「株主のために」ではなく

                       奈良女子大学名誉教授  澤井 

 東京都足立区のJR常磐線亀有駅北口から10分ほどにある東和銀座商店街。その商店主たち41人が出資して1350万円の資本金で「株式会社アモールトーワ」を設立したのが19905月のこと。隣の葛飾区にできた「公立東部地域病院」のレストランと売店を引き受けたのを手はじめに、廃業した魚屋とパン屋の経営を引き受け、高齢者向けの配食サービスや学校給食を請け負う。さらには空き店舗で放課後学童クラブも開いている。年商は2006年でおよそ5億円となり、正社員とパートなど約230人が働いている。「(財)地域活性化センター」のホームページにある「平成15年度地域づくり総務大臣表彰」のコーナーから動画配信を見ることもできる。085月はじめの日経新聞でも紹介され、商店街活性化の一つのモデルとなっている。

  この株式会社アモールトーワのモットーは「地域のための会社」である。代表の田中武夫さん(近江八幡商業卒)によれば「地域の、地域による、地域のためのまちづくり会社」だ。近江商人の「お客さん、商人、世間が喜ぶ三方良しを理解すれば商店街は必ずよくなる」し、「利益は後からついてくる。」言い換えれば、この株式会社は「株主のために作ったものではないのです」(田中さん)。会社の上げる利益は、地域に還元し、地域に貢献するための投資に回す。もちろん黒字で配当もしているが、そのような株主に対する金銭的見返りは二の次、三の次のようだ。

 最近はアメリカ流の「株主利益の最大化」を求める風潮が強まる一方で、つい先日も英国のファンドによるJパワー(電源開発)への要求をめぐって、株の買い増しを制限したことが株主利益を損ない、外部からの投資ファンドの投資を制限するものとして新聞やテレビでエコノミストたちが激しくたたいている。このような株式市場での株主利益の尊重は当然である。しかし、株主でも長期投資家もいれば短期のデイトレーダーや投資ファンドもいる。株式市場はこの両面を持ちながら、後者の短期の思惑売買を中心とする「金儲けの論理」が優勢の世界である。ここでは売買対象の企業の価値や、生産されるモノやサービスの価値は、投資取引の材料ではあっても、それを本来不要とする世界である。

 だが同じ市場経済でも、生活世界に根ざす市場経済は、いかにいいモノやいいサービスを売るかどうかで成立する世界であり、それは「近江商人の三方良し」が生きる世界である。それも「買い手良し」が先行する世界である。アモールトーワは、「買い手良し、世間良し、売り手良し」の順序で商売をしていると言ってもよい。

 このような地域社会のためのファンドを本来のコミュニティファンドということができる。市民が身銭を削って、基金を作り、雇用を創出する。京都府京丹後市大宮町の常吉百貨店や南丹市美山町のタナセンなども、農協の旧店舗を活用し、住民が出資した会社である。これらは「株主のためではない」会社である。繰り返しになるが、それは「金儲けの効率性を競う」株式市場とは異なる論理、いわば「生業」の論理で成り立っている。

ところで、自治体の指定管理者や第三セクターも「地域のための地域ファンド」と同じ論理で考えるべき事業体である。それはまず、「公の施設としての公共サービスの向上」のために設けられた制度(指定管理者の場合)であり、公務労働では取り組みにくい柔軟な働き方を実現しようとする事業体(第三セクターの場合)である。つまり財政効率化のためにだけ設けられたものではない。市民にとって遣いやすい「新しい公共サービス」を作るために工夫されたものだ。公共部門としての信頼性や安定性と、民間の柔軟性と経営ノウハウを活用するものとして期待された。

現実は民間事業者を安く使い倒すような弊害が強く出ている。行政が地域の雇用条件の悪化を後押ししたり、公共サービス水準の低下を招いたりという惨憺たる結果を招いているところも少なくない。これを正すためには、今述べてきたような「株主のためでない」「地域のためのコミュニティ・ファンド」のひとつとして、「買い手良し」を追求する事業体として再形成することが必要なのである。