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グッド・ガバメント

(初出:「自治日報」06年8月25日号)

                         奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

 05年7月年から大阪府寝屋川市(人口245千人)の行財政改革市民懇談会に参加している。この市民懇談会は市の行財政改革実施計画の策定に先立って、市民としての意見を自由に提案するのが役目だ。実施計画は第一期が2000年度からの4年度、第二期が2004年度から2006年度の3年度。07年度から第三期実施計画となる。

この7年間のこのまちの行財政改革の進捗状況をもっとも良く表しているのは、職員定数の削減である。当初2229人だった職員定数は、2006年度中には1755人となった。さらに第3期定員適正化計画では09年度末に1450人以内とするとしている。当初からすると約35%の削減となる。ただし、一定数の職員は、毎年度採用することとしている。実質収支も04年度決算で6年ぶりに黒字になった。退職者が多いこともあって経常収支比率は目標値には達していないが、改善の方向にある。これら市の努力には懇談会の委員からも評価する意見が多かった。

ただし、地域活動を担う市民や企業役員OB、NPOの観点からの注文も相次いだ。第一は、現場をもっと重視すべきだ、という強い意見だ。職員定数の削減は、民間委託などアウトソーシングを中心に進められてきたようだが、その対象はラインに偏っていないか。ラインという現場は、そこに市民との具体的な接点があり、市民と行政の関係を改革する発想の原点がある。この市民は単なる顧客ではない。納税者であり、主権者である。その現場を切るだけでは、市民にとっての行政改革、すなわち行政サービスの内容の改善につながらないおそれがある。むしろスタッフ部門のフラット化など、中間管理組織のあり方も見直すべきだ。民間企業の経験でもこの「現場主義」こそ、改革の推進力となっている。

同じことが次のようにも指摘されている。職員数の削減の中で、「協働」の名のもとに市民や民間に行政がやってきた仕事を丸投げする心配がある。地域の住民や利用者との十分な事前の議論と、その後の協議や相談が不可欠だ。職員一人ひとりが「協働の原則」をしっかり身に付けてもらいたい。

第二は、行政のやるべきことを明確に示すべきだ、という点である。どういう仕事で行政がもつ権限を生かしていくか。「構想日本」(加藤秀樹代表)が提案する「事業仕分け」もあるが、経営の観点からばかりではなく、市民の視点から、市民生活の安全と安心を確保する具体的な政策や組織を求める。例えば、従来まったく不十分だった子育て支援や児童虐待に対して行政としての新しい取り組みを明確にすべきだ。限られた資源のもとで、なにを行政としてビルトするかを明確に、という意味である。この点は岐阜県多治見市の総合計画の実行計画シートが優れている。

以上の二つの議論から、主権者である市民が求めているのは、市民参加がビルトインされたグッド・ガバメントの実現だということである。もちろん効率性は重要だ。しかし、それでは十分ではない。市民が主権者であるという手ごたえと、新しい行政の役割の明確化を求めている。

コスト重視の自治体経営と言う観点から、行財政改革の手本にはアメリカのミネアポリスなどが挙げられることが多い。しかし、アメリカの都市は市場主義から見た経営体と言う面と、もうひとつ、「直接民主主義」の現場であるという面をもっている。市民の直接立法としてのイニシアティブ、議会で決めた法令を住民投票で賛否を問うレフェレンダムなどの仕組みを持つ場合が多い。何より議会が広く開かれ、傍聴者の発言を一定のルールで認めたりしている。トックビルが『アメリカの民主政治』で発見した人民主権原理はアメリカの自治体で生きている。このようにして、経営の観点と民主主義とがバランスをとっているのである。つまり現代の行財政改革によって実現すべき目標は、市民が生き生きとして自らの政府の仕事を担うことを支援するとともに、自らの責任を果たす行政府の実現だということだ。ここでは小さな政府の実現は自己目的にはならないのである。

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