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公契約条例制定に向けて   (トップページに戻る)

                             2011年7月23

                            於:桜井市図書館

                    奈良女子大学名誉教授  

奈良自治研究センター理事長

澤井 勝

              

1,野田市公契約条例の制定とその特徴

1,2009929日、全会一致で制定。条例で具体的に公契約における「最低賃金水準」を明確にしたことが最大の特徴。20109月に改正している。

 根本孝野田市長は言う。「わたくしは地元野田の出身ですが、大工や左官、とび職をしている同級生から、この賃金でせがれに跡を継げとはいえない、という話を大分聞かされました。土木分野での後継者問題や、日本の若い建築技術者が育たないことに対し、強い危機感をもっていたことが、条例制定の理由の一つです。それに加えて、公共事業の発注に関する負のスパイラルという問題があります。一般競争入札は、前年度の実績値をベースに次の年度の単価を決めていくために、落札単価が一度下がるとなかなか元に戻らない。年々下がっていってしまう。そのしわ寄せが働く人にいけば官制ワーキングプアが生み出されるため、ここを食い止めなければならないと思いました」(『月刊自治研』20101月号)。

 

2,野田市条例のポイント

(1)対象は、

ア、1億円以上の工事又は製造の請負

イ、1千万円以上のア以外の請負

ウ、1千万円以下の委託について市長が特に認めたもの

(2)下請け、孫請け、派遣労働者にも適用。

(3)賃金額は、

   ア、建設工事は「公共工事設計労務単価の8割相当」
     イ、委託業務は、職種別賃金として3本立て。a、野田市職員給料表、b、建築保全業務労務単価、c、野田市が既に締結した契約での労働者賃金(09年度の実績では野田市の技能労務職初任給829円、地域最低賃金は728円)

(4)監視と制裁。

ア、報告を求め、立ち入り検査と関係者への質問ができる。

イ、報告と立ち入り検査の結果、違反があるなど必要があると認めるときは、当該違反を是正するよう命ずることができる。

ウ、命令に従わないとき。虚偽の報告等のときは、契約の解除ができる。

(5)総合評価制度・指定管理者制度への適用。

   ア、総合評価入札について5千万円以上、1億円未満について賃金を評価する。

   イ、指定管理者についても賃金を評価する。

   ウ、落札者に雇用される労働者、下請け、派遣労働者にも適用。

(6)10年の改正点。

   ア、継続雇用について努力義務規定を追加。

   イ、下請代金等の不正な引き下げをさせない規定を追加。

 

 条例制定後、15の対象業務委託で約400万円を増額。市の臨時職員、第三セクターの職員のうち829円を下回っていた者を830円に引き上げた。約190万円の増額。落札結果15業務で700万円増となった。公共工事は設計労務単価をベースにしているので増額していない。

 

3,川崎市契約条例改正 20101215日に全会一致で成立。

(1)対象は、

ア、予定価格6億円以上の工事請負契約。

  イ、予定価格1千万円以上の委託契約(人的警備、建物清掃、屋外清掃、施設維持管理、データ入力)

  ウ、指定管理者と結ぶ協定

(2)対象労働者は、 

  ア、労働基準法に言う労働者で契約に係る作業に従事する者

  イ、いわゆる「一人親方」

(3)作業報酬の下限額

  ア、公共工事の設計単価の9

  イ、特定業務の委託契約の場合は、川崎市の生活保護基準(単身者で893円)

(4)作業報酬審議会

  委員の構成は、学識1、事業者2、労働者2

(5)市の出資法人、PHI事業者も市に準じるよう努める。

(6)必要な台帳等の事業場への備え付けと市長への報告、労働者への必要事項の周知、労働者の申し出に対する誠実対応、などを義務づける。これに違反した場合は、市長調査、是正勧告を行う。

(7)前項の命令等に違反するときは、契約の解除等が行われる。

 

4,東京都国分寺市、多摩市、神奈川県相模原市、尼崎市などで制定への動きが具体的にある。

 

5,公契約条例制定の視点

(1)自治体がワーキングプアを作ってはいけない

(2)地域経済の活性化のためにも、公共サービスでの賃金水準は後継者が育つような水準を維持するべきだ。

(3)ILO94号条約など国際的な公契約についての考え方も参照すべきだ。「市民の税金を基とする公的事業で利益を得る企業は、労働者に人間らしい労働条件を保障すべきであり、発注者である国や自治体や公的企業はそれを確保するための責任を負っている。」

(4)公共サービス基本法(平成21520日法律第40号)も次のように規定している。

同法第11条 「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするために、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講じるよう努めるものとする。」

 

 

6,総合評一般競争入札という「入札改革」を平行して進めることも必要。

 

浸透する政策評価つきの総合評価制度(自治総研113月号、コラム)

 2011年の15日、片山善博総務大臣が記者会見での質問に答えて、昨年1228日付けで発出された総務省自治行政局長の助言「指定管理者制度の運用について」に関して述べていることが注目されている。一つは、制度の趣旨と異なって、指定管理の運用が「コストカット」に偏しているのではないか。そのために、本来、指定管理になじまないような施設(たとえば学校図書館)にまでその波が及んでいるように見える。また指定管理の活用も含むアウトソーシングを進めた結果、官制ワーキングプアを随分生んでしまった。その自覚と反省は必要だ。以上がその趣旨のようだ。いずれにしてもダンピング防止と行政の品質確保、社会的価値実現の三つを同時に図ることが財政困難の中で問われている。

 ところで、WTOの政府調達協定によって地方政府の工事や事業請負の入札についても、都道府県と指定都市については、「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」によって「最低制限価格制度」を採用することは禁止されている。このことも含めて、「自治法施行令第167条の10」などによるダンピング防止のための「低入札価格調査制度」が活用されている。

それとならんで、政策評価つきの「総合評価一般競争入札制度」の採用が広がってきた。特に都道府県や政令指定都市は、今見たように最低制限価格制度をとれないことを、総合評価制度を導入することで回避しようとする動きが強くなっている。政策評価付き総合評価制度によってダンピングを防止しながら工事の品質及びその事業の実施を通じた社会的価値の実現を図るという政策目的を達しようとするものである。

 大阪府堺市では、本庁舎の清掃事業の請負に1昨年から総合評価一般競争入札方式を導入した。これは大阪府と大阪市では既に2004年頃から導入されていたものだ。また豊中市では2007年度から採用されている。今年はこれを西区役所の清掃事業に拡大して行われた。今回の入札における評価項目は価格評価、技術的評価、公共性(政策)評価、の3項目立てである。評価基準とウェイトは次のようになっている。

 価格評価は1000点満点の内700点。最低入札価格を満点とし、以下は最低入札価格を

2位以下の事業者の入札価格で割った数値に700をかけて2位以下の点数を出す。また、契約予定者の入札価格が基準価格を下回っている場合は、調査を実施し適正な履行が確保できるか調査を行うとして、「低入札価格調査制度」も組み込んでいる。

 技術的評価では、@研修体制(計画、実施実績)に20点、A履行体制(作業計画表、作業員配置表、業務実施体制図)で30点、B品質保証への取り組みに10点(ISO9001の取得状況、苦情処理体制)、合計60点が配分される。

 公共性評価では@就職困難者の雇用に関する取り組み(地域就労支援センター、障害者就業・生活支援センター、母子家庭就業・自立支援センターからの紹介者の新規雇用予定数)に70点、A障害者の雇用に関する取り組み(@知的及び精神障害者の雇用、Aジョブコーチ配置など環境整備、B障害者の雇用率)に90点、B男女共同参画への配慮(セクハラ防止の社内規定の有無と取り組み内容)に40点、C環境問題への取り組み(@ISO14000など環境マネジメントシステム導入の状況、A再生品の利用、B低公害車の使用)び40点、合計240点である。

  応札企業は予想を大きく超える約40社で、うち市内業者は60%程度、その他は大阪市や近隣市からである。市では各項目を担当する総務課、労働課、男女共同参画担当、環境課などの担当職員が委員となり、それぞれ専門の視点から評価し、点数を出す。

 結果は価格評価が700点の最低入札価格の業者(堺市)は総合評価で5位以下になり、価格評価では6位程度の事業者(大阪市)が総合評価でトップとなった。一応、価格のみではなく公共政策評価で高い点を取った事業者が優位に立つことになったと評価できる。

 改善すべき点もある。まず野田市の公契約条例が保障する最低賃金保障的な労働条件確保の項目をこれからどう入れていくか。現在働いている従業員の雇用を継続することで、労働のスキルや雇用の安定性をどう確保するか。配点がこれでいいか、事業者の負担をどう軽減するか。事業者の力をどうつけていくか、など。

 

7,その背景

(1)、「雇用劣化不況」から「雇用劣化経済」へ

 現在私たちが直面しているのは、非正規で働く人々の割合が雇用者の3分の1を占めるというワーキングプアを構造化した格差社会である。朝日新聞の竹信三恵子編集委員は次のように指摘していた。

2002年からの『戦後最長の景気回復』の時代は、働き手の側から見れば、賃下げにとどまらず、貧困、過労死、自殺、消費の低迷、さらには職場の言論封じ込めの時代であり、雇用の劣化が招いた不況の時代ではなかったか。それは多くの企業にとっても『まともな賃金を払える経営』に脱皮する機会を失い、次にやってきたより深刻な不況をさらなる賃下げによって迎え撃つしかない体質を、骨がらみに身につけてしまった時代だったのではないか」。(『雇用劣化不況』岩波新書、20094月、10頁)。この「雇用の劣化」は、非正規雇用の働き手から正規雇用の働き手にも及んでいる。リストラによる失職から、派遣社員や嘱託職員を経てホームレスとなった正規職員も少なくなく、労災事故の多発や成果主義など職場環境の悪化によって精神を病む人も増えている。

 第1表の「雇用形態別雇用者数の推移」を見てみると、雇用者数(役員は除く)はこの26年の間に3936万人から5137万人に増加している。1200万人の増である。5千万人を超えたのは2006年。

しかし、この表には載せていないが、正規職員・従業員は増えていない。1984年の3333万人であった正規職員は20107-9月期でも3363万人でほぼ同じである。正規職員数のピークは2006年の3805万人であるから、ピークから現在までに442万人、11.6%の減である。

 一方で非正規職員(パート・アルバイト・派遣・嘱託・契約)はこの間(1984年―2010年)に604万人から1775万人に1171万人も増え、2.9倍となっている。

 この結果、表に見るように雇用者のうちに占める非正規雇用者の割合が直近で34.5%と3分の1強となっている。しかもこの非正規雇用者の割合は近年になるほど高くなっている。33%を超えたのは20061-3月期であるが、その後もじりじりと上昇していることが表からもわかる。

 これらの非正規雇用者の多くは正規雇用者の6割程度の賃金で、年収200万円以下となっている。「平成21年賃金構造基本統計調査」によると、全年齢の男女計で正社員が3104千円、非正社員が1946千円で、賃金格差は63%である。

 

(2),雇用劣化に伴う給与切り下げと財政への影響

 このような非正規雇用の構造化に伴い、2001年頃から民間企業の給与水準(給与及び一時金)が下がり始め、2005年からそれが顕著になっている。第2表は国税庁の『民間給与実態調査』から見た全国の「平均給与」(正規職員と非正規職員とを合わせた給与)の推移である。バブル経済が崩壊した直後の1997年に民間給与の平均は4673千円ほどだったが、2002年には440万円台、2004年に430万円台、2008年には420万円台、そして2009年には一気に405万円にまで下がっている。この間に平均給与は61万円以上、11.9%の減となっている。これでは個人消費、すなわち家計最終消費が盛り上がるわけがない。なお、民間給与総額は2009年のそれは1997年に比較して30兆円近くも縮小していることもわかる。

このような給与収入と所得の縮小は、地方自治体の歳入にも強い影響を与えている。大阪大都市圏の人口12万人ほどのA市で見たところ、市税の納税義務者一人当たりの収入額は顕著に小さくなっている。第3表を見ると、「納税義務者一人当たりの収入額」は、1996年には約647万円あった。それが2005年には596万円に下がった。さらに直近では533万となり、96年比で114万円減、17.9%の大幅なダウンである。納税義務者数は3千人ほど増加しているが、この増加では市民税収入のマイナスをカバーできていない。それほど一人当たり収入の減が大きいのである。

そのために市税の面でも大きな影響があった。第4表でA市の「納税者一人当たりの個人市民税」の推移を見ると、1996年度の214427円が2009年度には164032円に下がっている。減少率は23.5%、額では納税者一人当たりで5万円以上のマイナスである。この理由は、第一に、先に見たような非正規労働者が増加するとともに、正規職員の給与もそれにつれて下がっている可能性があること。もう一つは、高齢化の進行によって、特に2007年以降、団塊の世代が年金生活に入ったことが影響していると思われる。なお納税人員は同じ時期に46218人から54243人に増加している。このため市民税所得割の税収入は2008年度も2001年度と同じ89億円台を維持している。

なおこの表では、2007年度に一人当たり市民税額が9千円ほど増加しているが、これは主として税源移譲の影響である。三位一体改革の一環として、交付税総額を縮減すると共に、国税所得税から個人住民税に3兆円を移譲した結果である。しかしそれでも、A市の場合は一人当たり市民税額が2002年度の水準に戻ることはなかった。

 

(3)公共工事設計労務単価・51職種全国平均の推移

 

 2004年  17,700

 2005    17,376

 2006    17,262

 2007    17,154

 2008    16,726

  2009    16,726

 2010    16,479

 

 

おわりに

 できることを着実に。

自治体がナショナル・スタンダードをつくる時代を再び開く。

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