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介護意識に変化が起きた

(初出:自治日報03年9月10日『コラム自治』)

介護意識に変化が起きた

                    奈良女子大学      澤井 勝

 この間の経済の停滞を指して、「失われた10年」という言葉がはやっている。これは市場原理主義的な観点からの議論だが、本当にそうだろうか。このような見方は、豊かで複雑な人々の生活を、重要だがしかしその一部に過ぎない「経済」からしか見ていない。それも、その一部である「市場経済」あるいは「マネー経済」というごく狭い視野からの「経済」である。

 ここ10年間ほどの変化は、しかしながら、これらマネー至上主義者には見えないのかも知れないが、深いものがある。例えば90年代に、明治維新以来の変革といってもよい改革である地方分権改革が進んだ。その効果は、この1,2年ほどでようやくほのかに見え始めてきた。それは、たとえば、職安法の改正による無料職業紹介事業の地方自治体への開放である。あるいは構造改革特区の動きであり、ミニ公募債であり、高知県の森林環境税である。淀川流域委員会のように河川管理も変わりつつある。また組織のフラット化などの行政改革や政策評価システムの展開などもそれにあたる。

 そして、家族の変化がある。奈良県の北葛城郡當麻町は人口約155百人。最近、お盆明けに、介護保険事業計画策定委員会が開かれた。この委員会は3期目になるが、次の介護保険料を改定する2005年まで、現計画(03年度〜07年度だが3年ごとに見直す)のモニターの役割を担う。主な議題は、昨年度の決算と事業実績の検討であり、次期計画に向けた改善点の議論である。

 當麻町は、二つの峰を持ちその雄岳頂上に大津の皇子の墓所がある二上山にかかえられ、葛城古道に沿って広々とした農地が広がる町。曼荼羅と二つの塔を持つ当麻寺や、花の石光寺がなつかしい。介護保険サービスでは、他人に家に入ってもらうのを好まないし、家族による介護を大事にする土地柄である。

その土地柄を映して、この3月に改定された65歳以上の介護保険料も奈良県内でも低い一ヶ月2650円。これは前期より40円ほど下げた額である。ちなみに全国平均では2911円から3293円に13.1%引き上げられている。このように安い保険料で済んでいるのは、介護保険サービスの利用度が低かったためだ。

ところが、4月以降、異変が起きている。在宅介護サービスの事業量が、この4月から極め大きく伸びているのだ。在宅サービスの中心はホームヘルプ事業だが、4月に計画値に対して事業費は107という水準になった。6月までの実績値では、111と、計画を1割以上オーバーしている。

要介護認定者の数も計画を大きく超えて伸びている。特に要介護2以下の軽度の介護度の人の伸びが著しい。在宅サービスでは事業費の上でもっともウェイトが高いデイサービスも顕著に伸び、6月までの実績は計画の1.36倍だ。ショートステイの利用量も計画の1.26倍となった。

この理由は、いくつか考えられるが、一番大きなのは、家族の意識の変化ではないか。家族介護しかないという自分自身や家族,親戚そして近所の考え方に縛られてきた介護という営みが、その呪縛から解放されてきているのは確実である。この家族の意識の変化を基礎とした在宅介護サービスの伸びは、全国的には、昨年の夏ごろから驚くほどはっきりしてきていた。そのために、二期目の介護保険事業計画の策定作業の基礎データを直近のそれに置き換えた自治体が多い。その変化の波が、ついに當麻町にも着実に伝わってきたのだ。ほぼ8ヶ月遅れだが、この変化は不可逆的に、そして加速しながら進むだろう。

次の課題は、介護保険財政を破綻させないためにも、家族を支援して、健康寿命を延ばし、介護を必要としない人を増やすことだ。当麻町の場合、要介護認定のための調査員は町の保健師が担当している。要介護度が下がったらおめでとう、という訪問調査をしているという。このような行政の取り組みとともに、市民・住民自身が主体となれる行動計画(ガバナンス確立を目指す計画)を作り実践する。そのような地域福祉計画を通じて地域社会を作り直すことがこの課題に応答することだ。

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