コラム NO5
自立支援と生涯学習・エンパワーメント
初出:奈良女子大学生涯学習研究センター『センターニュース』2001年3月
昨年4月に施行された介護保険制度は、様々な問題を抱えながら一年目の決算を迎えた。この介護保険制度のうりのひとつは、介護を必要とする人々の自立を支援するところにある。このことは、介護サービスの利用にあたって、これまでの措置制度といわれる行政処分ではなく、利用者とサービスの供給者とを対等の立場に置くことを制度の建て前としていることと表裏の関係にある。
措置制度のもとでは、サービスの利用者は単なるサービスの受益者であり、だれがどのサービスを受けるかは、行政が決定していた。自立支援とは、このような行政処分の対象としての受動的な人々を、自らサービスを選択し、その生活を維持するために組み合わせ、利用できる主体に転換することを助けるという意味である。
このことは、しかし、相当に難しい。まず大きな情報の空白がある。今年になって大和郡山市が実施した高齢者の実態調査では、介護サービスや制度の周知度は低い。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などは、その内容や利用手続きも含めて理解している高齢者は8%程度である。いわんや介護保険制度の仕組みの理解においておや。自立支援の仕組みを使いこなすのもなかなか大変なのである。
つまり生活の自立を支援するということは、生活者自身にそれなりの学習努力を期待することでもある。これをエンパワーメントといってもよい。
このエンパワーメントという言葉は、B.Solomonの「黒人のエンパワーメント」(1976年)が最初のものだとされている。これは地域におけるソーシャルワーク実践の展開の中で、つかまれてきた考え方で、その後コミュニティ心理学や社会開発、フェミニズム、リハビリテーションなど広い分野で内容が豊富化されてきている。しかし、その基本はさきのソロモンによる4項目に集約されることもほぼ確実である。
その4項目とは、
(1)ソーシャルワーカーは、クライエントが自分の問題を解決するにあたって、自分が主動者であることを自認するように援助していく。
(2)ソーシャルワーカーは、クライエントとして活用できる知識や技能をプラクティショナー(実践者)としてのクライエントが持っていることを自覚できるように援助していく。
(3)ソーシャルワーカーは、問題解決の努力をしていく場合に、仲間もしくはパートナーであるとクライエントが認めるように援助していく。
(4)ソシャルワーカーは、抑圧的な社会制度(学校、福祉事務所、裁判所など)の否定的な影響を減らすように動かしていき、かつ、それをクライエントが認めるように援助していく。(小田等『エンパワメント』中央法規、1999から。)
この「ソーーシャルワーカー」という言葉は、生涯学習に能動的に関り、あるいは組織する者と言い換えることもできる。
このように生涯学習とエンパワーメントを結びつけて考えるとすると、それを支援する者に求められるのは、クライエントを知るということである。生涯学習の担い手は、学習する人それ自身であり、その人が何を望んでいるのかということと、そのニーズを顕在化するためにはどういう条件が必要かということを知りたい。そしてその条件を、支援者がどこまで調整できるか、あるいは準備できるかという方法論が必要となる。
その際、「たとえばある援助活動が、利用者あるいはクライエントを援助者に従属させる方向ではなく、利用者あるいはクライエントが自立し、自ら問題を解決していくパワーを発揮する方向に向かっているかどうか」(同書)が重要なポイントとなるはずである。