の強化のためおよび旧市町村の区域の地域振興のための基金の設置、に充当する地方債とされている。この地方債の元利償還経費は基準財政需要額に算入する。

財政的なメリット
 この改正で、合併によって歳入面でのメリットが生まれるかというと、ごく限定されているといわざるをえない。合併特例債と基金の設置は、かなり効果がありそうだが、基金の設置は財産区の存続と同じように、地域的特性を保持するための基本財産になるかどうか。かなり難しい問題もはらんでいるように思われる。財政的なメリットとしては、財政規模の拡大による財政基盤の強化という点は見逃せない。50億円の予算規模の自治体が三つ合併して、当面は、150億円の予算規模になるわけだから、財政余剰の規模は多少なりとも大きくなる理屈だからである。

21世紀の国と地方での財政危機の進行
 もうひとつ、財政面からの問題として、地方分権にともなう国から地方への財源移譲の見通しの難しさがある。小渕内閣による平成10年度の補正予算から財政構造改革法の執行が凍結され、15ヶ月予算というかたちで赤字国債の発行に依存した、拡張型の財政に後戻りした結果、財政構造の悪化が進んでいる。これは、景気回復のために他の手段がないという状況認識のもとで選択された政策であるが、この状況を克服するめどが立たないまま漂流しているのが現状といってよかろう。

 分権改革にともなう財源移譲については、所得税の相当部分を住民税に移譲して、さらに最低税率を上げる(所得税は下げる)ことで地域財源を確保する案や、地方消費税の税率の引き上げなどのプランが提起されている。また99年度からの恒久的減税にともない法人税の交付税率が引き上げられたように、地方交付税率の引き上げも当然に求められる。

 とはいいながら、これからの地方財政は、これらの財源移譲が仮に行われたとしても次のような難しさをかかえている。

 第一には、国と地方の税収が、累次に渡る減税の結果、著しく縮小したという点である、特に法人税は、アメリカの水準を下回ることになった。所得税の水準も最低の水準となった。これが元に服するという展望はないとは言えないが、大きいともいえない。

 第二には、経済成長がよくても2%程度であって(来年度はかろうじて1%)、ほぼゼロ成長に近い。これは日本経済の三つの過剰、過剰設備、過剰債務、過剰雇用の整理がこれから本格化するなかで、相当に長期にわたると考えられる。さらに地球環境の問題を考えれば、このゼロ成長は構造的に定着するものと考えておくべきであろう。

 第三には、バブル経済の破綻後の1990年8月から10次にわたる公共土木事業を中心とした経済対策を地方単独事業と建設補助事業で担ってきた結果、各自治体の公債費負担が史上最高の領域にまで達していることである。公債費負担比率は97年度決算で15.2%となった。

 第四には、同じく92年度以降、再度発生した地方財源不足を、地方交付税特別会計による資金運用部からの借入金で補填する施策の結果、この借入金も99年度末に地方の持分だけで21兆円を超える借入金残高となり、その利払いだけでも6000億円近くになる。これに99年度の第二次補正と2000年度当初の借入金が加わる。

 第五に、過去の投資によって建設されたこれら公共施設の維持・管理・運営費の重圧と、いわば不良債務にあたる先行取得用地の未処理分の負担、赤字を抱えた第三セクターの経営建て直し、下水道整備のつけ、公的介護保険の導入にともなう公立病院の経営の転換のリスクなどがくわわる。

財政制約は資金を有効に活用することを求める
 これらの条件からは、次のような状況が続くとともに、より事態が深刻化すると考えておかなければならない。

 第一には、地方財政の歳入面においては、その基礎的な税収という点からは、伸びが望めない、ということである。もちろん、国民負担率の引き上げに国民的合意が得られれば話は別であるが。地方交付税も借入金の足駄でその規模を膨らませることは遠からず限界にくる。

 第二にはしたがって、歳入の伸びはもっぱら借入金(地方債と特別会計借入金)によるしかないということになる。ところがこれは将来の世代の財源を食いつぶすことである。このことが若い世代に与えている絶望感を無視するべきではない。このような事態を回避しようとすれば、借入金の規模を徐々にか、急速に縮小することで、将来世代への負担をできる限り引き下げることが求められる。

 あるいは、または同時に、歳出の規模を抑制しなければならない。これは、事実上廃止された「財政再建法」を復活させることでもある。

 第三には、借入金の元利償還のための経費がこれからかさんでくる。特に、低金利時代はいずれ終わるとすると、その利払いと不良債務の負担が重くなる。同時に団塊の世代の退職金の支払いで、金庫の中が払底するばかりか、退職手当債などのような新たな債務を抱える。

 これらの条件を考えると、市町村合併や広域連合の展開によって、2重投資や人員の重複配置を回避し、より硬直化し伸びのない財政資金を真に必要なところに、住民の安心して暮らせる分野に、集中的に投下しなければならないという議論はそれなりの説得性を持つ。

高齢社会への人的・物的資本投下
 財政資金の投入は、将来世代の所得を確保し、生活と生産の基盤を形成する分野に優先的に行うような思い切った転換が求められる。現在世代が目の前の過剰な欲求を満たすだけのような財政資金の投入は排除されなければならない。いいかえれば現在の消費に向けられるフローの支出の伸びを抑制し、将来の生活基盤を支えるストックへの投資に重点化することが求められる。

 たとえばそれは、高齢者の自立した生活を地域で社会的に支えることのできる社会的ストック(適切な施設と要員という施設ストック、十分な介護報酬を配分できる保険制度などの制度資本、ヘルパーや理学療法士、訪問看護婦や保健婦、医師、などの専門家集団としての人的ストック)への投資である。

環境資本としての森林、河川、里山、湿地への投資
 それは、環境資本としての森林(水資源と生物多様性の倉庫)や海岸や河川の再生への投資と地域社会による維持管理として構想される。また、たとえば、分権改革によって拡大する権限をもつことになり、それに応じた責任をはたすべき基礎的自治体にとって、特に人口の少ない小規模自治体にとってもっとも大きな問題のひとつが、職員の人的な対応力の制約であることがしばしば指摘されてきた。

 もちろん小規模自治体でも、あるいは小規模であるからこそ、むらおこしや地域活性化に大きな成果をあげている少なからざる例がある。しかし、多くの小規模自治体にあっては、今回の分権改革や社会福祉基礎構造改革に積極的に応じるのに困難性を感じているのも、もう一方の実状だろう。それは小規模な自治体ほど、職員は一般的には兼務が多く、じっくりとひとつの課題に取り組むことが難しいという事情がありそうだからである。したがって新しい課題に対応できずに、外部のコンサルタントに依存したりする度合いも大きくなりがちなことは否めない。

専門的職員集団の形成
 そういった現状を克服するためには、一定規模以上の職員集団があって、専門的な企画に没頭しうる人的余裕とか住民組織の支援組織づくりなど制度作りに注力できる人的配置、また情報公開制度の展開、訴訟など自立して対応でき、自治立法を構想し制度化する力量をつける機会と時間を保証しうることが不可欠である。

 現在も優れた人材(首長も職員も)が小規模自治体に多数いて、極めてゆたかな実践を行い、全国的に先行した政策の展開をしている。それらの才能こそ、より広い場での活躍も期待したい。

 市町村合併あるいは広域連合は、このような財政資金の有効な活用に道を開く可能性を少なからず持っている。またそのような活用が出来、地域の自立的活力を組織できる自治体の再組織と再生に成功しうるかどうかが、厳しい財政制約の下での地域社会のこれからの展望を左右するのではないかと思う。そのための住民の自発性と、首長や議会のリーダーシップが問われている。

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