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国庫補助金の廃止と自治の可能性

(初出:月刊自治研 04年5月号)


1、地方につけ回しの第一ラウンド

 三位一体改革の初年度、2004年度の政府の予算にたいしては、地方自治体側からは強い批判がある。3月29日にも、「新しい日本をつくる国民会議」(脚注1 21世紀臨調、民間政治臨調を組織替えしたもの、もともとは連合などの政治改革推進協議会が前身。事務局は(財)社会経済生産性本部)の副代表である増田寛也岩手県知事などが都内で記者会見し、「国の財政再建のために地方に負担を強いる『つけ回し』改革にすぎない」などとする「三位一体改革の評価」を公表している。

また、3月17日の参議院予算委員会で、民主党の平野達男氏の三位一体改革に関する質問の際、委員長である片山虎之介氏が、「総務省の責任だ。わかってないんだ答弁者が」と発言し、さらに地方財政計画についても「必要以上に切りすぎだ。三位一体改革と関係ないんだ」と追い打ちをかけている(「自治日報」など。)

各知事や市町村長の批判は特に、地方財政計画の圧縮と、それによる地方交付税および臨時財政対策債ベースでの一般財源が、前年比で12%もマイナスになったことに向けられている。また、補助金の削減についても、厚生労働省の生活保護費をめぐる迷走に批判が集中している。なお、この生活保護費をめぐる論争点は今回は見送りとなったが、この秋にも形を変えて登場してくることは必至である。

ところで3月26日の記者会見で、谷垣財務相は、05年度と06年度でさらに3兆円の国庫補助負担金を削減すると述べている。これは、従来、財務省としては03年度に削減した義務教育教職員の共済長期負担分などを入れた数字を、削減目標としてきたことを転換するもの。「05年度は相当思い切って努力する」とも述べている。

2、補助金廃止の基準が混迷

 今回の三位一体改革初年度の予算編成過程の特徴は以下のようになる。国庫補助負担金の1兆円削減が、首相指示によって03年の11月中旬に具体化したため、どの補助金を、どのように削減ないし廃止するかと言う検討は各省庁にまかされ、削減ないし廃止の基準あるいは哲学が不明確なまま、1ヶ月たらずの期間で削減目標を埋めるための数字合わせの作業に終始した。よくあることだが。

 従って、本来の国庫補助負担金の整理基準とは無関係に切りやすいところを切るか、禁じ手である「補助負担率の引き下げ」という、地方分権改革に反する議論が先行したりした。この国庫補助負担金の整理基準は、三位一体改革の趣旨から言っても、地方分権改革を推進する改革かどうか、すなわち自治体の裁量と自治を拡大するかどうかという基準のはずである。ところが今回は自治体の裁量権を拡大することをともなわない、国側の都合のみで強行されようとした。いずれにしても、地方への国庫補助負担金削減および廃止について、自治体側への相談は一切なかったのである。つまり、補助金については、一方の当事者である地方自治体側との「協議」は全く顧慮されることがなかった。

 もっとも、全国知事会や全国市長会、そして政令指定都市市長会から、具体的な補助金名を挙げて、「補助金の廃止、削減提案」が行われていたのが今回の特徴であったから、国の各省庁としても、それをある程度前提にしたことはあったと思われる。(脚注2 その内容を一部紹介している拙稿「補助金廃止提言と自治体の自立」(『月刊自治研』04年1月号)をも参照されたい。)

 それにしても、補助金削減や廃止を、形式的にも自治体の意見を聞かずに決定することは、国と地方が対等・平等な関係に置かれた、2000年4月以降の分権一括法施行以後の時代には合わないことは事実である。これは、国庫補助金が国に決定と配分の裁量権があり、国による監査や検査を前提とする、国庫金の世界であってみれば当然と言えば当然ではあるけれども。

 このことは、もともとの国庫補助金の削減ないし廃止の主張の原点に戻ることになる。地方自治の確立と、地方分権を確かなものとするためには、国庫補助金による自治体支配を廃止するしかないのである。そしてそれにともなう通達等による規制を廃止するしかないのである。端的には、国庫補助金の財源を、地方税に振り替えて移譲することである。ただし、地方税としての税源がとぼしく、税源移譲をしても十分に国庫補助金削減ないし廃止額に相当する財源規模を確保出来ない地域については、財政調整制度としての地方交付税を傾斜的に配分するなどのかたちで、一般財源として財源保障をしなければならないのは当然である。

3、国庫補助負担金を一般財源化する基準

 ところで、国庫補助金削減ないし廃止の基準である。この基準については、従来の地方制度調査会での「国庫補助金の整理・合理化」についての提言などに述べられてきた。例えばいわゆる奨励的補助金を整理する。補助率は法律で定め、補助率は生活保護などの例外を除いて2分の1にする。国庫負担金については、その算定根拠を明示する。補助金に期限をつける、サンセット方式を導入する。また零細補助金の整理なども提言されてきた。

 これらの基準は、今回はほとんど考慮されることがなかったようだ。地方財政法が規律する国庫負担金と国庫補助金との差異についても、言及された形跡がまったくない。各省庁からすれば、このような、負担金(地方財政法10条から10条の3)と補助金(地方財政法16条)、そして国庫委託金(地方財政法10条の4)とを区別する発想法がなかったことを改めて証明することになった。

 総務省の平成16年度地方財政対策資料のうち「平成16年度国庫補助負担金の一般財源化」を見てみれば、それは一目瞭然である。「恒久措置分」としてある、2440億円のうち最大の費目は、「児童保護費等負担金」で、これは地方財政法10条に規定された「国庫負担金」である。

 国庫負担金の規定は、「第10条 地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互に利害のある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国がその経費の一部又は全部を負担する」としている。

 また、次に掲げられている「介護保険事務費交付金」や「軽費老人ホーム事務費補助金」は、地方財政法第16条に規定する「国庫補助金」である。国庫補助金の地方財政法上の規定は、「国は、その施策を行うため特別の必要があると認めるとき又は地方公共団体の財政上特別の必要があると認めるときに限り、当該地方公共団体に対して、補助金を交付することができる」としている。前者の「その施策を行うため必要がある」ときの補助金を「奨励的補助金」といい、後者を「財政援助的」補助金という。

 ここでは、「国庫負担金」と「国庫補助金」との区別はされていない。その一般財源化にあたっての手続きや基準においても、両者の間の差異は認められない。このような地方財政法の規定を超えて、国庫補助負担金を整理しようとする事情は、知事会や市長会の提言でも同様であって、自治権確立の議論は、地方財政法が規律しようとする範囲を超えているといってよい。

4、自治体に定着した仕事は自治体の財源で

 このように議論が進んでいる現在、国庫補助負担金(負担金と補助金、この場合、もっぱら国の利害に関係する国庫委託金、例えば国政選挙委託費などを除く)を一般財源化するとき、国と地方自治体とが相互に協議することがまず必要だが、その際の基準としては、地方自治の確立という観点からは、次のようなものも考えられる。

 第一には、自治体の法令でその実施が義務づけられている事務について、特に経常経費系統の事務で、自治体の仕事として定着しているものは原則として、自治体の負担で実施することとし(これは現行の地方財政法の原則でもある)、当面その全額を税源移譲する。

その際、事務執行上の行政通達は明示的に廃止する。国として、一定の全国的水準を維持しようとするときは、広く国民、市民にガイドライン等を示して「技術的助言」を行うことは認められる。

現在は、このような地方財政法上の原則(脚注3 「第9条 地方公共団体の事務を行うために要する経費については、当該地方公共団体が全額これを負担する」)がありながら、国庫補助負担金を存続させるための例外規定として、10条以下が置かれていると考えられるので、原則を税源移譲によって貫徹することが求められる。

したがって、例えば、義務教育費国庫負担制度は廃止し、その財源を一般財源として税源移譲を行うことが望ましい。学級定員や教員配置、その定数は各自治体が、自らの責任において、他の一般財源や民間資金や資源をも導入して確定することですむ。(脚注 既に山形県においては、33人学級を実現している(朝日新聞4月7日))。将来的には学習指導要領や教科書検定制度なども自治的な統制のもとにおくことも検討されるべきだろう。

5、公共事業補助金の一般財源化

 公共事業関係の国庫補助負担金は、これも財源移譲の対象とするのは当然である。特に2006年度から、地方債の許可制度が協議制度に変わることを考えると、建設事業の財源は移譲された税源と公募地方債など、その他の財源を組み合わせ、償還財源の確保も合わせて設計することが望ましい。その際の建設事業は、それぞれの団体における総合計画によってその計画的実施が担保される形とするべきであろう。

 なお、公共事業国庫負担金や補助金を一般財源化して、税源移譲しても、従来の地方負担分は自己財源と起債とで賄われる。補助金は原則2分の1だから、残りの2分の1は自治体の負担分である。その従来の地方負担分のうち、地方債については、その起債限度額を自治体が自主的に定めておくことが求められる。議会による統制、住民による統制、首長による統制をどう組み合わせるかが課題である。

 また、起債の元利償還金を交付税で補填する仕組み、たとえば事業費補正は、補助負担金が一般財源化すれば当然廃止される。その際、税源移譲の効果が薄い過疎地域などでは、一定枠の「まちづくり交付金」のような、自然環境を保全し、または再生する事業費に充当する総合交付金(各省庁にまたがる)が検討されても良い。

6、先駆的事業への支援

 一方で、経常経費のうち新規の事業で地方自治体にいまだ定着していない事務に関しては、それが国民の新しいニーズに応え、将来的な公共サービスの有力な構成要素として自治体の行政に定着するべきものは、当面は交付金的な補助負担金として位置づけることも考えられる。事務としては、国と地方自治体が相互に責任を分かち合う共同事務として考えることもありうる。経常経費のうちどの事業をこのような共同事務とするかは、当事者団体も入れた委員会での検討を経て、国会で(予算で)定める。

例えば、04年度から始まっている障害者に対する支援費支給制度などである。この支援費は、障害者が自らの責任で各種福祉サービスを購入し利用することを支援する、そういった制度である。障害者に支援費を支給する事務は、まだ自治体の仕事として定着はしていないが、急速にそのニーズは高まっている。その公共サービスに関する専門職員の育成や、利用者とその団体やNPOなどとのネットワークの形成などによって、各市町村において障害者を支援する仕組みを作るには時間がかかる。その時間が5年か、7年か、10年かははっきりしていないが、定着するために必要な期間は、自治体と国とが協働していかなければならないであろう。

 このタイプの先駆的行政の開拓については、市民との協働をすすめる観点からも、しばらくは補助金等でそのプロモートをすることが望ましい。行政サービスのリニューアルのためには、先駆的事業を立ち上げる支援はまだ必要である。また、自治体の着手した実験的事業の立ち上げを、財源的に支援することも重要である。ただし、先ほども言ったように5年か10年か、期限は切りたい。使い道については、細かい補助条件ははずし、現場が使いやすい交付金タイプが望ましい。

7、生活保護費の考え方

 問題は生活保護事務とその類似タイプの事務である。考え方は二つある。ひとつは、生活保護費の支給という仕事は所得再配分や所得保障の機能であって、本来の政府機能からいえば、国の事務であり、その支給に要する経費は全額、国が持つべきだという議論がありうる。生活保護費の経費の負担割合は国が10分の7、自治体が10分の3という、国にウェイトがかかった負担割合になっているのはそういう事情を反映している。

その際、国にはそのように直接に現金を給付する事務所をもっていないから、給付事務そのものは、年金と同様に郵政公社等に委託し、郵便局で支払えばよい。つまり生活保護は国に一元化することとなる。国民年金事務が市町村から社会保険事務所に移管されたのと同じことである。

もうひとつの考え方は、生活保護事務を所得再配分機能とともに、住民の自立を支援する仕事と複合したものととらえ、都市の自治事務として構成する考え方である。この考え方は、いまのところ圧倒的に少数派だと思われるが検討する価値がある。生活保護事務を現金給付事務として狭く捉えると、生活保護受給者数を少なくしていく自治体としてのインセンティブは働かない。まず自治体には直接の経費負担がないから関心を持つことが難しい。ただし、都市生活者の生活条件を整えるという観点からは、なにも出来ないということにもなりかねない。

つまり市民である生活保護受給者の自立を支援することによって、生活保護という貧困から脱出させ、ひいては自治体の生活条件全体を改善し、活性化することも可能になる。いわゆるソーシャルワーキングという仕事を自治体で確立し、都市の貧困問題を現金給付のみの狭さから解放する。そのことによって、将来的には自治体の財政負担を軽減することにもつながる。

このためには、04年3月1日から、無料職業紹介事業(脚注4 「改正職業紹介法第33条の4 地方公共団体は当該地方公共団体の区域内における福祉サービスの利用者の支援に関する施策、企業の立地の促進を図る施策その他当該区域内の住民の福祉の増進、産業経済の発展等に関する施策に関する業務に付帯する業務として無料の職業紹介事業を行う必要があると認めるときは、厚生労働大臣に届け出て当該無料の職業紹介事業を行うことができる。」)が自治体にも解禁になっているという条件を生かし、就労支援事業に取り組む。住環境の整備や、健康保健政策など、自治体の総合的な自立支援事業の展開が期待される。ソーシャル・ウェルフェアからワークフェアへという方向性が、自治体というレベルで可能になると考えることもできる。これがもうひとつの考え方である。

8、ふたつの原則

 いずれにしても、地方自治を確立するためには、「国庫補助金は原則廃止し、基本は税源移譲とする」ことを原則とする。

その条件がないか乏しい財源不足地域には、交付税や総合交付金という一般財源の傾斜的配分を考える。この一般財源の再配分は、自治体間の水平的な財政調整機能として構成されても良い。すなわち自治体の「連帯」によって「住民と地域の自立を図る」という原則も必要である。このような二つの原則で、この夏から秋の第二ラウンドを考えたい。

その際、国の側にもある地方自治体への「指導意識」を克服することはもちろん、都道府県や市町村の側にも根強くある、自らが作り出した幻影の「国や府県の指導にしたがう」、ありもしない「国の意向を尊重する」、「自らは判断しない」という官僚主義的な意識と戦うことが、われわれにとって重要なテーマであることは言うまでもない。

一方で、法令を自らの責任で解釈し、適用し、そのために新たな立法や制度枠組みを構想し、政策化すると言う新しい流れが各府県や市町村で活発になりつつあることに期待したいと思う。

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