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「住民自治の拡充」という課題
               第二期分権改革をめぐって
                 (初出:『自治日報』07年5月18日号)

                         奈良女子大学名誉教授   澤井 勝

                                    
 第一次の分権改革は機関委任事務制度の廃止を中心として、国と地方の関係を「対等・平等」なものとした。その核心は、法令の解釈権を自治体に付与したところにある。この分権改革の成果は、ようやく自治体現場に浸透しつつあるがまだまだの感もある。それは特に中央省庁の一部になお細かい統制を続けようとする向きがあるところにも見られる。だからこそ、法律による自治体に対する規律密度の大幅な緩和が、これからの第二次分権改革に期待されているのである。また、三位一体の改革では、交付税総額の圧縮とともに補助金の一部廃止と地方税への税源移譲が部分的に実現したが、引き続き国税と地方税の割合を11とする改革と交付税総額の確保が課題となっている。

 既にこれらの点については、各氏から的確な指摘がされている。ただまだ十分に議論されていないのは、「住民自治の拡充」についてである。委員会のヒアリングで西尾勝元分権委委員が指摘しているように(本紙427日)、第一期は「団体自治の確立に主眼が置かれたために、住民にはわかりにくい改革となった」ことも事実である。つまり、住民にとっては縁が遠い改革となっている。住民自身が自らの問題として、分権改革を捉えるようになるためには、この改革によって住民がどのような権利と自治活動の自由を確保できるかが明瞭になる必要がある。本来の主権者である住民を蚊帳の外においては自治体に「自己決定、自己責任」を求めることも実のあるものとならないはずである。第4回の分権改革推進委員会で小早川光郎委員も分権の理念として第一に「住民自治に向けての制度改善」を挙げているとおりである。

 そのためには、地方自治法における住民の規定を改めることも必要だ。現行の地方自治法はその10条の第2項で、「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う」と定めている。これが「住民の権利と義務」なのである。この規定は明治211888)年の「市制町村制」における「凡市住民タル者ハ此ノ法律ニ従ヒ公共ノ営造物並ビニ市有財産ヲ共用スルノ権利ヲ有シ及ビ市ノ負担ヲ分任スルノ義務ヲ有スルモノトス」以来の規定で、実に120年近い寿命を誇る。寿命が長いことが批判されるべきこととは必ずしも言えない。しかし、本条については次のような指摘がある。「本条の問題点の基本は、その後の若干の改正を経たにもかかわらず、本来能動的積極的な地方公共団体の主人公たる地位にあるべき住民が、自治権の主体たる地位を否定され、市町村という公法人もしくはその第一の構成要素たる土地に従属する「第二ノ構成要素」、行政客体と位置づけられたことにある。」(佐藤竺編著『逐条研究地方自治法第1巻』地方自治総合研究所、243頁)。

 国民に主権がなかった明治憲法下では、「自治権ノ主体ハ国家内ノ公法人ナリ」(美濃部達吉『改正府県制郡制釈義』明治32年)だったからである。新憲法下においても長くこの権利はいわゆる「反射的利益」であって、本来の権利ではないとされ、住民は多くの場合原告適格はないとされてきた。ただ昭和30年代から広く原告適格を求める判例も続き、つい最近では、横浜市の保育所の民営化をめぐる横浜地裁判決が、利用者である子供にも原告適格を認めている。

具体的には、住民の選挙権(11条)や直接請求権(1213条)など積極的権利も自治法にあるが、これらも含めて10条において、たとえば第3項を起こして、住民が自治体を組織する権利、運営に参加する権利、評価に参加する権利などを、一般的に例示的に規定することが検討されるべきである。

 一案としては、各地で広がっている「自治基本条例」や「市民と行政との協働推進条例」などの規定を自治法に盛り込んでいくこともよい。また自治基本条例自体の法的根拠を自治法に定めることも検討すべきである。ただし、基本条例を定めることは任意規定とし、細部まで自治法で縛ることはさけたい。特に参政権の拡充や住民投票権などは、条例で定める余地も確保したほうがよい。たとえば「住民は法律または条令に定めるところによりその代表を選挙する」などとすれば、上越市の地域自治組織委員の準公選制を法的にバックアップすることにもなる。

 地方六団体も積極的に具体的な住民自治の拡充案を提案していただきたい。それによって分権論がより住民に身近なものとなり、第二期分権改革の追い風となるに違いない。

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