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地域福祉と自治体行政

澤井勝(大森弥編著『地域福祉と自治体行政』ぎょうせい:所収草稿、2002年8月)


目次  1,新地方自治時代の自治体のあり方
(1)地方分権改革と福祉行政 (2)地方分権一括法 (3)なぜ地方分権か 
(4)新地方自治法と国・自治体の関係 ア、「地域の事務」と委任概念の廃止 イ、「自治事務」と「法定受託事務」 ウ、厚生労働省関連の法定受託事務 エ、条例による規制 
(5)国・県による関与の法定主義と指導概念の廃止 ア、自治法第245条の2 イ、通知の意味を読む 
(6)関与の類型 ア、基本原則 イ、関与の類型、助言又は勧告など
(7)国と地方の紛争処理委員会と争訟
おわりに


1 地方自治新時代の自治体のあり方

 

ポイント

1、 地域福祉の主たる担い手である市町村は、2000年4月以降大きな変化を経験している。それは、地方分権改革一括法の施行によって、「機関委任事務制度」が廃止され、国と都道府県、国と市町村の関係が、「対等・平等」な関係に再編成されことである。同様に、都道府県と市町村の関係も「対等・平等」な関係に再構成されている。

2、地方自治体の事務は、自治事務と法定受託事務とに位置付けなおされた、これらの事務は、「地方自治体が責任をもって実施する事務」という意味では同じであり、国の関与のあり方と程度が異なる。従来の通達はその意義を失っている。

3、国の関与は全て「一般法」(新自治法)に規定された範囲に留まる。この法定の関与には、「指導」という関与は廃止されている。福祉関係の仕事にあっても、国と都道府県、国と市町村、都道府県と市町村は、相互にその自立性と主体性を尊重しながら、協力し合って、地域福祉を推進することが求められる。

 

 

(1) 地方分権改革と福祉行政

地域福祉を考えるとき、その基本的な担い手であるわが国の地方自治体が、20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて大きな変動を経験してきたことを明確にとらえ、その意義について十分に把握しておく必要がある。

それは、自治体行政のあり方をある意味では根本的に転換するような改革であった。すなわち1999年7月8日に成立し、同月16日に公布され、翌年2000年4月1日に施行された地方分権一括法による改革である。

 地方分権改革については、これに先立って主に内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会を中心とする機関等で種々議論されてきた。また「小さな政府論」という観点から第二次臨時行政調査会(1981年〜1983年)とその後の三次にわたる臨時行政改革推進審議会(行革審)においても議論されてきた。

その中心的な論点は、自治権の拡充という観点から、また中央集権システムの是正を求める観点から、国庫補助金制度の改革や通達行政のあり方など多岐にわたるが、なかんずく「機関委任事務制度のあり方とその改革」であった。

今回の改革は、この「機関委任事務制度」を廃止したところに最大の特徴があり、この制度の廃止によって、国による地方自治体に対する関与を最小限のものとし、不透明な「通達による指導」を基本的に不要にしたところに最大の意義がある。

 

このことは、これからの地域福祉を考える場合、決定的な意味を持っている。というのは、福祉にかかわる行政システムは、集権的であるという点では教育行政や農水行政などの並ぶような特質を持っていたからである。特に「局長通知」「課長通達」など省令や、それ以下の行政通達が、強く府県と市町村の福祉行政を拘束していたように観測される。

厚生行政の場合、1986年度の国庫補助負担金の国庫負担率引き下げにともなって、「機関委任事務の団体事務化」が行われた。この点は、機関委任事務制度廃止の先鞭をつけたといえないことも無い。しかし、団体事務化が団体委任事務化であった側面は否めず、強い監督権限を厚生大臣や、都道府県知事に留保するものであったため、厚生行政の集権制とパターナリズムは温存されたといってもよい。この集権的性格は、しかし、国の「下部機関としての府県」、「国と府県の下部機関としての市町村」というヒエラキーのもとで、これら府県や市町村からの「指導の要請」によっても、強く支えられていたのである。

こういった集権的な厚生行政が、この改革によって、少なくも法制度としては分権的に再構成されているのである。そして今回の地方分権改革は、市町村の現場が、そして都道府県の現場が、自ら考え、自ら実行する自治的、自立的な福祉サービスの供給主体に、そして地域の多様な福祉サービス供給主体と利用者をコーディ−ネートする、新しい主体に転換することを求めてもいるのである。

 

(2) 地方分権一括法

機関委任事務制度の廃止を実現した今回の地方分権改革は、1993年5月の衆参両院での「地方分権に関する決議」によって、国会の審議事項として政治過程に浮上した。その後、この地方分権改革を政府の中心課題として位置づけ、政府方針として確定したのが1994年12月の「地方分権大綱方針(閣議決定)」であった。この大綱方針に基づき、地方分権法」の準備が進められ、1995年5月に「地方分権推進法」(6年で失効する)が成立した。この法律は同年7月に施行され、7月3日に第一回の地方分権推進委員会が開催されている。

地方分権推進委員会は、諸井虔氏を委員長とする7人の委員で構成され、この委員会のもとにふたつの部会と事務局がおかれた。委員会は任期5年(後に一年延びて6年)であった。この委員会の審議の柱を機関委任事務制度の廃止とすることを鮮明にしたのが1995年12月22日の委員長見解「機関委任事務を廃止した場合の従前の機関委任事務の取り扱いについて(検討試案)」の公表であった。

もっともこの段階では、多くの人々にとって機関委任事務制度が廃止になるということには、半信半疑であったといってよい。それまでにも機関委任事務制度の廃止が何度も提言されてはいたが、いずれもそれ以上の効果は生じなかったからでもある。

その後地方分権推進委員会は、96年3月に「中間報告」を行った。この中間報告で、委員会として「機関委任事務制度の廃止」を明確にし、さらにその廃止後の分権型社会の創造を提起した。

 1996年12月に第一次勧告、1997年7月に基本答申となる第二次勧告、97年9月に第三次勧告、そして同年10月に第四次勧告となった。政府はこの勧告を受けて、分権推進計画を1998年6月に策定し、立法過程に入る。このようにして1998年一月の通常国会に「地方分権一括法」が提案され、若干の修正を行って、前記のように1998年7月8日に成立し、2000年4月1日施行された。この分権一括法は、475本の法律の改正を一括して改正しようとするものであった。

 旧厚生省の所管する法律のうち、この分権一括法の本則で改正されたのは、老人福祉法や健康保険法、児童福祉法、民生委員法、医師法、身体障害者福祉法、母子保健法、社会福祉事業法、生活保護法、児童手当法、知的障害者福祉法、介護保健法など94本、一括法附則におけるものが精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正、など4本となっている。

 

(3)なぜ地方分権改革か

 では、なぜこの時期に地方分権改革なのであろう。そのねらい等を、機関委任事務制度の廃止を明確に掲げた96年3月の「中間報告」を中心に見ておきたい。この「中間報告」では、分権改革のバックグラウンドについて次のように述べている。

 地方分権改革を必須とする理由は基本的には、中央集権型行政システムの制度疲労である。わが国の中央集権型の行政システム(機関委任事務制度と国庫補助金制度)は、その近代化と経済発展に寄与したことは一方の事実であろう。しかし、その弊害もある。すなわち、「国民国家の統一のために地域社会の自立を制約し、国民経済の発展のために地域経済の存立基盤を掘り崩す。権限・財源・人間、そして情報を中央に過度に集中させ、地方の資源を収奪し、その活力を奪う。全国画一の統一性と公平性を重視するあまりに、地域的諸条件の多様性を軽視し、地域ごとの個性ある生活文化を衰微させる。」(「中間報告」第一章)。

 この弊害は、わが国の政治・行政を取り巻く国際・国内の環境の急激な変化に対応することを困難にしている。その環境変化とは次の点である。

 第一には、冷戦構造が解体した条件で、国の各省庁が国内事情にかまけているために、激変する国際情勢に、十分に迅速かつ的確に対応することに失敗しているのではないか。国の各省庁を国内問題に対する濃密な関与から解放して、その役割を純化し、強化するべきである。

 第二には、東京一極集中の是正である。このゆがみを是正するためにも、地方分権によって「多極分散型の国土形成」を実効あるものにする必要がある。

 第三には、個性豊かな地域社会の形成である。その認識として、「この間に多くの行政分野でナショナル・ミニマムの目標水準を達成し」たとしている。その上でナショナル・ミニマムを超える行政サービスは、地域住民のニーズを反映した地域住民の自主的な選択に委ねるべきものとしている(このことは最近はローカル・オプティマムというようだが、これは京極高宣氏が地方老人保健福祉計画に関連して述べている)。

 第四には、高齢社会・少子社会への対応である。「わが国では今日、他国に類例をみない

急激なテンポで高齢化が進み、その反面では少子化が進んでいる。そこでこの人口構成の急激な変動に対応する各種サービスの供給体系の構築が急務になってきており、高齢者に向けては保健・医療・福祉及び生涯学習関連のサービス相互の緊密な連携が、幼児児童に向けては保育・教育関連のサービスの再編成が要請されている。」

 

 これらの環境変化に対応するために、機関委任事務制度を廃止し、地域住民の自己決定・自己責任の体制を構築する必要があるとしたのである。

 

(4)新地方自治法と国・自治体の関係

 今回の地方自治制度の改正は、先にも述べてきたように、「国と地方との上下・主従関係」を「対等・平等の関係、あるいは対等・協力の関係」に変えるための制度改正であり、機関委任事務制度の廃止であった。この「対等・平等の関係」を確立するための一般法としての法的な根拠は、改正地方自治法である。改正後の新地方自治法は、一方で機関委任事務制度廃止のための地方自治法の中にある条文を改正すると共に(同時に対応する国家行政組織法も改正)、新しく章をたて、あるいは新しい条文を追加している。それは機関委任事務制度を廃止したのちの自治体の事務の再構成と、国による関与の法定化に関わるものである。

 

(ア)、「地域の事務」と団体委任を含む委任概念の廃止

 機関委任事務制度を廃止した後の地方自治体が担う事務について、新地方自治法の第1条の2を設けている。

すなわち、同条第1項で「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ること基本として、地域おける行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と規定した。

この「地域の行政」とは、「憲法に定める地域的な統治団体として国家作用のうち立法、司法以外のいわゆる形式的意味における行政のうち、地域的な性格を有する行政を担う主体であることを表している。」(松本英昭『新地方自治制度詳解』ぎょうせい、平成12年4月、85頁。以下『詳解』と略記)。この条文で、地方公共団体が地域的な統治団体として、行政の主体として、位置付けられた。

また第2項において、国は本来果たすべき役割を重点的に担うこととし、「住民に身近な行政は出来る限り地方公共団体に委ねることを基本」とするとも定めている。

 その上で、第2条第2項では、「普通地方公共団体は、地域における事務およびその他の事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」と定めている。

 「地域における事務」とは、普通地方公共団体の事務・権能を規定するもので、普通地歩公共団体は事務執行と権能を地域において広く担う主体として位置付けられた。旧法における普通地方公共団体の事務、すなわち「その公共事務及び法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に属するものの外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属さない事務を処理する」とされ、いわゆる固有事務、団体委任事務、行政事務という三種類の事務があるとされていたのに対し、この規定を廃止し、「地域における事務」としたものである。

 つまりこの「地域における事務」とは、後述の「自治事務」、「法定受託事務」を含む地方公共団体の事務全般のことを指している。重要なことは、「委任概念の廃止」ということである。団体委任という考え方も、機関委任という考え方を廃止するともに廃止されていることに注意してもらいたい。

そして「自治事務」と「法定受託事務」は、後述するように、地方自治体の事務であることには変わりはなく、ただ国の関与の程度等に差異があるに過ぎない。

 もうひとつ、「法律又はこれに基づく政令により処理することとされる事務」とは、「地域における事務」とは言えない事務であっても国家機構のひとつとして普通地方公共団体が処理する場合があることを想定した規定で