TOPPAGEまちづくり、地域活性化>金次郎

二宮金次郎・二つの肖像(5)
         堺市生き生き市民大学 SS情報ひろば
                 奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

二宮金次郎 ふたつの肖像(5)
   「道徳なき経済は犯罪、経済なき道徳は寝言」

 最近、気になる尊徳の言葉がある。それは「道徳なき経済は犯罪である、経済なき道徳は寝言である」という言葉だ。これは「儲けるためには手段を択ばない」風潮が強くなる世界への警鐘としても聞くことができる。就活に煽られ、リクルートルックで走り回った結果がブラック企業だったというご時世に、改めて生きてくる。
 もっともこの言葉は尊徳自身が語ったものではなさそうなのだが、明治30年ごろには尊徳の言葉として人々に理解されていたようだ。
 岡山県倉敷市の大原美術館はご存じだろう。これを1930年に建てた大原孫三郎は1901年、明治34年に、27歳で倉敷紡績(現クラボウ)の社長を引き継いだ。孫三郎は東京の東京専門学校(現早稲田大学)の遊学時代に、静岡県周智郡森町出身の森三郎という農村の貧困問題に取り組む人物と付き合い、鉱害の足尾銅山にも一緒に行っている。この森三郎は、二宮金次郎の「報徳記」を孫三郎に送っている。そのとき、「道徳なき経済はいたずらに社会の秩序を乱すばかりである。また、道徳だけを説いても、経済が伴わなければ人々は付いて来ない。道徳と経済が一つになってこそ、初めて社会の秩序と平和が保たれる」と教えた(三戸岡道夫編『情熱の経営』栄光出版、145頁)。孫三郎はこの報徳記を背文字がかすれるほど読み、社会に尽くす経営を目指したという。
 ここのところ経済誌プレジデントなどが特色のある優良企業として紹介している企業に長野県伊那谷に本拠を置く「伊那食品工業」がある。和菓子の原材料となるカンテンでは国内市場の80%のシェアを持ち、社員(ほぼ全員が正社員)400人、一度も社員のリストラをしたことがない。頑固に年功序列賃金と終身雇用を守る。カンテンの原材料であるテングサなどは世界10数か国から輸入する。新製品の開発研究部門には常に社員の1割を充てる。株式上場はしない。少しずつだが必ず成長する「年輪経営」を実践している。本社の敷地は公園化して地域住民に開放している。
 日経ビジネス2009年4月13日号は「社員の幸せを露骨に追及する会社」とルポしている。伊那食品工業の社是は「いい会社をつくりましょう」。そして経営理念は、「社員の幸せを通して社会に貢献すること」である。そしてこの経営理念の言葉に次いで、尊徳の言葉として、この「道徳なき・・・」が掲げられている。塚越寛会長(当時71歳)の言葉。「会社の目的は売上高や利益を延ばすことではなく、社員を幸せにしたり、世の中をよくすること。売上高や利益はそのための手段でしかない。」

 

Copyright© 2001-2008Masaru Sawai All Rights Reserved..