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地域福祉計画および地域福祉行動計画策定に向けて
           ――奈良県宇陀郡菟田野町への提案から

奈良女子大学 澤井勝


  本稿は地方自治総合研究所編『日本の地方自治』所収予定の最終稿である。菟田野町の9月3日第3回地域福祉行動計画策定委員会には、この草稿を元に手直ししたものを提案した。10月の策定委員会では、これをさらに地区懇談会の議論を生かす形で、住民にわかりやすくした行動計画草案が事務局サイドから再提案され、活発に議論されている。

目次

序章/(1)ガバナンス時代の地域社会と地域福祉計画/ あるまちで考えてみる
これまでの調査と住民参加/住民意識調査、地区別住民懇談会、部門別住民懇談会

第1章 地域福祉計画と地域福祉行動計画の意義 1 いまなぜ地域なのか 2 社会福祉法と地域福祉行動計画の意義/(1)計画の総合化としての地域福祉計画/(2)行動計画としての地域福祉計画/(3)地域社会(まち)づくりとしての地域福祉計画  3 地域とはなにか コミュニティのサイズを考える

第2章 地域福祉計画の特徴  1 住民主体と言うこと  2 住民ニーズに立脚すると言うこと  3 住民参加と福祉活動計画の4つの領域 (1)地区ごとの住民活動計画(コミュニティ型組織の地域福祉活動計画) (2)行政の各課、各部ごとの事業計画  (3)住民組織ごとの事業計画(アソシエーション型の住民組織) (4)事業者の課題課題と活動計画  (5)当面の活動方針  4 計画の考え方 あるものからの出発

第3章 地域福祉の基本理念と基本政策  1 基本理念 その1,「お互いに大切にされるまちをつくる」。事例15.その2,「自立した人々が共に生きるまちをつくる」2 5つの基本政策 (1)ひとづくり、地域づくり (2)生活を総合的に支援する (3)利用者の権利擁護、基本的な人権の保障、安全と安心、(4)健康作りを進め健康寿命を伸ばす (5)自治体行政改革 実行とその評価

第4章 地域福祉の5つの重点テーマと行動計画 テーマ1,住民参加となかまづくり  テーマ2,自立支援事業の展開 テーマ3,健康づくり  テーマ4、地域社会づくり  テーマ5、町全体として地域福祉推進のための政策課題

おわりに


序章           

(1)ガバナンス時代の地域社会と地域福祉計画

本稿では、これからの地方自治と市民のあり方を、「地域福祉計画」の策定作業を通して考えていくこととしたい。というのは、この「地域福祉計画」は、市民が地域福祉およびまちづくりそのものの、行政と並ぶ主人公として措定されている計画であるため、市民・住民と行政とが、ともに統治に関わる、そういう新しいシステムへの移行の重要な梃子となるとも考えられるからである。もし可能であれば、それは地域社会におけるガバナンスの時代を先導する施策となるかもしれないとも思われるのである。(注1)

 我が国の社会福祉システムは、1990年代に大きく変わってきた。いわゆる措置制度から契約制度への移行、市町村への分権化、施設への収容から在宅福祉への転換、そして租税投入中心型から、保険料と利用者負担へ、国庫補助事業中心型から一般財源を主軸にした財政方式への切り替えなど。これらの改革は、「福祉のパラダイム転換」、「「福祉国家から福祉社会へ」という方向での改革といってよい(注2)。

すなわち、集権性から分権化へ、供給側主体の行政処分としての措置から利用者主体、当事者主体へ、という大きな転換である。行政主体から住民、市民主体へといってもよい。もちろん、厚生労働省はこれまでの専門化集団の抵抗の度合いによって、その濃淡は強くあるのが実情である。とはいえ、この改革は、いわゆる福祉三プラン、すなわち高齢者保健福祉計画、障害者基本計画、子育てプランというかたちで政策推進のための社会計画の整備とその予算措置、財源保障というかたちで進められてきた。この三プランは、国と都道府県そして市町村レベルで策定されている。このうち高齢者保健福祉計画とのちの介護保険事業計画は、全ての市町村で作られている(他は努力義務規定である)。

 この一連の改革は社会福祉基礎構造会改革ともいわれている。その集大成が、2000年度から施行されている介護保険制度であるといってもよい。特に、財政面での保険料と租税との財源ミックス、利用者負担、そして要介護認定による機会均等の保障の仕組み、ケアマネージャーという専門家集団の設置とケアプランの策定の義務化、および地域ケア会議などのコミュニティケアへの接近が図られている。

 そしてさらに、この三プランプラス介護保険という政策的なツールの整備を仕上げるかたちで、2000年6月の社会福祉法の一環として「地域福祉計画」の策定が市町村に求められている。この「地域福祉計画」について、03年度現在、多くの市町村が策定の準備過程にあり、これから策定が本格化することが期待されている。(注3)

「地域福祉計画」は総合的で具体的な計画であり、また住民を主導とする計画策定が必須とされている。いわば、各市町村の住民のエンパワーメント(地域活動力あるいは住民統治能力を引き出し、強化すること)を目指す、野心的な計画である。このためもあって、なかなか計画策定に踏み切れないのかもしれない。いわば、行政と市民とのパートナーシップを、地域福祉という政策領域で実現するための行政計画なのである。さらに言えば、ガバナンス時代の地域福祉を構想し、それを梃子として地域社会のあり方総体を変えていこうという展望をもった新型の行政計画だということもできる。

もうひとつ「地域福祉計画」の策定が進まない理由として、市町村合併の動きがある。このような、住民を一方の主体とするような計画策定は、合併後の新市の事業として先送りする方が無難とする空気が強い。しかし、逆に考えると、この市町村合併の時期こそ、従来の考え方に囚われず、新しいパラダイムでの地域社会づくりの梃子とのひとつとして、この「地域福祉計画」策定を考えてみるべきだ、ということもありうると思われる。このこと(新しい地域社会づくりのツールとしての地域福祉計画策定とその推進)は、合併論議に距離を置く自治体にとっても、同じように大きな意味を持っている。

(2)あるまちで考えてみる

こういった観点から、この「地域福祉計画」の策定作業を進めている事例を紹介しながら、これからの地方自治と域社会づくりについて考えてみたい。なお、並行して、大阪府地域福祉課の「地域計画支援計画」の作業、および大阪府堺市「地域福祉計画策定委員会」および「同協働部会」にも参加しているため、それらの委員会などでの議論も強く反映しいていることをお断りしておきたい。また、本稿は、具体的な「地域福祉活動計画」ではないし、「地域福祉計画」でもない。これは、それらの策定員会への提案にとどまる。実際の計画は、首長と行政、議会の議論を経て確定していく。これはそのためのたたき台であることをお断りしておきたい。

したがってまた、他の市町村において「地域福祉計画」を策定したり改定したりする際の参考となるように、やや一般化して記述していることもご理解いただきたい。

対象は、奈良県宇陀郡菟田野町である。本来は、町社会福祉協議会の「地域福祉活動計画」の策定作業として2002年3月に始まったものである。2003年8月時点では、町の「地域福祉計画」も平行して策定作業が進められ、ふたつの計画は渾然一体のかたちで作業が進められている。小さい町でのそれは利点である。以下に菟田野町の概要と福祉サービスの状況および住民参加と意識調査などの取り組みを示しておきたい。

住民基本台帳人口は、5004人(2002年5月1日現在、以下同じ)。65歳以上人口は1239人、高齢化率24.8%。75歳以上人口は553人。世帯数は1554世帯。単身の高齢者数107人。高齢者二人世帯が147世帯。

介護保険の要援護者数は209人。うち要介護5が19人、要介護4が22人、要介護3が28人、要介護2が35人、要介護1が42人、要支援は20人となっている。

身体障害者手帳保有者数が280人。

いきいきサロン(いきがいデイサービス)を町内の12カ所で月一回づつ実施している。のべ利用者数は年間1198人。配食サービスは登録制で登録者65人、週2回実施している。

移送サービスはボランティアで利用登録者16人、のべ利用回数381回/年。社協への登録ボランティアは、9団体および個人が243人。

 社会福祉協議会(基幹型在宅支援センターでもある)と社会福祉法人「特別養護老人ホームやまびこ」(地域在宅介護支援センター)とが2001年に受けた総合相談は647件である。内容は、介護保険と関連サービス、生活費等金銭問題、健康相談、子供の問題、離婚など家族問題、一人親の問題、近所づきあい、など多岐にわたっている。

(a)これまでの調査と住民参加

 次のような住民懇談会や住民意識調査と意向調査等を実施してきた。

@ 住民意識調査

    実施時期はいずれも2002年10月10日から11月10日まで。

ア、一人暮らし高齢者調査 調査票配布数57,有効票数53。

    民生・児童委員による留置式。

イ、高齢者のみ世帯調査  配布数203票、有効回答数179票。

    民生・児童委員による留置式および「いきいきサロン」における対面式聞き取  り調査。

  ウ、一般住民調査 配布数600票 有効回答数323票。郵送方式。

 

A 地区住民懇談会

特に重点は、住民自身が、地区における地域福祉と地域社会作りの目標と課題を発見することにおかれる。そのための地区(大字)の住民集会・住民懇談会、およびさらに小地域(小字)ごとの話し合いから解決すべき課題が見つけられ、どう行動するか、という合意が形成されることが望ましい。モデル地区としての岩崎地区では、03年3月から地区懇談会を数回開催し、さらに小字単位の懇談会に議論を広げている。

B 部門別懇談会

 02年6月から8月にかけて、ボランティア団体、介護者の会など当事者団体、民生児童委員、保健センター、小学校、中央公民館など行政関係者、という部門別の地域福祉に関わる懇談会各2時間、3回にわたって開いた。ここでの多様で切実な意見を、ニーズとして捉え返すことが重要である。

第1章 地域福祉活動計画の意義

1 いまなぜ地域なのか

 社会福祉法が改正されて、2003年度からすべての市町村に「地域福祉計画」を策定するように求められている。1990年のいわゆる福祉八法の改正に始まって、この10年ほど、各市町村においては高齢者保健福祉計画(老人福祉法と老人保健法に基づき全ての市町村に制定を義務化している)や障害者基本計画(障害者基本法第7条の2第2項、および第3項によって都道府県と市町村に作成の努力義務)、子育て支援計画などが策定されてきた。都道府県では、市町村におけるこれらの計画策定を支援するための支援計画が策定されている。

そして介護保険制度の施行に伴い、1999年度中には、2000年度から2004年度までの介護保険事業計画も策定され、第一号被保険者の介護保険料などを条例で定めることなどが市町村の事務として行われてきた。なお、第二期の介護保険事業計画が03年3月には、各市町村において策定されている(計画年度は2003年度から2007年度)。このようなさまざまな福祉計画は、同時に、地域での福祉活動によって支えられることによってその真の目的が達成できる。

そこで市町村での福祉計画などの策定とならんで、地域福祉政策の主な担い手としての、社会福祉協議会においても市町村行政と連携した「地域福祉活動計画」の策定が求められている。これのような地域福祉活動計画は全国社会福祉協議会からの提起として行われ、地域福祉推進計画などの名で既に策定されている府県もある。また小地域福祉活動としての実践とその活動計画として策定している市町村社会福祉協議会も少なくない。

2 社会福祉法と地域福祉計画

そして、先に見たように、2000年6月に社会福祉事業法を社会福祉法に改正することにともない、その第11章に「地域福祉の推進」が設けられ、社会福祉協議会に関する規定が置かれるとともに、第107条に(市町村地域福祉計画)として、次の努力義務規定を設けている。

「市町村は、地方自治法第2条第4項の基本構想に即し、地域福祉の推進に関する事項として次に掲げる事項を一体的に定める計画(以下「市町村地域福祉計画」という。)を策定し、または変更しようとするときは、あらかじめ、住民、社会福祉を目的とする事後湯尾を経営する者その他社会福祉に関する活動を行う者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、その内容を公表するものとする。

一 地域における福祉サービスの適切な利用の推進に関する事項

二 地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項

三 地域福祉の活動に関する住民の参加の促進に関する事項」

 この社会福祉法における「地域福祉計画」策定規定のもつ意義については、既にいくつかの重要な文献がある。(注4)詳しくはそれらを参照してもらいたいが、ここで概要として地域福祉計画の意義を整理すると以下のような点が重要であると思われる。

(1)諸計画の総合化としての地域福祉計画

 第一に、この社会福祉法に基づく地域福祉計画は、既存の行政計画、すなわち先に見た高齢者保健福祉計画や障害者基本計画、子育て支援計画、介護保険事業計画などの計画を、地域福祉のレベルから総合化するものだということである。これらの既存計画を、地域福祉政策として展開するための基本的な、総合的な計画だということが、まず押さえられなければならない。

 従って、具体的な施策としては、老人福祉施設を障害者福祉や子育て支援に活用し、逆に、保育所や幼稚園、統廃合された学校や余裕教室を高齢者福祉や障害者福祉に活用する事業が展開されるべきである。そのような、行政の縦割り割拠主義を越えた、各福祉政策を、あるいは福祉事業を、地域レベルで相互乗り入れを実現し、人々の生活の実態に即した、統合的な地域福祉政策としていくことが「地域福祉計画」の主たる課題であるということもできる。

また同和事業施設である隣保館や解放センターをこれら福祉施策の拠点としても生かす。そして、社会福祉協議会の関わるボランティア組織を地域福祉政策の担い手として、その活動を支援し、さらにその活動と組織の強化を目指す。さらに教育委員会、公民館の関わるボランティア団体、社会教育組織、サークルも、地域福祉政策の重要な担い手として積極的に位置づけ、連携を図っていくことが求められる。

つまりこのような統合的な「市町村福祉計画」を策定する行政側の委員会には、地域福祉課、介護保険課、老人福祉課、児童福祉課、障害者福祉課、生活保護課などの民生部局は当然ながら、教育委員会と学校教育課、社会教育課、中央公民館などや、人権啓発課、市民課、社会福祉協議会事務局、保健センターまたは保健所、病院局(課)や市立病院総務課、消防局(課)あるいは消防署、当該地区所轄の警察機関、等が参加することが求められる。

(2)行動計画としての地域福祉計画

第二には、地域福祉計画は、行動計画でなければならない、ということである。市町村の「基本構想に即し」と規定されていることから、抽象的で宣言的な「計画」として曲解し、「計画書」をつくることで「予算消化する」という取り組みは厳にいましめたい。この「地域福祉計画」は、様々な地域福祉にかかわる主体が、それぞれの領域において、基本政策を推進するために複数の重点テーマあるいはアジェンダ(課題)を解いていく活動計画の束として組み立てられる必要がある。

従ってまた、これらの活動計画は、さまざまなプロジェクトの集合体として、住民や福祉活動を推進する人々にわかりやすいものである必要がある。このことによって政策評価が誰にでも明瞭なかたちで行うことができることになる。

 このような事情のほかに、いろいろな経済活動や社会活動の広がりによって、つまり遠くへの通勤や通学、ほとんどの世帯がパートタイマーなど共稼ぎをしなければならないなど忙しくなる生活によって、地域での人と人、家族と家族のつながりが薄くなっている。そのために地域社会の相互に生活を援助しあうという力も極めて弱くなっている。

(3)地域社会(まち)づくり計画としての地域福祉計画

第三には、したがってこのような地域社会の変化を読み取り、その状況に応じた地域福祉施策と、地域社会づくり、あるいはより広くまちづくり政策として展開する必要がある、という点である。すなわち「地域福祉計画」は、「地域社会計画すなわち、まちづくり計画」をもその基礎として取り入れるべきものだということが、行政部内でも、広く合意を得ておくことが求められる。すなわち、高齢化の急速な進行にともない、高齢者のみの世帯や虚弱な高齢者を抱えた家族が増え、その生活を地域社会が支えることが求められている。また障害者の生活そしてその家族の生活は地域での支えが一層必要になっているし、子育てについても少子化が進む中で、子供たちと親たちを地域で支えていくことが求められてもいる。この意味でも、「地域福祉活動計画」の策定とその着実な実行によって地域社会の福祉力を強くすることが必要となっているといえる。

同時に各種福祉施設の設置を進めることも重要であり、その改革も求められる。特別養護老人ホームのあり方をユニットケアのような生活施設への転換を図り、さらに地域へのデイサービスの出張などの、施設入所者を地域の中に溶け込ませていくことも求められる。知的障害児者の福祉施策として取り組まれてきたグループホーム、通勤寮そして就労支援事業が一層拡充され、さらに高齢者、障害者(身体障害と精神障害、知的障害)、子ども、という垣根を越えた統合的な施設の活用システムを作り上げたい。

一方で、多くの人々の願いは、居宅での生活の継続であると言っていい。施設にあっても、今見たようにその地域への開放、地域化が進行しているのは、多くの人々の希望にそったものだからである。施設も地域社会に支えられたものに変わろうとしているといってもよい。

ところで在宅での生活を維持するために、もっとも重要な資源は、地域での人と人の支えあいと、人と人のつながりである。すなわち地域社会での人と人の支えあう関係は、健康を維持し、要介護状態にならずに、またそうなったとしても、生活を楽しむことのひとつの条件である。

3 地域とはなにか

     コミュニティのサイズを考える

 地域とはまず、市町村の範囲を言う。そしてその下に政令市または中核市および特例市規模の都市であれば現行の政令市の「行政区」というそれに相当する「区域」がある。それは市役所の支所であったりする。そのもとに中学校区があり、さらに狭く小学校区、そして地区すなわち大字がもっとも基礎的な地域となる。菟田野町で考えれば、平成15年7月現在、ひとつの中学校区、三つの小学校区(宇多校区、宇賀志校区、下芳野校区)があり、そして17の大字がある。

 その状況を、人口、高齢化の状況などで見ると第○表のようになっている。菟田野町は、地域としては、このような「三層構造」となっているわけである。

 これが、政令指定都市や中核市的な規模であれば、行政区的圏域が加わるので4層構造ということにもなる。北九州市の場合なら、小倉北区にある本庁レベル、各行政区(門司区、小倉北区、小倉南区、八幡東区、八幡西区、戸畑区、若松区の7区)、そして小学校区の校区社協と連合町内会が地域組織という構造としている。このような三層構造もありうる。北九州市の場合は、小学校区に市民福祉センター、行政区に各保健福祉住民協議会と保健福祉センター、本庁レベルにリハビリテーションセンターがある。

 このようなコミュニティの大きさをどのように規定するかは、各自治体の状況や行政システムの沿革によって変わるから、画一的に考えることはない。

第2章 地域福祉計画の特徴

1 住民主体ということ

 地域福祉の担い手は、まず住民である。地域福祉とは、「ご近所」の力を合わせて、援助を必要とするお隣さんを支えることであるし、ともに地域での生活を楽しむことであるといって良い。そのような地区単位での、生活の支え合いを、小学校区の組織やネットワークが支え、さらに市町村が支援する。これが地域福祉の原型でもある。

 したがってその政策の基調は、住民とその活動を町が援助し、事業者(介護保険事業者、医療関係機関、解放センター、県の保健所、消防署、警察の派出所、企業、スーパーマーケット、運送業者、建設土木事業者、農協や生協など)が協力し負担を分担する、というかたちになる。

2 住民ニーズに立脚するということ

 第一に計画は、住民、当事者のニーズに立脚していることがまず求められる。菟田野町においては、序章に示したように、昨年10月から11月にかけて、(1)一般住民、(2)高齢者のみ夫婦世帯、(3)高齢者単独世帯、について意識調査と意向調査を実施している。また、「部門別住民懇談会」および「地区別住民懇談会」を開催して、その簡単なまとめも行っている。その結果の主要な点は文中で言及していることがある。特に後述の「基本政策」の「政策目標」としての指標、さらに主観的な評価指標は、その多くがこのニーズ調査および住民の意識調査に直接根拠をもつものが多い。

3 住民参加と福祉活動計画の4つの領域

第二に、その策定過程と実施過程に住民の積極的な参加を求める。むしろ活動計画とは、住民が主体となるように組み立てられるべきである。

なお、住民組織には、大きくいって二通りある。ひとつはコミュニティ型の組織である。この組織は、一定の地域に居住している、あるいは昼間に働いている人々の、自然発生的な団体、組織である。具体的には、町内会や自治会などである。地域社会あるいは職能的、社会的なつながりをもとに、地域社会維持のための多くの事業課題を持つ。マルチ・パーパス(多くの目標をもった)な組織である。

 もうひとつは、アソシーション型組織である。ひとつの目的を実現するために、自発的に、自らを組織した団体である。具体的には、多くのボランティア団体NPOやNGOがこのタイプである。菟田野町でいえば、おはなし玉手箱やゆずり葉と歩む会など。

 地域社会を変えていくには、このアソシエーション型組織が、コミュティ型組織に働きかけることが持続的に行われることが必要である。(注3)

(1) 地区の住民活動計画(コミュニティ型組織の地域福祉活動目標、年間の課題)

活動計画は4つの領域からなっていると考えたい。ひとつ目は、各地区(大字)ごとの住民の活動計画である。これは後に述べる、「地域福祉活動計画」の「5つの重点テーマ」に沿った、地区ごとの活動計画として、住民の話し合いによって定められることを目指す。この地区ごとの活動計画は、町の「福祉計画策定委員会」がその原案を提起することも考えられる。

(2)行政の各課、団体ごとの地域福祉活動計画、または事業計画

二つ目の領域は、社会福祉協議会、町の各課、解放センター、中央公民館、保健センターなど、各機関ごとの「地域福祉活動計画」と「活動目標」の策定とその実施、および実施過程のモニタリングである。これには、県や消防、学校など他の機関への働きかけの計画も含む。

(3)住民組織ごとの事業計画(アソシエーション型の組織の地域福祉課題と事業計画)

三つ目の領域は、各種ボランティア団体、住民組織、当事者組織の(地域にとらわれない)地域福祉活動事業案の策定とその実施に対する支援という領域である。

(4)地域福祉活動に向けた事業者の課題と活動計画

そして四つ目の領域は、企業や医療機関、商工会など事業者の果たすべき責務として、これらの団体としての地域福祉活動目標を定めることが望ましいと思われる。

(5)当面の活動計画

当面は二つ目の町の各課ごとの事業計画の策定とその、社会福祉協議会や解放センターなどの地域福祉活動計画の提起を行い、それを総合的な活動計画へと構成していく。それとならんで、第一のコミュニティ型組織の各事業計画策定を支援し、地区行動計画とするよう働きかける。た第三のアソシエーション型組織の活動計画と事業推進方針の確立を支援し、実行を援助する。

第四の領域については、地域の商工会、農協など協同組合、あるいは建設業協会、商店街などに働きかけ、モデル案を提示するなど方向性を示すことで、次のステップにつなげたいと思う。

4 計画の考え方

    あるものからの出発

「地域福祉活動計画」は、今ある組織とその活動を基礎とする。まず、今ある地域福祉活動の現状(だれが、だれを対象にして、なにを、何を目的に、どのようにして、どこで、実績はどうか、これからの方向)と、改善点、あるいは不十分な点を明確にすることから始まる。これは、一種の事務事業評価であり、政策評価でもある。この作業は、後掲の「福祉活動計画作業シート」に示したとおりである。基本的には次のように考えている。

1,いいところは伸ばす。

2,不十分なところは改める。

3,不足しているサービスについて検討する。

4,新しいものやこと、サービスをつくる。

5,古いものを転用して活用する。リユース、リサイクル。

6,思い出や夢を大事にし、実現することを考える。

7,他地域での成功例をよく研究し、菟田野風に翻案して取り入れる、ことなどが重要な視点だと考えている。

 そして、「地域福祉活動計画」をみんなでつくり、それをそれぞれが、それぞれの地域と場所、立場で実践することが、地域福祉を地域に根付かせ、持続的な活動にするために必要な条件である。

第3章 地域福祉の基本的理念と基本政策

1 基本的理念

「地域福祉活動計画」の基本理念、すなわちどのような福祉社会をつくるか、という目標は、次の二つに要約される。

 

基本理念1 「お互いに大切にされるまちをつくる」

 第一に、「お互いに大切されるまちをつくる」という目標である。地域に生きる人々が、生まれや職業、性別、年齢、国籍、障害の有無などによって差別されず、それぞれが一人一人かけがえのない命を生きていることを認め合い、慈しむ地域社会である。たとえば子供も地域社会の一人前の担い手として尊重される。そして、困りごとや、心配ごとについてきちんと相談でき、適切に問題を解決するための援助の手が、それらの人が選択ができるように用意されている地域社会である。

 このことなどを通して、この町に生まれ、育ち、住んでいることに誇りを持つことができるような地域社会をつくるという目標と言い換えてもよい。

基本理念2 「自立した人々が共に生きるまちをつくる」

 第二の目標は、「自立した人々が、ともに生きるまちにする」という目標である。この目標は、それぞれ異なった個性を持った人々が、その個性を尊重しながら、他の人や行政などに過度に依存せずに自立した生活をすることができ、その上で、互いに協力して、お互いの不足を補いながら、協働できる地域社会をつくるという目標である。自立した個人と、その協働の上に成り立つ地域社会というイメージを描きたい。

2 その基本政策 5つの基本政策

  この基本理念(ふたつの目標)を実現するために、次の5つの基本的な政策を推進していくことが求められる。

基本政策1 「人づくり、地域づくり」

 第一の基本政策は、「人づくり、地域づくり」政策である。「地域社会」は人と人の関係によってつくられている。それぞれの人の個性を豊かにし、生活するためのさまざまな能力が展開できることが必要である。そのためのチャンスを豊富にすること、人と人との出会いの場をつくること。

不断の学習と討議そして議論、新しい体験や経験の蓄積と交流、そして自己表現することの楽しさと自分に対する自信が持てるよう、さらに自分を愛することができる、そういった能力の活性化。人を支えたり、援助したりする気風を育てる。仲間をつくり、援助しあうという生活態度に着目し、それが自由に展開できるような仕組みを工夫する。このようにして「地域社会づくり」も進むと思われるのである。

 同時に、「地域社会づくり」は、地域そのもの、地域社会そのものを知るということも必要である。第一にその自然環境という人々が生きる、そして生活する基礎条件を知るということが求められる。子供のときのように、いやそれ以上に感動する感性を大事にし、育てる。「自分の感性ぐらい、自分で水をやれ」。

菟田野の自然は豊かであるが、一体何種類の花が咲き、何種類の野鳥が歌い、巣をつくり子育てをしているであろうか。どこの集落の川の蛍がよいか、20年前はどうだったか。きのこや山菜はどの山がいいか。川にはえびやたなご、沢蟹がいるだろうか。いつまで川で泳げたであろうか。

第二には、地域産業の現状と将来をみんなのものとして考えることも求められる。農業の現状と将来をどう考えるか。林業のあり方を考える。そして毛皮産業の現状と将来を地域全体で考える。

 政策目標としては以下のようなことが考えられる。数値指標化できるものであることが必要だが、場合によっては、満足度のように主観的な指標も必要。

 @ 社協へのボランティア団体の登録数の拡大

 A 社協へのボランティア登録者数の拡大

 B 地域で活動しているNPOの数

 C 地域が住みよいと考える住民の割合の拡大

 D いきいきサロンの実施箇所の拡大と、実施回数

 E いきいきサロンの参加者数の拡大

     事業数や種類の拡大、

 F この町が美しいと思う住民の人数

     この町の特色ある花や樹木、昆虫や野鳥を知っている住民の人数

 G 1週間人と話をしなかった住民の人数(逆符号)

 H 地域活動に参加している住民の人数

    町内会・自治会、地区の清掃活動、祭りに参加する住民の数、消防団、交通安全、地区の運動会への参加、花壇作りや花の栽培・管理に参加している住民の人数

    様々な学習サークルの参加者、老人クラブの参加者、リサイクル活動への参加者

 I 緊急時応対してくれる人や機関があるという人の数

 J 自分が積極的に一人ぐらしの見守りなどできるし、したいという住民の人数

 K 仕事の経験や趣味を社会に生かしている住民の人数

 L 週1回程度以下の外出頻度しかない高齢者の人数(現行は住民意識調査においては高齢者夫婦で43%)(逆符号)

 M 生き甲斐や楽しみを持っている高齢者の人数(同じく意識調査で「ある」は夫婦世帯で81%)

 N 花の街道(樹木と草花)の総延長キロ

 O 住民が計画に参加し造成に加わり、管理するコミュニティ公園、ちびっこ広場の数と面積

基本政策2 「生活を総合的に支援する」

第二の基本政策は、自立した「生活を総合的に支援する」政策である。さまざまな相談事を総合的に受けることのできる窓口と、その相談事を町や県、あるいは国レベルにつないでいくネットワークが形成されていること。専門家をネットワークにつなぎ、その協力を確保することができる、資金援助や就労支援のシステムを用意できる、そのような専門性を、窓口とそのバックアップ組織につくることが求められる。適切な情報を、その情報を必要としている人に、適切な時期に提供できる仕組みをつくることも求められる。

そして、「住民のねがい」や「住民のおもい」を常に的確に捉えていることが必要である。そのために、上記相談事業とともに調査資料の蓄積とデータバンクの構築も求められる。そして、現場の意見が生きるように行政などの組織を改革することも不可欠な政策である。

 政策目標としては以下のようなことが考えられる。

 @ 在宅介護支援センターおよび悩みごと困りごと相談センターの相談受付件数の増加(相談アクセスのしやすさ)

 A 相談をして課題が解決したという住民の数

 B 相談に応じる窓口体制の整備状況(専門職の複数配置、予算措置、決定権眼、ネットワーク情報の整備状況)、ケア会議の設置状況、担当者の研修

 C 住民意識調査の定期的実施 世帯形態別、年齢別、性別意識調査の継続的実施状況

 D 地区別住民懇談の実施状況  課題別、中学校区レベル、校区、大字、小字

 E 部門別懇談会の実施状況 当事者団体との定期懇談会、こどもと親の懇談会、民生・児童委員の懇談会、各機関懇談会ないし協議会(病院、特養、解放センター、中央公民館、教育委員会、中学校、小学校、高等学校、警察、消防、デイサービスセンター、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、保育所、保健所など)

 F 介護保険の認定者数とその伸び率

 G 要介護度ごと認定者数の推移

 H ケアプランにおけるサービス種類

 I ショートステイ利用状況(高齢者および障害者)

 J 介護者の会のリクリエーション開催状況

 K 夏休み等における障害児者の居場所整備状況

 L 住宅の改修の状況

 M 車椅子で通える公共施設や大型店の整備状況

 N 配食サービスの整備状況

  

基本政策3 「利用者の権利擁護、基本的人権の保障、安全と安心」 

第三の基本政策は、「利用者の権利擁護、基本的人権の保障」政策である。国の制度のバックアップとその徹底した活用を行うともに、地域においても、社会的に弱い条件を持った全ての生活者と利用者を支援することが求められている。成年後見制度の積極的な活用や、権利擁護事業など、利用者支援の情報の集積と提供が必要である。さらに具体的に利用者をサポートし、その意思を適切に代弁したりする機能も重要である。

そして、高齢者や障害者、子どもの急病や事故など緊急時に対応できる仕組みが整備される必要がある。これは、住民意識調査で、行政に対してもっとも大きく期待されている「安全と安心」を保障することに応答しようとするものである。

 政策目標としては次のようなものが考えられる。

 @ 成年後見制度を知っている住民の数

 A 地域権利擁護事業を知っている住民の数

 B 総合相談窓口を知っている住民の数

 C 相談できる弁護士、弁護士事務所の数

 D 支援をお願いできるカウンセリング機関の数

 E 支援をお願いできる精神科病院、医師、精神保健衛生士の数

 F 近隣を含む地域で一時保護できるシェルターの数

 G 近隣を含む地域で一時保護できるショートステイ施設の数

 H 権利養護、人権擁護について訓練され研修を受けた保育士、看護師、社会福祉主事、社会福祉士、介護福祉士などの数

 I 相談窓口の整備状況(上記専門員の配置、事務局体制の整備、予算(旅費や移送費、保護費など、ネットワーク関連台帳の整備、24時間体制の対応システム整備など)

 J 緊急通報システムの整備状況、運用の改善状況

基本政策4 「健康づくりをすすめ健康寿命を伸ばす」

 住民意識調査でも、生きがいは「健康である」ところから生まれると考える人が多い。また、健康を維持することにも強い関心がある。そして、ガンや骨粗鬆症、心臓病、痴呆症などの疾患を予防することにも大きな関心がある。

 政策目標としては、次のような数値目標などが考えられる。

 @ 健康寿命の延伸

 A 平均寿命の延伸

 B スポーツサークルへの参加者数

 C 健康管理のためのレシピ講座の受講者

 D 男性料理教室開催数と参加者数

 F 血圧や血糖値、肝機能、中性脂肪の管理に積極的な人の数 

 G 糖尿病の定期検査受検者数と医療的生活指導を受けている人の数

 H 高齢者の一人当たり医療費の低下

 I がん検診受検者数

 J 栄養改善委員ののべ活動時間数、講座数、相談数

 K 緑の散策道整備延長

基本政策5 「自治体行政改革 実行とその評価」

 第五の基本政策は、「地域福祉計画づくりとその着実な実施、モニタリング」政策である。モニタリングとは、事業の実施過程を監視し、その都度、行政運営面で、利用者サイドからの観点から評価することであり、それによって改善を図ることがあれば、逐次改善を加え、政策目標や、基本理念に沿ったかたちで修正を加えていくことである。ここでは、社会福祉法改正による「地域福祉計画」を、「地域福祉活動計画」という側面から、支え、広げていくことが求められます。特に、「プラン、ドウ、チェック、アクション」いう観点からの積極的なかかわり方が求められている。 

 そしてこれらの施策を支援し、実施するための行政改革施策です。この行政改革は、次のような事業を進めることが求められます。

@ 組織のフラット化

 第一に、行政としての意志決定をできるだけ、現場に近いところでできるよう、権限と予算執行・権限の窓口レベルへの移譲が求められます。組織のフラット化といわれる政策決定過程の短縮と責任の明確化が推進されなければならない。

A 職員の能力開発・自己研修システム

 第二に、そのために、職員の能力向上に向けた研修と研究の機会と時間の保証が必要となる。単なる事務処理では、責任ある判断を行える資質が育ちにくいのである。

B 問題解決型プロジェクト型組織への転換

 第三に、処遇困難ケースをチームとして解決するためのプロジェクト型組織の導入が求められる。縦割りの、縄張り墨守を優先する、また先例にないことをしないという自己保身的な判断ではなく、住民にとってなにが求められているか、なにをすれば窮状を克服できるのかという観点から、問題解決に取り組む、そういうタスクフォースを作ることが必要である。職員は課の職員であるけれども、同時に課をまたがった、横断的な問題解決組織のメンバーであることを求められる。

第4章 地域福祉の5つの重点テーマと行動計画

 以上の二つの目標(理念)を実現するための、5つの基本政策を明らかにした上で、これらの基本政策を具体的に推進するために、次のような5つの「重点テーマ」を設定することにしたい。これらの「重点テーマ」は、先ほどの「福祉活動計画の4つの領域」において、それぞれの「重点テーマ」として、活動計画に盛り込まれていくことになる。

重点テーマ1 住民参加と住民の仲間づくり

 第一の重点テーマは、「ボランテイア、市民活動の参加促進、活動支援、活動づくり」を中心にし、そのための「住民のおもいやねがいを聴き、その活動を推進するとともに事業を展開する」という重点テーマである。いわば、住民の仲間作りから活動起こしまでをサポートすることを意味する。その具体的な活動計画はおおむね以下のとおりである。

@ 社協における「ボランティア協議会」「ボランティアセンター」の事務局を充実し、ボランティア組織やボランティア相互の交流と、情報交換の場を恒常的に設ける。

A 各種講座や講習会のより効果的な運営。

B これまでのボランティア活動の具体的な内容の住民への機会あるごとの紹介。

C ボランティア活動への参加機会の提供、地区集会所での健康作り懇談会など住民に関心のあるテーマでの集まりを続けながら。

D 定期的な住民意識調査の実施。たとえば二年に一回程度。

E 地域福祉計画推進委員会(後述)による、関連団体・個人・当事者の懇談会の設置。

   同懇談会の広報誌編集委員会の設置と広報誌の発行。

F いきいきクラブの参加者の拡大、そのための目標作りと、呼びかけ方法(だれが、いつまでに)の協議。そのためのクラブ運営の改革の検討と実施。人手と資源、場所の確保施策の検討と実施。

重点テーマ2 自立生活支援事業の展開

 第二の重点テーマは、弱い立場にある全ての住民を支え、自立生活を総合的に支援するというテーマである。総合生活相談から支援を必要とする人々への支援活動、ネットワークづくりとその高度化(政策化、立法化など)を担う。加えて利用者の権利擁護活動を展開するという重要なテーマがある。

 具多的な支援事業に関する活動計画のメニューは次のようなものが考えられる。

@ 総合生活相談 在宅介護支援センターとしての相談窓口、および障害者福祉や子育て相談など、困りごと悩みごと相談。

A 相談事例の解決のためのアセスメント(問題状況の把握と分析) そのためのケア会議の招集とその運営。各担当職員(社協の福祉活動専門員や地域福祉活動コーディネーター、地域福祉課、高齢者福祉課、障害者福祉課、こども課、生活保護課、保健センター、公民館など)およびボランティア協議会事務局ないしNPO、ボランティア組織の支援センターのコーディネーター、医療機関事務局(医療問題相談センター事務局)、警察や消防機関、など。この会議は地域ケアセンター(仮称:在宅介護支援センターと困りごと総合相談センターの合併組織の仮の名称)が、招集し、ケースを提示する。あるいは、これは全て相互の電話による相談、メールによる相談として行われる場合が多いものと考えられる。メールによる相談は、そのまま記録に残るので、課題の明確化のためにはより有効であるかもしれない。

B アセスメントに基づき、個人と家族ごとの個別支援プラン(ケアプラン)を策定する。その際に相談者本人および家族とともに、策定し、その希望をとり入れたプランとする。ケアマネージャーや生活相談員、コーディネーターの業務として。将来的にはケアマネージャーの本来業務として確立することが必要である。新しい発想で、これら「ソーシャルワーカー」を地域に配置することが求められる。

C そのプランの着実な実施。 ホームヘルパーの派遣。移送サービスの実施。ショートステイの紹介とその支援、ボランティア派遣。必要とあれば、措置権による入所措置等や生活保護の適用。配食サービスの提供、家庭内暴力からのシェルター提供、訪問看護や訪問診療の提供、カウンセリングの実施、訪問リハビリや通所リハビリの提供。就労支援事業および企業支援事業との連携が求められることもあろう。

D これらの個別支援プラン(ケアプラン)の実施結果を、適当な時期に(三ヶ月ごとなど)モニターして、評価する。これらは、そのためには先ほど示した地域ケアセンター(仮称)における検討会議、評価委員会の設置と運営が必要となる。評価したうえでなお、改善点、新しい課題を明確にし、個別支援プランを組み直す。

E 民生・児童委員の活動の活性化、そのための研修や活動補助など支援策の展開。

   民生委員からのお知らせと回覧板。その編集事業にボランティアが参加すると広がる。お知らせと回覧板を持って民生委員が訪問するというかたちも考えられる。

F きずな推進員による訪問。これは民生委員と一緒に、あるいは分担して回覧板とか広報紙の配布がてらの訪問事業として、見守りと声かけ。黄色いハンカチ運動などの事例も。

重点テーマ3 健康づくり

 第三は、健康づくりという重点テーマである。先ほどの住民アンケート調査でも、もっとも大きな関心が集まり、いろいろ工夫もしているテーマでもある。住民の主体的な活動を自立的に展開できる領域となる可能性がある。

@ 健康チェック 定期的な健康診断の実施とそれへの主体的な参加を促すような工夫が求められる。

A 転倒防止講習会

B 食の改善講習会。食生活改善委員の活動の活性化。

C 男性料理教室。

D 歩け歩け運動。ウォーキング・サークル。

E そのための散歩道整備。

F パワーリハビリなどリハビリテーションの積極的導入。

G スポーツ大会、運動会。

重点テーマ4 地域社会づくり

 第四は、「地域づくり、まちづくり、すなわち地域社会づくり」という重点テーマである。このテーマは、「あいさつのできる地域づくり」というようなさらに具体的なサブテーマを立てることができる。

@ あいさつのできる「地域社会づくり」。

    お互いに協力して、人と人、家族と家族とのつながりを大事にする地区の暮らし。

A だれにでもやさしい「地域社会づくり」。

    高齢者、子供、障害者、母親そして観光客にやさしいユニバーサルデザインと心のバリアフリーの地区

B 住民意識委調査では、困ったときは手助けできるという人が多い、そういう人の力を生かせる地域作り。

C とじこもり勝ちだが、人のぬくもりをほしいという人の気持ちに応えることのできる地域社会づくり。孤独でいることを黙って見守り、援助が求められたらすぐ対応できるまちづくり。

D 住んでいることに誇りを持ち、美しいと思い、それなりに不便を感じず、安心して暮らせるまちづくり。

 このような「地域づくり」を目指すために、その仕掛けが必要である。その仕掛けは、地域の共通の課題を一緒に解決しようと、共に働けるための仕掛けである。その地域共同の課題は例えば次のような課題である。

a、街路や共同の庭、公園等の清掃作業。

b、水路等の清掃。

c、地域の祭り。

d、四季の花作りと家の前と道路沿いの花壇。

e、不法広告の撤去。

f、リサイクル事業、分別事業の継続的な実施を住民自身の工夫を生かすかたちで、住民協議で進める。

g、配食サービス。

h、会食サービス。

i、地域集会所や空き店舗などによるミニデイサービス。

j、公民館等における講座とその成果の公開。フリーマーケット。

重点テーマ5 住民に見える社協活動へ

 第五が、「市民に見える開かれた社協づくり」という、「地域福祉活動計画」に特有な重点テーマである。この重点テーマは次のようなサブテーマないし目標を立てることができる。

 @ 社協機関紙の月二回定期発行と全戸配布。DTP(デスクトッププリンティング)方式によるコスト削減と迅速化。地域ミニコミ紙化。取材、編集、デザイン、印刷、配布手続きの住民との協働。3ヶ月に一回程度の企画委員会の設置。

 A 社協ホームページの作成、毎週の更新。民生部局、保健センター、企画や財政か0ら。全国社協や県社協の動き、新しい制度解説。厚生労働省や福祉財団の動き等も射程にいれて。リンク集の充実。各種申込用紙のダウンロード。掲示板の活用やメールによる問い合わせ、相談。

 B CATV事業での番組作成と定期放映。福祉と保健のお知らせ。いきいきサロンの風景。ボランティアは楽しい。視聴者が主人公の番組編成と番組作成。

    優れたビデオ放映。地域の文化と自然をめぐるドキュメンタリー番組の作成

総括的に  町全体として地域福祉推進のための政策課題

 このように、ふたつの「理念」(目標)、5つの「基本政策」(基本的政策目標)、および、活動計画がたてられるべき4つの「領域」と、その領域ごとの課題の提起、そして5つの「重点テーマ」および個々の事業および活動プログラムの事例として地域福祉計画を組み立てられている。行政の課題も当然含まれている。

その上にたって、町全体を見渡して重要だと考えられる課題を掲げておきたい。これらは同時に、第一に住民意識調査(独居高齢者、高齢者二人世帯、一般世帯)および、第二に地区住民懇談会、そして第三に部門別懇談会などをとおして把握された住民のニーズや、地域社会で暮らす上での問題点や課題を解決していくために、町全体として実現したい政策課題である。

町全体としての地域福祉計画推進のための課題

 これらの議論から、町全体としては、既に述べた行政改革を含め、次のような課題があることが確認されている。

(1) 住民を対象としたホームヘルパー研修の継続実施によって、ヘルパー資格者を拡大する。ヘルパー資格者の登録。

(2) 移送サービスの実施。たとえば、ミニバンと出来れば2種免許資格者によるサービス。スクールバスの住民共用も検討する。

(3) 地域担当職員の設置。小学校区に2名程度。

いわゆる地域コーディネーターである。事業費ではなく人件費を活用する。

なお、長野県茅野市は2000年4月から地域福祉推進員(コーディネーター)を保健福祉センターに配置し、高齢者、障害者、子ども、一人親、介護保険など総合相談事業を行っている。北九州市での保健福祉センターへのケースワーカーと保健師による総合相談窓口も同じ考え方である。

(4) 前記行政改革の実施。そのための実施計画の策定とローリング。

(5)行政改革の前提として、事務事業評価、政策評価とそのためのシステム構築。

(6)CATVによる双方向通信網の整備。直営スタジオを設置し、運営はNPO等を主体として、番組内容の充実。いわゆるIT(information technology)基盤の緊急整備を進め、世界に開かれた情報ハイウェイの整備。

(7) (仮称)「宇陀の自然ガイドブック」のための調査および発刊。(注3)

(8) 専門病院、総合病院との連携を図り、保健センターのネットワークをつくる。

   法律家との連携の確保。

(9) 地域産業の見直し。エコビジネス、環境産業への転換の可能性を探る。

   農業、林業、畜産業の現状と見直し。バイオマス事業の可能性調査と実施計画。毛皮産業技術の蓄積と将来展望。

(10)地域の祭りの再発見。

(11)シルバー人材センターの拡大と活用。

(12)京都府美山町のタナセンの菟田野町版をつくる(注5)。

おわりに

 この地域福祉計画は、住民の力を引き出して、新しい公共サービスの担い手にするための計画である。そして、行政が、これら市民組織および事業者とパートナーシップを組みながら、地域の安全性や安心を高め、そして地域の活力を高めていく計画である。この計画もしたがって、行政評価の仕組みの中に置かれる必要がある。つまり、この地域福祉計画の目標がどのように実現し、そのことに関して住民や事業者など「ステークホルダー」の評価をうけなければならない。

 すなわち、この地域福祉計画についても、その進行管理が決定的に重要である。この地域福祉計画の進行管理のためには、「地域福祉計画推進委員会」などを設置し、定期的にその事業の進捗状況が把握されなければならない。年に少なくも3回、すなわち、前年度の決算を検討し、今年度の事業方針を具体化するには、5月末ら6月。来年度予算に対応するためには、そして年度の状況も把握しつつ政策評価の結果を生かして今後の事業のビルド・アンド・スクラップができる11月の会議が重要である。3月期の会議は、今年度の反省とこれからの構想を語り、この1年の設計を考える会議となる

この「地域福祉計画」の期間は、5年。3年ごとに見直しを義務づけるのが適当であろう。5年計画で、3年ごとローリングというスタイルも想定できる。

このような「地域福祉計画」の着実な策定と実行によって、これからの地域社会を、新しい公共サービスを行政と住民がともに担う、そういう意味での「日本型ローカル・ガバナンス社会」へとゆるやかに転換することを展望したい。

菟田野町での取り組みは、住民が計画策定と運営の主人公になるという点ではまだ、その緒に就いたばかりである。これから、住民が力をつけ、新しい自立した住民が担う活動が活発になり、持続されることによって、新しい協働の姿が作られていく。それによって行政のあり方も変化していくであろう。そのためのひとつの装置として、「地域福祉計画」が逐次見直され、拡充されていくことが望ましい。「地域福祉計画」は、住民の力が伸びるとともに「成長していく計画」となることが期待されているのである。

注1 ローカル・ガバナンスについては、さしあたり中邨章著『自治体主権のシナリオ』芦書房、2003年3月、特に第1章、第2章を参照。

注2  この間の議論についてはとりあえず以下の文献を参照されたい。

   堀勝洋『現代社会保障・社会福祉の基本問題−21世紀へのパラダイム転換』ミネルヴァ書房、1997年。

   武川正吾『福祉社会の社会政策−続福祉社会と市民社会』法律文化社、1999年。

       『社会政策のなかの現代−福祉国家と福祉社会』東京大学出版会、1999年。

    正村公宏 『福祉国家から福祉社会へ−福祉の思想と保障の原理』筑摩書房、2000年。

    宮城孝 『イギリスの社会福祉とボランタリーセクター』中央法規、2000年。

 注3 社会福祉法改正については、社会福祉法令研究会『社会福祉法の解説』中央法規、2001年などを参照されたい。

 注4  例えば、大森彌編著『地域福祉計画と地方自治体』ぎょうせい、2002年11月。特に第1章、第2章、第3章参照。

 注5 もともとはアメリカの社会学者マッキーバーの『コミュニティ』(1917年)において提示された類型である。

注6 『井手町自然ガイドブック―井手町の自然と生活文化』京都府井手町教育委員会、2003年3月などがそのよいモデルになる。

注7 美山町のタナセンなどについては農林中金総合研究所編『協同で再生する地域と暮らし』日本経済評論社、2002年10月、第1章、第4章参照。

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