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京都の自治を考える研究会報告
京都市財政の現状と課題

2000年9月24日
奈良女子大学 澤井 勝


(本稿は、10年度決算をベースに、11年度決算において赤字団体となった京都市財政について検討したものである。大都市の財政の見方ひとつとして採録することした。なお最近の決算である12年度決算では、黒字に転換している。)

目次

地方財政危機の現在と展望
京都市財政の特質――赤字団体になった意味 経常収支比率の高さと実質収支赤字
地方交付税への依存度高まる
コスト意識の確立が重要
コスト構造と財源構成の公開は不可欠
交付税の基準財政需要額の計算と一般財源
財政健全化方策と市政改革行動計画
 1、事務事業評価と新規事業のあり方
 2、地方交付税制度の改善と国庫補助金の改革
 3、大都市税源構想の検討
 4、予算書・決算書の改革

地方財政危機の現在と展望

 1992年ごろからのいわゆるバブル経済の崩壊後、日本経済は長い不況の時代を経験してきた。1995年から96年にかけて、一時持ち直したかに見えた景気は、北海道拓殖銀行の破綻、木津信用金庫など地域金融機関のあいつぐ崩壊など金融システムの危機から、ふたたび大きな落ち込みを示した。貸し渋りによる企業,特に中小企業の倒産と、失業の増加にともなって97年から98年にかけては、物価の下落、地価の低落、マンション価格の下押しなどというかたちでデフレ経済の強い特徴を示した。これらを平成大不況というように表現することもできる。

 このような経済状況は、地方財政に深刻な影響を与えた。まず大阪府が1998年1月に財政危機宣言ともに財政再建計画の素案を提起せざるを得ないところに追い込まれた。その年の夏には、東京都、愛知県,神奈川県など大都府県が相次いで、財政危機宣言を出すことになる。

 この地方財政危機の特徴は、第一には、景気後退の長期化のために法人課税および所得課税の両面で、税収の陥没が起き、これが制度化・永続化している点である。つまり府県税の中心である法人住民税、法人事業税がピーク時の半分程度のボリュームに落ち込んでいる上に、国際競争の観点から法人税の税率の制度的引き下げが行われている。個人所得についても、給与所得の減少(雇用調整すなわちリストラと時間外給与の縮小、ベース・アップの凍結)に続いて、度重なる特別減税・制度減税の結果、大きなマイナスとなっている。さらに固定資産税も、地価の下方修正、新築、増改築の低迷の影響から長期に伸び悩む状況を脱しきれていない。平成10年度決算では、地方税(都道府県税と市町村税の合計)は4年ぶりに前年度を0.6%下回った。

 第二は、このようなわれわれが経験したことがない超長期にわたる景気後退に対処するために行われた、政府による11次にわたる景気対策に地方財政も積極的に協力した結果、地方債残高が過去最高水準を越え、これが各府県、都市に対して重い負担となっていることである。これは、公債費負担比率や公債費比率、地方債許可制限比率の上昇となって表現されている。平成12年版の地方財政白書によれば、普通会計ベースでは、平成10年度末で地方債現在高が120兆719億円、地方交付税特別会計での地方負担の借入金残高が17兆7872億円、企業債の普通会計負担分の残高が25兆606億円、合計で162兆9197億円である。つまり交付税も大きく借入金に依存しているから、これからの元利償還は、地方自治体の台所と、中央政府の台所の二ヶ所で重い負担となる。

 第三に、各地方自治体の財政の硬直性を示す経常収支比率が、これも過去最高の水準を大きく超えている点である。全地方自治体(府県と市町村)の加重平均で、平成9年度の87.4%から10年度末には89.4%に2%ポイント上昇した。これは公債費が5.8%上昇したことと、生活保護費など扶助費が6.2%上昇したことが強く影響している。ちなみに人件費は、公務員数の減少もあって、0.4%増ともっとも低い伸びとなっている(同白書)。

 第四には、わが国経済の低成長ないしゼロ成長が21世紀の基本的トレンド(流れ、潮流)となることが避けられない状況下で、このような歳入と歳出のアンバランスは、大きな制度改革が仮にあったとしても、当面のところ解消されにくい。つまりこの財政危機は構造化して長期に続くと見なければならない、という点である。

京都市財政の特質――赤字団体になった意味
 経常収支比率の高さと実質収支赤字

 京都市の財政もこのような経済動向と財政状況を受けて、極めて難しい状況になっている。平成10年度(1998年度)決算ベースでは、経常収支比率が94.7となり、政令指定都市の中では、神戸市(99.7)、大阪市(97.8)についで3位の高さにある。11年度の一般会計決算では、実質収支が4億円の赤字決算となったとされている(7月31日主計課広報資料および「京都市財政のあらまし(平成12年7月)」などから)。

 一方で、市税収入は、2,596億円と10年度に対して100億円の減収となったが、これは平成9年度の2,718億円をピークにして3年度連続して対前年度マイナスとなったもの。さらに平成12年度予算では2,448億円とさらに減少が見込まれている(同)。

 この結果、これまでも指定都市の中でも脆弱さが目立った、個人住民税と固定資産税、それに法人関係税の地位がさらに低下することになっている。

第一表 京都市の主な市税の決算額の推移(億円)(前記資料および地方財務協会『市町村別決算状況調べ』から)
 96年度97年度98年度99年度
地方税2,6232,7192,6962,596
 市民税個人分802889808764
 市民税法人分376349346272
 固定資産税1,0081,0211,0761,102

要するに、市税収入の減に伴う歳入の縮小ないし停滞に対して、歳出がそれに応じて抑制しえない、という歳入と歳出のアンバランスがこの8年のあいだ続き、それまで赤字を消していた財政調整基金などの貯金も使い尽くしたために実質収支の赤字を計上せざるを得なくなったという状況なのである。

地方交付税への依存度高まる

 もっともこの市税収入の減は、法定普通税の場合は、その4分の3は普通地方交付税で補填される理屈であるから、その分だけ地方交付税が増加することでカバーされているので、ストレートに響くわけではない。

 ただし、京都市はそれだけ地方交付税への依存度が高くなっていくことになる、とはいえる。平成10年度決算では、946億円の普通地方交付税と33億円の特別地方交付税、合計979億円の交付税を交付されている。これは歳入全体の約13%になる。この比率が高まるわけである。

 地方交付税への依存度が高くなるということは、どういう意味を持つのだろうか。第一には、歳入の将来的な見通しが、より不透明になる。地方交付税の総額は、巨額の地方財源不足(平成12年度には通常収支不足分で9兆9千億円)が生じている現在、政治的な動きも含めてなかなか地方自治体からは見通しにくいからである。3月の当初予算段階では、交付税財源の予算は、あくまで見通しであり、しかも市税の見通しよりさらに不確定要素が大きい不安定財源である。したがって、第二に、財政計画などの自律性はより希薄にならざるをえない。それは見込み額より交付税の決定額が下回ったときに、減額補正予算を余儀なくされるばかりではなく、予測を上回って交付額が決まったときにも、それをどう予算化するかという問題で財政当局が振り回され、不必要な事業が起き上がったりするなど、予算統制のたががゆるむモラルハザードの温床となるからである。

 また、第三には、歳出を構成する財源がどこから来ているかが一層見難くなるという副作用も強くなる。市税によって基本的な行政サービスが提供されているようであれば、受けるサービスとそのコスト、すなわち税負担あるいは利用者負担との関係は比較的見やすい。しかし、その交付額の決定が、遠く霞ヶ関で行われる(ように見える)交付税の場合、なにも分析的な作業を行わなければこのサービスとコストの関係は、直接にはつながらないからである。

コスト意識の確立こそ

 さて、京都市の財政は、今見たような極めて厳しい全国的な地方財政危機とその長期化の中で、新しい行政需要に対応するための財源を確保しなければならない。あるいは、それでなくても希少な財源を、2倍にも3倍にも活用して使う工夫が必要である。同時に、「行政と市民のパートナーシップ」を構築することで新しい公共性を、市民とともに作り出していくことが求められている。

 そのためにも厳しい財政状況について、市民と行政、職員そして議会の間に共通の認識(ある程度の)が形成される必要があると思われる。つまり行政の責任で実施すべき領域と、市民とその組織がその主体的条件に応じて担いうる、あるいは担ったほうが効率的である公共サービスの領域との線引きの議論は、そのような共通認識の土台の上によりゆたかな可能性が開かれるにちがいないからである。公開された情報の共有に基礎を置いた相互の信頼関係を構築することなしには、「新しいパートナーシップ」は単なる行政の下請けとなるか、新たな利権の基盤となるおそれなしとしない。

 その前提として、全ての財政情報が公開されていることが必要である。このたび公開された平成12年版の「京都市財政収支試算」の策定とその公開は、その第一歩として評価しうるものだが、さらに毎年度、決算結果を織り込んだ改定試算を行い、公開すべきである。

コスト構成と財源の公開は不可欠

 したがって、先回りして言えば、それぞれの行政サービスのコストを市民にわかりやすく示す情報公開と説明の仕事が決定的に重要になる。このことは、分権改革の結果、全ての行政サービスが、京都市が実施の責任を持つ自治事務と法定受託事務となったのだから、京都市のあらゆる事務事業について、個別にその財源内訳を示し、どこの、あるいはだれの財源によって行われているかを明示しなければならない。

 さらに、コストの構成を示すことでもある。人件費のシェア、物件費の内訳、そしてなにより、起債の元利償還金の割り振りである。

この点では、京都市の現行の予算書、決算書はなにも開示していないに等しい。予算の説明書は、到底説明書になっていない。まず事業ごとの財源内訳が、款単位にしか示されず、目単位の事業の財源内訳は一切わからない。これでは、事業ごとのコスト計算を市民に示したことにはならない。タックスペイヤーとして自分の税金がどこにいったか、なににつかわれたか、国からの補助金がどれほどで、起債がどうか、一般財源の投入の仕方は適切かなどの判断をできるようにはなっていない。市民が見て、興味を持てるような決算書でなければ、市民参加やパートナーシップの土台にはなりえないのだが。国と府の支出金が区別されていないのも、大問題である。説明欄も全く不適切である。積算根拠を示していないからである。

 この様式は、地方自治法の施行規則に示された様式だというかもしれない。しかし、その様式に従う必要はないし、特に説明書の様式は自由だから、多くの先進都市は様々に工夫して、本来の説明書にしようと努力している。問題は、財政の内容を、本来の主権者である市民に本気になって開示しようとしているどうかである。

 決算書の歳入歳出決算事項別明細書も、実施した事業量も示さずそれぞれの金額の根拠もないために、全く不透明である。歳出の節別区分はあるが、内訳がないため、それが必要な支出かどうか、判断することはできない。予算の説明書には曲りなりにもあった財源内訳は全く示されていない。したがって、決算と予算を突合して、財源ごとの過不足を測定したりすることができるはずもなく、予算と決算とは切断されている。これでは市議会に実質的な決算審議を行えといっても不可能である。

交付税の基準財政需要額の計算と一般財源

 以上の点は、喫緊の課題としての政策評価システムを導入する場合、その政策評価、事業評価を予算過程に生かすために不可欠なものである。

 実は、このような行政コストの計算では、地方交付税の計算に用いる基準財政需要額の積算方法が参考になる。特に行政費目ごとの「単位費用」の積算方式が参照されてよいであろう。これは、毎年度『平成12年度 地方交付税制度解説(単位費用編)』として、これも地方財務協会から市販されているもの。

 また一般財源の事務事業ごとの充当状況の調査では、決算統計を使った自治省財政局指導課編の『財政分析』(ぎょうせい)に示されている、行政費目ごとの基準財政需要額と現実に充当された一般財源を比較検討するための、分析表と積算方法が生かされていい。この分析では、特にその事業に当てられた起債の、毎年度の元利償還額をその事業の経費(コスト)として算入する仕組みをとっていることが重要な特徴である。このためには公債管理台帳を精査するという作業が必要だが、行政コストの計算としては極めて有益な計算である。

財政健全化方策と市政改革行動計画について

 財政健全化の方策としては、まず歳出の抑制とコントロールが行われなければならない。その点では、現在推進されている市政改革行動計画が着実にその効果を挙げることが期待されているわけであるが、その上で次の諸点に留意を促したい。

 1 事務事業の評価と新規事業のありかた
 これについては一部相対評価を含めて、各部局ごとにアセスメントを行い、同時に、新規事業の提案をセットとする方向を強調したい。廃止事業の財源の一部は当該部局の新規事業に優先的に配分することも必要であろう。その新規事業は、全ての部局において少なくも次の諸指標に沿ったものでなければならない。新規事業の提案は同時に、全ての事務事業が自治事務と法定受託事務という名の自治体の事務となったことを十分に踏まえて、的確なニーズ調査と、自律的な法解釈および自治立法の仕組みの開発、および独自な財源調達やその涵養に寄与するものでなければならない。

(1)少子・高齢化社会への積極的対応 たとえば観光客拡大政策において、どの年齢層にターゲットを合わせるか。60歳以上の熟年層が、1週間以上滞在して、古都のゆっくりした時間の流れを満喫できるものにしたい。そのためのユニバーサル・デザインの広範囲な採用と、地域交通と施設、街路等のバリアフリーの徹底。全ての市民、訪問者の寛げる町に。孤独な子育てに対する地域的な支援システムの構築。

(2)地球環境の保全と再生 ISO14000の取得を、水俣市の取り組みに学びながら、地域全体に拡大する。そのための個別事業の展開。生涯にわたる環境学習と地域の自然と生態系への深い理解の獲得。

(3)地域経済の活性化への寄与 特に民間の雇用の拡大に結びつく事業の開発。これは特に、人手不足部門と求職者との相互のニーズのマッチングを新たな事業として展開するという観点から推進すべきことである。IT革命は、実は企業リストラの本格化である。
 増加する失業者ないしその予備軍のセーフティ・ネットを大都市は、府県と協力して築くことが急務である。そして京都に若者を定着させうる多様な、ニッチな起業機会と条件の整備。市の調査によればホームレスの多くが働き口とその機会を求めていることも留意すべきである。

 2 地方交付税制度の改善と国庫補助金の改革
 地方交付税への依存という状況を脱することが出来ないという現実を踏まえて、自治省(総務省)に対して、基準財政需要額の算定方法について積極的な提案を行う。そのために、できれば対等な関係となった京都府と共同で「地方交付税制度検討委員会」を設けることが望ましい。ここにおいて古都としての条件と、大都市としての条件、教育・文化都市としての条件、高齢化の進む都市としての条件、少子化対策、雇用政策、環境政策、などについての財政需要を正確に、かつ動態的に測定することが求められる。このことは、分権改革のもとで、国と都市、府県と都市の間の対等な政府間関係を築くための足場になりうる。

 同じように、国庫補助負担金についても、残存する超過負担や新たに生じ得る超過負担を解消するための監視委員会機能を設ける。

 また、直轄事業負担金についても、建設省(国土交通省)および地方建設局などととの協議の場を設ける必要がある。

 3 大都市税源構想の検討
 大都市における財政需要を把握しつつ、国と地方の財源配分についての提案を行う、市民と共同した財源構想プロジェクトについて検討されることが望ましい。新税について京都市が慎重にならざるをえないことは了解できるが、広く国や府県とともに新財源の確保方策について論議することが都市としての人格を鮮明にすることにつながるのである。

 4 そして、前述の予算書・決算書の改革である。
同時に、このような財政状況を説明し得る専門家、すなわち財政について専門的知識をもって判断をし、議論するとともに、市民および職員に専門的な知識と知恵を媒介できる人々を市民の中に相当数養成することが必要であろう。企業会計の専門家に公認会計士があり、税の知識を持つ税理士や法律の解釈と運用に弁護士がいて、市民の代弁者になっているように、自治体財政についてのインタミディアリー(媒介者)が必要なのである。このような努力が不足すると、財政情報の公開が、結果として専門用語による市民に対する目潰しになってしまいかねないからである。市のホームページで行われている用語解説などの努力を、より拡充、深化することが望ましい。

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