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安心と安定の福祉サービスのしくみづくり

コミュニティの再生とCSW制度の確立を

                初出:公職研『地方自治職員研修』 076月号 
                                     奈良女子大名誉教授 澤井 勝   

 目次:夕張病院は診療所に  理念の共有とアウトリーチ  コミュニティ・ソーシャルワーカーの設置事業  

夕張病院は診療所に

 0741日、ベット数171床の夕張市の市立総合病院が19床の公設民営の診療所「夕張診療センター」に移行し、2日から診療を開始している。運営は医療法人「夕張希望の杜」で、理事長は村上智彦医師。村上医師は0612月から、院長らが退職した夕張市民病院に応援に来ていた。その前は、063月まで同じ北海道の桧山支庁の旧瀬棚町で7年間、診療所長として予防医療を軸とした地域医療に取り組み、老人医療費の低減などを実現している。住民や看護士などスタッフの篤い信頼を築き、「瀬棚方式」として全国的に注目されていた。しかし、市町村合併に伴ない新町長と方針があわず、新潟県の湯沢町保健センターに転じていた。此の間の事情は、NHKのETV特集(06422日放映)で全国的にも報道されている。

 061210日には夕張への着任に先だって、市立総合病院の講堂に集まった市民と職員に今後の夕張の地域医療について語った。「高度な医療が必要な患者は1000人に一人。地方に必要なのは、何でも診られる総合医です。」夕張市は高齢化率が全国の市で最も高い。ここで成功すれば新たな医療のモデルになる、という。「19床の診療所と40床の老人保健施設を拠点に、往診による在宅医療を組み合わせる。空いた場所には託児所や娯楽施設を作り、まちおこしの拠点にする」という構想もある(読売新聞など)。

予防医療に力を入れる。「医療機関は病気のプロだが健康のプロではない。市民自身が健康への意識を高めることが大切」とも言う。医師法の第一条、「医師は、医療及び保健指導を司ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」をよく口にするそうだ。

 

理念の共有とアウトリーチ

暗い話ばかりの夕張市の中で、もっとも早く「希望の火」が点ったのがこの「夕張診療センター」だと言っても良い。この「希望の火」をよりしっかりしたものとするためには、多くの課題をクリアしていかなければならない。だがクリアすべきこれらの課題は、夕張市に限らず、多くの地域の共通した課題でもある。

第一には、自治体としての地域医療と福祉についての理念(夢)を、診療所の医療と保健のスタッフはもちろん、市長部局に残った福祉および保健担当者がまず、共有することがポイントである。そのことによって、全国に発信できる、高齢者の地域医療と福祉の先進モデルをつくる、という夢を共につむぐことができたらよい。

その「理念」とは、次のようなものとなるであろう。ひとつめは、健康は住民が主体となって守るもので、それを支援するのが、医療や保健、そして福祉のスタッフだという、「住民が主体となる地域医療と保健、福祉」をつくることである。そのために地域コミュニティを再生するという理念である。

ふたつめは、そのための予防医療、保健、福祉サービスを在宅で活用できる、訪問サービスの充実である。また、まちかどデイサービスや富山方式の「ゼロ歳から100歳まで、障害あってもなくても」預かり、「通って、泊まれ、住める」デイハウスを少なくも旧小学校区にひとつ以上は立ち上げること。これは役所ではなく市民自身が担うもので、これには道の積極的な支援が、移動介助などや施設設置費の補助などを含めて求められる。

みっつめは、地域に展開している「介護保険事業者」との連携の実現である。相互の情報の共有と交換を通じた地域全体の介護力を、新たな財政的な支援なしにでも、自立して高めていくことがもとめられている。そのイニシアティブは診療所がとることもあるだろうし、市の地域包括支援センターがとる場合もあるだろう。また、市の保健福祉部がイニシアティブをとることも必要になる。気が付いたところが声をかけ、連携のための会合や、ネットワークを通じた検討会議がもたれるようなことも不可欠であろう。

したがって第二には、市長部局における地域医療と福祉を推進するリーダーシップの確立である。このリーダーシップは、もちろん市長に期待されるところである。同時に、担当部局の主査クラスからの動きが重要である。つまり、自らの職務のミッションを自らのものとした、一人ひとりの職員の現場での気づきとネットワーク構築力に期待するところが大きい。役場のデスクを離れて(アウトリーチ)、要支援者と寄り添い、コミュニケーションをとることがその出発点である。

そして、これら地域医療と地域福祉を統合した「地域包括ケアシステム」の構築が望まれる。このモデルの一つは、広島県尾道市の「公立御調病院」を中心としたシステムである。この特色は、病院を中心としながら、在宅ホスピスまでカバーする訪問診療、それと社会福祉と介護保険サービスを統合し、さらに、社会福祉協議会などによるボランティア活動の推進、頻繁に開かれる各種の学習会や研修である。

 以上の「地域包括ケアシステム」は、志のあるドクターなどのイニシアティブによるものとも言える。この医療を中心とした「包括ケア」は、過疎地でも有効に機能するシステムである。しかし、志あるドクターや医療スタッフがどこにでもいるわけではない。そういったところでは、繰り返しになるが役場の職員こそが、その「包括ケア」構築のイニシアティブをとるべきである。すなわち「カリスマ職員」の登場が期待される。それはカリスマ係長かもしれないし、カリスマ保健師、カリスマヘルパーであるかもしれない、介護保険制度の立ち上げに当たっては、各地に「カリスマ職員」が登場したことはよく知られている。職員は自らの人件費の範囲で、事業を起すことができる。もちろんそれなりの予算が必要であるが、事業の本体のところでは、人と人を結びつけることができれば仕事になるのである。一種の「予算なき行政」こそ必要とされている。

 

コミュニティ・ソーシャル・ワーカーの設置事業

 ところで、大都市部ではこのような「包括ケアシステム」は、地域コミュニティが衰退する中で、その実現はより難しいと思われる。この間の「地域福祉計画」の策定と、その「アクション・プログラム」の策定と実践においても、この難しさは痛感されるところとなった。そこのところを、「コミュニティ・ソーシャルワーカー」の設置・運営事業で乗り切り、新しい地域福祉システムを構築しようとしているのが大阪府と府内の市町村である。

 この「コミュニティ・ソーシャルワーカー」とは、「地域において支援を必要とする人々の生活圏や人間関係など環境面を重視した援助を行うと共に、地域を基盤とする活動やサービスを発見して、支援を必要とする人に結びつけることや、新たなサービスの開発や公的制度との調整などを行う専門知識を有するもの」とされている。(20029月大阪府社会福祉審議会答申)

 2003年度のモデル事業から始まり、2006年度までに大阪市等を含む府内の市町村にこのコミュニティ・ソーシャルワーカー(以下、CSW)が設置されている。概ね中学校区に一人の配置基準である。大阪府の2004年度予算では、CSW配置促進事業として16823万円が計上され、50ヶ所に配置予定とされている。実施主体は市町村で、定額補助であり、補助基準額は580万円である。各市町村の社会福祉協議会や在宅介護支援センターに配置する。(なお、大阪府地域福祉課のホームページにある、「地域福祉サポーターズ倶楽部」と「コミュニティ・ソーシャルワーカー」を参照されたい。)

 CSWの業務内容は、それぞれの市やCSWの能力などによって様々であり、現在も試行錯誤が続いているのだが、概ね次のように三つになってきている。

(1)セーフティーネット体制づくり(関係機関のネットワーク化)であり、      要援護者に対する「見守り・発見、相談からサービスへのつなぎ」が機能する体制の整備。

  (ア)福祉事務所、保健センター、福祉センター、子ども家庭センター、         保健所など。

  (イ)小地域ネットワーク活動(小学校区)、民生・児童委員、社会福祉         協議会など。

  (ウ)在宅介護支援センター、サービス提供事業者、ケアマネージャー     、障害者生活支援センター、福祉作業所、授産施設など。

  (エ)病院、診療所、医師会、歯科医師会、薬剤師会など。

  (オ)地域住民やボランティア団体、当事者団体など。

(2)個別支援

  (ア)要援護者、家族、地域の発見機能からの相談、巡回など。

  (イ)実態把握、情報提供、訪問指導など。

  (ウ)訪問指導、サービス情報提供、専門機関へのつなぎ。

  (エ)「CSW検討会議」でサービス調整。

  (オ)申請の付き添いなど、サービス利用支援。

(3)地域福祉活動の育成・支援。市町村社会福祉協議会活動や地域住民活動のコーディネイトや企画。
 

これらのCSWは府の行う「CSW養成研修講座」を受講することとされている。2002年度の場合は749万円の予算で、70名を予定している。講座内容は、社会福祉

士や保健師等の養成科目を参考にしている。

これから「安心・安定した」福祉の仕組みをつくるには、このような「ソーシャルワー

カー」を職務として確立していくことが求められる。問題があるところに出向き(アウ

トリーチ)、その場に関係専門家を集めて、支援プランを決定することができるような

ソーシャルワーカーが必要なのである。大阪府と各市町村のCSW事業の推進はこのよ

うなソーシャルワーカー制度の国レベルでの確立を展望している。

 

まとめ

 以上に見てきたことをまとめると、「安心と安定の福祉のしくみ」は、第一に、住民の意識と活動に担われた仕組みであり、それを通じた地域コミュニティの再生である。長野県栄村の「げたばきヘルパー」や同じ泰阜村の在宅福祉システムも住民の支えあいを基礎にしている。住民が主体的に参加し、知恵と資源を出し合い仕組みこそ求められる。第二にそれを支える医師や保健師、役場職員という専門職のネットワークの形成とそのスキルの向上が求められる。この中で大阪府の実施しているCSW配置事業は、過疎地でも有効である。CSWを軸として、これら専門職と民間の介護保険事業所や福祉作業所、保育所のケマネージャーや看護師、保育士、そしてなにより当事者の主体的参加を推進すること。第三には、地域の医療と福祉の理念を明確にしたリーダーシップが求められるのである。このリーダーシップは、首長、副市長、などとともに、担当部局長そして担当職員がNPOなどと連携して、発揮することが求められる。
 国は、介護保険制度や医療制度を過度に競争的なものしないようにしなければならない。

 どんな過疎地でも安心して暮らせるよう、地方交付税を含む財源的な手当を確保する責任がある。都道府県は、財政的に苦しい市町村を積極的に支援し、大阪府のCSW事業や「地域就労支援事業のような、市町村と相談しながら新しい施策展開を行うことが重要な役割である。また、民営化される郵政事業でも、過疎地では、高齢者の生活を支えるために郵便事業と貯金事業を兼務できるような仕組みも必要である。

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