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財政診断作業によって地域で自らの生き方を決める(その1)
分権時代の財政分析と財政推計の作業

(初出:『月刊自治研』2000年1月号、2月号をウェブで読みやすいように手をいれました。2ページに分割してあります。原題:「財政は本当に苦しいのか。)


第三次地方財政危機  落ち込んだ地方税収
富裕団体が財政危機に
セイフティーネットの綻び
財政の硬直化と運営の困難性
30万都市の財政構造
(函館、青森、秋田、富山、福井、岐阜、大津、枚方、高槻、奈良、和歌山、高知、大分、那覇)
財政硬直化は政策転換の足かせ
4つの課題
赤字団体に転落しやすい
各自治体の財政状況をまず把握しよう
財政危機症候群

第三次地方財政危機  落ち込んだ地方税収
 98年の夏から、大都市部の都府県を中心に財政状態の悪化が顕著になり、第三期地方財政危機の様相が深まってきている。基本的には、バブル期のそれの半分の水準まで落ち込んだ法人関係税と、個人所得の減収による住民税の低落による地方税収の激減がある。

 これは、地方財政計画ベースで府県税で2兆円、市町村税で1兆円と見込まれている。また、国税の減収も続き、それが地方交付税の減となっている。

富裕団体が財政危機に
 これに景気対策としての公共事業などの歳出増加要因が重なって、まず、地方交付税への依存度の低い、これまで富裕団体と見なされてきた都府県が財政危機宣言をせざるを得ない状況に追い込まれたのである。この財政危機は、98年度決算の段階で、他の道府県、市町村にも波及してきているといってよい。

 それは、以下の理由による。第一には、この税収の収縮は、わが国がデフレ・スパイラルという1929年の大恐慌型の経済活動の崩壊という不況過程が進行した直接的結果である可能性があるからである。デフレ・スパイラルというのは、物価の下落が企業収益を圧迫し、それが雇用調整、リストラクチャという名の失業者増と給与水準の引き下げを導き、また他方での設備投資の圧縮から、企業間取引が縮小するという悪循環のことである。物価の下落自体は、供給に対して、需要が不足すること、つまり物やサービスに買い手がつかず余ってしまうことによって生じている。

 一方で、所得自体も減少しているなかで、消費を選別しながら貯蓄を増やすという傾向が依然として強い。この貯蓄も金融システムに対する不信感からタンス預金型であるといわれる。デフレという現象は、われわれが戦後初めて経験する事件であり、経済成長率が3年度連続して下落することも初めての経験である。

セイフティーネットのほころび
 需要面では、今見たように企業サイドの需要である企業設備投資と、国内総生産の6割を占める個人消費、住宅建設などが、収縮している。これは、基本的には、消費者も企業も将来にたいする不安感が強く自信も喪失する中で、大胆な経済行動に出られない、という社会的な条件によって生じていると考えられている。いわゆるセイフティー・ネットの大きなほころびがあるために、慎重にならざるを得ないのである。いま求められているのは、緊急な息継ぎをしながら、このセイフティー・ネットを張り直すことでなのである。しかし、それには時間が当然のことながらかかる。したがって政府の投資である公共投資が唯一頑張らなければならない、という構図になっている。

 これに、消費や投資刺激のための減税政策の実行が、地方財政の危機に追い打ちをかけることになった。

 もひとつの理由は、一度は棚上げにされた財政構造改革の再起動という問題である。小淵政権となった自自公政権は、橋本政権が財政再建を急ぐあまり倒れたこともあって、赤字国債の大量発行と、地方財政の大規模な借入金によって、公共事業を中心とした財政規模の野放図な拡大によって政治的延命策を図った。その結果は、巨額の政府債務残高の重荷である。この重荷は、地方交付税制度の全面的な見直しの問題として地方財政にのしかかっている。

財政の硬直化と財政運営の困難さの拡大 経常収支比率の悪化
 こういう中にあって、自治体財政の硬直化は避けられない。自治体財政の硬直性をはかる主要な指標は経常収支比率である。この比率は、地方税や普通地方交付税、地方譲与税といった「経常一般財源」の収入のうち、人件費や公債費などの経常的な支出に充てられた割合である。この比率がここのところ急速に上昇してきている。自治省の財政指導でも、府県で80%、市町村が75%程度をよしとしていた比率である。

 第1表は、1999年度(平成11年度)までの府県、市町村の経常収支比率の状況の推移である。97年度に、経常収支比率は統計を取りはじめてから最高の水準を超えたが、98年度はさらにそれをも大きく上まわることとなった。財政の硬直化が進んだのである。特に公債費の上昇が急である。一方で人件費の比率は一貫して低下傾向にある。

 財政の硬直化がなぜ問題か。これまでの論議だと、経常収支比率が高いと投資的経費に向ける財源が制限され、地域の道路等の社会資本投資に遅れが生じることが指摘されてきた。財政硬直化要因の第一はこのとき、人件費と見なされていたのである。

財政の硬直化は政策転換の足かせ
 しかし、既にハコ物の建設も一巡し、道路の整備率も上がったことから、このような土木事業財源のための財源確保策として、経常収支比率を云々することは不適切である。特に現在の経常収支比率の高さは、過去の投資の結果である公債費比率の上昇にその主たる原因があり、加えて下水道事業への繰出金が、その大きな割合を占めているし、地下鉄などの交通事業なども大きな負担増の要因となっている。つまり、経常一般財源収入に対する投資水準が、その内容はともかくとして、過大になっている地方自治体が増加しているのである。

 このような旧来のタイプの建設事業とそのつけによって生じる硬直化が顕著なのである。このためにむしろ、福祉関係の投資や人材確保、IT革命に先行する投資や、環境問題に積極的に対応する新規事業への展開を支える財源の不足が心配される事態が各地域で見られる。つまり、目的別の歳出構造の転換を制約する要因としての財政の硬直性が問題となっている。

4つの課題
 これからの10年を見通したとき、地方自治体が構築しなければならない行政システムは、まず4つの課題に柔軟に、そして重点的に対応できるものでなければならない。第一には、高齢社会と少子社会への対応である。これは、正確な計測と予測を基礎に、全ての地域住民に「安心」を保障しなければならない。難点は年金については、権限を持ちえない点である。それだからこそ、地域の福祉と保健、医療のネットワークの形成を通じて生活を具体的に支える仕組みを構築することに大きな期待がかけられる。

 第二の課題は、教育である。学校システムと生涯学習の仕組みを組み合わせながら、地域での教育力をどのように養っていくことができるか。

 第三の課題は、産業政策を含む地域活性化の課題である。この問題は、雇用あるいは就労政策としても重要である。第一の課題とも関連して、働くということを支援することが政策展開の柱に置かれる必要がある。

 第四の課題は、環境問題という課題である。この環境政策については、リオデジャネイロでの地球環境会議で採択され「アジェンダ21」および京都議定書の批准を前提とした地球温暖化ガスの規制は、地域自治体にあっても具体的な課題である。これに有効に対応しなければならない。

 そして、この4つの課題は、全ての自治体政策において、その解決が追求されなければならない性格のもである。

パートナーシップと公共性
 加えて、これらの課題は、ひとり行政の立ち向かうべき課題ではない。これらは、市民や住民こそが主人公になって解決をしなければならないものである。行政と市民とのパートナーシップという標語は、たんなる標語ではない。それは今ここで実現すべき協働の形である。財政的に負担しえないということももちろんある。しかし、財政的にもったとしても、それとは別に、地域での公共的活動を、市民が積極的に担い、地域をコントロールすることが、民主主義の活性化とその価値の再生(創造)のために不可欠だからである。

赤字団体に転落しやすい
 もうひとつ、なぜ財政の硬直化がマイナスかというと、経済変動への対応力が低下し、赤字団体への転落が生じやすいからである。財政の運営が困難なために、必要なときに必要な手当が出来ないで、傷口を広げるという事態も予想される。また、将来を見越した人材の確保をも難しくし、臨時や嘱託などの不安定で権利の制限されやすい雇用者の層をを拡大するなどの、弊害もともなう。

 このような財政の逼迫状態は、これからは資金繰りの難しさにつながりかねない。地方分権計画にあるように、地方債許可制度が廃止され、事前協議制度に移ればなおのことである。既に地方債の発行の利回りについて、国債との間に相当の利子率の差が生じてきている。つまり公社債市場において地方債のほうに高い利子をつけないと買い手がないという状況が始まっているからである。

各自治体の財政状態をまず把握しよう
 マクロなレベルでの地方財源不足とそれに対する対策は短期的には、地方交付税特別会計を介した一般会計や、資金運用部との貸し借りの操作によって、穴埋めをしなくてはならない。さらに、国からの税源の移転や地方交付税率の引き上げ、も必須の課題である。

 同時に、各自治体では、それぞれのところで、財政が苦しい、運営が厳しい、というがあり、歳出のカットや使用料の引き上げ、施設運営の民営化、定員の削減、定員の不補充、人事委員会勧告の凍結、昇給延伸、各種手当ての打ち切り、などの政策が次々に打ち出されてきている。では、本当に財政は苦しいのか。

 この「どの程度財政は苦しいのか、赤字再建団体になるというのは本当か」といった疑問を抱えながら、判断に迷っているというのが、住民であり、職員であり、そして議会なのではなかろうか。また、それを伝えるジャーナリズムにも迷いがある。ほんとうはどうなのだ。

 ということであれば、まず自分たちでその財政の状態を、職員は職員なりに、住民は住民なりに、議員は議員なりにつかむことが、まず出発点にならなければならない。手をこまぬいていても、霧は晴れない。基本的な財政指標を検出して財政診断を行い、それを一定の基準に従って評価して見なければものごとは前に進まないのである。

財政危機症候群
 ここであらためて、地方財政の危機が、個別の自治体レベルでどのように現れるかを例示的に示しておこう。第2表は、95年度決算から見た30万都市の財政指標である。ここにいう30万都市とは、函館市、青森市、秋田市、富山市、福井市、岐阜市、大津市、高槻市、枚方市、奈良市、和歌山市、高知市、大分市、那覇市、各都市である。ここに示された財政指標を評価する眼を養うことがひとつの目標である。この表を策定するための資料は、先に見た政府刊行物センターなどで市販されている『市町村別決算状況調』であって、市の財政課の内部資料などは使っていないことに注意していただきたい。

 つまり、資料的な制約抜きでこの程度の財政診断は誰でも出来るのである。以下これを参照しながら、見ていこう。なおこれは普通会計(一般会計と公営事業会計の一部を統合した統計処理上の架空の会計であるが、地方財政計画や決算統計はこの普通会計によって整理されている。)である。

(1)経常収支比率90%以上、すなわち財政構造の硬直化

 財政の不自由さを示す硬直性は、先にも触れたように経常収支比率(経常一般財源のうち経常的支出に充てられた額/経常一般財源収入×100)の上昇として現れる。この比率が、90以上になると、一般的には財政運営は厳しいと見なければならない。地域の条件の変化に対応した、政策選択の幅が小さくなるため、時代の要請、住民のニーズに機敏かつ大胆に応答することが難しいことになる。

 また、経済変動の波の影響を緩和する余裕に乏しく、赤字になりやすい。赤字がなぜ良くないかと言えば、多かれ少なかれ、将来の世代の財源を、現在の世代が先食いしていることになるから、それに対応するだけの資産や資源を残さない財政赤字は、将来世代の可能性を奪っているに等しい。特にお札を増刷できない地方自治体の場合は、負債は直接に将来財源の圧迫になりやすいのである。

 なお、この経常収支比率は都道府県によってその平均値あるいは、その水準に大きな地域差がある。また、政策的な対応能力の違いもあるから、同じ経常収支比率といっても捉え方に違いがある。したがって、「一般的には」としたのである。大阪府や大分県などの府県でこの比率が高いのは、それぞれの歴史的沿革にかかる事柄であるので、その水準自体は絶対的なものではない。このことは、経常収支比率だけではなく、公債費比率や歳出規模にも言えることである。

 那覇市の場合、経常収支比率が90.5という水準で、確かに高い。その主な内容は、人件費の比率も40を超えているなど、決して楽な財政運営ではない。さらに公債費の経常収支比率も高いから、結構頑張っているのではあるが、厳しい運営をしていることは間違いはない。その点、函館市、高槻市、枚方市、奈良市、和歌山市なども同様な傾向にあることがわかる。

(2)実質収支の黒字幅の減少から赤字に。

 実質収支は、形式収支、単年度収支と並んで地方自治体の収支尻のひとつであるが、この実質収支が、その団体の累積の黒字又は累積の赤字を示す。この収支の黒、赤で黒字団体、赤字団体という。この実質収支が赤字で,その額が、経常一般財源(標準財政規模)の一定割合を超えると、いわゆる赤字再建団体として、地方財政再建措置法の準用を受けて再建計画を作るなどしないと、地方債をおこせない。

 この実質収支の経常一般財源に対する比率のことを実質収支比率という。この年度には那覇市はマイナス0.8%の実質収支比率の赤を記録している。市町村の場合は、これが20%、都道府県の場合は5%を超えると赤字再建団体の堂々たる資格ができる。那覇市の場合、平成6年度では、標準財政規模の20%は、95億円強となる計算である。なお平成8年度決算では11億円強の実質収支の黒字に転換している。

 98年度決算では、東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、岡山県などの都府県、それにかなりの市町村が、この実質収支の赤字を計上することになるちがいない。

(3)実質単年度収支の赤字、すなわち過去の蓄積の取り崩しが続いている。

(4)単年度収支が連続して3年度以上赤字である。

 このようなときは、財政運営が放漫財政に流れている可能性があり、要注意である。これらの赤字はいずれも、その年度の収入より支出のほうが大きく、過去の基金を取り崩したり、繰越金として抱えてきた貯蓄を支出に充てたりしたために、生じたものである。

 しかし、実質単年度収支の赤字も、単年度収支の赤字も、3〜4年おきに単年度または2年度ぐらいにわたって赤字になるのは、むしろ正常な状態といえる。というのは、地方自治体の財政の単年度の収支が黒字を続けるということは、黒字が毎年度、増加していくことを意味する。こういったときは、増加した税金の塊である黒字は、適切に取り崩すなどして、それまでの借金返済に充てるか、新しい事業・サービスの拡大として住民に還元するか、負担軽減に充てるかするべきものだからである。

 とはいえ、単年度収支が漫然と3年度以上赤字を出しているというような状態は、意識して出しているなら格別、そうでなくて、意図せざる連続赤字は、歳出のコントロールが利き難くなっていることの証と考えられるので、要警戒なのである。

 第2表では、奈良市の実質単年度収支のマイナスの大きさが目立ち、それと対極の岐阜市の実質収支の黒字の大きさが特徴的である。

(5) 起債制限比率が15%以上。公債費負担比率が20%以上。
経常収支比率に占める公債費の割合が20%以上であれば財政運営はこれらに表現された借金返しの重圧のもとにあると見てよい。

 これらは、いずれも過去の投資の結果である起債の元利償還金の負担割合を表示する指標である。この年度には、地方債許可制限比率は『市町村別決算状況調』に搭載されていないので、公債費比率になっているが、これに加えて公債費負担比率と経常収支比率中の公債費の割合で代替して差し支えなかろう。

 起債制限比率とは、この比率が20%を超えると、まず単独事業に対する起債が認められなくなる指標であり、30%を超えると国の補助事業の起債も許可されなくなる。また起債制限比率が18%を超えると『公債費負担適正化計画』を策定するよう求められる。その内容としては、歳出の削減策と歳入の確保策を計画として示し、OKとなれば特別地方交付税によって一部利子補給が行われることになっている。

 公債費負担比率とは、その年度支払った公債費(そのうちの地方債の元利償還金部分)が一般財源総額のうち、どの程度かを見るための指標である。この公債費負担比率は、正味の元利償還金の負担割合を示している。たとえば公債費負担比率が25%ということは、一般財源のうち、2割5分は元利償還に消え、実際に使えるのは75%だけということになる。公債費負担比率が20%を超えると財政運営は厳しいと見なければならない。

 経常収支比率の中に占める公債費の割合とは、先に見たように、経常一般財源のうち、公債費の元利償還に充当した割合である。これも20%がひとつのラインで、このラインを上回るときには、借金返済のために財政的余裕はかなり制限されると見て差し支えなかろう。

 第2表では、公債費比率、公債費負担比率で、青森市、大津市、奈良市、高知市、和歌山市の高さが目立つ。それぞれの事情をよく検討しなければならないが、公債費の重圧がこれらの都市で目立つのは事実である。投資的事業の選択や、事業財源の工夫が求められているといってよいであろう。

 以上、財政指標の中で、まず注目したい指標として経常収支比率と、実質収支と単年度収支、公債費比率等について、30万都市の単年度の指標の比較というかたちで、具体例として検討してきた。

 なお、、各県の地方課は、それぞれの見地から市町村の財政健全化について指導を行っているようである。分権改革が進行する中で、このような指導は、当然のことながら改められなければならない。すなわち、技術的助言にとどめることが求められるのであるから、より一層の市町村との情報交換と交流の上に立った援助の仕組みが、市町村との協力関係を確立する中で、あらためて構築される必要がある。

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