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財政診断作業によって地域で自らの生き方を決める(その2)

(初出:『月刊自治研』2000年1月号、2月号をウェブで読みやすいように手をいれました。2ページに分割してあります。原題:「財政は本当に苦しいのか。)


経常収支比率の構造(つづき) 性質別歳出の状況 人件費 扶助費 公債費 物件費 補助費等 繰出し金 12政令指定都市の財政指標(札幌、仙台、千葉、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡) 公債費残高比率が200%を超えると 起債充当率と財源対策債 標準財政規模 継続的な財政ウォッチングのために

経常収支比率の構造(つづき)
 経常収支比率をもう少し詳しく見てみよう。なぜなら、財政の硬直性が全国的に、そしてどの団体でも進んでいるが、それをこれまでのように狭義の義務的経費の膨張がその理由だとすると事態を見誤るからである。経常支出の全ての項目で、義務的な支出と化した歳出がその領域を拡大しているのである。もちろん人件費と公債費が2大要因であることには変わりはないが。

 第3表は、いわゆる決算カードの中の「歳出別決算の状況」の一例である。決算カードというのは、各自治体の主な財政指標を一覧にしたものだが、自治省が作成して県地方課等に示すものとは別に、各府県の地方課、市町村課が独自に策定しているものが多い。採用されている指標はほとんど同じだが、若干の出入りがあり、表の構成も異なっているし、公表の仕方も違うようだ。名称は異なるが『市町村財政の概要』などの形で、県立図書館などでみることが出来る場合が多い。いずれにしても、この「決算カード」は市民的に財政分析をしたりする場合に有益な資料である。県として策定していないところには、独自様式での策定と公表を期待したい。ただ、元の資料を加工しないかたちで公表してもらいたいと思う。

第3表 性質別歳出の状況(東京都稲城市市決算カードから、1997年度)
区分 決算額
(千円)
構成比
(%)
一般財源
(千円)
経常経費充当
−財(千円)
経常収支比率
人件費
 うち職員給
5,200,439
3,995,486
23.4
17.9
4,750,229
3,573,108
4,723,543
3,573,108
35.5
26.9
扶助費 2,756,545 12.4 803,162 803,032 6.1
公債費
 うち元利償還金
 一時借入金利子
1,820,549
1,820,149
400
8.2
8.2
0.0
1,553,172
1,552,772
400
1,382,837
1,382,437
400
10.4
10.4
0.0
小計 9,777,533 44.0 7,106,563 6,909,412 52.0
物件費 2,965,800 13.3 2,394,822 2,074,388 15.6
維持補修費 93,862 0.4 93,892 93,892 0.7
補助費等 2,808,255 12.6 2,243,165 1,839,096 13.8
積立金 897,580 4.0 816,203 0 0
投資・出資・貸付金 51,000 0.2 0 0 0
繰出金 1,328,949 6.0 1,315,490 327,135 2.5
前年度繰上充用金 0 0.0 0 0 0
投資的経費
 うち人件費
4,345,128
79,758
19.5
0.4
936,181
70,364
経常収支比率  87.2%
減税補填債を歳入経常一般財源に加えた場合経常収支比率  84.6%
経常経費充当一般財源計  11,243,923
普通建設事業費
   補助
   単独
   その他
4,345,128
2,570,866
1,425,541
348,721
19.5
11.5
6.4
1.6
936,181
65,558
828,005
災害復旧事業費 0 0 0
失業対策事業費 0 0 0
合計 22,268,137 100.0 14,903,316

人件費
 さてその第一表でみるように、経常収支比率を構成する最大の項目は人件費である。この人件費と扶助費、公債費をこれまで義務的経費としてきた(表では小計としている)が、現在はその他の経常収支比率の科目も義務的経費として扱うべきものと考えられる。

 人件費には、議員報酬、委員報酬、特別職給与、職員給、地方公務員共済組合負担金、退職金、恩給及び退職年金、災害補償費、社会保険料等共済費、賃金、退職手当組合に対する負担金、補助及び交付金が含まれるが、勧奨退職の退職手当と災害補償費は除かれる。この中には退職手当があるために、退職者が集中した年度は人件費全体が膨張することとなるので注意が必要である。

 この人件費の経常収支比率は、40%特に50%を越えると、人件費による財政硬直化が指摘されることが多い。確かに市民の目から見て、このような人件費の経常収支比率の高さに批判が集まりやすいのは当然といえば当然である。特に職員の採用の不透明さや、情実人事が噂されるような地域では、人事政策の不在や新しい行政需要に対応できない硬直的人事運用が懸念されるからである。

 もちろんそれぞれの団体においては、それぞれの歴史的沿革からこの比率が高いことを説明できることがある。したがって、この高さ自体を杓子定規的にあげつらっても説得力をもちにくい。むしろ人件費というかたちで現れているその団体の行政サービスが、市民にとって真に有効なものとして機能しているかどうか、公務員が市民としての自らの目で見直していく契機にするべきなのである。その上で、必要とあれば部門別職員配置や、事業の見直しを行い、これからの行政サービスの変化に柔軟に適用できるよう、行政機構全体の効率化の議論を率直に進めることが望ましい。

 その際、言うまでもないが、職員の年齢構成や学歴による給与差などが考慮され、退職者のピークをどう扱うかも重要な政策課題である。

扶助費
 扶助費は、生活保護に見られるように、所得保障という観点から金品または現物で給付するもので、それぞれ、生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法などによって、地方自治体にその支出が義務づけられているもの、及びその自治体での単独施策である。

 ある都市の扶助費の内訳を見ると、約31億円のうち、補助事業が75%、単独事業分が25%ととなっている。補助事業のうちでは、生活保護関係が12億円で40%、老人福祉費が15%、児童福祉費が12%などとなっている。この扶助費では、高齢者への給付が大きくなる傾向があり、どこでも児童福祉費を追い抜いてきている。今後は介護保険制度の導入によって、この高齢者福祉関係が影響を受け、一時的には縮小することも考えられる。しかし、全体としては増加していくことは避けられないであろう。

公債費
 公債費は、地方債の元利償還金と一時借入金の利子である。このうち一時借入金は、予算にも決算にも計上されない借入金で、その年度内で借り入れ、年度内に返済するものである。この公債費の経常収支比率も重要な指標で、これが20%を超えると、他の公債関係の指標も悪化して、財政運営は苦しいことになる。

物件費
 この費目には、賃金、旅費、交際費、需用費、役務費、備品購入費、報償費、委託料、使用料及び賃借料、原材料費が含まれるが、それぞれ人件費や維持補修費に入るものは除いてある。この中では、特に委託料の上昇にきをつけたい。民間委託が進むと、委託料が大きくなるからである。特に地域独占的な企業との委託は、委託料の強い下方硬直性を招くことがあり、競争的な条件の設定が不可欠である。

補助費等
 この費目は、さまざまな歳出科目に関連するのだが、大きいのは、一部事務組合に対する負担金などである。ここには、広域行政を進めると、その財政的な負担関係がここに集約的に現れる。このような広域行政に係る負担金は、特に義務的性格が強いことに注意がもっと向けられていい。

繰出金
 他の会計への繰出金だが、経常的繰出金としての公営企業への繰出金が、近年、そのウェイトを高めている。第4表は1998年度における政令指定都市12市の財政指標であるが、は、公営企業等への繰出金が標準財政規模の20%以下なのは、仙台、千葉、広島、北九州である。これらの都市は仙台市を除いて地下鉄をもっていないことが繰出金の比率が相対的に低い理由のひとつなっているにちがいない。仙台市も19.1%と20%にちかい。

 つまり交通事業、なかでも地下鉄への負担が大きい。そして、下水道事業への繰出金が、川崎市、横浜市、広島市などで大きくなっている。

 このような各会計間のお金の出し入れ、債権債務の関係の明確化については、連結決算方式を本格的に検討し、導入する必要があるが、そのためには会計間の帳簿方式を、企業会計方式に統一するなどの前提作業が必要である。これについては、公会計を企業会計に導入するための検討も始まっているようだが、取りあえずは、繰出金および補助費等のところで押さえておくしかないのである。

地方債残高比率が200%を超えると公債費負担がきつい
 次ぎに、地方債残高比率である。これは今まで発行してきた地方債の残高を標準財政規模で除して求めた数値である。この指標は、日本経済新聞の『都市財政年報』にも財政指標として取り上げられ、いくつかの県の市町村課でも、これを指標として利用している。

この指標は、200%以上になると公債費の重圧が厳しいと考えたほうがよい。
 第4表では、政令指定都市の決算の比較をしている。これで見ると政令指定都市の場合は、おしなべて20%ラインを大きく超えている。震災復興のさなかにある神戸市は別格として、福岡市、横浜市、広島市、仙台市が高い。これは再開発事業や交通対策など大都市需要にそれぞれが対応した結果ではあろう。しかし、ハードな事業への資金投入について、あらためて検討すべきではないかとも考えられる。生活空間やひととひとをつなぐソフト事業の行方も含めて、巨大都市の行政の姿勢が問われている。

 この地方債の中には、道路や街路事業、港湾や義務教育の小中学校の新増築・改築にあたって国庫補助負担金を受けて行う補助事業の地方負担分に充当する地方債、それに単独事業において起債する地方債が含まれる。いずれも建設事業債である。

 このうち、近年になって拡大してきているのは、単独事業債である。その中でも地域総合整備事業債(略して地総債)が大きい。この地総債の中には、事業費補正によってその事業費の一部が事業年度において交付税の基準財政需要額が増額されるとともに、後年度にその元利償還金のうち相当の部分が同じく地方交付税の基準財政需要額に算入され、交付税の増額要因となるように設計されているものもある。これは、国庫補助事業を根絶やしにするものとして、建設省などから強く警戒されている施策でもある。

 他方で、はこもの建設への歯止めを失い、公債費の急増を招いている自治体も多い。

起債充当率と財源対策債
 さらに財源対策債という名の地方財源不足を補填するための地方債もある。99年度にはこの財源対策債は2兆2500億円の発行が予定されている。この財源対策債は、通常の地方債の発行額を超えて発行される建設地方債である。地方債の許可制度のもとにあっては、地方債は各事業ごとにその地方負担のうちどの程度まで起債を認めるかを毎年度、総務賞が決めている。(起債許可方針などによる)。

 このような起債を充当しうる率のことを「起債充当率」という。この「起債充当率」が重要なマジックのネタなのである。ここに事業費ベースで10億円の補助事業があったとして、補助率が2分の1であれば、地方負担は5億円ということになる。この地方負担のうち通常は30%程度が通常債として認められる。つまり1億5千万円が起債可能で、残りの3億5千万円は一般財源を用意しなければならない。

 ところが、今回のように一般財源不足の時に、この起債充当率を引き上げるとどういうことが起きるか。今、起債充当率を地方負担の95%にまで引き上げるとする。つまり通常債分が30%で財源対策債分が65%ということになる。すなわち同じ10億円の事業を行うのに、5%の一般財源、2千5百万円を用意すればいいのだ。差し引き3億2千5百万円は浮くことになる。あるいは不要になる。いずれにしても一般財源がそれだけ助かる。

 別の見方をすると、95%の起債充当率のときに、3億5千万円の一般財源があると10億円の補助事業がいくつできるか。3億5千万円割る2千5百万円で、14本出来る勘定になるのである。土砂降り的な建設事業ラッシュになりねない。

 逆にこのような仕組みを知っていれば、財政の膨張を意識的にコントロールし、建設事業から浮いた一般財源を他の分野に投入することも可能である。公債費の将来負担を勘案しながら、歳出構造の転換を図ることも展望できるのである。

標準財政規模
 ところでこの分母となる標準財政規模という考え方は、昭和30年前後の地方財政危機のときに、開発されたものである。標準財政規模は、標準税収入額プラス普通地方交付税額プラス地方譲与税という内容だが、このうち標準税収入額はその団体の法定普通税の標準的な収入見込額をいう。つまり、一般財源のうち、経常一般財源の標準的な大きさといっても良い。この標準財政規模の大きさとその予測数値が、さまざまな財政指標のベースになり、財政再建のための計画策定の土台にもなっている。

 この指標が開拓された経緯については、次のように述べられている。「昭和28年に地方制度調査会の『赤字地方公共団体の再建整備に関する答申』がなされ、これを受けて、地方財政再建促進特別措置法を制定すべく種々の検討が行われ、昭和30年に同法が施行されることとなった。その検討の過程において、再建の期間をどのように算定するかということについて、主要二税(道府県にあっては道府県民税及び事業税、市町村にあっては市町村民税及び固定資産税)を基準にしたものに、交付税その他の一般財源を加味した標準財政規模〔交付税+(基準財政収入額―譲与税)〕を基準に算定したものを加味して期間を定めるものとした。[「財政再建計画策定についての事前打ち合わせについて」昭和30年自丁調発第30号]。

 その後、昭和35年に地方財政再建促進特別措置法の施行令が一部改正され、同法第11条の2に新たに新設された事項が通常「標準財政規模」を定義した法律上の根拠とされている。」

 つまり、経常的に収入しうると考えられる一般財源(標準財政規模)を基礎にして、赤字を解消しうる余裕財源をどう生み出すかが、財政再建のもっともシンプルな手法なのだ。歳出のカットと歳入の確保策を確実に実行することによって、単年度の黒字を維持していけば、赤字は徐々に解消されていく道理だからである。

 政令指定都市で見ると、人口一人当たりの額が大きいのは、大阪市が頭抜けて大きく、ついで京都市、名古屋市であり、小さいのは千葉市、仙台市、札幌市である。この大小はその都市の収入面での財政力を表現している。

継続的な財政ウオッチングのために
 現在の地方財政の仕組みは、残念ながら、普通の市民や職員が、何の予備知識もなく接してみてもわかるものとはなっていない。公会計制度の改革も必要だが、そのことで問題が解決するわけでもなかろう。企業の会計の監査や業績の評価に、公認会計士や税理士といった会計の専門家が必要なように、地方自治体の業績の評価や財政診断にも専門的な知識や解析手法がそれなりに求められる。つまり財政面での専門家によるアドヴォカシーの仕組みが、意識的につくることが必要なのだ。そしてその専門家による分析結果を評価しうる市民的なコモンセンスはこれから形成していかなければならない。

 つまり、専門家を利用しながら、あるいは自らをそのようのものとして形成しながら、長期にわたる財政に関する研究会を持続させるとともに、財政情報をプールし、政策判断の突き合わせを行いうる、そういった市民的なネットワークを地域から重層的に組み立てていくことが求められているのである。

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