介護保険制度と地方自治   
                      介護保険料の特色――新しい地方目的税か

                 初出:京都自治フォーラム 00年02月

 分権改革と介護保険制度

 今回の介護保険制度は、いくつかの点から地方分権の試金石だとも言われている。第一には、1999年7月に成立した分権一括法によっても、介護保険の事務は、市町村の自治事務として位置付けられている点である。この自治事務としての介護保険制度の運用や介護保険法の解釈は、当然ながら市町村の責任とその判断によることとなる。厚生大臣などの指導は、基本的にはないはずのものである。市町村は直接に法律又はそれに基づく政令によって事務を執行し、被保険者のために制度を設計しなければならないのである。省令、つまり介護保険法施行規則以下の厚生省の文書は、位置付けでは技術的助言にとどまり、法的な拘束力はないものと解する他ないものである。もちろん、従来の要綱や規則などは、全国的な基準の提示による公平性の確保、市町村間の合理的なバランスの維持などという点からは、依然として有益であり、そこに示された考え方を、市町村が自主的に採用することは当然である

第二には、市町村特別給付に見られるように、市町村の条例による政策を、介護保険法が広く認めている点である。これは、保険料の設定においても、基準所得額の設定や、所得段階の設定においても、法律が市町村の判断と、地域の特性を尊重し、生かす趣旨で構成されている点である。

そして第三には、特に第1号被保険者の保険料の設定方法が、地方自治を確立する上で、大きな意味を持っているからである。結論的には、この介護保険の第1号被保険者保険料を市町村条例によって定める方法は、極めて自治的なのである。それは、現在のわが国の税制が、地方税にあっても「入るを測って出ずるを制す」という形をとり、税率から課税方法まで自らが決定できない仕組みになっているのとは、ある意味では対照的である。

 ここでは、この第1号被保険者の保険料の定め方から、その特質を整理しておくことにしよう。

 

第1号被保険者の保険料

 市町村は、介護給付に必要な費用に当てるために、第1号被保険者から保険料を徴収しなければならない(介護保険法第129条)。この保険料は政令に定める基準に従い、条例で定めるところにより、算定された保険料率により算定された保険料額を課すこととなる。

保険者である市町村が、第一号被保険者の保険料を算定するためには、次の算式によることとされている。(令第38条、則141〜143条、付則4〜5条)。

 保険料の基準額=保険料収納必要額÷予定保険料収納率÷補正第1号被保険者数

 保険料の基準額とは、事業運営期間(法第147条第2項にいう事業運営期間であって、市町村介護保険事業計画の初年度以降3年間をいう。たとえば平成12年度から14年度の3年間)ごとに、保険料収納必要額を予定保険料収納率で除した数値を、第1号被保険者数(補正後)で除した額を、基準として算定する。

 この第1号保険料の基準額の試算が1999年度に入って各市町村で行われ、その中間集計が先に触れたように7月に行われている。それを参考までに示しておこう。個々に示された基準額の加重平均は、月額2,885円である。

 

 保険料基準額           市町村数         人口割合

 4、000円以上           78  2.7%    0.8%

 3、500円〜4、000円未満   189  6.3%    6.0%

 3,000円〜3,500円未満   618 20.7%   31.0%

 2,500円〜3,000円未満  1135 38.0%   48.3%

 2,000円〜2,500円未満   757 25.4%   12.2%

 2,000円未満          206  6.9%    1.7%

            社会保険研究所『介護保険制度の解説』100頁。

 

 保険料収納必要額とは、以下のような費用の見込み額の合算額から、収入見込み額を差し引いた額である。

 その費用とは、介護給付及び予防給付に要する費用、市町村特別給付に関する費用、財政安定化基金拠出金の納付に要する費用、保険福祉事業に要する費用、法第147条の財政安定化基金からの借入金の償還に要する費用、その他介護保険事業に要する費用の合算額である。ただし介護保険の事務に要する費用は含まない。

 また、控除する収入とは、国庫負担金、都道府県負担金、市町村の一般会計負担金、調整交付金、介護給付費交付金(第2号被保険者の保険料にかかる納付金による交付金)、国庫補助金、および法第128条の都道府県補助金、その他の介護保険事業に要する費用のための収入である。

 標準サービス量、供給率、希望率、基盤整備率

 さてこの介護保険制度の核心部分のひとつは、前述のように第1号被保険者の保険料基準額の算定をするために、「保険料収納必要額」を算出するところにある。この「保険料収納必要額」は、「3年間の介護給付などにかかる費用の見込額」(介護給付費および予防給付費、市町村特別給付、保健福祉事業費、財政安定化基金からの借入金の償還経費、その他介護保険事業にかかる経費)から、国庫負担金や第2号被保険者の交付金などの特定収入を差し引いて求める。

 このような経費の中心は、「介護給付費の見込額」である。この場合、介護に係る費用は、まず要介護度別にどのようなサービスを組み合わせるかによって決定される。このような要介護度別の標準的なサービス利用のモデルが、先述の「基本指針」における市町村が事業計画策定にあたって標準とすべき「参酌基準」である。これを介護の状態像ごとの「標準サービス量」という。

 次ぎに、当該年時点で、その市町村が供給できるサービスの見込み量を、サービスごとに把握し(具体的にはサービス事業者を把握し)、「供給量見込み」を確定しなければならない。

 一方で、サービスごとに当該年度に必要とされるであろう「サービスごとの必要量」を予測しなければならない。この「サービス必要量」は、「要介護度別人数の推計値」と「標準サービス量」を乗じた数値に、実態調査等から推計した「利用希望率」を乗じて算出する。これが厚生省が示した方式であって以下のように示される。

 当該年度のサービス必要量=要介護度別人数×標準サービス量×利用希望率

 このように推計された「サービス必要量」に対して、「供給しうるサービス量すなわち供給量の見込み量」の割合が「供給率」となる。

 供給率=供給量見込み÷必要サービス量

 この供給率は、5カ年を一期とする介護保険事業計画の中では、地域における供給量の確保および拡大を目指して、各年度ごとにその目標量を設定することとなる。計画の初年度は、現実の供給量の見込みから自由ではあり得ないから、実現性のある数値でなければならない。

 以上のように、介護保険料(特に第1号保険料)の場合は、まず歳出を決める作業が(介護総費用の見積もり)、あるいは地域での必要な財政需要を見込む作業が、まずあるわけである。この介護費用総額からそれに充当される利用者負担や国庫支出金などの特定財源を控除し、残渣を課税標準として、納税者すなわち第1号被保険者の人数で除すことによって、保険料基準額を、いわば保険料率を定めるという方法となっている。実はこの方法は、地方自治の母国といわれるイギリス特にイングランドにおいて、古くから各ディスクリトにおいて行われてきた地方税の税率決定方法と同じなのである。

ところで、わが国の場合は、国民健康保険の保険税と保険料が、既にこのかたちを採っていたから、なにも珍しいことではない。

国民健康保険料と保険税

 国民健康保険制度は、1938年に発足した市町村を保険者とする社会保険制度だが、その保険料は国民健康保険法に基づく「国民健康保険料」と、地方税法の定めにより徴収されている「国民健康保険税」とに分立している。保険税のほうが保険料より徴収の面で有利になるとの判断があって、従来の保険料のみではなく、保険税も課すること出来る旨の制度改正が1951年に行われ、現在は約2,900団体が国民保険税を、300団体程度が保険料で運営されている。保険料を徴収しているのは、東京の特別区や政令指定都市が多いために、保険税対象の人口と保険料対象の人口は前者が多いものの、2500万と1500万人程度の違いである。

 この保険税と保険料は、制度的には、保険料のほうが課税限度額や徴収方法など条例で定める範囲が広く、その反面、保険税は地方税法の定めるところが保険料より多く、裁量の幅が狭いといえる。とはいえ、もっとも大きな差異は、徴収権の消滅時効が保険料では2年であるのに、保険税では5年であるところにある程度で、基本的には同一と考えられ、どちらを選択するかは、各市町村に任されているのである。したがって、保険税とはいいながら、社会保険の財源として位置付けられているのである。

 この保険税・料の課税額ないし納付額は、次のような算式を基本とする。

 標準課税総額=A+B

A=(当該年度の初日における一般保険者に係る療養の給付費の見込額 +特定療養費の見込み額+療養費の支給に要する費用の見込み額)−当該療養の給付についての一部負担金(3割など)の総額の見込額を控除した額の百分の75に相当する額

B=当該年度分の老人保健法の規定による拠出金の納付に要する費用の額から当該費用に係る国の負担金の見込額を控除した額

 このうち療養の給付費とは、診察、薬剤又は治療材料の支給、処置、手術その他の治療、病院又は診療所への収容、看護、移送にかかる費用である(国保法第36条)。つまり疾病や負傷に関する医療サービスの給付に他ならない。これらの診療による療養の給付については、診療報酬のかたちで療養取り扱い機関(病院等医療機関など)に対して、保険者が支払うこととなる。

このように毎年度算定された標準課税総額を、それぞれの市町村ごとの条例で定める算定ルールによって被保険者一世帯あたりの保険料が算定される。

その算定ルールとは、例えば、所得割総額40%、資産割総額10%、均等割総額35%、世帯別平等割総額15%などである。

このように、国民健康保険税または保険料を定めるにあたっては、「毎年度の被保険者の医療費の見込額」を想定するところに、制度の核心があるといってよい。この「毎年度の医療費の見込額」を規定するのは、ベッド数に影響される有病者数や疾病率などと受診率、そして診療報酬の単価等の改定である。

 そういった点からは、介護保険料もほとんど同じ構造で、一人あたり第1号被保険者保険料が定められている。ただし、国民健康保険料のほうが、診療報酬の動きや、特に医療機関の配置や、受診行動という他律的な要素への依存度が高いと言えそうである。

 イギリスの地方税

 イギリスは1972年以来、地方制度の改革が繰り返されてきたが、地方税という点では、6つの大都市圏にある36のディスクリクト、地方圏にある296のディスクリクトが重要である(団体の数は1990年6月現在、竹下譲、佐々木敦郎『イギリスの地方税』梓出版社1995年6月13頁)。これらのディスクリクトは、課税団体とされ、自らの地方税を賦課徴収するとともに、それ以外の地方団体の依頼を受けて、それらの団体の税をも徴収する。そのような徴収依頼団体としては、カウンティ(県にあたる)、広域的共同処理団体(joint authority、一部事務組合)、およびより狭域のパリッシュ(parish)がある。

 イギリスの地方税、特にわが国の市町村にあたるディスクリクトの税は、長くレイトという固定資産に対する課税であったが、サッチャー政権のときにコミュニティー・チャージ(ポール・タックス)に改められた(1988年地方財政法、実施は1990年4月1日)。このコミュニティ・チャージは、18歳以上の全ての住民が、地方団体のサービスに対する料金として支払うものとされた。しかし非常に激しい反対運動の中で、ほとんど実績をあげることなく、カウンシル・タックスへと改められた(1992年地方財政法、1990年11月サッチャー退陣)。カウンシル・タックスは、旧レイトのように居住用の家屋等の資産に課税するもので、納税義務者は所有者ばかりではなく賃貸の居住者も対象である。

 その課税額等の決定方法は、「英国の地方税は、日本で一般的に行われているような法律で定められた税率によって課税する方式ではなく、伝統的にそれぞれの地方団体の毎年度の予算の状況に応じて独自にその住民に課すべき課税水準を決定する方式を採用している。」(前掲『イギリスの地方税』107頁)

 課税団体の税額決定は、前書に拠って、簡略化して示せば次のように行われる(同書167から172頁参照)。

  1. 予算所要額(budget requirement)の決定

まず当該年度に必要と見込まれる経費(X)を計算する。Xは、当該団体の事務を処理するのに必要と見込まれる経常収支会計に属する経費と、予備的経費、基金への拠出金その他の経費を積算する。

次に手数料などの諸収入の収入見込(Y)を積算する。このYには、非居住用資産レイトと地方交付金( Revenue Support Grant, RSG)は算入されない。

そして、次にXからYを差し引く。
この(X−Y)を予算所要額(
budge requirement)と呼ぶ。

次にカウンシル・タックス基本額(Z)を決める。

Z=R−P/T

R:予算所要額(X−Y)

P:非居住用資産レイト及び地方交付金

T:カウンシル・タックス・ベース

このカウンシル・タックス・ベースとは、「地域の居住用資産の中間的な価格帯の標準資産数」で、基準額にあたる。

 以上を見てわかるように、地方税の必要課税総額の決定は、まず、予算所要額を積算するところから始まる。この経常経費を中心とした経費に係る費用から、まず手数料等の諸収入を控除し、次に配分されてくるはずの譲与税化した非居住用資産レイトおよび地方交付金を控除する。この操作を行った後の経費を課税額の基礎とするわけである。

 自治体が需要額を算定する仕組みこそ自治の要

 以上に見てきた国民健康保険制度と、イギリスにおける地方税(現行ではカウンシル・タックス)の仕組みは、よく似ている。そして第1号被保険者の介護保険料の算定方法も、歳出見込みや必要な費用見込みを算定するところから始まる、という点ではこれらの仕組みと同様であることもわかった。

 違いは、国民健康保険制度が、その自治的な性格がほとんど自覚されていない点である。これは、国民健康保険の場合、療養の給付費の見込額を算定することが制度の核心であるにも係わらず、従来の実績に依存していることとで他律的なものとして捉えられがちなこと、そして、医療費そのものを保険者である市町村がコントロールすることが困難であるからだと思われる。診療報酬の決定、変更は国の一元的な管理の下にあり、ベッド数の規制等は県の権限に属するからである。

 また、国民健康保険が一般会計とは独立した特別会計で処理されているところにも、その制度的な意義がうまく捉えられていない理由の一つがありそうである。

 一方でイギリスの地方税の場合は、各自治体ごとの歳出予算の構造は、それぞれの自治体によってかなり異なる(前掲『イギリスの地方税』参照、その他に北村裕明『イギリスの地方税改革』日本経済評論社も参照されたい)。にもかかわらず、地方税の必要額の算定とその税率の決定は、その自治体の歳出の見込みから行われるという原則はゆるぎがないのである。

 このように、地方自治体の必要とする財源を自らの歳出見積もりを大前提にして、税率を決定し、徴収するという仕組みこそ、地方自治が歳入の自治の裏付けをもって確立するための重要な条件であるように思われる。すなわち、介護保険の分権的性格は、法律と政令に規定されながらも、このような財源の自律的決定方法を持っているところにあるといえる。このことは同時に、介護保険給付の種類や内容、範囲を自律的に構成することをかなりな程度許容する仕組みを持っているところにある。

 税か保険かという議論も重要であるが、税であっても保険であっても、このような歳出見積もりの自律性と、税率決定の自律性が尊重されなければならないのである。この仕組みが尊重されれば、介護保険制度が(あるいは新しい介護制度が)、地方自治の確立に向けた分権改革を、福祉政策の面から展開する重要な仕組みとなるに違いないのである。

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