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スタッフのひとりごと

        市民性を育てる (初出:『自治日報』07年11月2日号)

                                    奈良女子大学名誉教授 澤井 勝
          
 特色のあるUIターン事業やヤングジョブカフェなど就労支援事業、地域のまちづくりNPO支援事業などの県単独事業を受託し、展開している「ふるさと島根定住財団」。そのホームページに、「スタッフのひとりごと」という欄がある。ほとんど毎日更新され、過去のエッセイも閲覧できる。ペンネームだが署名入りだ。

ぺこさんは、親戚の二人の若者が大阪に出て行く経過を暖かく追う。兄のほうは専門学校を出て県内企業に就職。資格を取りながらの残業続きの多忙な生活から、新しい可能性を求めて大阪に。弟は高卒で、これも県内企業で働きながら簿記1級を狙うが両立が困難。思いきって学校に専念する。いずれはUターンをとペコさんは二人を見守る。

umaさんは「過疎」と言う言葉の発祥地といわれる益田市の旧匹見町を訪ねる。そこで「限界集落」イコール「集落維持が困難」ということではないことを再確認している。

このように行政施策の担当スタッフが、個人としての想いをホームページという公共空間で表明することはすばらしいことだと思う。雑誌の編集者による後書きに似ている。それによって私たちはスタッフの公務員あるいは財団職員としての顔の他の、市民としての顔を見ることができる。そのことで、その施策自身が人間的な幅をもって生き生きとして見えるようになる。「ひとりごと」は他団体のホームページでも見かけるようになった。

こうして見ると「公務員の三面性論」は依然として有効だ。この三面性とは、公務員、市民(生活者)、労働者の三つの面のこと。この市民としての視線で行政のあり方を見ると言うことは非常に大事で、そのことが公務員として推進する政策の内容を充実させ、必要であれば思い切って転換する契機ともなる。

三つ目の労働者性は、最近ははやらないが格差社会の弊害が目立つようになって、改めてその存在が問われている。地域最低賃金やニートやフリーター、そして生活保護周辺の最後のネットワークを構築する事業を起案し、予算化して行政施策として育てることができるのは、一つにはこの労働者性の豊かさだ。また民間下請け事業者や指定管理事業者のもとで働く人たちの、労働基準法違反状態での働き方を改めるために公契約の内容を変えること、それを通じて社会の安定性を築く根っこもここにある。そのためには、同じ労働者としての連帯感や想いが基礎となる。

ところで市民性である。「スタッフのひとりごと」に表現された「市民性」を大事に育て、そしてより堅固なものにしていくことが求められる。繰り返すが、それによって自らが携わる行政施策を客観的に見る目が育つ。また生活者の目で見る訓練ができる。それが施策の「有効度」を高めることになる。つまり「市民の生活を真に支える」行政施策をつくることになる。

参議院選挙の開票の日に作家の小田実さんが亡くなった(75歳)。6月に遺著となった『中流の復興』(生活人新書)が出ている。その中に次のような一節がある。阪神淡路大震災による被害から立ち上がる市民に公的な支援を求める市民立法として「災害被災者等支援法案」をつくり、超党派の議員とともに参議院に提出する。その際の「請願デモ」で、デモの中で一人の市民として歩いていた議員たちが、議員面会所の近くで走り出し、「職能人」としてデモ隊から請願書を受け取る。「これこそ市民社会だ。」「職能人」と「一人の市民」とが相互に支えあうこと、それが一人の人間の中で自在に行き来できることが自律した市民社会なのだ、という。私たちも、少し大きめの声で、公務員としてと同時に「市民としてのひとりごと」を言い続けることが大事なのだろう。

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