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保護からの脱出

初出:自治日報「コラム自治」05年2月18日
澤井 勝

今年の分権改革の主要テーマのひとつは、生活保護費の国庫負担割合をどうするかという問題だ。これに関しては国と地方との協議がもたれることになり、全国市長会では対策会議(大阪市の関市長が座長)が立ち上がっている。厚生労働省は、国庫負担率の引き下げを考えているようだが、この要求にはとうてい応じられない。憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことを保障するのはまず国の責任なのであるから、国庫負担割合を8割に戻してもいいはずである。実際の給付決定や自立支援事業は、県と市のケースワーカーが担っており、これでも地方負担が大きいというべきなのだ。また国の機関委任事務ではなく、法定受託事務という自治体の仕事になっているのだから、自治体の裁量権をもっと拡大することを、併せて議論していくべきだと思われる。

 しかし一方で、自立を支援することによって受給者を減らす努力を今以上に払うべきだということも事実である。これはいわゆる「適正化」という名によって保護を打ち切るなどの単なる歳出抑制策とは異なる。自立支援は生活保護を受ける状態を脱して、自ら税を納めるだけの働きができるようになるように、援助することでなければならない。

 この生活保護受給者の自立化をはかるということは、現在でも生活保護行政の柱の一つであるが、なかなか取り組めていない。この問題は、しばしば生保のケースワーカーの仕事と見なされるが、多くのケースを抱えるなかで、まず無理ではなかろうか。それにこのような自立支援を、ケースワーカーのみに請け負わせてうまくいくとは思えない。

 大阪府和泉市では、02年から「地域就労支援事業」とそれに先立つモデル事業を行ってきた。この地域就労支援事業は、高齢者や障害者、母子家庭の母親、同和地区出身者などいわゆる就労困難者に対して支援するもので、大阪府の単独補助事業である。大阪府は市町村が設置する就労支援コーディネーターの費用500万円の半額を補助する。現在は府内の全市で行われている。

 03年までの2年間で、和泉市では生活保護者8人の就労を実現している。つまり生活保護受給者が納税者になっているのである。一世帯月に25万円の保護費だとすると、1年間で300万円となり、8人では年間で2400万円の扶助費の削減ということになる。市の一般財源ベースでは600万円である。これに生活保護受給者が、希望を持って生活することができるようになるという無形だが決定的に重要な成果もプラスされる。

 そのためにはまず、生活保護受給者の、ていねいな意向調査やカウンセリングが必要である。要するに継続的な相談事業である。その担当は増員されたケースワーカーやコーディネーターでも良いし、あるいは「命の電話」のようなボランティア団体やNPOでしっかりした組織とスタッフを擁したところに協働事業としてお願いしても良い。

 それに医療・保健スタッフが不可欠である。かなりの割合で陥っているアルコール依存症からのリハビリのためには、また糖尿病や高血圧などの生活指導や生活改善のためには保健師や専門医、それに栄養士はヘルパーなどとの共同作業が求められる。母子家庭の母親が働けるようになるためには、職業訓練も重要だが、それを可能にするための保育の手だてがなければならない。保育所入所の要件である「保育に欠ける」という要件を、弾力的に運用する福祉担当者の判断が支援となる。「働こう」あるいは「職業訓練を受けよう」という母親は、そのときには、「保育に欠ける」状態ではないからである。

 つまり、国のハローワーク、県や市の福祉事務所、保健福祉専門家、保育所の運営者、あるところでは地域就労事業のコーディネーターなどのチームが協議して作成し、本人が参加し、同意した自立支援プランが作成されること、そしてその実行をマンツーマンで相談しながら見届けなければならない。

 対象となるのは生活保護受給者の1割から2割かもしれない。しかしその1割か2割にきちんと働きかけることができれば、扶助費の増加を抑制することも可能になるにちがいないし、地域の将来展望を語ることも可能になるのだ。付け加えると、チームによる自立支援プランの策定と実施は、精神的負担の集中する生保担当者のバーンアウトを防ぐ意味でも決定的な意味を持っているのである。

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