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自治体の地域雇用政策の現状と課題

                   澤井 勝(初出:『ガバナンス』2012年12月号)

 

 1、政策手段としての「地域雇用政策」

自治体の雇用労働政策(地域雇用政策)は、2000年の地方分権一括法の施行以来、それまで国と府県の地方事務官で行われてきた施策を、独自に補完し開発されたが、その後徐々に変化してきている。これまでは雇用労働政策の行政主体は国では厚生労働省であり、経済産業省であった。地方では国の出先機関としての各府県の労働局やハローワーク、地域ブロック機関である経済産業局であるように、国が雇用労働政策の中心であると観念されてきた。しかし、そのような国による雇用政策システムが「人口減少時代」への移行、「低経済成長経済」への転換、グローバル経済への組み込みなどにともなう戦後的な産業構造や雇用構造の変化に伴う労働市場の多様化に十分には対応できていないように見受けられる。そのこともあって、地方自治体もまた「福祉から就労へ」のように雇用政策をてがけるようになってきた。(もちろんそれとは別に、地域固有の雇用や仕事づくりへのニーズに、独自に応える自治体の取り組みもあったことには注意しておきたい。)

 このように、雇用労働行政は国の仕事という観念が優先されたこともあって域雇用政策という発想自体が自治体の政策の中でもそれほど大きな地位を占めてこなかった。「従来、日本では地域雇用政策の『不在』が指摘されてきた」とも言われている(佐口和郎東京大学経済学部教授『マッセOOSAKA』128月)。また、高度経済成長期から1990年代初頭のバブル経済期まではむしろ労働力不足が常態化していたから、それでも十分だったのである。景気後退期を中心に各都道府県に「雇用対策本部」などが設けられたことはあったが、むしろ産業政策の側面が強く、恒常的組織とは位置づけられにくかったようだ。

ところがバブル崩壊後、就職氷河期を経て「終身雇用制」が崩れ、非正規労働者の割合が急速に高まり、現在は正規労働者6割と非正規4割の時代に入ろうとしている。失業は誰にでも訪れる時代に入っている。このことを背景に、「2000年代に入って、地域雇用政策はその進化を本格化させることになった(佐口、同)」という。

 この7月に公表された政府の「雇用政策研究会」(座長:樋口美雄慶応大学商学部教授)においても「新たな地域雇用創出の推進」と1節を起こしている。ただしそれは「リーマン・ショック後の雇用創出基金事業等を契機として、自治体にもその取り組みの萌芽が見られる」という認識だ。

 

2、多様な雇用政策の新しい展開

 

自治体の無料職業紹介事業

 2000年代の動きとは、制度的には、自治体に雇用施策を講じるよう努力義務を課した同年の「改正雇用対策法」と、規制緩和の一環として民間と地方自治体に無料職業紹介事業を開放した2003年の「職安法改正」から始まったと言える。(このとき同時に「労働者派遣法」が改正されて、製造業派遣が可能となった。)このうち地方自治体の無料職業紹介事業は、2009年度時点では142団体(40都道府県15841組合)の284事業所となっている。これは前年度比25.1%の大幅な伸びである。

このような無料職業紹介事業への着手などの個々の自治体の施策(岡山県津山市の1979年からの「雇用労働センター設置」など)を超えるものとしては、大阪府が2000年に始めた「地域就労支援事業」が最も体系的ではないかと思われる。この事業は障害者、母子家庭の母親、中高年齢者、同和地区出身者、学卒無業者その他の「働く意欲・希望がありながら、雇用・就労を妨げる様々な阻害要因を抱える方々」を対象に、市町村が実施する。市町村に「地域就労支援センター」を設け、「就労支援コーディネーター」設置費500万円の半分を補助する。現在は2008年の橋下行革で補助金が交付金に変わっているが、政令指定都市と中核市である大阪市、堺市、東大阪市、高槻市、豊中市を含む全市町村で実施されている。

 

障害者施策

 その他の領域でも自治体による各種の就労支援施策が展開されるようになった。まず障害者施策では障害者雇用促進法(昭和35年)のもとで、遅々として上昇しなかった障害者雇用率(労働者300人以上企業で1.8%、公務職場では2.1%、これは20134月から2.0%と2.3%に引き上げられる)が2003年頃から上昇に転じ、2010年には民間の雇用率が1.68にまで上昇してきている。その影ではジョブコーチの配置助成金やハローワークの事業であるトライアル雇用の活用などの支援施策が整えられてきた。ジョブコーチなどへの助成金は、障害者雇用率が未達成の労働者数が200人以上(20107月から)の企業が納付する「障害者雇用納付金」を財源とする。

 障害者については、2007年度からの「福祉から雇用へ」推進5カ年計画において、ハローワークを中心とした「チーム支援」の展開、「障害者就業・生活支援センター」の地域ネットワークの形成、ハローワークによる障害者雇用率達成指導、きめ細かな職業紹介などが継続されたのが影響していると思われる。

 

生活保護からの自立と就労支援

 特に最近になって、生活保護受給者が増加する中で「生活保護受給者の就労支援」「社会生活自立支援」や「貧困の連鎖」を絶とうとする「子ども支援」が目立つ。この領域では「釧路方式」がよく参照される。「釧路の三角形」とも言われるが、厚労省が示した3つの「自立」、すなわち「日常生活自立」、「社会生活自立」、「就労自立」の関係をどうとらえるかが現在のテーマである。

「釧路の三角形」では、就労自立が日常生活自立から社会生活自立を経て到達するべき目標として位置づけられている。日常生活自立と社会生活自立を合わせて「中間的就労」とも言う。釧路市では2004年度から母子家庭を対象に、厚生労働省のモデル事業として「母子の自立支援モデル事業」が始まり、2006年からは高齢者世帯を除く全世帯を対象に「釧路市生活保護自立支援プログラム」となった。生活保護受給者の居場所を作って生活自立支援を行い、公園清掃ボランティアや動物園ボランティアなどでの就業体験で社会生活自立支援を行う。被保護者やその子供たちの居場所と学習支援にNPOが「冬月荘」(旧北電社宅)を運営する。

2009年の生活保護受給者支援のあり方を検討する釧路市の「第二次ワーキンググループ会議」での検討では、この就労自立を到達点とする考え方を改め、中間的就労を就労自立と並列的な関係としてとらえ、より積極的に「半就労・半福祉」の状態として再定義している。(釧路市社会福祉事務所『同会議報告』、専修大学社会科学研究所月報592号、201112月、鈴木奈保美『釧路市の自立支援プログラムと社会的排除/包摂概念』、高橋祐吉『釧路調査覚書』など)。

 

ハローワーク改革など

 これにリーマン・ショック以後は、内閣府などの「緊急雇用創出基金事業」や「ふるさと雇用再生基金事業」などが大体3年度間の資金として活用され、様々な事業おこしや、短期の雇用に使われている。豊中市は、これらの基金事業などを積極的に取り込んで、2012年度で39事業を展開する予定だという。主に担当するのは市民協働部雇用労働課(37事業)で、対象は中高年齢者、障害者、ひとり親、若者、女性と多岐にわたる。

 また職業安定所事業が、都道府県への移譲対象事業とされる中で、ハローワークと府県、市町村との窓口一本化などの「アクションプラン」が広がっている。このアクションプランは、「出先機関の原則廃止に向けて」を副題にした201012月の閣議決定よるものである。2012101日時点では、北海道から沖縄県までの28道府県と、札幌市、大阪市など42市町村がこの事業を開始している(いずれも当面は3年間の事業)。

 このアクションプランのいくつかを見ると、京都府では総合支援拠点である「京都ジョブパーク」について、利用者の視点に立って、ワンストップサービスのさらなる充実・強化を図り、府と国等との事業を一体的に実施するものとしている。@国のハローワーク・コーナーに雇用保険、各種助成金の支給、障害のある方も対象とする職業紹介事業を追加する。A京都府の無料職業紹介をハローワークコーナーの職業紹介機能と一体的に実施する、などとしている。これにパーソナル・サポートセンター機能が付け加わる。

 

若者支援と女性支援

若者の失業率、離職率が高い。ニートや引きこもりの若者を就労の現場まで寄り添っていくためのジョブカフェや若者ハローワークの経験も蓄積されてきた。ふるさと島根定住財団が運営する「ジョブカフェしまね」では、国や県からの受託事業等により、キャリア相談事業、しまね学生登録、企業ガイダンスや就職フェアを計画的に実施しており、その利用者は着実に増加している。就職決定者数も目標値を上回っている(「経営評価報告書」による。)

 女性についても独自にその就労支援を行うところが増えてきた。堺市の場合、「堺ジョブステーション」の中に「女性プラザ」を設けている。先程の「アクションプラン」では、兵庫県西宮市が、「しごとサポートウェーブにしきた」を開設し、市の実施する心理カウンセリング、キャリア・コンサルティングにより再就職や起業、地域貢献などへの女性の幅広いチャレンジを支援するための「チャレンジ相談」、労働相談、子育てしながら働きたい人への「就職支援セミナー」などの女性施策とハローワークの無料職業紹介を一体的に実施する」としている。

 自治体の無料職業紹介事業では、ふるさと島根定住財団の「UIターン支援職業紹介事業」など地域性に依拠した事業展開が見られる。

 

3、これからの課題

 

地域の雇用、就労へのニーズに応答する求人開拓

 つまり、ハローワークが主に担う一般就労の他に、そこではカバーできない中高年齢者、母子家庭の母(父)、障害者、若者、女性、生活保護受給者とその予備軍などの、短期、不安定、非正規労働の世界が広がり、地方自治体がそれをカバーせざるを得ない状況にある。それに積極的に対応している自治体が注目を浴びているが、その経験をどこまで共有できるかが大きな課題である。これまでの職業紹介事業、職業訓練事業の枠から大きく溢れ出す雇用行政のニーズがこれからも増大する。

 問われていることの一つは、地域就労支援センターなどが独自に求人開拓に乗り出す必要があるということである。生活保護受給者など就労困難者の就労支援では、就労先(求人している企業)のデータは、ハローワークに依存し、ハローワ−クへの同行が重要な支援となっている場合が多い。しかし、生活保護受給者に合った求人先は、ハローワークにあるとは限らない。厚労省の「雇用動向調査」では、入職者のうち求人広告が31.6%、縁故・出向は26.8%、安定所利用は22.2%、その他(商工会議所、地方公共団体の職業紹介等)12.5%、民営職業紹介2.1%となっている。そこで、就労支援機関自身が、無料職業紹介事業者として「求人開拓」に乗り出す例が増えているようだ。豊中市も堺市もそうだ。

堺市の場合は、生活保護の受給者のうち、稼働年齢層の12割を就労支援検討会で選定し、それをケースに応じて、ケースワーカーが支援するグループ、就労支援相談員(各区に1名配置)による就労促進グループ(これは「福祉から就労」事業と位置づけられる)、そしてキャリアサポート事業による就労支援グループの3つに分ける。このうちキャリアサポート事業は、2012年度現在、パソナが受託している。まず2週間程度の集中的な就業訓練を行う。この間はパソナの社員として日当を払う。9時から5時まで勤務し、就労経験を積む。同時に求人開拓員6人で求人開拓を独自に行う。基本は企業訪問である。始まって1年程度だが1000社を超えるデータが蓄積されているそうだ。(以上は堺市での20128月のヒアリング調査から)。これを「出口を用意する」「出口を切り出す」などというようだが、その「出口」は市役所内や関連事業所に用意する場合もあり、求人開拓員が地域をしらみつぶしに歩く場合もある。後者の場合は、パソナやテンプスタッフのような民間人材派遣会社への委託事業のかたちをとることもある。このようにして、ハローワークでは把握できない求人情報を得るとともに、求人を出す企業の「どういう人がほしいか」などの要望を把握し、同時に情報提供などの工夫が行われている。

 

地域の企業とのネットワークと縦割行政の克服

 二つ目の課題は、このような活動も活用した域内企業と自治体とのネットワークの形成である。単に求人先の開拓だけではなく、職業訓練やインターンシップの受け皿として、能動的に協力してもらえる協力者として、また現在から将来に向かっての地域産業振興の相手としても、新しい情報ネットワークと支援機構がつくられる必要がある。豊中市の全国自治研集会(札幌、)へのレポートでも、次のように指摘されている。「本市では無料職業紹介を通じて企業等への対応が拡大してきたが、医療福祉などサービス産業、モノづくり系企業等では人材の確保や定着、育成などで悩んでおり、また今後の労働力人口の減少に備え、新たな雇用管理を模索している企業もある。障害者雇用率の向上のほか、「人の多様性」「ワークライフバランンス」に注目した業務改革や雇用管理の改善なども企業経営の課題となってきている。」

 三つ目の課題は、これらの取り組みがまだ縦割りで、生活保護なら生活保護など各担当の努力にまかされていることである。生活保護、若者支援、障害者、母子家庭などがタコ壺状態で相互の情報交流も少ないように見受けられる。もちろん、それぞれの施策は、その当事者性が強く求められる。その上でこれらの取り組みを包括する「地域雇用政策開発委員会」(仮称)のような仕掛けが必要で、それによって、情報や知恵の共有やネットワークの相互乗り入れができるとかなり強力なものになると期待される。その点、ふるさと島根定住財団のように、UIターンの促進事業や、若者定住支援施策をひとつの財団組織に束ねることは有効だと思われる。特に固有職員の採用とキャリアアップがうまくいけば、政策の持続性も保障されよう。

 また豊中市のように、地域就労支援センターと無料職業紹介所をキーに、生活福祉課(生活保護)、多重債務解決支援担当、CSW(コミュニティ・ソーシャルワーカー)、住宅手当担当、生活福祉資金貸付担当などとネットワークを組むような取り組みも注目される。

 もう一つの課題は、キャリア・コンサルタント(カウンセラー)、臨床心理士、求人開拓員、就労支援相談員、協働するNPOなどの専門職を束ねる課長級職員の能力を、どう形成するか、という問題がある。市でも県でも、3年ほどで人事異動があり、担当者がくるくる変わるために、なかなか業務内容を知悉することができない。むしろ専門的スキルやネットワーク把握力は、これら専門職を派遣する人材派遣会社側に蓄積する傾向が見られる。この点は先にも触れたが、例えば担当職員は10年程度は動かないことを前提に、行政としてのスキルアップを図ることが求められよう。

 

                              

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