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展開する地方自治体の雇用政策

(初出:大阪市市政調査会『市政研究』02年夏号)

奈良女子大学 澤井 勝


目次
地方分権改革と雇用労働行政/雇用行政の国への統合と地方での自治的展開
/雇用行政の広範な権限が地方自治体に/市町村も雇用行政の主体に
/展開する自治体の雇用労働行政(愛知県、兵庫県、北九州市、緊急雇用対策交付金の功罪など、大阪府雇用支援センター)
/和歌山県みどりの雇用事業 /愛知県の雇用開発促進計画/東大阪市の工業政策の場合
/おわりに

地方分権改革と雇用労働行政
 2000年の4月から、分権一括法が施行され、地方分権は議論の段階から、具体的に実行する新しい時代に入っている。すでに指摘してきたことだが、この実行段階の内容は、多岐にわたる。まず通達行政の廃止によって、失効した旧来の通達の取り扱い方が依然として問題になっているようだ。従来は通達と要綱という行政裁量的手法に依存してきた行政執行を、各自治体の条例にその根拠と手続きを定めるものに組み替えることも必要だ。そして、「自治事務の拡大」である。また法定受託事務の自治体としてのコントロール方法の開拓も求められる。
 また重要なことは法律の解釈権が地方自治体、すなわち都道府県と市町村に付与されていることである。そのために、各課の係長や主査クラスのところで、担当する事務の根拠法令を読み直し、自らの地域で適用するための模索が始まっている。
 雇用労働行政は、この分権改革の影響をもっとも大きく受けた行政のひとつである。都道府県の雇用労働行政の中心を構成していた職業安定行政が、国の出先機関である地方労働局に統合されたことがその端的な例である。その変容の状況を改めて整理しておこう。詳しくは、畑中労働経済研究所『労働経済情報2001年春号』の拙稿「分権改革と自治体の雇用労働行政」を参照されたいが、コンパクトに指摘すると以下のようになる。

 第一には、地方事務官制度の廃止である。例えば職安法第九条が改正され、職業安定法にかかる職員は国家公務員に統一された。これらの結果、労働省(現在は厚生労働省)の地方出先機関として都道府県労働局が設置された。これにともない、自治体としての府県行政における雇用労働部局の権限が縮小したことが大きい。
 第二は、機関委任事務制度の廃止と、それにともなう従来の機関委任事務の自治事務と法定受託事務への振り分けが行われた。自治事務への転換では、労働組合法の改正を伴わないけれども、地方労働委員会の事務の自治事務への切り替えの意義が大きい。
 第三には、職安法第一一条の改正によって、指定地域にかかわる市町村長の求職・求人等の取り次ぎ事務などが、機関委任事務から法定受託事務に改められている。
 第四に、労働金庫法や職業能力開発促進法なでは、従来知事の権限とされてきた事務が都道府県の事務として再定義された。
 第五には、雇用開発等促進法においては、都道府県の自治事務として地域雇用環境整備計画の策定が位置づけられた。

 そして最も大きな制度改正のひとつとして、第六には、雇用対策法が改正され、第三条の二が、以下のように新設されたことに注目するべきである。「(地方公共団体の施策)第三条の二 地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」

雇用労働行政の国への統合と他方での自治的展開
 以上が雇用労働行政における分権改革の大まかな内容だが、特色は、一方では、都道府県労働局の設置によって、雇用労働行政は国の一元的に担うべき仕事として整理されたという性格が強いという側面があるとともに、他方では、地方自治体、特に府県と大都市など中核的な都市が積極的に雇用労働行政に関ることが求められているのも、この改革のもうひとつの重要な特色として位置付けておきたい。このことは雇用対策法の改正を見れば明らかである。

雇用政策の広範な権限が地方自治体に
 改正された雇用対策法(昭和四一年法律第一三二号)の第三条の二の意義は、第一に、地方自治体に「当該地域の実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講ずる」よう求めていることである。
 この「雇用に関する必要な施策」とは、なにか。それは雇用対策法の以下の目的に照らして考える必要がある。雇用対策法の第一条第一項は、「この法律は、国が、雇用に関し、その施策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的とする。」
 この法の目的からすると、「雇用に関する必要な施策」とは、非常に広範な施策を意味していると考えるべきである。われわれの見方では、労働者の雇用機会を開発すること、またその能力を発揮できるような訓練等を行うこと、労働条件の調査や企業者への啓発など雇用の安定を図ること、情報の交流を通じて求人と求職のミスマッチを解消すること、企業の雇用努力を財政的・情報的に支援すること、企業誘致や起業支援など産業政策を実施するなど、雇用・労働政策一般を包括すると考えてよい(専ら地方労働局長など国の権限に属するものを除く)。

市町村も雇用行政の主体に
 第二は、「地方公共団体は、国の施策と相まって」としている点である。この地方公共団体とは、都道府県および市町村を指すこのとは当然であろう。つまりこの規定の意味するところは、これまでの地方における雇用労働行政の常識であった、「雇用労働行政は府県の事務であり、権限だ」という考え方を根本的に転換するところにある。
 これまでも、市町村レベルでの雇用労働行政の取り組みがないことはなかった。もっとも多かったのは革新自治体などでの「労政課」や「労政係」の設置であった。このような部局は、主として、市町村単位の労働組合の協議・共闘組織である地区労などの要求に対応するものとして設けられたという経緯をもつ場合が多いのではないか。なお大阪府01年度の調査では、府内の全ての都市に労働関係部局が置かれている(前記『労働経済情報』)。
 しかし、これらの市町村における雇用労働行政は、法的根拠をもたない独自の、自治事務としての政策であったといってよい。それが、今回の雇用対策法改正によって、「努めなければならない」という努力義務規定ではあれ、法的に位置づけられたことは、大きい意義を持つ。そして、この規定では、府県と市町村は全く対等であり、区別は認められないという点も大きい意義がある。
 すなわち法的に各市町村、特に都市は、独自に「地域の実情に応じた」雇用施策に取り組むよう求められているのである。

展開する自治体の雇用労働行政
 ところでここ2年ほど、各府県および政令指定都市、その他の市町村において雇用労働行政の新しい動きが目立つようになってきた。この新しい動きは、第一には上述の様な雇用労働行政における分権改革があり、第二に1996年度以降のデフレ経済を受けた失業率の上昇、地域経済の低迷と雇用情勢の悪化という、ふたつの要因にはさまれて生じていると思われる。すべての動きをカバーすることはできないが、以下に見るようにいくつかの事例を、新聞情報や各団体のホームページなどからピックアップしてみた。

(1)愛知県は、既に前期のような改正雇用開発促進法に基づいて「愛知県西部地域能力開発就職促進計画」、および「愛知県尾張地域求職活動援助計画」を策定し、実施し始めている(後述)。
(2)兵庫県は、ワークシェアリングについて、いわゆる兵庫方式を一応確立し、「ワークシェアリング・ガイドライン」を活用して、県内企業とともにこの面での雇用政策を展開し始めている。このワークシェアリング事業については、いろいろなバリエーションを伴いながら01年度途中から、取り組む自治体が急増した。兵庫県では、02年1月の調査で県内企業の25%がなんらかのタイプのワークシェアリングを導入しているという。
(3)北九州市においては、インターネット上の市のホームページにおいて、「電脳しごと探し広場」を開設し、求職情報と求人情報を公開し、求人側と休職側とのマッチングをすすめようとしている。このようなWEB・サイトを利用した、最初はハローワーク情報などを利用者に提供するタイプはかなり急速に広がってきている。
 埼玉県や岩手県釜石市、北上市などでもインターネット上のハローワーク情報の提供を開始している。東京都の「TOKYOはたらくネット」も求人情報や労働相談など、WEB上の情報プラットホームとして充実しつつある。
 この政策展開は、民間の就職情報事業者との競合を避けながら、それと連携して行われなければならないところに難しさがあるのだが。
(4)1999(平成11)年度の補正予算で設けられた「緊急地域雇用特別交付金」事業の影響が大きい。これは当初は国費2000億円でスタート、失業状況などに応じて算定した交付金を都道府県に交付し、都道府県はその一部を市町村に交付するもの。すなわちすべての都道府県と市町村とが巻き込まれ、また全ての部局が動員されているため、現場の評判は決してよくないが、この特別事業の波及効果は意外に大きいと思われる。
(5)大阪府が02年度から開始した「地域就労支援センター」のような、高齢者や障害者、母子家庭などの母親などに対して市町村に相談窓口を設置してもらい(設置費は半額府の補助)、相談員を置くという事業など、相談事業の聖地化、と地域化の動きがある(『自治総研』02年2月号参照)。
(6)和歌山県は、緊急地域雇用創出特別基金」を利用して、「緑の雇用事業」を始めている。県内の森林組合がハローワークを通じて作業員を雇い、事前の研修を行う。その上で枝打ちや間伐などの森林管理の業務を行う。長野県なども類似の森林管理業務を雇用政策として行うとしている(同じく『自治総研』)。
(7)千葉県野田市や埼玉県吉川市などは、市独自で域内企業を調査し、受注先や求人情報をまとめて紹介する事業を01年度から始めている。吉川市の場合、調査員10人が02年1月から全事業所を調査している。ただし、調査員は緊急雇用の臨時職員である。
(8)岩手県は、知事を本部長とする『総合雇用対策本部』を設置した。雇用の創出事業として、補助事業である緊急雇用創出特別基金事業、県単独事業のいわて緊急雇用対策事業などの他、雇用のマッチング支援、セーフティネットの充実、雇用創出等の産業支援等の施策を体系化し、さらに、三重県のマトリックス予算に類似した「岩手県総合雇用対策施策体系別予算(平成14年度当初)を公表している。このように、知事や市長を本部長とする総合雇用対策本部を設け、部局を横断』した雇用対策を展開する自治体が増加している。

愛知県の雇用開発促進計画
 ところで、先に触れた分権改革のひとつの事例としての地域雇用促進計画は実際には、どのような形で実現しているのだろうか。愛知県がこの計画を策定し、ホームページで公開しているので、それを素材にさせてもらおう。
 この計画は、地域雇用開発促進法の改正によって策定するよう定められたもので、自治事務としての計画策定の意義については、既に前記の『労働経済情報』で強調しておいたものだ。
 愛知県は、2001年10月1日の改正地域雇用開発促進法の施行を受けて、同年の10月17日に「第一回 愛知県求職活動援助計画等策定員会」を開催している。構成は労働側、使用者側、それに学識経験者各3名である。
 その後、11月9日に関係市町村の意見を聴取し、同月16日には第3回の計画策定員会を開き、同月26日に計画書を国(愛知県労働局)に提出した。このあと両者の協議の結果、同年12月10日に厚生労働省の同意を得て、同法に基づく地域雇用開発促進計画となった。この計画は、ふたつの地域についての計画となっている。すなわち「愛知県西部地域能力開発就職促進計画」(尾張地域と尾西市、西尾市を含む25市30町4村を対象とする。)、および「愛知県尾張地域求職活動援助計画」(尾張地域の19市27町4村を対象地域とする)のふたつである。
 改正雇用促進法の施行に合わせて、すばやく計画策定事業を立ち上げたことには注目したいが、そしてその努力には敬意を表したいが、その作業結果が分権改革の一環としての改正法の趣旨に合致しているかどうかは、別問題である。
 計画書の内容は、主たる記述が地域の雇用情勢の既存統計の整理を中心とした分析と、各関係機関の協力あるいは努力、体制整備などの方向性の確認にとどまる。具体的政策としては、補正予算で創設された「地域人材高度化能力開発助成金」の支給事業だといってもよい。
 このようにこの「地域雇用開発促進計画」は、上記に述べたような地方分権の実をあげるものとは、残念ながらなっていないようだ。それは経過からも推測できるように、国の補助金の受け皿作りのために、急遽作成されたように見えるからである。また、内容的にも十分な実態調査に基礎をおいているとは見えない。それに地域の市町村との十分な連携あるいは協同の作業とはなっていないようにも見える。

東大阪市の工業政策の場合
 これから各府県が真に地方分権的な、地域社会の力を結集する地域雇用促進計画を策定するときに重要なことは、先にも指摘したが徹底した実態調査と市町村、事業者との協同関係の構築である。そして、具体的できめこまやかな政策の豊富なメニューを的確に実施することであり、その政策体系が求人、求職の両者から自由にアクセスできるように設計されていることである。
 そして政令指定都市など中核的な都市は、自らの雇用促進計画、あるいは総合雇用労働対策を策定することが望ましいが、その際にも同様なことが求められる。すなわち、府県や他の都市との広域的連携、事業者との現場を通しての共同作業、そして求職者との相談事業とカウンセリングなどの体系的、持続的な展開であり、その基礎としての実態調査である。
 その際に参考となると思われる、東大阪市の「工業政策」について、その一部を紹介しておきたい。(以下はわれわれが奈良市で毎月一回のペースで夜7時から開催しているささやかな集まり「分権奈良サロン」における東大阪市経済部次長の松下さんのレポートからの、筆者のメモである。)
 東大阪市は、現在人口51万人、昼間人口が夜間人口を上回るが、これは大阪府では大阪市と東大阪市だけである。戦前からの金属生産、加工の企業と技術の集積の上に、高度経済成長期に、中小企業の機械金属の町として発展した。1970年の企業数6109社から、1975年には9479社に拡大している。バブル経済の頂点である1992年には9810社とピークを迎える。しかしその崩壊と、アジアへの企業移転など産業空洞化、生産人口の高齢化と後継者難から企業数は減少に転じ、平成12年の工業統計調査では8078社にまで減少している。なお特色として、下請けでも1社専属でもない数社と取引をする分散型のネットワークを構築してきている。
 こういう事情のもと、東大阪市の企業は、高付加価値製品に特化したり、短納期の製品づくりを得意とする企業、そして多品種少量生産を生かしてニッチ製品に生き残りの可能性をかける企業など、さまざまな経営上の工夫をこらしている。
 東大阪市としては、この地域産業の現状に対して、国の中小企業政策の転換のパートナーとして、その政策的な展開を図るとともに、幅広くきめ細かい単独事業を工夫している。
 例えば、東大阪市を中心として、全国の中小企業が集積する10都市(東京都大田区、墨田区、埼玉県川口市、静岡県浜松市、新潟県燕市、長野県岡谷市、大阪府東大阪市、八尾市、兵庫県尼崎市、岡山市)の中小企業サミットを平成9年度から2年ごとに開催、また連絡協議会をもうけている。この政策は、頑張っている中小企業に資金を投入することによって結果的に町も活性化する、その手段として考えるというコンセプトで、都市間競争を組織しようという政策である。
 このような政策、およびこれからの政策展開の基盤となるものとして実施されたのが、平成11年度の「全事業所実態調査(製造業・小売業)」である。これは、市内の全ての製造業と小売業の事業所を、市の課長補佐以上の職員が足で尋ねる悉皆調査であった。これによって、製造業と小売業、特に製造業のデータベースを構築することが可能となったのである。なお、今年度はサービス産業についてこの実態調査行うという。
 この実態調査から、設備投資を意欲的に行い、独自技術を持っている企業が400社程度存在していること、この全企業の5%ほどの核となる企業が、市内全製造業のネットワークの結び目となっている構造が浮き彫りになったという。この中核企業群に焦点を当てた市の政策展開が求められていることが明確になったのである。
 このような政策形成と実施に結びつく実践的で基礎的、基盤的情報プラットホームの構築は、統計的な数値情報とともに、それを生かす足を生かした複雑で具体的な情報によって、初めて可能となるのである。

おわりに

 この間の自治体の雇用労働行政の新しい展開を見ると、いろいろ問題をはらみながらも、それぞれの工夫が感じられる。ここにこれからの自治的な雇用労働行政の展望がひらかれつつあるように思える。もっとも、なお居眠りを決め込む自治体のほうが圧倒的に多い。しかし、雇用対策、失業対策は、地域住民の付託に応えて行政が税金を使ってやるべきサービスとして、今後一層重要性をますことは確実である。ケインズがその経済学の原理を示した著書の標題を、有効需要理論、すなわち完全雇用政策の実現に向けて「雇用、利子および貨幣の一般理論」としたことを想起してみよう。政治の中心的課題は、あるいは税の適正配分をその存立根拠とする行政の政策目標の中心は、雇用の安定、働き口の確保、であることに変わりはない。地域住民の生活に責任を持つ自治体であろうとするなら、この政策課題を明確に掲げることこそ、いま求められているのである。全ての部局を横断した総合的に実現すべき目標として。そして、従来型の公共土木事業に偏した政策軸を転換し、新しい雇用構造を構築するためにも。
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