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組織のフラット化とミッション

                           澤井勝(初出:自治日報04年10月15日号)

             

 多くの基本的な経営学の理念を生みだしてきたとされるP・F・ドラッカーの02年の著書、「ネクスト・ソサエティー」(上田惇生訳、ダイヤモンド社)に次のような一節がある。

 「情報を経営資源として捉えるならば、階層の整理が俎上に上らざるをえなくなる。マネジメント上の階層のほとんどが何もマネジメントをしていないことが明らかになる。それらの階層は、トップとボトムから届くかすかな信号を増幅しているだけである。

 情報理論の第一法則によれば、あらゆる中継器が雑音を倍増しメッセージを半減させる。同じことが、人のマネジメントをせず事業上の意志決定もしないマネジメント階層についても言える。それらの階層は情報の中継器に過ぎない。」

 この「中間管理職=情報のリレー機関」という一面があることは地方自治体の場合も同様だろう。こういう認識もあってか、「組織のフラット化」が取り組まれている。静岡県や三重県、滋賀県、熊本県および広島県などで平成13年度、14年度ごろから導入されている。例としては参事や課長、課長補佐、係長などを廃止して、総室長、室長、グループリーダーを置くなど、中間管理職層を整理して知事から係員までの組織の階層を8段階から6段階程度まで簡素化する例が多い。

このフラット化はさらに進める必要がある。うまくいけば、次のような利点があるからだ。まず、行政サービスの最先端で生じている問題に迅速に対応できる。意志決定の時間と距離が短いことと、情報の鮮度がいいのでその的確な把握が可能である。このことによって住民や利用者のニーズに対して、ワンストップ・ショッピング的に対応することもできる。これは、同時に組織内分権化ということでもある。このような分権化によって、市民の負託により有効に応えることもできる。

 しかし、このような成果をあげるためには、少なくも次のような条件が与えられる必要がある。第一には、これらグループや室に、権限と予算執行権それに予算編成権が適切に移譲されていること、である。住民や事業者、さらに組織内の他部局や他の自治体、国の各機関などとの接触点で、担当者がどう対応するか自ら意志決定することができ、即決できることが求められる。

第二には、それぞれの担当者が現場で適切な判断ができるためには、その事務事業に関して担当者が十分な専門的な知見と見識をもっていること、である。個々のケースにおいて判断が求められるその時点で、公平性の確保と同時に、その事業や事務の持つ「ミッション」が深く理解されていることが求められる。

その「ミッション」とは、それらの仕事が、人々の生活を安全で安心できるものとするために、どう働くことが期待されているか、その事業の目的、使命のことである。さらにそのミッションを知るということは、その事業がどの点で不十分であり、どのように改革したらよいか、また、そのためにどのような新しい政策や、仕事を創造するべきかを常に考えていることである。

つまり、「事務処理をする」のではなく、その施策が、人々にとってどのような意味を持っているかを常に明確にしておくことが必要なのである。

例えば、介護保険制度。制度の目的は、「要介護状態になったとしても、自立した日常生活ができるように支援すること」であって、介護保険財政を黒字にすること、ではない。もちろん、保険財政を与えられた条件の下で黒字に維持することは保険事業者としては基本的な仕事である。しかし、財政を健全化することを優先して、ある条件によって要介護状態になった人が、十分な支援を受けられないとしたら本末転倒だ。財政破綻を回避しながら、制度の目的すなわち「ミッション」を実現するためになにをするか。それが「介護予防」の徹底であり、地域リハビリだという方針も一つの見識である。このような政策を通じて介護を要する人を減らしていくことが、人々の生活の質の改善と財政黒字を同時に実現することになる。

では組織のフラット化が、このような行政の「ミッション」を実現するのに、どのように役だったか。組織の機能をより高めるためにもその検証が期待されている。

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