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市町村合併と財政問題

(初出:公職研『地方自治職員研修臨時増刊 合併する自治体、しない自治体』
02年3月)
(2005年5月に新合併特例法等による財政支援の廃止について修正を加えた。)

 市町村合併をめぐっては、いくつかの財政に関する問題、とくに地方と中央政府、そして府県の財政とに関連にしての問題がある。
 第一には、合併を推進する論理のひとつとして、マクロレベルでの財政の効率化があげられる。人口規模の小さい市町村の場合、規模が小さくなればなるほど住民一人当りの行政コストが高くなるというスケールデメリットがある。このスケールデメリットを一定程度緩和するために合併が進められているという側面があることは事実である。このような合併効果は、しかし、直ぐには生じない。むしろ合併の当初、5年程度は、財政支出は拡大することになる。「新市町村建設建設計画」に基づく「新規事業」や「継ぎ足し事業」が集中するからである。合併のスケールメリットが生きてくるのは、25年から30年後になると考えられる。

 住民基本台帳の人口の合計が67,796人である京都府の6町村(峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町)が合併してひとつの市を構成するとして、現在67、722人の福知山市と比較すると以下のようになる。

平成10年度「市町村別決算状況調」から作成。
  人口 歳出規模(千円) 普通地方交付税額(千円)
合併市 67,796 33,239,879
(合算)
10,145,434
(合算)
A市 67,722 29,069,943 4,453,255

 歳出規模は新合併市町村のほうが14.3%ほど大きいこと、新合併市町村の普通地方交付税は2.28倍あること、がわかる。この歳出規模の相対的な大きさがどこまでスケールデメリットによるものかは、判断が難しい。したがって合併効果がどこに出てくるかも読むのは難しいであろう。しかし、特別職の給与や委員の報酬などは、直ちに減少するというかたちで利いてくる。いずれにしても、合併市町村は、交付税の合併算定替の特例が切れる10年後を目指して、経常経費を中心として、平成10年度をベースにすると15%程度の歳出規模の圧縮を目安として徐々に、かつ計画的に整理を進めることが求められる。この減少の程度は、歳出の合算額から年率にして1〜2%程度のマイナス幅ということになる。
 普通地方交付税の額は、半分ということにはならないが、一本算定の水準にまでは11年後から15年後には減少することになる。
 それに考慮しなければならないのは、合併当初の建設事業にともなう後年度負担の増加をどの程度的確に掌握できるか、という問題である。

 ここで、合併に伴う、あるいは合併を支援する財政措置になにがあるかを一覧しておきたい。総務省の示すところでは、まず合併市町村には以下の財政措置が準備されている。

1、特別交付税による支援。合併年度またはその翌年度から3年度にわたって特別交付税を新規に交付する。(平成17年までに合併した市町村に対して)(廃止)
(1)合併に伴うコミュニティ施設整備、総合交通計画策定など新たなまちづくり
(2)公共料金の格差是正のつなぎ施策費用
(3)公債費負担格差是正
(4)土地開発公社の経営健全化等の需要を包括的に措置する
 支援規模は、10万人同士で12億円程度、5万人同士で9億円程度、1万人同士で6億円程度、の交付税を配分する。

2、特別交付税による措置(その2) 合併移行経費に対するもの。合併前における電算処理システム統一等の経費に対して措置する。

3、普通地方交付税の算定の特例。合併後10ヵ年度は、合併しなかった場合の普通地方交付税を交付する。その後5カ年度は激変緩和措置がある。
 新合併特例法では、17年度18年度の合併では、その日の属する年度及びこれに続く9年度、19年度20年度の合併ではその年度及びこれに続く7年度、21年度の場合はその年度及びこれに続く5年度について、合併算定替えを適用し、その後5年度について激変緩和措置期間で、6年度目から一本算定に。

4、まちづくりのための建設事業に対する措置。合併後10ヵ年度は、新市町村建設計画に基づく特に必要な建設事業に合併特例債を充当。事業費の95%に記載を認め、元利償還金の70%を普通地方交付税の基準財政需要額に算入する。(廃止)

5、新市町村振興のための基金に充当する合併特例債。充当率95%、元利償還金の70%を交付税措置。(廃止)

6、普通地方交付税の合併補正による包括的財政措置。
(1)基本構想等の策定や改訂、システム統一、ネットワーク整備。
(2)行政水準・住民負担水準の格差是正。
7、都道府県の行う合併支援策への財政措置。都道府県が合併市町村に交付する補助金、交付金に対して特別交付税を配分する。

8、合併協議会の負担金、啓発事業への特別交付税措置。

9、都道府県の行う合併推進のための調査研究、機運醸成事業への普通交付税措置。

 ここに挙げられているのは、第一に、特別地方交付税の交付であり、第二に、合併特例債の活用である。そして第三に、普通地方交付税の合併算定替および元利償還金の需要額算入、そして合併補正である。
 この中で、もっとも強力なのは普通地方交付税の合併算定替で、合併が無かったものとして構成市町村ごとに普通地方交付税を算定し、合算にして交付するもの。この特例期間が5年から10年に延長されたことが、特に大きな意味をもっている。
 特別交付税措置は、目先の不安を少しでも緩和することを目指した、現金による目に見える支援措置だといえる。
 また、合併の準備過程に対する財政支援措置が2,8,9などのように織り込まれているのも特色である。
 なお、既に合併をした、盛岡市、北上市、水戸市、ひたちなか市、鹿嶋市、あきる野市、飯田市、篠山市の平成12年度における合併算定替と一本算定の結果は下記のようになっている。

普通地方交付税の比較(単位:百万円)(自治省財政局『平成11年度 地方交付税等関係係数資料(市町村分)』から作成。)
  一本算定 合併算定替
盛岡市 144,144 144,044
北上市 8,395 9,138
ひたちなか市 5,099 5,320
水戸市 4,987 5,801
鹿島市 959 2,027
あきる野市 3,372 4,257
飯田市 8,674 9,249
篠山市 5,136 7,178

 このように、一本算定と合併算定替とでは、相当の違いががある市と、それほどの差がないところとがある。合併算定替に過大な期待をすることは避けなければならないわけである。要は、合併後の財政運営のポイントとしては、一本算定を基礎にし、それを財政基準として一般財源の基礎体力として考えることが重要である。一本算定と算定替との差額は、それこそ余録として考えるくらいのほうが、後の財政運営に禍根を残す程度は低くなると考えておきたいものだ。

 合併特例債のうち新市町村建設事業に基づく事業債は、起債充当率95%、交付税算入率70%という非常に使いやすい起債といえる。この建設事業に係る合併特例債の発行可能な額の試算は、総務省のホームページにそのフォーマットがあり、当該市町村名を指定するだけで、計算を行ってくれる。先ほど見た京都府の丹後地方の六町村、すなわち峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町の場合、合併から10年度間の標準全体事業費は約383億円、そのうち95%が起債として364億円、普通地方交付税にはその70%の255億円が算入される、という試算結果を示してくれる。
 つまり、10年間にわたって平均して投資を行うとして一年間に36億円の起債が認められ、そのうち7割は交付税として帰ってくるという見通しを得ることができる。ちなみにこの6町村が平成10年度に起した起債額は、合計で33億3870万円(『市町村別決算状況調』)であるからこれをやや上回る起債が、有利な条件で出来るということになる。

 さらに、この建設事業を後押しするために、関係省庁による支援措置が示されている。この支援措置は、平成13年3月28日に第一回会合を開いた市町村合併支援本部(本部長総務大臣、本部員が各省庁の副大臣)がとりまとめたもので、以下にその主なプランを紹介しておきたい。非常に盛りだくさんなため、全体は紹介しきれないが。
 いずれも平成17年3月までに合併した市町村で、都道府県から合併重点指定地域に指定された地域が対象地域である。

1、市町村合併支援財政措置。前記の財政措置に加え、
(1)税制上の特例措置。不均一課税をすることができる期間を3年から5年に延長する。同期間における課税免除の特例を創設する(法案を提出済み)。
(2)市町村合併推進体制整備費補助金。都道府県と市町村の合併準備に対する国庫補助金の交付。
(3)都道府県の行う合併支援事業への財政措置。合併市町村一体化のための道路整備事業などについて起債と交付税措置による支援を行う。
(4)公営企業に係わる財政措置。
2、具体的な支援措置の事例。(これらについては07年度以降に存続しているかどうかは未調査である。)
(1)道路の整備。合併を支援する道路等を優先的に、重点的に整備する。市町村合併を支援する道路。地域連携強化支援道路事業。交流ふれあいトンネル・橋梁整備事業。離島道路・架橋促進事業。
(2)地方バス補助事業。港湾改修事業。
(3)中心市街地活性化事業は合併市町村の数だけ認める。
(4)住環境の整備。公共賃貸住宅の再編整備事業。公営住宅の建て替え促進。住宅マスタープラン等の限度額特例。関連公共施設整備事業。
(5)公園・緑地の整備。
(6)廃棄物処理対策の推進。100t/日以上の炉の優先整備。ごみ焼却施設解体撤去事業。
(7)上水道整備事業。水道事業統合計画策定支援。
(8)下水道整備。流域下水道事業の特例。農業集落排水事業。公共下水道事業。 (9)消防・防災・国土保全の推進。
(10)保健・医療・福祉の充実。介護保険広域化支援。国民健康保険広域化支援。シルバー人材センター支援。
(11)教育の充実。教職員定員の激変緩和措置。遠距離通学への対応。公立学校施設整備。共同調理場など学校給食施設整備事業。廃校の有効利用。
(12)産業の振興。
1 農林水産業。地域用水環境整備事業。地域用水機能増進事業。広域営農団地農道整備事業。一般農道整備事業。田園交流基盤整備事業。中山間地域総合整備事業。林道開設事業。林業地域総合整備事業。水産物供給基盤整備事業。
2 商工業の振興。
(13)連携・交流による開かれたまちづくり。農村振興総合整備事業。まちづくり総合支援事業。将来構想、振興計画の策定事業。離島振興特別事業。コミュニティアイランド事業。離島交流推進事業。
 この合併支援事業の一覧を見ると、市町村合併によってもっとも優先的に整備されるのが、おそらく道路であり、トンネルと橋梁である。また廃棄物焼却炉の廃棄解体・新設事業、下水道と上水道事業、地域用水の整備、広域農道や一般農道、農村振興総合整備事業などが積極的に推進されることになりそうである。

 このような補助事業を合併特例債とを組み合わせた、建設事業中心の新市町村の一体化事業が花盛りという状況が予想される。
 したがって、まず新市町村建設計画における財政計画において、これら合併特例債にかかる事業を、どれだけ行うか、その地域的バランスを考えながら、優先順位をつけることが求められる。後々の元利償還を考えて、一般財源での対応力の範囲内に、これら投資的事業をコントロールすることが必要になる。ということは、このように旺盛な投資的事業への誘導策を、地域の長期的な財政的な力量に合わせた事業の範囲にコントロールするためには、新市町村建設計画において、よほどしっかりした事業計画が合意されていることが必要になるだろう。
 特に、合併を促進するための財政的な支援措置が、かなり投資的事業に傾斜していること、一方で将来的には人件費を中心とする経常経費の、類似都市なみへの圧縮が避けられない(交付税が一本算定になり、他の類似都市なみに縮小されるから)とすると、建設事業中心型の都市行政になる可能性が高いのであるから、ソフト面での町づくりについての相当に明快な施策の展望があってしかるべきなのだ。

 政策的な優先順はどのようにつけるか、その基準はなにになるか。その基準は次の三つの側面からなると思われる。
 第一には、住民のニーズである。この住民ニーズの最大の柱は、高齢社会への対応である。少子・高齢化社会対策といってもよい。第二は、雇用開発を含む地域活性化であり、第三は学校教育と生涯学習施策、第四は地球環境政策ということになろう。これに防災など安心と安全、IT革命への対応などが考えられる。
 つまり、これからの市町村の施策の柱とその重点化が精力的に行われ、その前提としての住民参加(声のとどきにくい人たちの声を汲み上げる仕組みが工夫されるべきだ)のしかけが是非必要になるはずである。これは、市民参加による「町づくり指標」といった評価システムの構築を必要とするであろう。
 第二の側面は、市町村の実施すべき事務事業を、その法的根拠に遡って洗い直し(政策評価システムにおける事務事業評価、棚卸し)、事務事業の実現すべき政策目標を明確にすることである。そこから事務事業のスクラップ・アンド・ビルドのためのひとつの基準が示され、行政的な内部改革が行われる必要がある。これは、同時に「分権改革」の、市町村における実現課程でもある。
 その中で、府県の役割、国の役割をも見直し、適切な協力と協働の関係が組み立てられなければならない。
 第三の側面は、国際的基準あるいはナショナルな基準である。それは、例えば男女協働参画社会の実現、CO2排出基準、大気汚染や水質汚染に関する環境基準、ダイオキシンの排出基準、障害者の雇用率、などの基準達成といった物差しである。
 これからの地方自治体の目指すべき政策課題は、これらの三つの側面、あるいは三つの柱を軸に再構成されることになろう。
 新市町村建設計画は、少なくもこの三つの側面に沿うかたちで、高齢化、環境、教育、地域活性化、安全と安心、IT革命という6つの政策の柱を中心にその目標を実現するように組み立てることが望ましいと思われる。この間の新市町村建設計画は、公共事業の受け皿として、開発事業を町づくり計画に位置づける、従来の都市計画プランナーのそれが下敷きになっているように見受けられるから、それを脱却して、明確な30年後の都市像をしめすことが求められる。
 特に、財政資金への依存という地域経済体質を作らないよう、すでにそれが強力にある場合には、それを克服するような施策に結びつける建設計画であってもらいたい。つまり、財政資金への依存から、地域の住民の力と知恵を活かす、そのような地域住民の生きてい行く力を引き出すような施策の体系であるべきなのだ。その際、問題の発見と解決は、地域という現場で考えられることが大事だ。そしてあくまで利用者を主体とした政策をいかに実現するか、そういった観点から全ての政策が見直されるとよい。

 ところで、このように小規模町村ほど財政需要が割高になる傾向をカバーするために、普通地方交付税を計算するための基準財政需要額の算定において、段階補正という補正が置かれているのである。これは行政が行政として存在するために必然的に持たざるを得ない「公平性の確保」と「政治への信頼」を担保するための経費である。住民は国土の中でどこに居ようが、基本的に同じ程度の行政サービスを受けることが保障されるべきだからである。
 このことが小規模町村の存続を支えてきたという観点から、財政資金の非効率な投入というやや一面的な批判を生むことにもなっている。このような人口規模の小さい市町村にたいする財政支援をどように考えるか、という問題があることは事実である。この問題は、市町村合併が政府の目指す1000市町村という水準にまで進んだにしても、大きな問題として残ることは確実である。というのは、過疎山村や離島など、合併の相手が十分にないところが、結局のところ「合併困難地域」として残るからである。
 このような、「合併困難地域」の町村はどのように考えたらいいのであろうか。第一には、現在の地方交付税をやや縮小するものとして中期財政計画を策定し、その範囲で、地域活性化施策や福祉・保険施策の展開を考えたい。この縮小幅は、一概に言えないが、10ヶ年で2割程度が縮小するとしておくのもひとつの見識といえよう。第二には、地域から出ていった市町村民のかたがたからの財政支援を制度化することも考えたい。ふるさと支援基金を一口5千円などといった小口からの積み重ねによって構築することなども考えられてよい。さらに旧住民ではない応援団からの恒常的寄付を基金とすることも、既にあちこちで行われている。
 それらの支援部隊の基金もひとつの財源として、基本は、先にも触れたように、地域住民の力を引き出し、活性化する仕組みが必要である。つまり、外部的な財政資金を、それへの依存を脱却するための、地域の力をつけるために活用したい。それの達成度によって地域の未来も決定されるであろう。

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