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第三次地方財政危機と大阪市財政の展望
大阪市を対象に財政の自律方策としての税源移譲を考える

(初出:大阪市政調査会「市政研究」 2001年春号)


1 第三次地方財政危機と大阪市
2 大阪市財政の特徴
3 財政の自主性の確保のために

未完の財政改革と市町村合併
 地方分権推進員会の五次にわたる勧告と、政府の地方分権推進計画をうけて、1999年7月に地方分権一括法が成立した。この分権改革は、地方財政の面では未完の改革である。分権と自治を進める観点から重要である国庫補助金制度の改革では、統合補助金制度の創設や、補助条件の簡素化、補助事業の休止や廃止による国庫補助金の返還義務の緩和などがあり、また起債許可制度の廃止と協議制への移行など、みるべき改革もある。しかし補助金制度の根本的な改革は今後の課題とされ、また権限の移譲に見合う財源の移譲という点でも、極めて不十分であったということは、おおかたの指摘のとおりである。そういった意味で、今次の改革は第二次分権改革に向けての第一歩と考えるべきである。

1 第三次地方財政危機と大阪市

落ち込んだ市税収入
 1992年のバブル経済の崩壊と、その後の大不況のもとで、大都市部の都府県を中心にした地方自治体の財政破綻が進み、特に1998年度から実質収支の赤字団体が増加した。この原因としては一方で、景気の後退による法人関係税の落ち込みと、個人所得の収縮による地方税の減収が生じ、またこれに経済政策としての所得税と法人税の減税が追い討ちをかけたことによる地方税収の激減があったことに求められる。他方で、12次にわたる景気対策を、主として起債によって賄ったために、その元利償還金が急速に膨らんで財政支出を拡大し、その硬直性を高めたことによる。

 大阪市の場合にも同様な傾向が見ることができる。直近の1999年度決算を見てみると、市税収入は7,129億円であるが、これはバブル経済の絶頂期である1991年度における7,647億円の93%の水準で約500億円下回る。市税収入のピークは、1996年度(この年度は、経済が上向き、不況を脱したかに見えた時期である)の7,776億円だが、この水準に比較すると91.7%であり、600億円以上も下回る。

法人関係税はさらに落ち込みが大きい
法人住民税の状況はもっと激しい。1989年度のバブル経済の始まりの時に、2,481億円あった市民税法人分は、1999年には1,168億円と47.1%の水準にまで落ち込んでいる。半減以下となっているわけだ。これだけで1,313億円のマイナスである。市民税個人分は、バブル経済の末期の1992年度に1,682億円あったものが、1999年度には1,223億円となり、72.7%と4分の3に収縮している。

 固定資産税の一定の伸びが、これら法人住民税と個人住民税の落ち込みを支えてきたが、地価の下落が顕著になってきた97年度以降、これも緩やかに下降してきている。すなわち96年度の3,507億円から99年度の3,437億円に100億円ちかく減少してきている。

歳出の規模は拡大、一位は土木費、そして民生費
 税収の落ち込みという現象の反面として、景気対策のための財政出動が求められたこともあって、歳出の規模はむしろ膨らむ傾向にあった。普通会計の決算で見ると、歳出総額は、88年度の1兆2,641億円から95年度の1兆9,029億円に1.5倍に拡大している。その後1兆8,500億円程度に下がるが、98年度には1兆9,715億円に膨張する。99年度は1兆9,060億円と前年度比3.3%減となったが、なお高水準である。

 歳出の構造としては、土木費が最もウェイトが高く、歳出の30〜36%を占めている。ついで民生費16〜20%程度である。ここのところ民生費のウェイトが高くなってきているが、それでも土木費の圧倒的優位はゆるがないといってよい。

 性質別の歳出では、投資的経費が24%〜30%で最も大きい。次いで人件費が20〜17%の水準であるが、そのウェイトは低下傾向にある。一時低下していた扶助費は92年度から一貫して上昇傾向にあり、そのウェイトも13%台になろうとしている。また繰出し金が大きいのも大阪市財政の特色で、ほぼ歳出の10%を占めている。その中で、公債費は8%台になり、上昇傾向にある。

地方交付税と地方債
この市税収入の落ち込みは、制度的には地方交付税によってその4分の3程度が補填される仕組みがあるため、一般財源の総額としてはそれほど減少しない。大阪市の地方交付税、そのうちの普通地方交付税は、94年度に22億円の交付があり、この時点で不交付団体から交付団体に転換した。そして98年度に108億円、99年度に568億円にと拡大し、2000年度には850億円に拡大している。このためもあって、経常一般財源の制度的に見た大きさを示す標準財政規模は、88年度以来、一本調子で上昇してきている。98年度には8,021億円である。

 このような大阪市のようなわが国を代表する大都市が、地方交付税に依存する状態は、決して正常な財政状況とはいえない。これら大都市が地方交付税に依存せず、市税を基幹財源として確立することによって財政面での自立性を確保することが、分権改革を推進するためにも不可欠な課題だということもできる。

地方債をめぐって
 地方債の発行額は、バブル期には、1,000億円を切る状態であったが、92、93年度に2,000億円台に達し、その後2,600億円、3,170億円、2,859億円、そして97年度の3,091億円、98年度に4,073億円と最大の発行額となった。99年度は2,628億円と相対的に抑制基調に転じたが、起債残高は2兆4,313億円になり、標準財政規模に対する比率(起債残高比率)は306.7%と、経常一般財源の3倍の規模となった。この起債残高比率は、通常の市であれば2倍を超えると公債費の圧力が強く、財政運営は厳しいと見なければならないのであるから、市の負債の規模はこれを大きく超え、将来にわたってその元利償還費が財政を硬直化することははっきりしている。

 特に2006年度からと予定されている地方債許可制度の廃止と、総務省との協議制への移行を見通すとき、このような政府債務の状況は、起債市場において相対的に不利な条件を背負うことになる可能性がある。協議制の下での起債は、総務省との協議が調わなかったときには、自ら貸し手を見つけられれば、独自に資金を借りいれることができる。ただし議会に報告することは必要である。このように基本的には自由な起債市場での資金調達の可能性が開かれるのではあるが、同時にそれは「市場による格付け」にさらされることでもある。財務状況のよくない地方自治体への貸しつけは、より高い利子でなければできないということになる。その財務状況のひとつが、債務残高とその構成である。

2 大阪市財政の特徴

 このように、第三次地方財政危機は、大阪市をも直撃している。それが他の政令指定都市と異なる大阪市の財政構造の特徴をより際だたせることとなった。1998年度の普通会計決算によって他の政令指定都市と比較した大阪市の特徴をデッサンしてみよう。

政令市の中でも最大の財政規模
 歳出規模が非常に大きい。標準財政規模に比較した歳出の割合は、2.46倍となっている。これは震災復興という特殊な条件下にある神戸市(2.47倍)は別として、他の都市はほぼ1.8倍から2.1倍になっていることと比べると大きな差である。言ってみれば、財政的には「いつも震災復興」といった状況ともいえる。これは、大阪という都市が明治以来営々として築き上げてきた都市施策、都市機能の累積の結果であると間がえられる。個々の都市施設の維持管理費だけでも膨大な額に上るであろう。大阪という大都市固有の施策の継承ということもある。府がやるべきこと、あるいはやったほうが望ましい施策を大阪市が担ってきたことによる財政負担も大きい。

 なお、標準財政規模とは、経費の大きさのような感じの用語だが、定義上は、「地方自治体の一般財源の標準的大きさを示す指標で、基本的な財政指標の分母を構成する重要な指標である。標準税収入額+普通地方交付税額+地方譲与税で求められるその自治体の制度的に与えられた経常一般財源の大きさ」(学陽書房『新版 地方自治の現代用語』)である。

財政の硬直度は最も高い、その要因の第一は人件費
 経常収支比率が97.8と高く、政令市の中ではこれも神戸市(99.7)と並ぶ。しかしその構造は異なる。神戸市は経常収支比率の公債費比率が31.5であるのに対して、人件費の経常収支比率は34.4である。大阪市はこの公債費の経常収支比率は17.6と低く、他方で人件費の比率が40.7と高い。この人件費比率の高さは川崎市に次いで2番目となっている。なお公債費の低さは下から4番目である。

 このことは、90年代に入る前には人件費の大きさをひとつの理由として、積極的な起債による投資が控えられてきたということを示すのかもしれない。

一人当り個人市民税は下から3番目という低さ
 (3)同じく後掲の表16によれば、人口一人あたりの市民税個人分は、5万3099円である。これは政令指定都市のうちでは、北九州市(3万9386円)と札幌市(4万8449円)についで下から3番目という地位である。このことは大阪市はその経済的地位の高さにもかかわらず、住民個々人の所得が低いということを示している。既に各方面から指摘されているように市経済の活動を担う高額所得者層が、市内から周辺都市にスピルオーバーしていることの結果でもあるかもしれない。大阪的なインナーシティー問題と指摘されたこともあったはずである。

法人住民税と固定資産税は抜きん出て高い
 しかし個人分は低いが、他方で人口一人あたりの地方税総額は29万8774円と政令市の中でも最も高い。このことは住民税の法人分が5万3782円と2番目の名古屋市(3万4305円)を大きく引き離していること、また固定資産税も13万9157円と二番目の川崎市の9万8092円を大きく上回っていることから説明できる。

 つまり大阪市の経済活動の旺盛さが、この法人住民税と固定資産税の高さに表現されていると見ることもできるのである。昼間人口と夜間人口との差がここにも表現されているといってもよい。

夜間人口と昼間人口(参考表を参照されたい)
 なお、ここでの人口一人あたりという「人口」とは、住民基本台帳人口であり、それも各年度末(3月31日現在)の人口である。このため、ここでの人口は夜間人口を指すことになる。つまり昼夜間人口の差が大きいところは、この数値にバイアスをかけて見るようにしなければならない。大阪市は昼間人口が圧倒的に多く、横浜市と川崎市は夜間人口が極めて大きいから大阪市の「人口一人あたり」は昼間の活動にかかる項目については過大となり、横浜市や川崎市はその逆に過小にでることとなるからである。

 なお、一人当り人口で都市比較をする場合、住民基本台帳人口には外国人人口が入っていないことに注意しなければならない。より実態に近い議論をしようとすれば、外国人人口をも原則として把握している国勢調査人口を基礎に、毎年の転入者数と転出者数、出生者数と死亡者数を加減した「推計人口」の利用がもう少し考えられていいと思われる。

 (参考:政令指定都市の昼夜間人口、推計人口)

政令市の中でも飛びぬけて高い土木費
 ついで歳出構造を見てみよう。歳出の目的別経費を政令市との比較で見ると、大阪市の特色は、土木費の大きさにあることがわかる。これは90年代後半の特色かもしれず、また特に98年度(平成10年度)の際だった性格かもしれないが、飛び抜けていることは確かである。すなわち人口一人あたり26万2455円となっている。これは震災復興途中の神戸市の同じく21万1551円、元気都市といわれる福岡市の19万665円に比較しても文句なしの一位である。以下、参考までに並べると広島市(18万1129円)、北九州市(17万5310円)、名古屋市(14万9752円)、横浜市(13万427円)、札幌市(12万6651円)、仙台市(12万3748円)、京都市(11万5798円)、川崎市(11万1770円)、千葉市(10万1207円)。

 目的別歳出の総額では、大阪市がやはり圧倒的に大きく、他の都市が人口一人あたり40万円から50万円台であるのに対して、79万7418円と人口一人あたりにして20万円から30万円多いのである。

 これが狭い市域での昼間の経済活動を支えるための交通、下水道などのインフラ整備とその更新投資に原因があるのか、投資の内容についての一層の比較検討が必要であろう。

 また、その他の目的別歳出も民生費(人口一人あたり16万3960円)、商工費(5万9842円)、教育費(8万4670円)とも他の政令市に大きく差を開けて第一位の大きさである。衛生費も被爆者援護法による原爆医療費をかかえる広島市を除けばトップの大きさでの支出となっている。

公営企業等への繰出金が際だって大きい
 大阪市の公営企業等への繰出し金は、98年度決算では、約3043億円である。これは標準財政規模の37.9%を占める。つまり経常一般財源収入のほぼ4割が他会計への繰出し金として出ていくという特異な構造をしている。他の政令市もこの繰出し金は、普通市に比較して大きい割合を占める。これは交通や病院、下水道などの大規模な公営企業をより重装備で持っているからである。

 しかし、そのウェイトは、大阪市ほどではない。標準財政規模に対する比率は、名古屋市で26.0%、福岡市が25.5%、京都市20.8%、神戸市20.0%、広島市17.9%などで、低いのは千葉市や仙台市で一桁台のパーセントとなっている。

 こういった面から見ると、大阪市の財政のひとつの特色は、府県財政に似たところがあって、いわば他の会計である事業体あるいは経営体に対する資金のポンプの役割をもっていると思われるのである。このような財政構造を持っていることによって、一般会計の財政運営の自由度が相当制約されていると推察される。

基金に財政調整基金がない
 もうひとつの特色は、積立金の構造にある。積立金現在高は98年度(平成10年度)決算ベースで2447億円ある。人口一人あたりにすると9万8977円となるが、この規模は政令市の中でトップである。二位が仙台市の9万2863円、三位は北九州市の7万351円、以下神戸市6万8796円、京都市5万3280円などとなっている。

 ところが大阪市には、財政調整基金がない。この財政調整基金は地方財政法において、財源の余剰又は剰余金が出たときには、その二分の一以上を積立てる(財政調整積立金、あるいは地方自治法の基金によるので財政調整基金ともいう)か、地方債の繰上償還に充てなければならないとされている。実質収支が黒字である以上、決算剰余金が大阪市においてこの間に出なかったということはあり得ないから、その剰余金の処分をこの基金を設けないで行ってきたという、特色ある財政運営をしていることがわかる。

 基本的には、大阪市の基金はすべて特定目的金として積み立てられていることになる。このことの財政運営上の意義についても今後の検討課題たりうるであろう。

一般職の職員数
 人口一人あたりの職員数は、13.297と政令市中最も多い。人件費比率(経常収支比率の人件費比率では40.7%)では大阪市とほぼ同じ川崎市(同じく40.8%)に比較しても1000人あたり3人ほど違う。この職員数には、公営企業会計の職員、その他公営事業関係の職員は含まない。普通会計の職員であることに注意していただきたい。また昼間人口との対比でも大きく変わって見えるはずである。このことをどう評価するか。人数に比較して財政負担が小さいのは、職員の学歴や年齢層にも関係していると思われる。職員は貴重な資源であり人材である。この多様で豊富な人材を活用することこそ、これからの市政運営を活力あるものにする最重要なキーのひとつであることは間違いないのである。

3 財政の自主性の確保のために

税源移譲の考え方

大阪市財政を考えるポイント4つと税源移譲の私案
 このような諸特徴をもった大阪市財政において、今回の分権改革を進めるにあたっての財政的基盤を構築するためには、どのような財源ないし税源移譲の構想を考えべきであろうか。ひとつは、旺盛な経済活動を支える都市施設の運営、維持、更新投資そしてまた新設、改良といった財政需要を自立的に賄えるだけのボリュームをもった自主税源、独立税源を確保することが必要である。ニつめには、経済情勢の変動に応答しながら地方交付税への依存という状態に陥ることのないような、財源の自立性と安定性が実現されなければならない。三番目には、都市計画の分権化を実行あるものにするためにも、都市政策に連携し得る税制上の自主性が担保されなければならないであろう。これは特に建設投資における国庫補助金の総合補助金化の推進や、起債への一層の振替などの国側の制度の大幅な改革が必要なのである。第4に、大きな昼間人口のもたらす財政需要に応じた、安定した充分な税収のある課税が考えられなければならない。

 分権改革の前提であるべき財源の地方移譲、あるいは財源の組換えについては、様々な考え方が出されている。しかし、後にもみるようにそれは主として都道府県レベルでの議論である。市町村についても全ての市町村についてのいわば「ぐるみ」の議論である。そのほうが広く議論してもらうためには望ましいことではある。また、都道府県レベルのほうが比較的、議論を単純化し、問題をクリアーにするという利点もある。この場合の単純化は極めて重要なことである。

 しかしここでは、あえて大都市の観点から、それも政令指定都市をグループとしてまとめたものではなく、大阪市という個別の自治体の観点から、あくまでも粗削りなデッサンとして、大都市である大阪市がその自立性を確保するための税源移譲のひとつのイメージを描いてみたい。(なおこのデッサンは、言うまでもなく研究会としての考え方ではなく、研究会でのサジェススチョンを勘案しながら、筆者の個人的な考え方を試案として述べたものである。)

 その際、以下のような前提ないし条件、あるいは想定を置いてみた。これらは厳密な資料にもとづいたものではなく、実務上の実現方法についても捨象せざるを得ず、今後の課題とせざるをえなかったことをあらかじめお断りしておきたい。

前提その1 不交付団体化しうる財源移転つまり税源移譲
 ひとつの目安として、大阪市が恒常的に普通地方交付税に依存しないで済むような規模の一般財源が確保されることが必要である。すなわち不交付団体として、安定した一般財源が保障されなければならない。

 このように、地方財源確保のひとつの目標として、地方交付税への依存から脱却することのできる地方自治体を増加させることを提起している作業に、近畿大学の中井秀雄教授の研究や、九州大学の伊東弘文教授の提言がある(第一書林『地方分権の戦略』1996年3月、第2章を参照されたい)。それは、地方交付税が地方一般財源であるという建前はいいとして、その地方自治体への配分額の毎年度の決定がわかりにくく、地方自治体にとってはあてがいぶちの「国への依存財源」という性格が色濃いために、自ら財源を確保しようとするインセンティブ(意欲)を削ぎ、また財政需要の抑制とは逆に作用しかねないというマイナス面をもっているからであると指摘されている。いわゆる財政運営上のモラルハザードの問題である。財政責任を明確にするためには、このような他者への依存意識を醸成し勝ちな財源は、できるだけ小さくして、自らその賦課徴収について責任をもちうる地方独立税源を拡大することこそ望ましいからである。

 実際には、経済構造の地域的不均衡があるかぎり、地方交付税のような財政調整制度は不可欠であり、その廃止ではなく改革が求められている。つまり交付税改革の中心は、不交付団体の増加を図るとともに、毎年度の交付額の決定過程への地方自治体の参加でなければならない。いわば地方交付税という地方共通の調整財源を傾斜配分していくこと、そのことを地方自治体が自律的、自主的に討議し、決定する、そういった自治体間の議論のルールと、それをささえる倫理が必要となると思われる。

収入額が需要額を安定的に超過すること
すなわち、技術的には、該当する団体の基準財政収入額が、安定して基準財政需要額を上回るような制度設計が行われなければならない。留保財源率、すなわち市町村で基準税収の100分の75、府県で100分の80という基準財政収入額への算入率には当面触らない。つまりこの比率を前提とする。この比率を引き上げるという議論もあるが、そのやりかただと、地方の一般財源の削減にしかならない。必要一般財源(基準財政需要額)のほうが一定だとすると、基準財政収入額が拡大する分だけ、交付税の総額が減少することになり、マクロな地方財政計画ベースで存在する「地方財源不足」(平成13年度の通常収支ベースで約10兆6千億円、地方財政の規模は同ベースで89兆3100億円である)を拡大することにしかならないのである。

需要額の抑制は投資的経費を起債に振り返ることで
また、基準財政需要額を切り下げることで基準財政収入額が需要額を上回る(すなわち不交付団体になる)ことも可能であるが、この需要額の引き下げという劇薬を経常経費では行うことは困難である。相対的に可能なのは、投資的経費を基準財政需要額から追い出す(すなわち起債に振り替える)ことによって、需要額を圧縮することである。

 今回の地方財政対策でも、2001年度においては、この基準財政需要額の圧縮が投資的経費で行われている。すなわち、公共事業の国庫補助事業の削減とともに、地方単独事業の計画額を実績額に近づけるための規模是正、すなわち縮小が行なわれている。この方向を交付税改革のひとつの方向として定着させることが望ましいと思われる。

 このような投資的経費を基準財政需要額から追い出し、起債に振り替えるという仕組みは、もともとの交付税制度の意義にも合致する考え方である。交付税制度の前身である地方財政平衡交付金においてこの基準財政需要額という考え方が導入されたのだが、そのとき投資的経費については、原則としてその維持管理費と原価償却費を算入するとされた。これは地方一般財源の確保という平衡交付金の性格から、直接的に投資事業の財源とすることは避けなければならないからである。つまり地方一般財源を付与するということは、その性格上、その使途について他の団体が条件をつけることは、財政運営の自主性を奪いかねないからである。そういった地方財政平衡交付金の理念は、地方交付税制度にも継承されたのである。しかし、高度経済成長期に入って、国土開発の地方負担を、という意見が強くなる中で、交付税の「動態的運用」という理屈もあって、まず河川事業に「事業費補正」が1963年度ごろに導入されたのであった。このように基準財政需要額に直接投資的経費を算入するという方式は、中央政府の政策運用の手足として、地方財政を利用するという側面を強めてきたといってもよいであろう。現在、初心にかえってこのような施策を転換していくことが求められているのである。ちなみに、平成12年度の基準財政需要額における投資的経費は次のようになっている(『平成12年度 改正地方財政詳解』338頁〜341頁)。

(財源不足団体について計算している)
 全体投資的経費
都道府県分20兆3273億円4兆6712億円
市町村分22兆1232億円6兆円
合計42兆4504億円10兆6712億円

国税所得税の住民税への移譲
国税から移譲する税は、市域内で賦課徴収される所得税の一割までの部分を考える(ケース1)。それによって充分な財源が得られなければ、市域内で徴収される所得税の15%に相当する額を移譲する(ケース2)。税源移譲案を参照されたい。

 このように市域内で賦課徴収される国税所得税の一部を、地方所得税のかたちでその発生地である大阪市などに分割移譲するのは、いったん徴収した税をふたたびその発生地に還流するという非効率を排除するためである。大阪市の場合でも、平成10年度で、中央政府からの移転財源は普通地方交付税108億円、国庫補助金2508億円ある。これらは、大阪市内からの所得税1兆1957億円(推計)の一部が還流してきていると見ることもできるのである。これらはわざわざ迂回して最終的に大阪市に帰属する財源であり、それだけ政治的にも余計な付着物をともない、不透明さをもたらしている(特に国庫支出金)。

神野案、大阪府案など
 このような所得の発生地への所得税の一部帰属を正面から扱っていないが、そのコロラリーとして、一般的に所得税の地方税へ委譲するという提案は、東京都の研究会が最初にシミュレーションを行ったものだが、その後、神野直彦・金子勝編著の『地方に税源を』岩波書店において詳しく紹介されている。この場合は、10%の比例税率で地方所得税を構成するという提案となっている。同時に地方税としては不動産税などは不適当として地方所得税の単税制度を推奨しているのが特色である。

 また、先程の伊東弘文教授と中井秀雄教授の作業においても、基本は所得税の比例税率部分の移譲である。伊東提案の骨子は、「所得税と住民税の税率の組み合わせを変更することで可能なはずである。所得税は限界税率10%から始まり、5段階で最高税率50%である。他方、住民税は5、10、15%の三段階である。」

 また、大阪府の平成12年度「大阪府地方税あり方研究会」(米原淳七郎追手門学院大学教授、長沼進一大阪市立大学教授、林宣嗣関西学院大学教授、松井健大阪府総務部税務室長、上田均府税政課長)の報告書においても、所得税の府県税への1%程度の移譲を含むシミュレーションを行っている。

住民税の複層化を提案する
 住民税の複層化の提案を考えたい。このような市域で発生する所得税を市に帰属させるときの難問は、大阪市内で賦課徴収される所得税は、源泉徴収部分が圧倒的に多いことであり、その担税者である給与所得者はその多くが、大阪市外の居住者であって夜間人口としての大阪市民ではないところにある。とすると大阪市内の特別徴収義務者である法人企業などに、大阪市民税源泉所得税割を納付させることが考えられる。枚方市民で大阪市の事業所に勤める人は、住民税を二ヶ所に納めることになる。その際、地方税負担が二重になって重くならないように、大阪市民税源泉所得税割は枚方市民税所得割から税額控除するように仕組む必要がある。このことは住所地課税を複層化、すなわち住民としての課税と、勤務地住所地での課税というかたちでの複数の地理的な生活拠点で税を支払うという複層化を実現していくことでもある。

 このような住所地課税の複層化は、生活の拠点が夜間と昼間とで分離しているのが普通になっているわが国の大都市部では、昼間のサービス利用のコストを所得においても分割してその一部を負担すべきであると考えられ、そのことを実現するよりリアルな選択肢であるとも考えられるのである。(なお、選挙権の分割や、代表性のありかたについても積極的に検討する必要がある)。法人住民税や、法人が支払う固定資産税は、昼間の経済活動の果実への課税とも考えられるが、個々の市民においても昼間の就業生活における都市施設の利用に対する対価として、もその所得に応じてこの対価を負担するのが筋ではなかろうか。

 住民税におけるこのような住所地課税の複層化は、都道府県民税利子割で一部実現している。利子割の特別徴収義務者は利子を預金者に支払う金融機関の営業所等であり、負担者である預金者の住所地ではなく、金融機関所在の都道府県に納付する。したがって、枚方市民が大阪市中央区に勤務し、そこの銀行支店に預金を持っている場合、彼又は彼女の利子に対する住民税利子割は、大阪府に納付されることになる(地方税法第71条の10)。

 また、個人住民税所得割は、府県民税については廃止し、市町村民税に統合する。府県税については、地方消費税の拡充で財源を確保する。基本的な考え方のポイントは、市町村と府県との税源を分離し、それぞれの税の帰属を納税者から見て明確にすることによって、アカウンタビリティの確立に結び付けようとするところにある。同じ理由から、市町村の法人住民税は、府県に移譲することも考えられてよいであろう。

消費税について
消費税については、大都市の昼間人口が都心部で昼間に消費するその消費活動に着目して、現行の1%の消費地方税の税率(現行はわれわれが支払う消費税の5%のうち国税が4%である)を2%に引き上げその半分を昼夜間人口比率の高い大都市に配分することも考えられる。その際、事業所税の扱いが問題になりうるが、事業活動との差異から、市税として維持すべきであろう。

固定資産税についての取り扱い
固定資産税については、市町村の基幹的税目として位置付けるとともに、都市計画事業の分権化にともない、土地課税を原則として都市に一元化することが考えられていいと思われる。すなわち、府県税としての不動産取得税、国税(凍結中)としての地価税、などを統合して都市課税として一元化する。国土調査などの徹底によって国有地あるいは畦畔や水路など法定外公共物についても合わせて把握することによって土地台帳を整備するとともに、土地形状の改変や建造物の増改築などを恒常的に追跡補足する仕組みを組み立てる必要がある。

 さらにわが国の場合、幸か不幸か、持ち家制度を中心に住宅制度が組み立てられてきたため、持ち家の割合が高く、また持ち家層と賃貸住宅層との間にイギリスのような階級差は認めにくい。そのため、不動産課税の負担者と福祉サービスなどの受給者との間に階級的な違いは小さい。特に公的介護保険の導入によって、社会福祉サービスが「選別主義」、すなわち低所得層への措置主義によるスティグマをともなった給付から、利用者の所得に関係なくその人の介護の必要度に応じた介護給付を保障する「普遍主義」に転じる方向が明確になったため、税負担と社会福祉サービスとの応答性は高くなっていくものと考えられる。すなわち介護保険の保険者であり、同時に高齢者保健福祉計画や障害者基本計画、保育子育て支援計画(エンゼルプラン)、そして2003年度以降の地域福祉計画など、全ての市民に責任を持つような計画を策定し、それを実施する義務をもつ市町村の税目として、不動産課税は適合的である。

シミュレーション結果から
以上の観点から、平成10年度の決算をもとに、試算を行ってみたのが次の表である。

ここでは、第一に、所得税の一部を市民税に移譲すると、ケース1で、1312億円の住民税が1195億円増加する。カース2でも1793億円増加する。これは、税率にすると2倍あるいはそれ以上になる勘定である。すなわち、多くの市民は税金としての所得税は大阪市にしか払わないことになるであろう。税金といえば大阪市民税ということなる人が大部分ということになるにちがいない。その結果は、大阪市に対する納税者市民の視線は、より熱いものになる。したがってまた、説明責任を果たすことがより強く求められることになる。分権時代の大都市は、この重圧に耐えられるように、これも徹底した情報公開でこの納税者の感心に応えなければならないのである。

 第二に、国税の減少分は国庫支出金、特に投資的事業の国庫補助金の削減として減少することになるはずで(普通地方交付税は当然にゼロとなる)、その減少分は、事業規模を維持しようとすれば起債の増加になる。したがって、起債の管理は。より一層重大なものになるし、マーケットでの資金調達に熟達しなければならない。

わが国の地方税は複税制度が必須
最後に今見たように、わが国の地方税は、都道府県税・市町村税ともに、単税制度ではなく複税制度をとらざるをえないことを確認しておくことが必要である。市町村税においては所得課税と資産課税、特に不動産課税を中心に、大都市部での一部消費税の導入が柱となる。府県税については事業税の外形標準課税と消費税という安定財源を中心に考えたい。

 このような複税制度が必要なのは、わが国の地方自治体が、イギリスやアメリカ、フランス、スウェーデンなど欧米諸国の自治体に比較して、その仕事(事務事業と権限)が広範であるからである。特に分権改革によって「地域における事務」(新地方自治法第2条)を広く担うこととされ、違法でなければ、あらゆる事務を行うことができ、同時に多数の法定の自治事務と法定受託事務を担うことになったから、さらにこの傾向は深まったのである。このような自治体の財源としは複税制度を採用するほうが無理は少ないであろう。

 問題は、このこと(複税制度の採用)がアカウンタビリティーを確立することを妨げないかということである。この問題は、予算書と決算書を事務事業ごとのフルコストを表示するように改めることなど、市民参加のもとでの政策評価・事務事業評価制度の確立と連動した、情報公開の徹底によって克服すべきことであろうと考えられる。

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