介護保険この一年   (初出・『自治総研』01年06月号)

目次 

  介護保険制度の理念と改革課題  この一年、拡大した介護サービスの利用  認定を受けた人のうちの未利用者の問題  利用者負担はサービスを抑制しているか(京都市と枚方市の利用者アンケートから)  認定を受けた人の割合  サービス利用者の拡大と施設への傾斜  居宅サービスと施設サービスの割合  国の2001年度予算  訪問介護の利用度は40%以上の伸び  京都市や奈良県の場合  利用度が下まわった理由  低所得者対策 今後の課題  おわりに
    

1 介護保険制度の理念と改革課題

 介護保険制度が全国の市町村で始まって一年。全体としては、順調な運用が進められていると言っていいようだ。ただ、改革すべき課題もはっきりしてきたのも事実である。これらの点をとりあえず検証してみたい。もっとも、介護保険制度は、非常に大きな改革であるため、当事者が多岐にわたり、影響する社会的・制度的範囲も広い。全体像をつかむのは至難の業である。それぞれの持ち場、地域そしてその関わり具合から見える世界もちがう。したがって現状の一部を、ごく限られた範囲で見ていくことになる。このことは、介護保険制度という生成しつつあるシステムについて評価し、議論する場合に忘れられてはならない視点である。

 また、介護保険はその中心部分、すなわち介護費用の算定、第1号被保険者の保険料の算定と賦課徴収、利用者負担のありかた、市町村特別給付などを含む介護保険事業計画の策定と実施は市町村の自治事務である。そのため、市民参加のもとに、各市町村が様々な工夫をこらすようになってきている。たとえば、事業者とそのサービスの第三者評価システムの創出、地域福祉コミュニティの構築、利用者あるいは事業者に対するアンケート調査などの実態調査の定期的実施。このことは、自治体行政のありかたを大きく変革する可能性をはらんでいる。政策形成型の行政に不可欠なプラン・ドウ・シイ(Plan Do See)のプロセスを多くの市町村が、事態に迫られてやむをえず、しかし意欲的に実践しているからである。

 ここでは、国と市町村、地域社会においてこのように生成しつつある介護保険制度を検証するために、とりあえず以下のような視点をふまえつつ、制度的展開の評価とこれからの改革課題を整理することにしたい。

 

(1)介護保険法は、その第1条で、その利用者すなわち被保険者の自己決定による選択を支援し、その自立した日常生活を営めるようサービスを提供することを目指すとしている。その際に、可能な限りその居宅において、その能力に応じて日常生活を営めるよう支援するとしている。すなわち単身の障害高齢者であっても、社会的な介護サービスを受けながら在宅での日常生活が、営めるように支援することが本法の目的だとしている。

 (イ)ここから導き出される評価視点としてはまず、「利用者の自己決定による選択」が可能になるか、あるいは可能になったかどうかという評価視点である。「利用者の自己決定による選択」を可能にするためには、まず利用者ないしその家族が、介護サービスに自由にアクセスすることが出来なければならない。

 措置制度の下では、受けるべきサービスの種類も、誰から、どこで受けるかも利用者側には決定権がなく、行政による一方的な采配に依存するしかなかった。このような措置制度が、介護サービスの供給量の拡大を決定的に抑制していたのである。なぜなら、利用者側のこれらサービスに対する需要、デマンドは、行政の窓口においてカットされ、表面化することが非常に困難であったからである。

 この利用者による介護サービスへの自由なアクセスを実質的に実現するためには、介護サービスについての豊富で正確な情報と、各事業者に関する、これも十分な、そして評価についての正確な情報の整備が不可欠である。それはまた利用者にわかりやすく利用しやすい形で提供されなければならない。

 また、自由な選択を可能にするためには、サービスの供給量が相当大きくならなければならない。選択を可能にするだけの選択肢が用意されなければならないのである。多様な供給事業者の参入によってこれらの社会サービスの供給量を飛躍的に拡大することができているかどうか。

 その際、サービスの質の低下をふせぎ、逆に競争原理の働きによる顧客サービスの向上に期待する。すなわち使いやすいサービスの量的拡大と、質的向上によって利用者の拡大を図る。このことは、事業者のモラルを高めるための、サービスの評価制度を工夫することが求められることでもある。また、利用者側、ユーザーも賢い消費者としての選択眼を養うことが求められる。

 (ロ)また、「居宅での自立した日常生活」を営めるようにするためには、まずその生活を支える「地域福祉システム」が必要だが、このような地域福祉システムを組み込んだ「地域コミュニティ」を再構築する、あるいは新たに編成する施策が、あるかどうかが評価視点として重要である。

 そして、具体的に、自立支援サービスのメニューがどの程度組まれているか、その利用度や機能している程度も是非見てみたい。例えば、移動支援サービス、臨時的でアドホックな家事援助(大掃除や住宅の小修理、雪下ろし、草引きなど)、配食サービスなどなどである。

 (2)そして、介護保険制度の創出によって目指された社会的問題の解決や財政構造改革の上でのねらいがあり、それらの問題やねらいから見て、この一年をどう評価するかという視点である。

 (イ)その社会的問題とは、第一に家族介護への過度の依存、特に女性への過度の依存という現状を変革していかないと、介護される側も介護する側も、共に介護地獄から解放されない。そして高齢化が進む中で、さらに深刻な状況がより広い範囲にひろがることが避けられないという問題である。

 これを「介護の社会化」を通じて、介護される側、する側の双方を過酷な精神的、肉体的そして経済的な負担から解放しようとしたのが、この介護保険制度の創出の社会的背景である。つまり、家族介護の社会的支援を通じて介護者の負担を軽減し、それをも通じて要介護者の生活の質(QOL)を高める。そしてこのような社会サービスをだれもが利用できる制度として確立していくことによって、介護という社会問題を調整しようとしたのである。これによって社会の活性化を図ることもできる。

 (ロ)また、財政構造改革の上での課題とは、病院の福祉的利用のひとつの形態である社会的入院を解消する、または軽減することによって、高齢者医療費の膨張を抑制するところにあった。すなわち医療費の国民負担率の上昇を抑制し、より効率的な医療サービスの供給に道を開くことが期待されているのである。

 具体的には、市町村における介護保険特別会計、老人医療特別会計、国民健康保健特別会計のいわば連結決算、連結予算によって、その効果を測定することが必要である。

 (ハ)自由な選択にまかされる被保険者の権利擁護と意見表明権を保障する制度を設計することが求められる。なぜなら、自己決定権の尊重ということは、自己責任ということでもある。しかし、このような自由な選択とそれにともなう自己責任の確立が必要とされるとき、同時にそのような選択権を行使することにハンディキャップを持つ高齢者等も必ず存在する。このような判断する力などにハンデをもつ利用者をサポートし、その権利を守る法的に、また社会的守る仕組みが必要となる。このために新しい成年後見制度を発足させ、その充実を図る共に、社会福祉協議会等の権利擁護制度を展開する。

 同時に、利用者の側に立った各種の相談制度、相談窓口、相談員制度の整備が必要である。これは、福祉オンブズマン制度の拡充と充実の方向と合わせて整備を進める必要がある。さらに異議申し立て制度の活用と、使い勝手のよい不服申し立て制度の改革も求められる。

 (3)これも非常に独特な制度としての要介護認定がスムーズに行われ、公平性や機会均等性に課題はないか。その判定に対する被保険者の不服、不満はどの程度あるか。その是正措置は適切に機能しているか。

 訪問調査の効果は充分に発揮されているか。特に市町村が直接に訪問調査している市町村と、全部委託との違いがどこに現れているか。

 (イ)要介護認定については、特に痴呆性高齢者の要介護度に問題が多いことが市町村から強く指摘され、第一次判定の内容について、その判定ソフトを改善することが課題となっている。特に、痴呆性高齢者の介護では、「見守り」という介護労働が見過ごされてきたのではないかという指摘から、この実態調査が行われる。

 (ロ)また、この要介護認定の効力は6ヶ月とされている。6ヶ月経過すると再度、要介護認定を受けることになる。これは要介護状態が変化するために、6ヶ月という有効期限を設けたとされている。実際に始まってみると、この6ヶ月という再調査期間が短いという不満が相当出てきた。このために、事実上この期間を延長している自治体や、簡略化した市町村もかなりあるようだ。このことは各自治体の判断であるが、ただ、要介護認定を定期的に行うことの意味を改めて考えておきたい。

 第一には、介護の必要度を、第一段階では体の状況のみによって判定しようという試みだということである。これは、その人が置かれているその他の条件は、いったん捨象して介護の必要性にのみ着目することを意味する。介護する家族が居るか居ないか、介護する家族との関係はどうなっているか、所得があるか否か、居宅の状況はどうか、親戚や近隣との関係はどうか、などはまずは無視される。このことは、肉体的にあるいは精神状態として他者によるなんらかの介護支援の要・不要をできるだけ客観的に判断しようとする考え方だということである。

 これら、捨象された諸条件は、ケア・プランを作成するときには、不可欠なものとなる。すなわちケア・プラン作成の前提として行われるべき「アセスメント」がそれである。

 このような介護の必要度を、できるだけ客観的に判断しようとするのが、介護保険制度の一大特色なのであるが、これは現在の医療に対する批判でもある。疾病の診断、その治療の方針は、医師の裁量行為である。そこには第三者はなかなか立ち入ることができない。したがったカルテの開示も進まない。不必要と思われる検査や投薬、過度の濃厚治療があっても、それを事前にチェックすることは難しい。レセプト審査の段階で、事後的に是正措置がとられるにすぎない。それもレセプトという限られた資料による、限られた判断にとどまる。これがまた、医療費の膨張に歯止めをかけにくい一因ともなっている。

 第二には、全ての要介護・要支援高齢者を含む介護認定を申請した高齢者とその家族に、再調査を通じて個別にインタビューできるということが大きな意味をもっている。要介護度が半年前と同じであれば、再調査や再認定は不必要であり、労力の無駄だという理屈はわからないことはない。しかし、それはものごとの一面しか見ないことである。

 保健婦であれば、また市の職員であれば再調査を利用して、一人暮らしや高齢者のみ世帯を定期的に訪問できる。そこでは、介護認定のためのブックマーク質問票だけではなく、総合的に暮らし向きや健康について、そして外出介助や住宅改修などの希望などについて、いわば自立支援のためのヒアリングを行うことができる。

 奈良県の当麻町では、町の保健センターの7人の保健婦が、この訪問調査を行う中で、訪問指導という本来の保健婦活動の拡大が進んだという。介護支援サービスの上手な利用によって要介護度が下がった住民を、「よかったね」とはげますことも多いという。普通は、要介護度が下がると、支給限度額が下がるので損をした気になるところを、制度本来の趣旨(自立支援)から、状態の改善を素直によろこぶことができるよう、サイドから支援することもできる。

 つまり保険行政や福祉行政に求められている、「アウトリーチ」が制度的に容易に可能となったのである。カウンターを飛び出し、デスクに縛られないで、ニーズのあるところに直接出向き、生の情報を得るとともに、種々の相談にも応じられる。このような訪問調査は、待ちの行政から、出前行政とオーダーメイド・サービスに転換する大きなてことなりうると思われる。

 (4)その他、評価視点としては以下のような諸点もあげられるであろう。

 (イ)制度の原則として自分の介護プランは、自分で設計できるよう、介護保険事業者に関する詳細な情報を開示する。このことは、先のサービス評価システムを構築することでもある。

 (ロ)処遇困難な条件をもった利用者について、市町村が積極的に対応するべく、市町村長権限の整備を図り、ソーシャルワーカーの機能を活性化する。

 (ハ)キーパースンとしてのケアマネージャーなど、専門職の職域拡大と、福祉関連の雇用機会の拡大がもたらされるとされている。特にケアマネージャーやホームヘルパーなどの資質向上などの施策はどうとられているか。

 (ニ)第一号保険料の定め方の自治的性格をどのように意識し、自覚しているか。保険料の減免の議論をどのように扱っているか。

 

  () 一割の利用者負担をどのように考えるか。低所得者に対する減免措置について、どの程度拡大するか。そしてその考え方をきちんと整理しているか。その財政負担はどの程度か。

 

  () 施設整備の地域的特色があるか。特に在宅サービスと施設サービスのバランスはどうなっているか。医療系統と福祉系統のバランスはどうか。

 

  () 介護保険事業計画と高齢者保健福祉計画とは、適切に組み合わされているか。生きがい対策や自立支援の地域福祉政策は適切に展開されているか。

 

2この一年 拡大した介護サービスの利用

 介護保険制度が実施されてもっとも端的な変化は、介護サービスの利用者が著しく増加し、提供されるサービス量(給付額でみた)も、各市町村レベルでも、全国的なレベルでも増大したことである。日本経済新聞の

2001518日付の「経済教室」では、介護サービスの対象者数は、20003月末に比較して、介護保険実施後7ヶ月で、施設介護で1.6倍、訪問サービスで2.1倍、全体で1.9倍となったと試算している。

 このような全国的な数値を、厚生労働省が20003月から発表し始めた「介護保険事業状況報告(暫定版)」(以下「状況報告」)から整理してみよう。

 後掲の1表、被保険者数等の推移を見てみる。まず、第1号被保険者数は4月(2000年、以下同じ)には2165万人だったが、20011月には2,250万人になり、この9ヶ月で595千人、2.75%増加している。このうち、要介護認定を受けた高齢者は、4月の218万人から1月の251万人と、329千人、15.1%増加している。つまり第1号被保険者の増加率の5倍以上の割合で、介護認定を受ける高齢者が増加している。

 このことは、おそらく制度開始時には無関心であったり、役所の従来のやりかたのために理解できていなかった高齢者またはその家族が、とりあえず介護認定は受けておこうという形で、介護保険制度のアクターとして参入してきたからではないかと推測される。

3、認定を受けた人のうちの未利用者の問題

したがって、介護認定を受けた高齢者が、直ちに介護保険サービスの利用を始めるとは限らない。この「状況報告」では、後掲の第3表にあるように、11月においては居宅サービスの受給者132万人、施設サービスの受給者63万人、合計195万人となっている。これに対して要介護認定を受けた人は248万人(第1表)なので、その比率は78.6%である。つまり要介護認定を受けた人のうち、4分の1弱の人はサービスを利用していないことになる。ただ、この計算では介護保険サービスのうち、居宅療養介護などがカウントされていないために、介護保険サービスというくくりでは過小に算定されていることは注意が必要である。

 このことは、各保険者による利用者の実態調査でもわかっている。京都市の場合、要介護認定を受けた人のうち、

89.5%がサービスを利用しているが、10.3%の人はサービスを利用していない。(調査時期は200119日から29日、郵送による配布数3,002名、回収数1,558件(回収率51.9%)である。)

 枚方市の場合、同じく要介護認定を受けた人のうち、79.9%の人がサービスを利用しているが、一方でサービスを利用していないか、利用を中断している人が16.1%いる。(在宅の要介護・要支援者3,722人のうち1,000人を抽出、返信用封筒を同封した郵送法、調査時期20001025日から118日、回収数607、回収率60.7%である)。

 これらは、いずれも調査の目的や範囲が異なり、実態調査では質問項目や質問分自体が異なるので厳密な比較はできないが、一定の傾向はわかる。

 

4、利用者負担はサービスを抑制しているか

では、要介護認定を受けながらサービスを利用していない理由はなんであろうか。この理由として、新聞やテレビなどの一部が個別事例をあげながら社会部的にフレームアップしようとしたのは、「一割の自己負担が過重だから」という理由である。この自己負担が、サービス利用の壁だという立証は、このふたつの調査やその他の市での調査ではできなかった。もちろん、この自己負担によってサービス利用を抑制したり、あるいは断念したりしている人も一定程度いることも確認されている。このことは、その断念したりした人にとって極めて重いことであり、何らかの救済手段が検討される必要がある。

 しかし、サービス利用をしない理由のうちではその比率は低いものであることもわかっている。ただし、この理由が相対的に無視しえない比重を占める市もないとはいえない。それはその都市の住民の特色を示すものである。

 京都市の場合、サービス未利用の理由は、「当面家族などによる介護で充分」42.9%、「現在病院に入院中」15.5%、「これから利用するつもり」21.7%、「事業者の職員など、他人を自宅にいれたくないから」7.5%、「介護保険以外のサービスを利用」5.6%、「利用料が高く利用できない」「どうすればサービスを受けられるかわからない」がともに5%(8人)、などとなっている。

 枚方市ではどうであろうか。「家族などに介護してもらっている」38.8%、「現在のところ必要がない」20.4%、「入院中・入所中」36.7%、「利用料の支払が困難」10.2%(10人)などである。

 ここに出ている傾向は、実はかなり問題の根が深い。利用料が壁であれば、なんらかの減免措置を決断すれば、財政的な負担はあるにしても解決は簡単である。しかし、最大のサービス利用の壁が、要介護者とその家族がもっている家族介護への依存を脱却できない意識構造や、他人を家に入れたくない、あるいはその背景として厳にあると想定される福祉サービスを受けることに対する恥の意識であるとすれば、解決はより困難な問題である可能性が高いからである。つまり従来の福祉政策が人々のなかに培ってきた「福祉のスティグマ性」を根本的に克服することこそ、福祉政策の政策主体に求められるのである。

 

5高齢者のうち認定を受けた人の割合

要介護認定を受けた人の割合は、第

1号被保険者(すなわち65歳以上人口)のうち、4月の段階で10%強であった。20011月段階では、この比率は11.3%にと上昇する。この比率はなおじわじわと上昇するであろう。都市によってこの比率も異なると思われるが、全国的な数値としては、10%台前半というところになるのではなかろうか。

 要介護度ごとの人数などは、後掲の第2を見てみたい。在宅で生活を支えるのに大きな難しさがあり、施設か在宅かという選択のひとつの境界と考えられるのは、要介護度3である。それより要介護度が低い場合は、比較的に在宅での生活を維持しやすい。そういった観点からすると、従来の基準で言えば寝たきりないし準寝たきりとなりうる要介護度54で、694千人(20011月)となっているのは重要な指標である。これを在宅での寝たきり者の比率の近似的な数値として見れば、その比率は65歳以上人口22085千人の3.1%程度である。

 この要介護度ごとの比率と人数は、実は今までにない統計数値である。介護保険制度が始まり、特に要介護認定が全ての市町村をカバーすることによって、初めて具体的に捉えられた数字ということになる。

 

6 サービス利用者数の拡大と施設への傾斜

次に介護給付を利用している人々の状況を見ておきたい。第3表を見てわかることは、第一に居宅サービスの利用者数は4月から11月までの間で、36.1%増加し、施設サービスの利用者は21.1%増加していることである。利用者の割合では、居宅サービスの利用者が132万人、施設サービスの利用者が628千人で、居宅67.8%、施設32.2%となっている。順調に居宅サービス、施設サービスとも伸びているように見える。

 ただこのサービスの利用者の伸びは、いくつか問題をはらんでもいる。それは全国的に居宅サービスの利用が伸び悩むのと裏腹に施設への依存度が高まる傾向が見える点である。

 施設の選好度が高くなる傾向にあることは、居宅サービスを受けながら在宅で頑張るより、施設に入所したほうがコスト的に割安であるということも影響しているのではないかと指摘されている。すなわち宿泊代、食費に該当するコストを、ホテル・コストというが、在宅サービスでは全て自己負担である。しかし施設では必ずしも全額自己負担ではなく、施設の種類によっても扱いが異なるからである。

 それに、介護者の精神的負担感からの解放や、時間的拘束からの自由など、介護者の要請が強く、施設への入所希望がここのところ拡大してきている。各施設の入所希望者のリストは、長くなる一方である。一施設あたり300人などという数字も珍しくはない。ただしこの数字は、多くの重複を含んでいるので、実際にどの程度の待機者が居るかは正確にはつかめない。つまり一人の入所希望者は3ヶ所や4ヶ所に申し込んでいる場合が多く、実数は3分の1か4分の1となるからである。

 

7 居宅サービスと施設サービスの比率

このためもあって、介護給付費すなわち介護サービスの費用のうち、居宅サービスと施設サービスでは、圧倒的に施設サービスのウェイトが高い。これは第4表の「事業状況報告(暫定値)」ベースでの数字を見てもわかる。

 2001年1月の保険給付決定状況では、訪問通所サービスが26.9%、施設サービスが64.6%となっている。この訪問通所サービスには、訪問介護、通所介護、通所リハビリが含まれている。金額としては、訪問通所サービスが一ヶ月804億円、施設サービスが1,932億円と訪問通所サービスの2倍強となっている。

 この訪問通所サービスに対して施設サービスの給付額が2倍程度になり、総給付額の7割程度占めるという傾向は、各市町村の介護保険特別会計の内訳においてもほぼ同様であることが確認できよう。

 これは、居宅サービスの利用度が、施設サービスに比較してなお極めて低いこと、および施設サービスの費用の単価、価格が居宅サービスに比して高いことによって生じているのである。逆にいえば、居宅サービスの単価が相対的に低いことを、一部反映しているのである。

 なお、国の12年度予算では、介護の総費用の見込みは4兆3,000億円。このうち利用者負担5,000億円を除いた38,000億円が給付費となる見込であった。この給付費は在宅サービスで13,400億円、施設サービスが介護療養型8,100億円、老人保健施設6,900億円、介護老人福祉施設が9,500億円であった。給付費に対するその比率は、施設が64.5%であり、在宅は35.2%となっている。施設サービスはほぼ予想どおりだが(内容の構成は異なるが)、在宅はかなりちがう。もっとも、訪問通所以外の単品サービスや住宅改修も在宅サービスにいれれば、在宅もほぼ見込みどおりである。

 

8 国の2001年度介護予算は約11%の伸び

 国の2001年度予算では、この介護総費用の見込み額は、47,700億円であり、これは全年度比10.9%の伸びである。この内訳は、利用者負担5.600億円を除く給付費が42,100億円である。うち在宅サービスが16,800億円で給付費の39.9%となっている。これは2000年度に比較して14.9%の伸びを見込んでいることになる。施設サービスは、介護老人福祉節が1700億円(3.2%増)、介護老人保健施設が8,800億円(16.9%)、介護療養型医療施設が5,800億円(34.4%減)となっている。施設サービス全体では、25,300億円で、給付費の60.1%となる。

 国の予算では、在宅サービスの比率が高くなり、施設サービスの比重が下がることとなっている。これは、実勢と食い違う可能性があり、これを予算のかたちに誘導するためには相当の政策努力が求められる。特に、施設に向かおうという利用者ないし家族のニーズを在宅サービスに転換するためには、ホーヘルパーの介護報酬およびケアマネージャーの介護報酬の見直し、介護保険外の地域福祉サービスの展開の支援、住宅改修の拡充など、政策的努力が市町村や利用者に明確に示され実行される必要がある。

 

9 訪問介護の利用度は40%程度の伸び

 居宅サービスの利用度は、ひとつは各保険者の介護保険事業計画における計画見込み量に対して、どの程度の実績があったかで、量ることができる。この計画量に対して、実際の給付がどの程度かを見るには、ふたつの観点がある。ひとつは、利用者数あるいは利用量(回数等)の見込みに対して実際にサービスを利用した人の数、または利用量である。もうひとつは、計画上の給付額に対して、実際の給付額がどうだったか、という給付額ベースのそれである。

 利用者ないし利用量ベースでは利用が全体としては拡大しているのは間違いがない。それは保険者によって差はあるものの、訪問介護の場合、2000年4月の当初に比較して年内にはおおむね30%から40%の伸びとなっていると思われる。

 また、平成11年度と比較した場合は、この数値はもっと高くなる。奈良県橿原市の場合、介護保険制度施行前の11年度の一ヶ月の平均利用量と、12年の11月から1月の3ヶ月の平均の一ヶ月利用量を比較すると、訪問介護は一ヶ月当り1,207回から5,686回に4.7倍となっている。通所介護が1,547回から2,927回に1.9倍となり、通所リハビリが40件から137件に3.4倍である。

 しかし他方、給付費ベースでは、予想の範囲内とはいえ計画を大幅に下まわる傾向が居宅サービスでの全国的な特徴である。

 

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 京都市や奈良県の場合次のようになっている。まずサービスの利用量では、訪問介護については、計画量を大きく上回っている。

200010月には、事業計画では週当たり31863回の見込みが、実績では44523回/週と計画量を1.5倍近く超える。また、居宅介護支援(介護サービス計画の作成、ケアプラン)についても、事業計画を上回っている。すなわち計画量は年間14139人であるが、実績では18201人となっている。通所サービス(通所介護、通所リハビリ)では、10月の実績は16140回/週で、計画量の16220回/週をやや下まわるが、毎月の伸びを見ると、年間を通じて計画量を上まわるのは確実である。

 一方で、保険給付費のほうはどうか。居宅サービス費は12月までで133億円となり、12年度予算額の77.5%の執行率となっている。この伸び率でいくと、12年度末には予算額に近づくと考えられる。これは施設の場合も同様で、京都市の場合は、予算の執行状況はほぼ100%執行に近いと予想されている。

 これは、全国的には珍しい例で、多くの市町村においては、居宅サービスにかかる予算の執行率は70%80%程度である。奈良県の場合、県全体の給付実績は12月においては、毎月の給与予定額の約81%の給付率であるし、生駒市では予算上の12月分に対して70%程度の給付実績となっている。

 いずれにしても、京都市の例でいえば、居宅サービスの供給量は計画額を大幅に上まわったのに、給付額では予算どおりにおさまるのは、サービスの一件あたりの利用単価が予想より低く抑えられているからである。

 支給限度額に対してどの程度の利用額があるだろうか。次の第5表を見てもらいたい。京都市の平成1212月の状況では、サービス利用者がもっとも多い要介護度1の場合、サービスの利用者数は5762人、支給限度額は16580点(110円)、平均利用単位数は4590点。したがって支給限度額に対する平均利用率は27.7%である。要支援から要介護度5までの合計の平均利用率は、35.9%であった。

 

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 このように要介護度別の支給限度額を大きく下まわる利用率になっているのは、全国共通の状況である。この理由としては次の点があると考えられる。

 (1)基盤整備率による供給量との整合

 介護保険においては、介護給付費の測定のために、基盤整備率という考え方を入れて計算上の操作を行う。給付費の予測をするときに用いられるのは、要介護度別の高齢者数の推計値、厚生労働省の示す標準サービス量、実態調査に基づく利用希望率、それに基盤整備率、およびサービス種類ごとの単価、すなわち介護報酬単位数、である。

 基盤整備率は、平均利用希望率に供給率を掛けあわせて求める。つまり基盤整備率とは、要介護と認定された人のうち、どの介護サービスを受けようと希望するかという利用希望者の割合=利用希望率をさらに、実際に保険料算定対象となる期間に供給が見込まれるサービス量の、必要サービス量に対する割合(供給率)によって調整したものである。

 この平均利用希望率は、各市町村において意向調査というかたちでサービス種類ごとに調査されるが、大体30%から40%台というのが全国的な傾向である。この希望率は、市町村によってかなり大きな違いがあるが、その違いを規定している要因のひとつは、それまでのそれぞれの市町村における福祉政策のありかたである。積極的に福祉政策をしてきたところは、住民の間にサービスの認知度も高い。消極的な市町村では、サービスの認知度も低く、スティグマ性の意識も色濃いと思われる。

 すなわち、利用希望者の希望が実現するかどうかは、基盤整備の程度によって制限される。つまりニーズは供給力の限界にぶつかって現実化しないことになる。それが基盤整備率の意味である。京都市の場合、平成12年度の基盤整備率は35.9%である。この基盤整備率は、計画的に引き上げていくこととされている。もっとも、希望率をファクターにしているから、100%にはなることはない。ただし、京都市の場合、居宅サービスの供給率は100%に近いかそれをオーバーしていると考えられるから、基盤整備率を規定しているのは、利用希望率ということになる。つまり、この場合、35.9%の被保険者が希望されているというに近い。

 

 (2)利用限度額一杯まで使わない理由

同じく京都市の「京都市介護サービス利用者アンケート調査」(200119日から29日、同時期に要介護認定(更新認定)結果を送付した居宅の保険者3002名(全認定者の12.0%)に郵送、回収数1558件で回収率51.9%)では、「必要なサービスを選択した結果そうなっている」が

441件で43.8%、「以前と同じサービスを利用している」が280件で27.8%、この上位ふたつの理由が71%となっている。つまり限度額までのサービス利用は、当面のところ必要ないに近いという人4分の3近くとなり、一番多いのである。

 一方で、「もっと利用するつもりだが現在はまだ利用していない」が260件で25.8%、「利用できるサービスがない」が45件で4.5%、などとなっている。また、「利用料負担が大変だから」が192件で19.1%ある。サービスが無い、利用料があって希望するサービスを断念している、という利用者も4分の1ほどいることがわかる。

 このような結果を見ると、次の点が検討されるべきだと思われる。第一には、利用限度額が高すぎるのかどうか、ということである。基礎になっているのは、先ほど基盤整備率のところで触れた「標準サービス量」である。この「標準サービス量」が適切か否かという問題である。多分、この標準サービス量はかなり妥当なのではないかと思われるが、実際の居宅での介護状況から、より柔軟な介護手法も考えられてもよいのかもしれない。

  第二には、同時に、「今の介護の水準で十分」という解答にも問題がありうる。家族がになっていると思われるその介護水準は、寝かせきりにしていないか、寝たきりを起こす介護になっているか。介護されている人の自立を助けるものとなっているか。といった観点から第三者が検討する機会が必要である。

このためには、ケアマネージャーを中心とした「ケアカンファレンス」が不可欠である。一部では従来の手続きを踏襲しながら、新しい環境で「ケアカンファレンス」が行われている。あるいは、「高齢者サービス調整チーム」としての検討がもたれなければならない。現状はかなり難しいのが現状である。しかしながら個々のサービス利用者にかかわる様々な職種の専門職員が一堂に会してケアの内容を検討し、自立に向けた改善点をつくり実行することが、どこでも可能となるような、介護報酬体系を初めとする改革が求められる。

 

 第三には、サービスがない、あるいは不十分にしか利用できるサービスがなく不足しているという状況をどう考えるか、である。この供給力の不足は、介護保険発足時点での、措置制度下での貧困なサービス供給基盤から出発せざるをえなかったから、やむを得ない現実である。しかし、早急に基盤整備を進めなければならないことは事実である。
 この供給基盤の強化、拡充は、行政として直接実施できることと、企業やNPOなどの市民セクターに対する支援との二本立てで考えることが必要である。

  第四には、利用者負担についてである。ひとつは、利用者負担の意義をもう一度明確にしておくことが必要である。介護保険制度に利用者負担が導入されたのは、医療保険制度の轍を踏むまいという意図が大きかったのではないかと思われる。一割の利用者負担を導入することによって、サービスの利用にはコストがかかることを自覚することを促す。もっともそのことを徹底するためには、介護サービスのコストを明確にし、ディスクロージャーすることが不可欠である、つまり介護報酬のコスト構造の明示もまた必要なのである。

 (この介護報酬のコスト構造の明示は、まだ出来ていない。というのは、介護報酬という介護サービスに関する「公定価格」は、いろいろな要素で決まっているために、十分な説明力を持ったものとしては未成熟だからである。たとえば、訪問介護の介護報酬は、事務所の借り上げ経費やランニングコストなども含む経費として計算されているが、ホームヘルパーの人件費が社会的に自立した労働として積算されているわけではない。ケアマネージャーのケアプラン作成経費についても、合理的な水準とはいえない。)

 したがって、一割の利用料負担をバリアーと感ずる人が一定程度の割合で出てくるのは、制度のねらいが実現していることを示すわけで、当然のことなのである。いわゆる制度へのただ乗りや、乱用を防ぐ装置として一割の利用料負担が設けられたのであるから、利用料である程度利用が妨げられるのは、狙いどおりということになる。

 ただ、この一割という利用料負担率が高いか、それとも妥当か、あるいは低いか、ということは議論の対象になりうる。また、公園の有料化とは異なって、自立した日常生活を支援するのに不可欠なサービスである介護サービスに、どの程度までこの制限が妥当し得るかという大きな問題もある。また乱用というコストを小さくしようとするのは良いとしても、一方でこの制限によって、特定の人がより重度の要介護状態になるとしたら、社会的コストはより大きくなることも考えられるからである。

 

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 低所得者対策について

この間に各自治体での政策イッシューとして問題とされた低所得者対策としての利用料の軽減あるいは免除の問題は、徐々に市町村に浸透してきている。奈良県の全市町村は、2001年度から、住民税非課税世帯である低所得者の訪問介護サービスについては、その一割の利用者負担を3%に引き下げることを申し合わせた。これは、ホームヘルプサービスについては、介護保険制度以前からの利用者については軽減措置があり、それに新規の利用者についても合わせるという理由付けとなっている。生駒市の場合は、この利用料軽減措置を、市民税非課税世帯などが利用する居宅サービス全般に広げるとしている。これは、在宅サービスの利用率が伸び悩む中で、居宅サービスの利用を拡大するという政策目的があるとしている。

 このような利用料の軽減措置は、所得の有無に関係なく、等しく介護サービスを享受する権利を保障しようという介護保険法の趣旨、目的を実現するものとして、真にやむをえないものに限定するならば、積極的に評価してよい。しかし、経済負担の軽減というあめによって利用が拡大するかどうか、難しい問題がある。特に、県内市町村が一斉に行うというやりかたには批判的にならざるをえない。居宅サービスの利用率を引き揚げるためには、住民や職員、首長や議員の意識改革をもにらんで、さまざまな福祉サービス(介護保険事業にとどまらない)の積極的展開こそ必要だからである。このような努力の方向や実施計画などを明らかにしないで、単に金で解決しようというのであれば、安易なばらまきだという批判をうけかねない。むしろ地道な福祉サービスシステムを構築することを妨げるおそれもあるのではなかろうか。低所得者対策として行うのであれば、横並びではなく、自らの責任において実施してもらいたいと思う。

 

今後の課題

 介護保険制度を、より住民と利用者のニーズにあったものとして改革することで、広く定着させるとともに、医療保険制度改革や年金改革に連動し得る社会保障基礎構造改革を推進する基盤となるように強化することが求められている。この介護保険制度の改革と定着のための論点のうち、とりあえず以下の点をアトランダムであるが挙げておきたい。もちろん、他に重要なポイントもあるであろうが、それは今後いろいろご指摘をうけながらあらためて整理してみたい。

 1)特別会計の決算の結果 
 この
6月以降に介護保険特別会計についての決算が明らかになる。この決算を少なくも次の各会計と連結的に整理し、その構造を把握していく必要がある。普通会計(一般会計)のうちの、高齢者福祉費、地域福祉費、保健衛生費などの在宅と地域福祉の拡充に向けた一般福祉保健行政費、および老人医療特別会計、国民健康保険特別会計。これらの会計の間での繰入金および、繰出し金、補助金、委託金などの流れも合わせて統計的に、総合的に把握する。

 赤字となった市町村は、財政安定化基金からなどからの繰り入れないし借り入れによって表面的には決算をしたにしても、その原因を明確にして改革すべき点はすぐにでも着手することがひつようである。

 黒字団体の場合は、基金への積立ての状況と、減額補正の妥当性を検討し、またサービス供給が見込みを下回った理由と根拠を明確にしなければならない。その上で、

14年度、できれば13年度途中での予算の見直しを行うべきであろう。

 これと平行して、国レベルでの決算状況をトレースしておく必要がある。全国的な執行率が8割だとすると、それに照応する国費も不要額として処理されることになるのであろうか。高騰すると見込まれるこれからの介護費用財源として、基金等にこの不要額を積み立てておくことも検討されてよいと思われる。

 

(2)介護報酬の改定に向けて 

 イ ケアマネージャーの介護報酬 

 ロ 施設のホテルコスト

 ハ ホームヘルパの介護報酬 特に家事援助と見守り

 ニ 訪問入浴について 医療と福祉の差

 
(3)5段階の支給限度額のありかた 特に要介護度5における支給限度額の妥当性

 
(4)要介護認定の第一次判定における痴呆性高齢者の要介護度

(5)訪問調査の意義付け

(6)制度についての広報と積極的な住民参加

(7)介護サービス基盤の整備

 イ 事業者に対する誘致政策

 ロ 施設の改革と拡充

 ハ ケアセンター、在宅介護支援センターの充実と強化

 ニ 都心における複合施設と合築

 ホ 生協、農協、NPOへの支援

 へ 過疎地および積雪寒冷地における施設の充実とグループホーム化

 
(8)介護サービスの質の整備

 イ 第三者評価システムの構築

 ロ ユーザー評価システムの展開

 ハ 情報提供の改善

(9)全ての拘束の廃止に向けて

(10)相談事業とオンブズマン制度の開発

(11)介護支援専門員への支援と専門性、倫理性の陶冶

(12)ケアカンファエレンス、サービス調整チームの再構築

(13)配食サービス、福祉タクシーなどの地域福祉政策の展開

(14)権利擁護制度の整備と定着

     成年後見制度の積極的利用と改革

     地域福祉権利擁護制度の活用と改善

(15)低所得者、低年金者の権利擁護

(16)処遇困難世帯、家族への支援施策

(17)小学校区および中学校区、保健福祉区単位を基礎とした地域福祉コミュニティに向けて

(18)事業者の研修と経営指導

 おわりに

 介護保険制度は、手探り状態で始まった。その割にはほぼ8割程度の利用者がそのサービスには満足しているという。サービスの利用者も利用料も飛躍的に拡大した。いろいろ不満はあるが、利用してみてその良さや、有り難さがわかったという意見が圧倒的に多い。事実、多くの家族が精神的に、肉体的に、経済的に助けられている。また、保険料を払うことで介護保険を使うという権利意識も広がりだしている。一方で、利用料では(一部保険料でも)低所得者や難病のかた、重度の障害者には負担が重過ぎ、サービスが不十分であるなどの問題もある。要介護認定を受けた人のうち、地域差はあるにしてもほぼ1割程度の人のところに、なんらかの問題があるように思われる。この一割の人のニーズにきちんと応答することが求められている。また、サービス事業者の経営は非常に問題が多い。価格体系が動揺し、非効率を生むような報酬体系のために、経営が難しい事業者も多い。

 ところで、現在の各市町村の第1号被保険者の介護保険料は、ほぼ3000円前後だが、これは平成12年度から14年度の三年間の保険料である。次には、平成15年度から17年度までの保険料に改定しなければならない。そのためには、来年度すなわち2002年度の初めには「第二次介護保険事業計画策定委員会」を設置するなどして、次の3年度の新保険料を算定する作業を本格化しなければならない。

 現在も介護保険運営協議会を条例で設け、事業執行状況をモニターしている市町村も少なくない。そのような運営協議会を、事業計画および高齢者保健福祉計画の策定委員会に切り替えてもいいだろう。

 さらに、既に多くの保険者が実施している、介護保険利用者アンケート、同じく事業者アンケートなど、実態調査は不可欠である。昨年の夏からこの春にかけて多くの調査がおこなわれたのである。これは、実は、地方自治体の政策の形成、策定、実施という政策サイクルの中での大きな変化だといっていい。市町村や都道府県が自らの政策について、そのモニター調査を行うことが当たり前になりつつあるからである。これは新しい負担をお願いするにあたって、その負担者の理解を得ると共に、次の政策展開のための資料にしようという試みでもある。
 
 このような政策策定、事業計画策定、事業の実施にあたって、広く利用者や当事者の意見や意識をモニタリング調査するということは前回の老人保健福祉計画(第一次計画として
1993年度中に全市町村で策定された)では見られなかったことである。このことは、自治体の政策形成や計画策定と実施のありかたに、一種の革命がもたらされていることでもある。

 このように、きちんとした実態調査を定期的に行い、その徹底した分析によって、政策課題を析出し、政策化することに着手しなければならない。それは前回の事業計画策定のときを上回る住民参加と当事者参加のシステムを開拓しながらの作業になるはずである。

 さらに、新しい第二次介護保険事業計画と第三次高齢者保健福祉計画は、2000年6月に改正された社会福祉法(旧社会福祉事業法)による、「地域福祉計画」の内容の大きな一部を構成するものとして構想される必要がある。この「地域福祉計画」にかかる規定は、平成15年度から施行されるが、その内容については、厚生労働省も充分に示していない。しかし、これらの計画策定とその実施は、市町村の自治事務であるから、その内容についても現状の分析から始めて、独自の、その町らしい地域福祉計画をつくればよいのである。

 その際、この社会福祉法の改正によって、基本的には対人福祉サービスにおいて措置制度が廃止されたことを充分に生かすものとしなければならない。すなわち高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉、さらにはひとり親福祉、および在宅と施設といった、全ての福祉領域を含む総合福祉計画であることが求められる。

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