社会福祉法の施行と地域福祉計画(「(ならの風」所収:03年1月)         トップページに戻る

                              奈良女子大学 澤井勝

 

 2003年の4月から、社会福祉法の一部が施行される。すなわち、同法第107条(市町村地域福祉計画)および、同法第108条(都道府県地域福祉支援計画)がこれである。このふたつの条文が施行されることによって、市町村は改めて地域福祉計画の策定を、また都道府県は市町村を支援する計画を法的な根拠に基づいて行うことが求められることとなる。もっとも、この規定は、自治事務と位置付けられているから、計画策定を義務付けたものではなく、各市町村がそれをつくろうとつくるまいと、その採否は市町村に任されている。とはいいながら、以下に述べる理由から、市町村は是非、積極的に策定に取り組むべきであると思われる。

 ところで20世紀の最後の1990年代に行われた一連の福祉改革は、介護保険制度の導入によって、かなり明確なデザインが示された。

 

市町村主義

 ひとつは、福祉の領域での「市町村主義」である。基礎的自治体である市町村を、住民にもっとも身近な政府として、福祉行政の第一の主体として位置付ける、そういう改革である。例えば、これも同じく来年の4月から障害者福祉においても、措置制度から支援費支給制度に転換が行われるが、その支援費支給事務は、市町村が実施することになる。このため、市町村の障害福祉担当は昨年からそのための準備に追われている。

 一方で、「計画行政」という筋道もかたちがつくられてきた。第二次の介護保険事業計画と高齢者保健福祉計画(これは真面目にやれば第三次の改定計画となる)、エンゼルプランを見ながらの地域子育て支援計画、そして障害者福祉計画。これら三つの計画をこれまでに策定している自治体は、都市部ではほぼ出揃ってきているようだが、町村部ではまだなところが多いと思われる。

 

住民を中心とする計画

 そして、「地域福祉計画」である。この「地域福祉計画」は、これらの既存の計画を地域から位置付けなおす、そういう「総合計画」である。もちろん各市町村の基本構想や総合計画と整合的に考えられなければならない。

 この「地域福祉計画」の中心的な課題は、「地域福祉の担い手づくり」であり、「福祉コミュニティの自律的形成支援」である、といって差し支えない。社会福祉法の第4条では、次のように規定している。

 「地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び者起伏しに関する活動を行う者は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように、地域福祉の推進に努めなければならない。」

 この規定の特色は、「地域住民」を地域福祉推進の主体として積極的に位置付けている点である。これは一種の理念的規範である。が、しかし、将来に亘って実現を目指すべき理念的規範である。われわれは、それを着実に現実にすることを目指したいと思っている。「地域福祉の主体的担い手としての地域住民」を可能にすること、そのための政策手段の発見。

 

地域住民は広く考えたい

 その際に、この地域住民をもっと幅広く定義しておくことも必要だ。それは企業市民や通勤市民、遠隔地からの支援者たちも、ここにいう「地域住民」として考えるべきだと思うからである。

もうひとつ、市町村計画ではあるが、広域的な協力、連携、協働の仕組みを組み込むことも避けられない。特に医療や、精神障害などへの専門家の組織的支援を考えた場合、ひとりひとりの自立支援プランの構築と、そのケア・カンファレンスや地域ケア会議の展開のためには、広域的な支援プランが欠かせない。

 現状はこの理念にはほど遠い。依然として住民の中にある過度の行政依存意識との戦いが、ソフトに展開されなければならない。そして、現在の多数派を形成している福祉や医療の専門家集団、そして研究者集団との駆け引きも重要な戦線である。

 

活動している人との問題意識の共有を

 「地域福祉計画」を策定し、それを実効あるものとして展開するためには、まず、自立的に活動している人々の問題意識を確実に把握するリサーチが必要だ。その上で、その課題意識や活動指針を、まず、先端で活動している人々の中で共有することが求められる。このような活動者が人口の1%いるだろうか。1%いたら、それは貴重な資源である。この比率を2%にし、5%にしていくことが具体的な推進計画であり、活動計画である。それとあわせて、地域を代表しうる複数の校区や大字などの地区をモデル地区として設定し具体的な活動をつくることも必要だ。理念と経験を可視化するわけである。福祉や保健の領域も超えて教育委員会や産業課など、この面での総合化も求められる。

 いずれにしても、市町村はこの地域福祉計画策定に早めに取り組むべきだ。特に市町村合併の議論が進んでいるところほどこの取り組みの有無とその成熟度が地域の、新市町村の、将来を決めるにもなりうるとも考えられるからである。

 

なにはともあれニーズの把握

 ところで、このような地域福祉計画を策定するにあたって、是非とも必要と考えられることのひとつは、政策を策定するための「調査」あるいは「実態調査」の実施であり、ニーズ調査の実施である。「政策をつくるための調査」は、しかしまだまだ十分に行われているとは思われない。「調査」は「調査」、「政策化」は「政策化」という場合が多いように見受けられるというのが、残念ながら実情だと言って過言ではない。

 ただ、このような「政策をつくるための調査」、「政策の基礎になるニーズ調査」は、その必要性についてかなり広く意識され、実施されるようになってきたようにも見受けられる。筆者が福祉計画の策定でお手伝いさせてもらっている、奈良県内の市町村でも堅実な調査が行われ、そこから政策の方向や、具体化に結びつけるという経験があった。

 

障害者福祉計画とニーズ調査

 たとえば、當麻町の障害者福祉計画である。當麻町では国の障害者プランの策定を見ながら、町として障害者の自立支援のための計画の策定を2000年から始めた。その計画作りの前提として行われたのが、障害者福祉に関する調査である。これにはふたつある。ひとつは、障害のある人それ自身に対するアンケートであり、もうひとつは一般の住民に対する意識調査である。これに関係団体に対するヒアリング調査を行っている。

 特に、この時期に策定する障害者福祉計画は、第一に、さきほどの「地域福祉計画」の策定と実施に結びつくものであること、第二に、身体障害者福祉とともに、知的障害者福祉も、そして精神障害者福祉についても、町がその第一線の実施機関として、責任を持って、その仕組みを作るという立場からのものであることが求められている、というふたつの課題が明らかであった。

 

外出しない人が3から4割も

 この調査の中で、浮き彫りになった問題点のひとつに触れておきたい。質問のひとつに、「あなた(障害者ご本人)は1週間にどの程度外出しますか。」という、外出の様子を聞くものがあった。この質問に対する回答は、次のようであった。

 身体障害者にあっては、「まったく外出しない(できない)」という方が24.9%もいらっしゃる。週に1〜2日程度という方が13.0%である。精神障害者の方の回答では、26.3%が、「まったく外出しない(できない)」と答えている。週1〜2日程度というかたが5.3%である。

 つまり、3割から4割の身体障害者と精神障害者が、ほとんど家から出ないで暮らしているという事情がわかったのである。これはなぜか。身体障害者と精神障害者とでは事情が異なると考えられるし、このことに対する明確な答えはすぐにはみつからないが、およそ次のように考えられないであろうか。

 

ハード面での障害をなくす

   バリアフリーの町にするために

 第一には、身体障害者の場合、外出するための介護支援制度が整っていないためになかなか外出できないというということが考えられる。この外出支援体制とは、ハード面とソフト面がある。

 まずハード面。障害者が町に出る、それも心理的負担なしに外出するということが、より容易になるためには、町の構造そのものが、子供や高齢者などすべての人が利用しやすいものになっていることが必要だ。幅の広い、無理な傾斜のない歩道。ゆっくり渡れる横断歩道。適切な配置をされたベンチなど休む場所があること。階段ではなく垂直な移動ができるエレベーターやエスカレーター、そしてスロープの有無。清潔で安全、ゆったりと使いやすいトイレが随所にあること。これらの諸施設が、町に出て、歩いて散策し、買い物をする楽しみを保障してくれる。

 他の質問である、「あなた(障害者本人)外出する上で困ることはなんですか。」という設問には、身体障害者の23.3%、知的障害者の35.9%、精神障害者の50.0%が、「車などに危険を感じる」としている。車に代表される道路条件の悪さが、外出のひとつの障害物になっていることは事実である。

 そして、バスや電車など公共交通機関のバリアフリー化が進められ、広域にわたる地域施設へのアクセスが保障されることが必要である。

 これは私たちのまちのバリアフリー化を進めることに他ならないのだが。

 

人手がほしい、ソフト面での支援

 第二には、ソフト面での支援措置である。視覚障害者を支援するガイドヘルパーが、ボランティアなどで気軽に頼める、そういう環境があるか。自動車の運転に習熟していない人々の通院や買い物、お使いに低料金で対応できる送迎サービスが整っているか。福祉タクシー券ばかりではなく市民や勤労者のボランティアと役場からの保険つきの自動車の提供など。

 また、どういう障害があるかという質問に、「周囲の理解が少ない」という理由を挙げたのが、知的障害者の33.3%、すなわち3分の一となっているのが注目される。身体障害の場合はこれは、4.7%、精神障害の場合は14.3%である。

 

就労の場所を確保する

 第三には、外出する目標をどのように持ってもらうか。知的障害者の場合は、「まったく外出できないという人が13.0%、1〜2日という人が4・3%。一方で、毎日外出する人は50.0%いる。これに5〜6日の人21.7%を加えると71.7%はほぼ毎日、外出していることになる。その内容は、学校への通学が28.2%、働いているのが15.2%、福祉施設に通所15.2%となっている。6割近くの知的障害者は、毎日出かける場所があるということになる。

 他方で、身体障害者と精神障害者は、「家にいる」のが52.9%と26.3%であり、施設に入所中という人も、15%づついる。

 こういった点を考えると、通所施設(デイケア施設やデイサービス施設)はもっともっとあっていいのではないかと考えられる。また、就学の機会の拡充と、なにより就労の機会がより柔軟に広がることが必要であろう。それも働き甲斐のある、障害に理解のある就労施設があってほしい。そして適正な報酬を保障できるような商業、工業施設と接客サービスがあっていい。福祉施設でのボランティアや介護作業などの活用も考えられる。

 

 第4には、レスパイトケアの整備である。

 「レスパイトケア」というのは、「介護する人を休息させ、支援する」サービスのことで、ニュージーランドやオーストラリアで発展してきた。わが国では、具体的には、デイサービスやショートステイがその機能を持っている。

デイサービスやデイケアは、介護を受ける人から言えば、リハビリテーションの時間であり、入浴の時間であり、また季節ごとに工夫された昼のランチの時間である。このことによって生活にリズムを生み、外出の時間を作って閉じこもりがちな生活を外向的なものにする意味がある。そして家族や介護者以外のワーカーや友人たちと交流する場であり、手作業を通じた新しい生活場面の開拓で亜もある。

一方で、介護をしている人が休めるように、普段お世話をしている人を日中の6時間ほど適切な施設に預けて仕事や家事などをこなす時間をつくり、休息そのものをとる時間でもある。このように介護者のための時間をつくり、自分の時間を過ごせるようにすることが、デイサービスのもうひとつの側面だ。

 ショートステイは7日間からそれ以上、特別養護老人ホームや介護保険施設、療養型病床などのショートステイ用のベッドに介護を要する人を預かってもらう仕組みだから、これがレスパイトケアの重要な仕組みである。

 ただ、問題なのは、このレスパイトケアが、それとして明確に位置づけられていないところにある。障害者福祉の領域では、この考え方が比較的早くから導入されているようだが高齢者福祉の領域では、はっきりしていないようだ。いずれにしても、介護者を支援することによって、介護する側の余裕を確保し、介護するエネルギーを補充することが、政策として確立される必要がある。

 

以上のように、目的意識を持った調査によって障害者福祉計画策定に向けた重要な施策が導き出されるといえる。地域福祉計画を策定するに当たっても、きちんとしたニーズ調査と、それを設計する確かな視点を定めることが求められる。