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(初出:『自治日報』06年11月24日)

奈良女子大学名誉教授 澤井勝

 

協働のためのインフラ整備

 先日、前箕面市長の橋本卓さんなどが運営されているNPO法人の勉強会があった。テーマは「アウトソーシング、丸投げでいいの」。財政状況が厳しく、また2011年度のプライマリーバランス黒字化を目指した国地方を通じた歳出削減が進められる中で、どの自治体でも急ピッチでアウトソーシングが進められている。すなわち民間委託と民営化の推進であり、公の施設への指定管理者や市場化テストの導入である。一方で、職員定数の削減が進み、それぞれの職場では人手不足感が強まっている。さらに、分権改革の一環として、こなすべき仕事は増えている。そういった側面から、アウトソーシングをすることは現場からも自然な流れとなっている。

 しかし問題があることも事実である。特に、ほとんどの自治体が施策の中心「市民、事業者との協働」を掲げていることとの関係をどう考えるかという問題がある。この「協働」は、コスト削減という点から市民にも「公共サービス」を担ってもらわなければならないという面から理解されやすい。しかし、「協働」は歳出抑制のためにのみ要請されているわけではない。たしかに公共サービスを安く提供することは市民の基本的な要求である。だが、そのサービスの質の向上もまた市民の基本的な要求である。「最小の経費で最大の効果を」という地方自治法の定めは、この両面をバランスさせることを要求しているはずだ。また、市民は納税した税金と見合う「行政責任」が果たされるよう要求している。

 そして「協働」によって実現すべきもうひとつの価値は、「市民自治の実現」という価値である。市民自身が公共サービスの担い手となり、市民としての責任を果たす。このことによって、単なる受益者としての「住民」や消費者としての「住民」から脱却する。20世紀的な「合理的経済人」としてのヒトから、市民社会の主人公としての「市民」に。これが「協働」や「ガバナンス」という言葉にこめられているこれから実現すべき価値である。

 端的に言うと、アウトソーシングもそのような「協働のかたち」のひとつとして位置づけ、その「協働の原則」にしたがって運用すべきなのである。対等性、企画段階からの参画、ともに変わることなど「協働のルール」(奈良市「ボランティア・NPOとの協働の原則」)を明確にし、そのルールをNPOなど市民や事業者とともに、行政も遵守しなければならない。さもなければ、「丸投げ」や「行政責任の放棄」という批判を受け、市民の信頼を失う。さらにコスト面からのみアウトソーシングを進めればNPOなどを低コストで使い捨て、結局、将来の公共サービスの良質な担い手をつぶすことになる。先人はこのことを「爪でひろって箕でこぼす」と言っている。

 さらに次のことも重要だ。イギリスでの25年間の公共サービスの強制競争入札施策とブレア政権のPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)施策を検証した稲沢克祐関西学院大教授は、市場化テストなどの課題として、2003年に大ロンドン市に導入された「同一価値労働同一賃金」原則(リビング・ウェイジ)が委託先企業労働者に公務員と同じ賃金水準をもとめていることを重視すべきだという(『世界』066月号、および101819日に福岡市で開かれた第9回日本自治学会での報告など)。このことで公共サービスの品質を保証するのである。この施策は、04年から全国化されている。また同教授も指摘するように、公正労働や障害者雇用など価格以外の基準を導入する「総合評価制度」を自治体の契約に積極的に広く導入することも有効である。ところで同学会では福嶋浩彦我孫子市長から我孫子市の1200の行政事務を民間に開放する施策の報告があり、72件の応募があったと報告された。その審査過程は、ラフな提案を担当課と提案者が一緒に、市民の視点から具体的なプランに仕上げていくことが眼目だという(足立区も同様)。競争より「協働」なのである。先の箕面市での市民の勉強会やこの分科会の議論を通じて、このような協働のルールの確立、同一価値労働同一賃金の原則、社会的価値を実現する契約制度の改革、審査過程での協働のシステム化など、協働のインフラストラクチャの構築を通じて「新しい公共空間」を形成することが、自治体の共通の目標だということが確認されたといってもよいであろう。

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