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これからの自治体経営・広域的ベンチマークなど

                    2007年 8月 28

                    泉北地域広域行政推進協議会

                   (堺市、泉大津市、和泉市、高石市、忠岡町)

 

                      奈良女子大学名誉教授   澤井 勝

 

1、グッド・ガバメントと行財政改革

 

 地方財政をめぐっては、地方分権改革と「三位一体改革」や「規制改革」と、2010年度をめどとした「プライマリーバランスの黒字化」政策の推進による「構造改革」によって、大きな揺さぶりをかけられてきた、というのが実感であろう。

 

特に、規制改革を中心とし、起債許可制度の廃止と公社債市場での事実上の格付けの浸透、指定管理者制度の導入、PFI事業の展開など、「地方財政の市場化」は、一方での「公会計改革」の推進とあいまって、これまでの自治体の財政運営を基本的に見直すことを求めている。それは、まずコスト感覚の導入と自ら確保すべき収入の確保の努力、である。すなわち損益計算書(P/L)の感覚である。

 

 同時に、自治体の主体的な財政改革として、ニセコ町、鳥取県などの予算編成過程の情報公開や高知県から始まった森林環境税のような自主課税の努力、都などのネット公売実施、政令市での一部予算編成権の区への移譲など、概して財政過程の分権化と市民参加が進んできている。

 

そして今年度からは「新型交付税制度への移行」や、「財政健全化法」の成立、地方公営企業金融公庫の廃止と新機構の設立が決まるなど「新しい地方財政制度」も動き出す。ただし、これらの見直しは全てにおいて地方自治体の主体性で進められてきたとは言い難い。そのために新しい課題も明らかになっている。

 

すなわち、国の「構造改革」もそうだが、「財政の見直し」の基本的な観点としての「国民主権」や「住民自治」の観点が、必ずしも明確となっていない場合が多い。もちろん、「限定され、かつ伸び悩む財源」をもっとも「効率的に」活用するための「市場原理や民間活力の活用」が求められていることは当然である。

 

しかし、企業と異なる「統治団体としての自治体政府」は、狭く短期的な「効率性」の追求だけでは立ちゆかない。それは、企業経営であれば許されるような、営業黒字化を絶対的な目標とすることは許されないからである。政治的に形成された公的政府には、「公共性の実現」を標榜することで、利潤などは生じ得ないが、社会的に不可欠な仕事を担い、社会の安定と人々の安全を保障することが、全ての人々から政治的に信託されているからである。それが強制的に税を徴収する根拠なのである。最近の財政制度改革の議論は、しばしば企業経営者の角度からのみ議論される傾向があるが、これはこういった観点からも誤りである。企業経営者の中にも優れた識見をもって、この動きを批判的に見る人も少なくないことは申し添えておきたいが。

 

したがって、今進められている財政制度改革も、政府として住民からの信託に耐えられる目標や理念が設定されているかどうかが、重要なポイントである。端的にいえば、市民にとって政府が「グッド・ガバメント」(役に立つお値打ちの信頼できる政府)になったかどうかが、財政改革の主要な評価軸でなければならないのである。

 

 「安上がりの政府」「チープガバメント」というが、実際に市民が求めているのは、「無駄のない」「効率的な政府」であり、同時に「十分に働く政府」「責任を取る政府」である。決して安かろう悪かろうではない。

 

2、自治体経営のスリム化=アウトソーシングの功罪

 

最近の自治体経営で盛んに展開されているのは「アウトソーシング」による、自治体行政のスリム化である。アウトソーシングの技術としては次のようなものがある。定員不補充を中心とする正規職員数の削減とパートやアルバイト、嘱託職員の活用。民間委託の活用、指定管理者制度の活用、PFI事業の活用、民営化、NPOなど市民事業者・企業との協働、人材派遣業の活用など。このアウトソーシングが、行政のスリム化に大きく役立っていることは疑いない。

 

しかし、この行政サービスや行政事務の「アウトソーシング」によって、「行政責任」があいまいになり、行政と社会が協働して処理しなければならない仕事がおろそかになってはいないか、という疑念が市民には根強くある。すなわち「丸投げ」批判である。

 

3、「現場を重視する」意味

なお、行政の担当者は「アウトソーシング」によって「現場」を外に出すことに、あまり危機感がないようだが、次の言葉の意味は深い。「現場を顧みることのない経営者は、製造コストを下げるために現場のパート化、下請けへの丸投げや、製造元がわからない製品を売ったり、果ては会社の顔である受付を外注化するなど、産業社会のモラルは一体どこへ行ってしまったのか。」(『ウェッジ』077月号)

 

これはトヨタのカンバン方式の生みの親で、製造業の生産管理の第一人者として、ソニーやNEC、三洋電機などで「ムダトとり」の指導をしている山田日登志氏の言葉である。行政の担当者が、自治体経営の名の下に、民間企業の手法を無批判に取り入れてよしとする風潮にも、この警告はあたっているのである。

 

また次のようにも言う。「行政サービスの品質とはなにか」を考える契機となることを期待したい。「働く一人ひとりが、自分の仕事に責任を持ち、品質とコストを保証できる現場を作ってこそ、生きがいに通じ、日本の製造業の復活を叫べるときであろう。」

 

4、アウトソーシングと自治体の責任

 

また、去年の埼玉県ふじみ野市の市営プールでの吸い込み事故においては、指定管理者とその丸投げ下請け会社とともに、市の教育委員会の担当課長などが書類送検され、この6月に市の課長など二人が業務上過失致死罪の容疑で起訴された。これは市の管理責任を重く見たものだが、ここで注目したいのは、契約違反の下請けへの丸投げを市が放置していたことである。このような「無責任体制」が小学2年生の女子の命を奪い、働く労働者の労働条件の劣化を放置していたのである。

 

なぜそういうこと、すなわち、自治体による市民や勤労者の権利侵害が生じるのか。それは、現在の自治体のアウトソーシング施策が、自らの経営の都合だけを考えた、財務的・経営的観点で進められているからである。もちろん、各自治体の「アウトソーシングに関する指針」等では、寝屋川市のように「経費の節減、事務処理の効率化だけでなく、行政サービスの充実・向上の観点からアウトソーシングを推進する」などとしている場合が多い。実際にはほとんど忘れられているのではないかと疑っているのだが。

 

問題なのは自治体に「アウトソーシング事業」を評価し、よりよい行政サービスの実現に結びつける仕組みが欠けている点である。その仕組みがないため、アウトソーシング事業の評価は、財政当局が予算調整権限を駆使して行っている場合が圧倒的に多いと思われる。これでは、コスト削減要求のみが突出するために、良き民間事業者が受けることができないような条件提示しかできないなど、行政サービスの質の低下と行政への不信感を深める結果になっている。

 

その上、地検に指弾されるような「無責任体制」がはびこり、自治体の存在根拠自体を掘り崩すことになる。

 

この悲惨な状況を克服するためには、第一に市民の側に立った「アウトソーシング事業評価制度の確立が」必要である。

第二に法律の目的を実現する自治体としてのミッションの再定義とそれを担保する公契約条例等の制度整備が必要だ。

第三に「対等、平等、相互に変わること」など「協働の原理」を上位概念とし、事業の共同実施や企画段階からの協議を前提とした協働による「アウトソーシング事業」の再構築が必要である。

 

5、広域的ベンチマークの必要性と可能性

 そういった「事業評価制度」の確立のためには、団体間の比較ができる「ベンチマーク」の開発が不可欠である。「ベンチマーク」とは、もともとは「測量の水準点」「基準・尺度」「計測指標」という意味である。これが転じて民間企業であれば他社や他業界の成功事例をベンチマークとして基準におき、自社のそれと比較・分析を行い、自社の業務の改善を図る手法として活用されてきたものである。

 

この手法を一部取り入れている滋賀県の場合、次のように定義している。“「ベンチマーキング」の取り組みは、地域の姿を身近でわかりやすい指標を用いて数値で表し、現状の数値を目標値や他の自治体などと比較することによって地域の現状や目指すべき将来像の実現状況を測定する手法であり、地域の現状と未来を測る「ものさし」の役割を果たすものといえます。”

 

和歌山県でも「新生わかやまベンチマーク」を20013月付けで作成し2004年に改訂版を公表している。

これらは主に既存の統計資料を活用し、その団体ごとの時系列指標が中心となっている。不足しているのは地方自治体間の指標の比較による、団体間比較である。この指標の開発が遅れている。

 

例えば、主要な財政指標のひとつである経常収支比率の場合でも、一団体の時系列の比較で、この5年間に102から98に変化した、という事例ではその団体としては改善が見られることは確かである。しかし、これが財政運営の上で適正かどうかはわからない。それは、ベンチマークとしての一定の指標と比較して初めて了解できるものである。しばしば「ランキング」表として示されることがあるが、市民にとってはわかりやすいものがある。

 

そのベンチマーク(基準となる指標、数値)として考えられるのは、(1)全国の自治体の平均値、(2)財政運営で安定している先進都市、(3)自らが設定した目標値、(4)同一府県内の都市の平均値か目標値、(5)類似団体(人口規模と産業就業者の割合)の数値、などとすることが考えられる。

 

ただ、下水道の普及率や図書館利用者の満足度のようなものは、生活空間が共有されやすい広域圏での市町村間の比較が、市民にとってはわかりやすい。しかし、このようなベンチマークはまだ未開発である。したがって、このような「お隣さん比較」は、相互の経、営感覚を研ぎ澄ますことに役立つと思われる。いい意味での「競争」は、公共サービスの水準の上昇にも寄与するものとなる。その上で、働くほうの働く意欲をかきたてることができる。

 

なお、ベンチマークは「数値目標」が原則だが、数値がない、あるいは数値化になじまない指標や基準もある。施設の利用状況の評価などは、利用人数がその主な指標でありうるが、その利用が商業的なものか、市民活動の支援となっているか、は文章化しないと表現しにくい指標である。

また市民満足度などは、既存の数値はない。このような指標は、定期的な市民アンケート調査や意識調査などの独自な調査が求められる。

 

広域圏事業として共同のベンチマークづくりを推進することも、必要であると考えられる。

 

なお、財政関係は総務省ホームページや大阪府のホームページで以下のような豊富な資料が公開されている。

1、財政状況等一覧表

2、財政比較分析表

3、財政状況の推移

4、連結決算シート

5、大阪府としては「なんでもランキング」

1、歳入決算額の構成比の比較

2、歳出決算額の構成比の比較

3、標準財政規模に対する割合(単独事業費、地方債現在高、積立金現在高など)

4、住民一人当たりの決算額比較

5、都市平均、町村平均を用いた偏差値による財政分析

 

おわりに

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