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職安法の改正と自治体の雇用・就労政策 その人権政策としての展開 |
(初出:『部落解放研究 第151号(03年04月)』) 一 無料職業紹介事業が自治体に 二 本条の解釈(素案) 1 地方公共団体の範囲 2 「区域」と「付帯的な業務」 3 その目的の例示 三 雇用労働行政の地方分権の流れ 四 これからの府県の役割 五 市町村の役割と国・府県 六 期待される市町村の積極的な関わり 七 基本的人権としての「働くということ」 八 市町村の雇用・就労政策の意義 九 総合政策の展開 一〇 一人一人に適応した対応 一一 最後に 要約職安法が改正され、都道府県、市町村も無料職業紹介事業ができるようになる。働くということは、基本的人権のひとつであり、経済的自立の基盤でもある。自治体は就労困難な条件を持つ障害者、高齢者などの自立支援のために、国や民間事業者と連携して、積極的な就労支援施策を地域で総合的に展開する責任がある。それは雇用労働行政の地方分権改革の一環でもある。専従のコーディネータの配置が不可欠であり、求人情報と企業情報の蓄積、斡旋の斡旋のノウハウを形成する必要がある。部局横断的な就労支援センターも重要だ。 はじめに その際に、分権改革以前から、地域での就労困難者に対する支援事業を検討し、02年度から府内18市町村で実施されている大阪府の「地域就労支援事業」を紹介しながら、雇用・就労事業を展望してみたい。なお、この支援事業とモデル事業の詳細については、大阪府の「地域就労支援事業検討委員会(委員長 大谷強関西学院大学教授)」の報告書『地域就労支援事業検討調査報告書(平成14年3月)』を参照されたい。 一、無料職業紹介事業が自治体に 改正案は次のようになっている。条文の新設である。 さらに、国の機関によるこの地方公共団体の無料職業紹介事業に対する援助規定も、整備されている。 二、本条の解釈(素案) 「地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。したがって、届け出によって「無料職業紹介事業」を行うことができるのは、都道府県および市町村という「普通地方公共団体」がまず、考えられる。 もっとも従来(200年3月まで)は公共的な無料の職業紹介事業を都道府県が設置する公共職業安定所がもっぱら担ってきたという経緯から言えば、少なくも人的な職業紹介事業の経験という蓄積を持つ都道府県の事業として考えられる。そして、求人や求職情報が市町村の境界を越えて流通することが普通であるとすれば、広域自治体としての都道府県の事業として組み立てることが自然であるかもしれない。 一方で、国の機関である職安との「二重行政」を回避しようとすれば、むしろ「市町村」こそ、新しい公共的な「無料職業紹介事業」に適しているということもできる。というのは、市町村という基礎的自治体に無料職業紹介事業の窓口があることのメリットは、移動や社会的な差別によって就労にハンディキャップを持っている、高齢者、障害者、母子家庭それに社会的差別を受けているために就労が困難な人々に対する、「きめ細かい」「継続的な」支援事業の一環として、この無料職業事業を位置付けることが望ましいからである。このような「就労支援事業」として「仕事のあっせん」「紹介」が可能となるということは、就労困難者を支援する事業の可能性を大きく拡大するにちがいない。この事業を都道府県、職安が援助するという形が望ましい。 では、特別地方公共団体はこの職業紹介事業を行うことができるであろうか。東京都の23区は、普通地方公共団体といってもよいから、当然可能だと考えられる。 では一部事務組合(地方公共団体の組合のひとつ)はどうであろうか。特に、この「地方公共団体の組合」のひとつとして位置付けられている、「広域連合」は、この無料職業紹介事業の実施主体となりうるであろうか。 結論から言えば、どちらも条文上可能であると考えたい。33条の4の書きぶりでは、「地方公共団体」と規定し、「普通地方公共団体」と制限していない。従って、当然に、特別地方公共団体も事業実施団体である。このうち「広域連合」は、地方自治法第3編の第3章「地方公共団体の組合」の内部に、第3節「広域連合」として規定されている(第291条の2から291条の13)。市町村が構成する広域連合も、都道府県が参加する広域連合も、ここにいう特別地方公共団体であるから、本条にいう無料職業紹介事業を実施することはできるものである。 2、「区域」と「付帯的な業務」
「附帯する業務として」 3、その目的の例示
(1)「福祉サービスの利用者の支援に関する施策」に附帯して (2)企業の立地の促進を図るための施策 (3)その他当区域内の住民の福祉の増椎に資する施策 (4)産業経済の発展等に資する施策・業務 三、雇用労働行政の地方分権の流れ これは、地方分権改革によって、それまで都道府県が設置してきた公共職業安定所(ハローワーク)が、国の機関となるなど、従来の労働行政が国に一元化されたことと対を成す。一方で国の権限に属さない雇用施策を、地域の実情に応じて広く地方公共団体が実施するように改めたものである。この内容はそれぞれの地方自治体の裁量に任されていると言ってよい。なお、同改正法は国の協力と地方自治体との連携にも一条を設けている。「第27条 国と地方公共団体との連携 国および地方公共団体は、国の行う職業指導及び職業紹介の事業等と地方公共団体の講ずる雇用に関する施策が密接な関連の下に円滑かつ効果的に実施されるように相互に連絡し、及び協力するものとする。」 四、これからの府県の役割 その役割は第一に、従来、国の雇用労働行政を府県レベルで担ってきたノウハウや人的なネットワークを活用することが求められる。重要なことは、いわゆる学識経験者とのつながりをはじめとして、相当に広範で、専門性の高い経験の蓄積を生かすことである。このネットワークをデータベース化した上で、その情報を公開することによって、だれもが容易に利用できる雇用あるいは起業のための情報プラットホームの構築が着手されなければならない。系統的でちみつな調査と研究の蓄積も期待される。 次には、府県としての雇用労働政策を総合的に企画実施する、「雇用就労対策本部」の設置とその恒久化が必要である。この間のデフレ経済の進行の中で、かなりの府県で、知事や副知事を本部長とする「雇用緊急対策本部」が設けられている。これを常設化して、「府県雇用基本政策」を策定し、実行しているところも多い。岩手県や大阪府などがそれに該当する。 全国一の失業率を記録する大阪府の場合は、大阪労働局、関西経営者協会、連合大阪との協議によって、「アクションプラン」を策定している。02年9月の「12万人緊急雇用創出プラン」がそれで、75のアクションプランで構成されている。この緊急雇用対策は、02年3月に策定された「大阪府労働政策の基本方向」(大阪府商工労働部)の趣旨に沿って、策定されたという形になっている。 各都道府県は、まず、無料職業紹介事業者としての自らの位置付けを明確にした上で、各労働局、経営者団体、労働組合と協力して、「新労働政策の基本方向(仮称)」を策定することが求められている。 五、市町村の役割と国・府県 ここでは、地方分権改革の進行によって、先の改正雇用対策法及び改正職業安定法に言う、地方公共団体として、市町村に期待されているものは何かということを考えてみたい。 まず市町村は、住民にもっとも身近な政府として、その機能を発揮することが期待される。つまり、広域的な移動な困難といったハンディキャップがあったり、大量の事務処理になじまない一人一人の顔が見える相談と、個性に合った職業の斡旋を担う。民間の有料職業紹介事業や、国のハローワークと競合したり重複したりすることをなるべく避け、特に国の機関や府県の機関とは協力しながら相互に補完しあうような仕事業を組み立てることが必要になる。 六、期待される市町村の積極的な関わり (1) まず、障害者にとって。
1) 障害者の受け入れ先・正規雇用の場が少ない。 (2)母子家の母親に対して。
1) 母子家庭の母親は、女性の就業問題、共働きの女性に共通する課題に加え、一人で家庭の経営責任を負っている。生活費を得るために、主にパート就労をしているが、常用雇用を希望する場合が多い。 (3)高年齢者の場合。 一般的な雇用への希望の他、生きがい的な就労の希望も多く、在宅ワークを求める声も多い。 (4)若年者の場合。
1) 若年者は、学歴や資格、経験不足のために仕事が見つけ難い。 (4)就労困難者の雇用・就労全般について。
1) 地域での就労の場の確保を望んでいる。 七、基本的人権としての「働くということ」 「雇用・就労」は、このような働くことのひとつの形態である。特に働くことと賃金や売上げ収入、報酬を得る、という経済的な交換関係を通じて、人々との間に社会的な関係を取り結ぶ。そしてモノや事柄などに働きかけ、それらを自らの能動的、人間的活動の結果として領有する。そのような生活のひとつの形態である。 その意味では、働くということ及びその経済的な実現形態としての雇用・就労は、人間としての生き方のひとつの基本であり、基本的人権のひとつである。日本国憲法はその第27条で勤労の権利を保障する。「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」この条文の「国民」とはピープルのことで、国籍や身分、出自に関わらない「全ての人々」の意味である。英文を示せば、“All people shall have the right to work” である。 この人権政策としての雇用・就労政策の意義を、先の「報告書」は次のように指摘している。 「第一に、雇用・就労は、収入という自立生活に不可欠な経済的基礎を築くこととなる。また、自らの収入という糧を獲得することによって、人生において主体的に自己決定・自己実現を図っていくことが可能になると考えられる。 第二としては、雇用・就労によって、社会の一員として参加・参画することとなり、人と人とのつながりを築きあげることが可能になることがあげられる。このことは、社会的排除・孤独に陥ることの予防となり、一方では社会的な孤立などからの回復を助長することにも寄与するものと捉えられる。 第三としては、雇用・就労を通じて、仕事に関する達成感や働く意欲が醸成され、自己規律や自立心を高めることによって自分自身を鍛えあげていくことがあげられる。」 まとめれば、第一に経済的自立のための収入の確保、第二に人と人との関係の中での社会的自立、そして第三に自己責任と自己実現とを通じた市民の形成、ということになる。 八、市町村の雇用・就労政策の意義 住民にとって最も身近な政府としての市町村は、これら就労困難者を支援するとともに、企業社会の社会的バリアーを取り除く政策を展開するべきなのである。市町村は地域の雇用・就労環境を総合的に整える役割を積極的に担い、そのことによってばらばらになった地域社会のありかたを変える責務がある。すなわち地域共同性の回復と創造、新しい地域的な人々の連帯意識を構築する、そのような「地域コミュミティ」政策を創ることが必要である。 (もちろん地域によっては、一般的な職業紹介事業を担うこともあっていいであろう。特に農山村部における高卒や20台の若年者の雇用・就労政策を重点的に展開することなどが期待される。) 九、総合的施策の展開 教育によるキャリアアップと職業教育、さらに社会的にニーズが高まる事業分野の経験的および知的認識の獲得を目指す。学校教育におけるボランティア教育や福祉教育、環境教育がそういった目的で組み立てられる。社会教育における各種の専門講座や生涯学習を通じたリーダー養成なども、広く雇用・就労政策として組み入れることが重要である。職人的な手仕事の世界への誘いや、パソコンによる情報処理の技術的能力の獲得と展開なども必須の課題である。これによってSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)を担うことを可能にする。 さらに、住宅のあっせんや改修、資金の融資などもセットで提案できる。また、家族の生活条件を整除し、働きやすい生活環境をつくる支援も必要である。乳幼児の保育、高齢の父母の介護支援と施設福祉との連携、親族や本人のアルコール依存症、薬物依存症との闘いを支援すること、など。 このような就労困難者の一人一人の条件をそれそれの専門領域から捉え、検討することを「アセスメント」という。一人一人が抱える個別的、具体的な問題を、網羅的に捉え、協力関係の中でそれぞれのやるべき仕事を確認することが大事である。大阪府の「地域就労支援事業」の考え方としては、「個別ケース検討会議」として示されている。イメージ的には構成メンバーとして、人権問題担当、生活保護担当、児童・高齢者・障害者福祉担当、生涯学習担当、ハローワーク、地域関係機関、地域就労センター雇用就労セクションなどとなっている。 一〇、一人一人に適応した対応 「地域就労支援事業」では、このコーディネーターの設置が、もっとも大きなポイントとなる。
(1) 役割:就職困難者等への個別対応、雇用・就労への誘導を行う。
1) 雇用・就労に関する身近な相談窓口としての機能を担う。 (4) 設置費補助 大阪府の場合は、各市町村に設置されたコーディネーターの設置費の2分の一を補助している。 なお、大阪府の02年度おける「地域就労支援事業」の概要を掲げておきたい。
一一、最後に そしてこれに無料職業紹介事業が強力な武器として加わる。改正法が、いつ成立するかまだ不透明であり、いつ施行されるかも未定であるが、方向は明確である。 この無料職業紹介事業を実施するには、しかし、様々な準備が必要である。まず、企業と事業所の把握が行われなければならない。その上で求職情報を蓄積しなければならない。また職業紹介やあっせんの実際についてもノウハウを習得しなければならない。さらにハローワークや都道府県の機関と間の、相互の調整と協力手法も確立しなければならない。ただ、埼玉県の広域連合での検討や、福岡県筑後労働福祉事務所管内の市町村の取り組みも始まっている。さらに多くの都道府県、市町村での検討と、事業展開を期待したい。 |
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